公共工事で本当に重要なのは、この大きな方針を自分たちの業務にどう落とし込むかです。直轄土木業務・工事では、2023年度から小規模なものなどを除いてBIM/CIMが原則適用となり、2024年度には3次元設計、属性情報を使った積算、デジタルデータを活用した監督・検査の試行も始まっています。したがって、これからの公共工事では、測る、設計する、施工する、確認する、引き渡すという一連の流れを、最初からデータでつなぐ発想が欠かせません。
目次
• i-Construction 2.0は公共工事で何を変えるのか
• 要点1 発注段階で「3次元前提」を固める
• 要点2 受発注でデータ受け渡しのルールを先に決める
• 要点3 施工は全面自動化ではなく適用工種から広げる
• 要点4 監督・検査は書類中心からデータ中心へ移す
• 要点5 遠隔化は省人化だけでなく安全確保と一体で進める
• 要点6 完成後まで使える成果を残して維持管理につなげる
• 公共工事でi-Construction 2.0を機能 させる考え方
i-Construction 2.0は公共工事で何を変えるのか
i-Construction 2.0を公共工事で考えるとき、最初に押さえたいのは、これは従来のICT施工を少し高度化しただけの話ではないということです。これまでのi-Constructionは、主に測量、設計、施工、出来形管理などの場面でデジタル技術を使って効率化する流れとして広がってきました。これに対してi-Construction 2.0は、建設現場全体をより少ない人数で、安全に、快適に回すことを狙い、施工そのものの自動化だけでなく、データの受け渡しと施工管理の進め方まで含めて再設計しようとしています。つまり、工事の途中だけを改善するのではなく、発注条件から検査、さらに引渡し後を見据えたデータ整備までを対象にしているのが大きな違いです。
要点1 発注段階で「3次元前提」を固める
公共工事でi-Construction 2.0を機能させたいなら、発注段階で2次元図面中心の発想を残したまま進めないことが第一歩です。直轄土木ではBIM/CIMの原則適用が進み、2024年度には2次元図面と3次元モデルの整合を図る3次元設計や、デジタルデータを使った監督・検査の試行が始まりました。これは、3次元モデルを「あると便利な参考資料」ではなく、施工、積算、検査へつながる実務データとして扱う方向へ舵が切られていることを意味します。公共工事の実務担当者にとって重要なのは、発注時点で3次元化の対象範囲、必要な属性情報、受け渡し形式、更新責任の所在を曖昧にしないことです。ここが曖昧だと、設計では使えたデータが施工では使えず、施工では作れたデータが検査に回らないという分断が起きます。
実務上は、すべての案件でいきなり高度な3次元活用を目指す必要はありません。しかし、少なくとも「どの範囲を3次元で管理するのか」「出来形確認や数量算出にどこまで使うのか」「完成時に何を成果として残すのか」は、発注前に整理しておくべきです。公共工事では、途中で現場が便利だからと独自にやり方を変えても、契約図書や検査手法と噛み合わなければ継続しません。i-Construction 2.0を成功させる案件は、発注時点から現場運用を見越しており、設計段階のデータが施工と検査の起点になるように条件を整えています。発注段階での詰めが甘い案件ほど、結局は従来の紙と写真に戻ってしまい、3次元化の効果が限定的になります。
要点2 受発注でデータ受け渡しのルールを先に決める
公共工事の実務では、この考え方を契約や協議のレベルまで落とし込む必要があります。たとえば、座標系や基準高の扱い、属性項目の定義、モデル更新のタイミング、現場計測データの格納ルール、検査時に採用するデータの正本管理などを、着手後ではなく早い段階でそろえることが重要です。ここを後回しにすると、施工者はデータを持っているのに発注者側で読めない、発注者が求める形式に合わず再提出になる、完成後に維持管理部門が利用できない、といった手戻りが起きます。なお、国は地方公共団体におけるICT施工の導入に向けた技術者支援の促進も打ち出しており、公共工事全体で段階的にデータ連携を広げる流れを進めています。地方の案件ほど、最初から完璧を目指すより、受発注で守る最低限のルールを決めて運用を定着させることが重要です。
要点3 施工は全面自動化ではなく適用工種から広げる
また、出来形管理や監督・検査の要領は2025年3月時点で土工、舗装工、路面切削工、河川浚渫工、法面工、基礎工、擁 壁工、橋脚・橋台など多くの工種にわたって整備・改定が進んでいます。これは、実務で使える対象が限定的ではなくなってきていることを示しています。だからこそ、案件ごとに「この工種なら導入効果が高い」「この工程は従来手法のほうが適切」と切り分ける判断が重要です。小規模で単純な工事に過剰なデジタル化を持ち込めば、かえって負担が増えることもあります。一方で、土量管理、広範囲の出来形確認、反復施工、危険箇所作業のように、人手と確認工数が重い場面ではi-Construction 2.0の効果が出やすくなります。公共工事では新技術を導入すること自体が目的ではなく、工期、品質、安全、説明責任のバランスを崩さずに生産性を上げることが目的です。
