目次
• PVSystで設計案を比較する前に整理すべきこと
• 発電量差を見るときは年間値だけで判断しない
• 比較ポイント1:年間発電量の 差を見る
• 比較ポイント2:月別発電量の差を見る
• 比較ポイント3:PRと比発電量の差を見る
• 比較ポイント4:損失図で差が出た要因を見る
• 比較ポイント5:影損失と配置条件の差を見る
• 比較ポイント6:過積載とPCS側の制約を見る
• 比較ポイント7:設計変更の意図と実務上の採用可否を見る
• 設計案比較でよくある失敗
• 実務で使いやすい比較の進め方
• まとめ
PVSystで設計案を比較する前に整理すべきこと
PVSystで設計案を比較する目的は、単に発電量の多い案を探すことではありません。実務では、発電量、設備容量、敷地利用、施工性、維持管理性、影の影響、電気設計上の無理の有無、将来の説明資料としてのわかりやすさまで含めて、総合的に判断する必要があります。発電量がわずかに高い案でも、施工が難しい、配線が複雑になる、点検動線が悪くなる、影のリスクが大きい、将来の増設や保守に不利になるという場合は、必ずしも最適案とは限りません。
設計案を比較する前にまず行うべきことは、比較する案同士の前提条件をそろえることです。たとえば、ある案では気象データが異なり、別の案ではパネル仕様が異なり、さらに別の案では損失設定まで変わっていると、発電量差の原因を正しく判断できません。比較の基本は、変更点をできるだけ一つずつ分けることです。傾斜角を比較するなら、パネル枚数、方位、PCS容量、損失条件、気象条件は同じにします。配置案を比較するなら、可能な範囲で機器条件を同じにし、影や離隔、方位の違いによってどの程度の差が出たのかを確認します。
また、PVSystのシミュレーション結果は、入力した条件に基づく計算結果です。現地調査の精度、地形情報の正確さ、障害物の再現度、気象データの妥当性、機器仕様の入力内容によって、結果の信頼性は大きく変わります。設計案の比較では、PVSyst上の数値だけを見て判断するのではなく、入力条件が実際の計画地をどれだけ正しく反映しているかを確認する姿勢が必要です。
特に実務担当者が注意したいのは、「比較したい内容」と「変更している条件」が一致しているかという点です。たとえば、発電量を増やすためにパネル枚数を増やした案と、傾斜角を変更した案を同時に比較すると、発電量差の原因が設備容量の増加なのか、角度条件の改善なのか、影損失の変化なのかが見えにくくなります。比較の目的が曖昧なまま複数案を作成すると、あとから結果を説明するときに苦労します。
したがって、PVSystで設計案を比較する際は、最初に「何を判断したいのか」を明確にします。たとえば、同じ容量で最も発電効率がよい配置を選びたいのか、限られた敷地で最大発電 量を狙いたいのか、影の影響を抑えた安定案を選びたいのか、PCS容量とのバランスを確認したいのかによって、見るべき指標は変わります。目的を先に決めることで、シミュレーション結果の読み方も整理しやすくなります。
発電量差を見るときは年間値だけで判断しない
PVSystで設計案を比較するとき、最初に目に入りやすいのは年間発電量です。年間発電量はわかりやすい指標であり、設計案の大まかな優劣を確認するうえで重要です。しかし、年間発電量だけで結論を出すのは危険です。なぜなら、同じ年間発電量でも、季節ごとの発電傾向、損失の内訳、ピーク時の出力制限、影の発生時期、設備容量あたりの効率が異なる場合があるからです。
たとえば、案Aは年間発電量が多いものの、夏季に温度損失が大きく、冬季は影の影響を受けやすいとします。一方、案Bは年間発電量が少し低いものの、月別のばらつきが小さく、影損失も限定的で、保守や施工の面でも扱いやすいとします。この場合、単純な年間発電量だけでは案Aがよく見えますが、実務上の安定性や説明のしやすさを考えると案Bのほうが採用しやすい可能性があります。
