ICT施工を導入すべき5つの理由：スマホが変える建設現場の未来

建設現場で今、よく耳にするようになったのが「ICT施工」というキーワードです。ICT施工とは、Information and Communication Technology（情報通信技術）を活用して、土木・建設工事の生産性や安全性、品質を向上させる施工手法のことです。スマートフォンやクラウド、ドローンなどのデジタル技術を現場に取り入れることで、これまで人力や勘に頼っていた工程を効率化し、ミスを減らすことが期待できます。実際、現場監督がスマホやタブレットで最新の図面データを確認し、重機オペレーターがGPSガイダンスを見ながら施工するといった光景も、もはや珍しくありません。

日本の建設業界では、人手不足や熟練技術者の高齢化、長時間労働の是正など、数多くの課題があります。こうした中で、国土交通省が推進する「i-Construction（アイ・コンストラクション）」の中核としてICT施工が注目されており（いわゆる「スマート土木」や建設DXの代表的な取り組みです）、現場の未来を変える切り札とされています。実際に大手建設会社や国の公共工事でもICT施工の導入が進みつつあり、ICT対応の工事が年々増加しています。また、海外の建設業界でも現場のデジタル化が急速に進んでおり、日本においてもICT施工への対応はもはや避けて通れない流れになりつつあります。今後は中小の建設会社や現場においてもICT施工を取り入れていくことが求められていくでしょう。本記事では、ICT施工をまだ導入していない現場担当者や中小建設会社の経営者、測量初心者の方々に向けて、ICT施工を導入すべき5つの理由をわかりやすく解説します。スマホが変える建設現場の未来を、一緒に見ていきましょう。

ICT施工とは何か？

ICT施工は、建設生産プロセス（測量・設計・施工・検査など）のあらゆる段階にICT（情報通信技術）を取り入れて作業をデジタル化する施工方法です。従来は職人の経験や紙の図面に頼っていた部分も、ICT施工ではコンピューターや測位技術がサポートします。

具体的には、ドローンによる写真測量で現場の地形を高精度に計測し、得られたデータから3次元の設計モデルを作成します。そして、その3Dデータを搭載したICT対応の建設機械（ショベルやブルドーザーなど）が、自動または半自動で整地や掘削を行います。人が杭を打って高さを示したり、都度測量で確認したりしなくても、機械がデータ通りに動いてくれるのです。さらに、クラウド上で図面や点群データ（レーザー計測などで得られる多数の点の集合からなる地形データ）を共有すれば、現場と事務所間で情報をリアルタイムに確認できます。スマートフォンやタブレットを使って現場で設計データを確認したり、測量機器として活用したりすることも可能です。

なお、ICT施工は主に土木工事（道路工事や造成工事など）で活用が進んでいますが、近年では建築分野でも3次元モデルや施工管理ソフトの導入が始まっています。また、橋梁やトンネルの維持管理においてドローンやセンサーを用いたインフラ点検を行うなど、公共インフラの保守点検分野にもICT施工の考え方が広がりつつあります。幅広い領域でICT施工が実践され、安全で効率的な工事の実現に役立っているのです。

このようにICT施工ではデジタル技術をフル活用することで、作業の効率化・省力化だけでなく、安全性や品質の向上も期待できます。次に、ICT施工を導入することで具体的にどんなメリットが得られるのか、5つの理由に分けて見ていきましょう。

1. 作業の効率化：ICT施工で生産性アップ

ICT施工を導入する最大のメリットは、現場作業の効率が飛躍的に向上することです。人間の手作業に代わってコンピューターや測位システムがサポートするため、作業時間を大幅に短縮できます。例えば、従来は複数人で丸一日かかっていた測量作業も、ドローンによる写真測量を使えば数時間程度で完了します。天候や作業者の熟練度に左右されず、いつでも安定した速度と精度で測量できるので、工程全体の見通しも立てやすくなります。実際、ICT施工の導入によって作業時間が従来比で数割短縮できたという報告も多く、現場の生産性を飛躍的に高める手段として注目されています。

さらに、取得したデータを使ったデジタルな進捗管理により、作業の遅れを早期に把握して対策を講じることも可能です。現場の状況をクラウド上で共有すれば、関係者全員が最新の情報を確認でき、無駄な待ち時間や連絡ミスも減ります。また、ICT対応の建機（建設機械）を使えば、施工の各所で発生していた中間作業を削減可能です。従来は職人が丁張（ちょうはり）と呼ばれる杭を打って高さや位置の基準を示し、重機オペレーターがそれを頼りに作業していました。ICT施工では、最初から3D設計データを重機に読み込ませて自動でブレード（排土板）やバケットの高さを調整できるため、いちいち作業を止めて測量・確認する手間がありません。結果として、作業の手戻りや待ち時間が減り、工期（工事のスケジュール）を短縮することができます。さらに、出来形（完成形状）の測定や書類作成もデジタルで自動化されるため、従来は時間を要した事務作業も効率化されます。これらにより、同じ期間でより多くの工事をこなせるなど、生産性の大幅なアップにつながります。

