近年、建設業界ではICT施工(情報通信技術を活用した施工)が大きな注目を集めています。しかし現場の中堅技術者や施工管理者の中には、「ICT施工は高額で専門技術者向け」「うちのような中小企業にはハードルが高い」といった固定観念を持つ方も多いのではないでしょうか。実はそれ、もう過去の常識かもしれません。スマートフォンの登場によって、ICT施工のあり方が大きく変わりつつあります。本記事では、ICT施工の全体像と従来のハードルを整理し、スマホ+RTKによる新しい施工手法が如何に現実的で手軽な解決策になり得るかを具体的に解説します。
ICT施工の全体像と「高額・専門技術」のイメージ
ICT施工とは何か? ICT施工とは、測位や通信などデジタル技術を建設プロセスに全面的に取り入れた新しい施工手法です。具体的には、ドローン(UAV)や3Dレーザースキャナーを用いた測量、3次元設計データの作成と活用、RTK-GNSSを使ったマシンガイダンス/マシンコントロール(建機の自動・半自動制御)、施工後の出来形(完成形状)の3D計測と検査まで、調査・設計から施工・管理に至るまで一貫してICTを活用する流れを指します。国土交通省も2016年から*i-Construction*の一環で「ICTの全面的な活用」を推進しており、従来のアナログ作業をデジタル化することで生産性向上や品質確保を図る動きが進んでいます。
ICT施工の導入効果と固定観念 実際、ICT施工を導入すると様々な効果が報告されています。例えばドローン空撮やレーザースキャナによる3D測量を用いれば、従来2~3人で2~3日かかっていた測量が1人で数時間程度で完了する場合もあります。重機に3D設計データを取り込んで自動制御することで、職人の経験に頼らず誰でも高精度な施工が可能になるという成果も得られています。ある実証では、ICT土工の活用により「必要作業人員の削減」「施工日数の短縮」「施工精度の向上」といった効果が確認されており、人手不足や熟練者の高齢化といった課題への対策としても期待されています。まさに現場のデジタル変革(DX)によって、「 効率的かつ高品質な施工」が誰にでも実現できる時代へとシフトしつつあるのです。
一方で、こうした明るい成果がある一方、中堅以下の施工会社にとってICT施工=高額で難しいというイメージが根強いのも事実です。従来のICT施工と言えば、専門の測量機器やソフトウェア、対応するICT建機などを一式揃える必要がありました。例えばドローン測量には高性能なUAVと写真解析ソフト、3D設計データ作成には専用CADとノウハウ、ICT建機(GNSS搭載のブルドーザーやショベル)は従来機に比べて高額です。加えてRTK-GNSS測量機や無線通信装置を導入する初期投資もかかります。さらに社内人員に新技術を習得させる負担や、場合によっては外注に頼る手間も発生します。そのため、「大企業ならともかく、うちの規模で全部揃えるのは無理では…?」という心理的ハードルが生まれがちでした。実際、ICT施工をフルセットで導入するには数百万円から数千万円規模の投資になるケースもあり、中小企業が一度に踏み切るにはハードルが高かったのです。
スマホが変えるICT施工の常識:ポケットの中に万能測量機
こうした中、「ICT施工=高額・難しい」という常識を覆す存在として登場したのがスマートフォン+RTKという組み合わせです。近年のスマホ(特にiPhoneやiPad)には高性能なセンサーやカメラ、プロセッサが搭載されており、小型のRTK-GNSS受信機を組み合わせることで、なんとポケットサイズの万能測量機として活用できるようになりました。スマホ一台に専用の超小型RTK-GNSSモジュールを装着するだけで、センチメートル級の精度で測位が可能となり、さらにその高精度位置情報を活かして様々な計測や作業支援ができるのです。
例えば、専用アプリを起動したスマホを片手に現場を歩き、ボタンをタップするだけで、測りたい点の正確な座標(緯度・経度・高さ)を瞬時に記録できます。記録された点には自動で測定日時や測点番号が付与され、平面直角座標系やジオイド高への変換もアプリが全て計算してくれるため、現場で手計算したり紙にメモしたりする必要はありません。従来なら測量器とスタッフ2名以上で行っていた位置出し・水準測量も、スマホがあれば1人で完結します。
またiPhoneのような最新スマホにはLiDARセンサーや高解像度カメラが内蔵されており、これを活用して3D点群(ポイントクラウド)スキャンを行うことも容易です。従来は高価なレーザースキャナーやドローン写真測量が必要だった工程も、スマホを構造物や地形にかざして動かすだけで高密度な3Dデータを取得できます。取得した点群には全球測位の座標(RTKによる緯度経度高度)が付与されているため、特別な位置合わせ作業なしにすぐ設計データと比較したり、体積・面積計算に利用したりできます。前処理や後処理も不要で、誰でも直感的にスキャンを開始できるため、専門訓練を受けていないスタッフでも思った以上に簡単に3D測量が可能です。
さらにAR(拡張現実)技術もスマホ上で手軽に使えるようになりました。専用アプリのAR機能を使えば、設計図から起こした3Dモデルや設計ラインをカメラ越しの実景に重ねて表示できます。これにより、現場で出来上がった構造物と設計モデルとの差異を視覚的に確認したり、次の施工箇所に仮想の杭打ち(AR杭)を表示して位置出しに利用したりといったことが可能です。例えば通常は2人1組で行っていた基準点の墨出しや丁張(高さの基準となる水糸張り)の設置作業も、スマホのAR表示を見ながら1人で正確にこなすことができます。現実空間上に設計どおりの高さ・位置のガイドが表示されるので、複数人で水平を確認したりメジャーを引っ張ったりしなくても、ひと目で「どこをどの高さまで施工すればよいか」が分かるのです。特に、崖の法面やコンクリート舗装上など「物理的に杭を打ちにくい場所」でも、AR上で仮想杭を立てて誘導できるため、従来は困難だった場所での墨出しもスムーズになります。
このようにスマホ+RTKを活用すれば、測量(位置計測)・出来形計測(点群取得)・墨出し/杭打ち支援(AR誘導)・写真記録などICT施工の主要工程を、ほぼスマートフォン一台でまかなうことができます。しかも取得したデータはリアルタイムにクラウドへ共有可能で、その場で関係者と図面や点群を確認し合うことも容易です。まさに「高額で専門家向け」と思われていたICT施工のツール群が、手のひらサイズの身近なデバイスへと凝縮されたと言っても過言ではありません。
スマホ×RTKが中小現場に最適な理由
では、スマホを使った新しいICT施工手法が、なぜ中小企業や小規模な現場にも現実的な解決策と言えるのでしょうか?ポイントとなるメリットを整理してみましょう。
• 初期コストが圧倒的に低い: 従来のICT施工セットを揃えようとすると、ドローンやICT建機、高精度機器などで数百万円~数千万円の投資が必要でした。それに対してスマホ+小型RTK受信機の組み合わせであれば、数十万円程度から導入が可能です。既にスマートフォンやタブレットは現場でも多くの人が所持しているため、追加機器はポケットサイズの受信機とアプリのライセンス程度で済みます。レンタルやリースを活用すればさらに負担を抑えることもでき、これなら中小企業でも試験的に導入しやすいはずです。
• 操作が簡単で習得しやすい: 専門の測量機器や3Dソフトは扱いに習熟が必要で、技術者の育成にも時間がかかりました。スマホを使った計測なら、