要点4 監督・検査は書類中心からデータ中心へ移す
ここで重要なのは、書類をなくすこと自体ではありません。重要なのは、現地で取得した3次元計測データや施工履歴を、そのまま確認と判定に使える状態にすることです。たとえば、従来は出来形確認のたびに現地で測り、写真を整理し、帳票を作り、説明し直していた工程を、取得済みデータを前提に再設計できれば、確認作業の質も速度も上がります。さらに、遠隔臨場の実施要領では、段階確認、材料確認、立会に適用できることが示されており、受発注者間の協議により対 象工種や確認項目を選定して実施する考え方が取られています。公共工事の実務では、何を遠隔で確認し、何を現地確認に残すかを整理し、映像・音声・キャプチャ保存などの証跡管理まで含めて運用設計することが欠かせません。そうしなければ、便利なはずの遠隔化が、追加の記録作業を生むだけで終わってしまいます。
要点5 遠隔化は省人化だけでなく安全確保と一体で進める
ただし、遠隔化を単なる省人化策として捉えるのは危険です。実務上は、通信環境、操作遅延、緊急停止の判断、現地監視体制、役割分担、教育訓練、責任区分など、通常施工とは異なる前提条件が増えます。特に公共工事では、安全性と説明責任が強く求められるため、「遠隔で動かせた」だけでは不十分です。危険箇所への立入りを減らせるのか、熟練者の知見を遠隔から活用できるのか、夜間や災害対応で有効か、といった目的に照らして導入する必要があります。i-Construction 2.0の本質は、現場の人を減らすことではなく、人が本当に現地にいなければならない仕事だけを現地に残すことです。この視点がないまま導入すると、現場と遠隔側の二重体制になり、かえって負担が増えることもあります。
要点6 完成後まで使える成果を残して維持管理につなげる
公共工事でi-Construction 2.0を使う意味は、工事中の効率化だけにとどまりません。BIM/CIMの定義自体が、調査、測量、設計、施工、維持管理など建設事業の各段階に関わる受発注者のデータ活用・共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化を図るものとされています。したがって、工事完成時に納品物を提出して終わり、では不十分です。完成時点で残すべきなのは、後から誰が見ても使える位置情報、形状情報、属性情報、施工履歴、確認履歴であり、将来の点検、補修、更新に渡せる状態の成果です。
この観点が抜けると、工事中には便利だったデータが、引渡し後には使われない資産になってしまいます。公共工事では担当者や組織が変わることも多いため、完成時点の成果が属人的だと、維持管理段階で再調査や再入力が必要になります。逆に、工事で得た3次元モデルや現場計測データ、位置にひもづく確認情報が整理されていれば、将来の修繕設計や現況把握にそのままつなげやすくなります。i-Construction 2.0を単年度工事の効率化施策として扱うのではなく、公共資産の情報基盤づくりとして扱えるかどうかが、活用の成否を分けます。現場で作 ったデータをその場限りで終わらせないことこそ、公共工事における実務上の大きな要点です。
まとめ
i-Construction 2.0は、公共工事に新しい機械や仕組みを足す話ではありません。発注段階で3次元前提を固め、受発注でデータ受け渡しのルールを決め、施工では効果の高い工種から適用し、監督・検査をデータ中心へ移し、遠隔化を安全確保と一体で進め、完成後まで使える成果を残すことが重要です。この6つがつながってはじめて、i-Construction 2.0は現場の負担軽減、品質確保、説明責任の両立に役立つ仕組みになります。逆に言えば、どれか一つだけを導入しても、公共工事全体の生産性向上にはつながりにくいということです。
そして、実務として最初に着手しやすいのは、現場の位置情報と計測情報を確実にデジタル化することです。公共工事では、出来形確認、施工記録、維持管理への引継ぎのどれを考えても、位置が曖昧なデータは使いにくくなります。だからこそ、複雑な仕組みを一気に導入する前に、現場で位置を正確に押さえ、必要な情報をその場で記録し、後工程へ渡せる状態をつくるこ とが重要です。iPhone装着型GNSS高精度測位デバイスであるLRTKのように、現場で扱いやすい計測手段を活用すれば、公共工事のi-Construction 2.0対応も、机上の構想ではなく日々の業務改善として始めやすくなります。現場の測る作業を変えられれば、その先の設計、施工管理、検査、維持管理の変化も加速していきます。
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