2. 人手不足の解消：少ない人数でも現場を回せる

建設業界では少子高齢化により現場の人手不足が深刻です。しかしICT施工を導入すれば、限られた人数でも効率的に現場を回すことが可能になります。自動化技術やデータ活用によって省人化が実現でき、一人の作業員が複数人分の仕事をこなせる場面も増えます。例えば、ICT対応の重機であれば、オペレーター1人で掘削から整地までを精密にこなせるため、従来はオペレーターと補助作業員がチームで行っていた作業を単独で進めることができます。国の試算では、今後も建設現場の担い手は減少の一途をたどるとされており、こうした省力化による対応は避けて通れない課題です。ICT施工はまさに、その有力な解決策となり得ます。

また、ICT施工は作業の標準化・デジタル化によって、個々の技能に頼らない運用を可能にします。熟練者でなくても、機械からのガイダンスや高精度な測量データを活用することで、ベテランと遜色ない成果を出しやすくなります。若手オペレーターでも短期間で技術を習得でき、早い段階で戦力化しやすいという利点もあります。さらに、重労働の自動化によって作業員の身体的負担が軽減されるため、年配の熟練技術者も無理なく現場で活躍を続けやすくなるでしょう。最新のICT技術を使う現場は若い人材にとっても魅力的に映るため、人材確保の面でもプラスになるでしょう。また、2024年から建設業にも時間外労働の上限規制（いわゆる「2024年問題」）が適用され、限られた勤務時間内で効率よく作業を終える必要性が高まっています。ICT施工は、こうした働き方改革の観点からも人手不足の解消策として期待されています。

3. 安全性の向上：危険作業を減らす

ICT施工の導入は、現場の安全性向上にも大きく貢献します。デジタル化と自動制御により、作業員が危険な場所で作業する機会を減らせるからです。従来の工事では、高所や傾斜地で丁張り（基準となる杭や水糸）を設置したり、重機のそばで誘導を行ったりと、事故のリスクを伴う作業が少なくありませんでした。ICT施工では、3D設計データに基づいて重機が自動で作業するため、こうした危険な手作業が不要になります。例えば、急斜面に人が立ち入って高さを測定するといった場面をなくし、転落や重機との接触事故のリスクを大幅に減らせます。

さらに、ドローンや遠隔操作技術の活用により、人が直接作業しなくても済む範囲が広がっています。ドローンを使えば橋梁の高所点検や崖崩れの恐れがある現場の調査も、安全な場所から実施可能です。ICT施工で導入される重機には位置情報センサーや自動停止機能が備わっているものもあり、ヒューマンエラーによる操作ミスを防ぐ効果も期待できます。危険が少ない職場環境は、作業員に安心感をもたらすだけでなく、建設業の「危険」というイメージを和らげ、業界全体のイメージアップにもつながります。建設業は労働災害が多い業種ですが、ICT施工の普及により現場の事故件数そのものを減らせると期待されています。これらの技術により、現場の「危険作業」を機械に任せ、作業員の命を守ることができるのです。

4. 品質の均一化：高精度な施工を誰でも実現

ICT施工は、仕上がりの品質を均一かつ高水準に保てるという利点もあります。従来は作業員の熟練度によって出来栄えに差が出ることがありましたが、ICTの活用により作業の精度が標準化され、誰が施工しても一定の品質を確保しやすくなります。データに基づく施工ではミリ単位・センチ単位の精度が実現可能で、経験に頼った勘や目測による誤差を大幅に削減できます。例えば、ICT対応の油圧ショベルなら、ベテランでなくとも3D設計通りの勾配や深さで地面を掘削・整地でき、仕上がりにムラが出ません。

また、ドローン測量や3Dレーザースキャナーで取得した詳細な点群データを使って施工した場合、設計と実際のズレを極限まで減らすことができます。出来上がった構造物や地形を再度スキャンしてクラウド上で設計データと比較すれば、どこに誤差があるかをすぐに把握でき、必要ならその場で手直しできます。結果として手戻り工事の発生も抑えられ、品質管理が容易になります。さらに、データ重視の施工は、熟練者の引退や担当者の交代があっても品質を維持しやすく、職人的な「勘」に頼る部分を補うことで技術の継承にも役立ちます。品質のばらつきが減れば発注者からの信頼も向上し、企業の評価や次の受注にも良い影響を与えるでしょう。常に高い品質を維持できれば、検査の合格率も上がり、後工程のやり直しやクレームも減少するため、現場全体のスムーズな進行につながります。