また、発電量差は設備容量の違いによって簡単に変わります。パネル枚数を増やせば年間発電量は増えやすくなりますが、それが効率的な増加かどうかは別問題です。設備容量が増えた分だけ発電量が増えているのか、それとも影やPCS制約、配線損失などによって期待ほど増えていないのかを確認する必要があります。そのため、年間発電量を見るときは、同時に比発電量やPRなどの効率指標も確認することが大切です。
さらに、設計案比較では「差の大きさ」だけでなく「差の意味」を読むことが重要です。年間発電量が数%変わる場合は、設計条件に明確な違いがある可能性があります。一方で、差がごく小さい場合は、入力条件の不確かさや気象データの年変動を考えると、実務上は大きな差とは言い切れないこともあります。数値の差を絶対的なものとして扱うのではなく、設計判断に使える差なのか、誤差や前提条件の範囲に収まる差なのかを考える必要があります。
PVSystの比較では、年間発電量を入口として見ながら、月別発電量、比発電量、PR、損失図、影損失、PCS側の制約、入力条件の差を順番に確認します。この流れを押さえることで、発電量差を表面的に見るのではなく、設計上の判断材料として使えるようになります。
比較ポイント1:年間発電量の差を見る
設計案比較の第一歩は、年間発電量の差を確認することです。年間発電量は、その設計案が一年間でどの程度の電力量を生み出す想定なのかを示す基本指標です。PVSystの結果画面やレポートでは、系統へ送られる電力量、または最終的に利用可能な電力量として確認できます。複数案を比較する場合は、まず各案の年間発電量を横並びで確認し、どの案が多く、どの案が少ないのかを把握します。
ただし、この段階で大切なのは、順位を決めることではなく、差の大きさを把握することです。たとえば、年間発電量の差が非常に小さい場合は、設計案としての発電性能に大きな違いがない可能性があります。その場合は、施工性、保守性、敷地利用、材料数量、将来の変更しやすさなど、発電量以外の要素を重視して判断する余地が大きくな ります。逆に、年間発電量に明確な差がある場合は、なぜその差が生じたのかをさらに詳しく確認します。
年間発電量を見るときは、設備容量も必ずセットで確認します。発電量が多い案でも、単にパネル枚数が多いだけであれば、発電効率が高いとは言えません。設備容量が大きい案は発電量が増えるのが自然ですが、その増加量が妥当かどうかを見なければなりません。たとえば、設備容量を大きく増やしたのに発電量の増加が小さい場合、影損失や出力制限、配置効率の低下などが影響している可能性があります。
また、年間発電量は設計意図と照らし合わせて見ることが重要です。最大発電量を狙う計画であれば、年間発電量の大きさは重要な判断材料になります。一方、限られた敷地内で無理なく施工し、長期的に安定運用することを重視する場合は、年間発電量が最大であることだけが正解ではありません。発電量の差があるとしても、その差を得るためにどのような設計上の負担が増えているのかを考える必要があります。
年間 発電量の比較では、各案の名称をわかりやすく管理することも実務上は大切です。たとえば、単に「案1」「案2」とするのではなく、「南向き標準案」「低傾斜案」「高密度配置案」「影回避案」のように、変更内容がわかる名前にしておくと、後からレポートを見返したときに判断しやすくなります。シミュレーション結果の数値だけでなく、どの条件を変えた案なのかを記録しておくことで、比較の精度が上がります。
比較ポイント2:月別発電量の差を見る
年間発電量の次に確認したいのが、月別発電量の差です。年間値では大きな差が見えなくても、月別に見ると特定の季節で差が出ていることがあります。特に、傾斜角、方位角、影、温度条件、積雪の影響を考慮する地域では、月別発電量の確認が重要になります。PVSystのレポートでは月ごとの発電量や日射量、損失傾向を確認できるため、設計案ごとの季節特性を把握できます。
たとえば、傾斜角を変えた設計案では、夏と冬で発電量の出方が変わることがあります。低い傾斜角の案は夏季に有利になる場合があり、高い傾斜角の案は冬季に日射を受 けやすくなる場合があります。年間発電量だけを見ると差が小さく見えても、月別では明確な傾向が出ることがあります。どの季節の発電を重視するかによって、採用すべき設計案は変わります。