5. コスト削減：無駄を省いて利益率向上

ICT施工は最終的にコスト削減にもつながります。前述のとおり作業時間の短縮や人員削減が可能になるため、人件費や重機の稼働時間にかかる費用を減らせます。熟練工に頼る手作業を減らすことで時間外労働（残業）の削減にも寄与し、働き方改革の観点からも経営上のメリットが大きいです。また、ミスや手戻りが減ることで、材料の無駄遣いや追加工事の費用も抑えられます。例えば、ICT建機は設計データ通りに施工するため、余分な掘削や過剰な盛土を防ぎ、資材コストのロスを減らします。これはCO2排出や廃棄物削減にもつながり、環境面でのメリットも大きいと言えます。

さらに、クラウドを活用した遠隔監督により、現場管理にかかるコストも削減できます。現場の進捗状況を事務所から確認できれば、監督者が頻繁に出張する必要がなくなり、移動費や拘束時間を節約できます。工期短縮により仮設設備や機械のリース期間も短くでき、トータルで見れば利益率の向上に寄与するでしょう。一方でICT施工の導入には機器やソフトウェアへの初期投資が必要ですが、近年はスマートフォンを活用した比較的手頃なICT機器も登場しており、中小企業でも導入しやすくなっています。国や自治体の補助金制度を活用すれば費用負担をさらに軽減することも可能です。さらに、公共工事では「ICT活用工事」としてICT施工の実施が求められたり評価対象となったりするケースも増えており、ICTに対応できることが受注機会の拡大につながる面もあります。長期的には、生産性向上によるコスト削減効果で十分に投資を回収できるケースが多いため、ICT施工は経営面から見ても導入する価値が高いと言えます。ICT施工による効率化は、現場だけでなく会社全体の経営改善にもつながる点も見逃せません。

まとめ：ICT施工で建設現場の未来を切り拓く

ここまで見てきたように、ICT施工を導入することには生産性向上、人手不足への対応、安全性の強化、品質の安定化、そしてコスト削減と、数多くのメリットがあります。これらはまさに、現在の建設業界が直面する課題を解決し、将来に向けて競争力を維持・向上させるために欠かせない要素と言えるでしょう。ICT施工は建設現場の働き方そのものを変革し、スマホをはじめとした身近なデバイスが現場の姿を一変させつつあります。今後はAIやロボットとの連携などさらなる技術革新も見込まれ、ICT施工の潮流はますます加速していくでしょう。早めに取り組むことで、この変革の波に乗り遅れず、次世代の建設業をリードすることができます。

とはいえ、「自社で本当にICT施工なんてできるのだろうか」と不安に思う方もいるかもしれません。実際には、ICT施工は必ずしも大規模な投資や専門家集団がいなければ始められないものではありません。例えばLRTKというスマホ連携の測量ツールを使えば、誰でも簡単にICT施工の第一歩を踏み出すことができます。LRTKはスマートフォンに取り付ける小型デバイスで、衛星を利用したRTK測位により数センチの精度で位置情報を取得可能です。これ一台で、従来は高価なGPS測量機や熟練の技術が必要だった精密な地形測量や出来形管理が、特別な訓練なしに実現できます。初期費用も数十万円程度と比較的導入しやすく、手軽に現場のデジタル化を進められる点が魅力です。また、国や業界団体もICT施工に関するマニュアルや講習会を用意しており、初心者でも学びながら導入を進めやすい環境が整いつつあります。

このように、ツールや工夫次第で小さな企業や初心者でもICT施工に取り組める時代が来ています。いきなり全てをICT化するのが難しければ、小規模な現場や特定の工程から試してみるスモールスタートでも構いません。例えば、測量だけをドローンとLRTKで先行導入し、そのデータを活用して施工自体は従来通り進めるといった段階的な取り組みでも、十分に効果を実感できるでしょう。また、自社で機器を揃えるのが難しい場合は、ICT施工対応の重機や測量機器をレンタルで借りたり、ICTに精通した協力会社に一部作業を委託したりするといった方法もあります。まずはできる範囲からデジタル技術を取り入れて、効率的で安全な現場づくりを始めてみませんか。スマホが変える建設現場の未来は、すぐそこまで来ています。