また、影の影響は季節によって変化します。太陽高度が低くなる時期には、周囲の障害物や列間影の影響が大きくなりやすくなります。そのため、年間値では許容できるように見えても、冬季の特定月に発電量が大きく落ち込んでいる場合は注意が必要です。発電事業や設備運用の計画では、年間合計だけでなく、月ごとの安定性も重要な判断材料になります。
月別発電量を見る際は、単に多い月と少ない月を確認するだけでは不十分です。設計案同士で差が大きい月に注目し、その月に何が起きているのかを確認します。差が出ている月が夏季であれば、温度損失やPCS側の出力制限が関係している可能性があります。冬季であれば、影や日射角度、地形条件が関係している可能性があります。雨季や曇天が多い地域では、日射データの傾向も確認する必要があります。
月別比較は、関係者への説明にも役立ちます。年間発電量だけを示すと、なぜその案がよいのかが伝わりにくいことがあります。しかし、月別の傾向を説明できると、「この案は年間では少し劣るものの、冬季の落ち込みが小さい」「この案は夏季の発電量は大きいが、冬季の影損失が目立つ」といった形で、設計判断の理由を具体的に伝えられます。実務では、数値の大小だけでなく、説明できる比較であることが重要です。
比較ポイント3:PRと比発電量の差を見る
PVSystで設計案を比較する際に、年間発電量とあわせて必ず見たいのがPRと比発電量です。PRは、受け取った日射エネルギーに対して、設備がどれだけ効率よく電力量へ変換できたかを示す性能指標として使われます。比発電量は、設備容量あたりの発電量を見るための指標です。どちらも、設備規模が異なる案を比較する際に重要です。
年間発電量が大きい案は、一見すると優れているように見えます。しかし、その案の設備容量が他案より大きい場合、容量を増やした分だけ発電量が増えているだけかもしれません 。このとき、比発電量を確認すると、容量あたりの効率を比較できます。設備容量を増やしても比発電量が低下している場合は、高密度配置による影、PCS側の制約、温度上昇、配線条件の悪化などが影響している可能性があります。
PRを見ることで、設計案ごとの損失の大きさを把握しやすくなります。PRが高い案は、入力条件に対して比較的効率よく発電できていると考えられます。一方、PRが低い案では、何らかの損失が大きくなっている可能性があります。ただし、PRだけで良し悪しを判断するのも危険です。設計条件や気象条件、設備構成によってPRの見え方は変わるため、損失図や月別傾向とあわせて確認する必要があります。
特に注意したいのは、年間発電量が多いのにPRや比発電量が低い案です。このような案は、設備容量を増やすことで発電量を稼いでいるものの、効率面では不利になっている可能性があります。敷地を最大限に使う計画では、このような設計が選択肢になることもありますが、発電量の増加に対して設計上の負担や損失がどの程度増えているかを理解しておく必要があります。
逆に、年間発電量は最大ではないものの、PRや比発電量が高い案もあります。このような案は、設備容量を抑えながら効率よく発電している可能性があります。敷地に余裕を持たせたい場合、影のリスクを抑えたい場合、施工性や保守性を重視する場合には、有力な設計案になります。PVSystで比較する際は、発電量の絶対値と効率指標を分けて考えることで、より実務的な判断ができます。
比較ポイント4:損失図で差が出た要因を見る
設計案ごとの発電量差を理解するうえで、損失図の確認は非常に重要です。損失図を見ると、日射がパネル面に届き、電力に変換され、最終的に利用可能な電力量になるまでに、どの段階でどのような損失が発生しているかを把握できます。発電量の差がある場合、その差がどの損失項目から生じているのかを確認することで、設計上の改善点が見えてきます。
たとえば、同じ設備容量の設計案で発電量に差が出ている場合、まず損失図で影損失、温度損失、ミスマッチ損失、配線損失、PCS変換損失、出力制限などを確認します。どの項目が大きくなっているかを見ることで、発電量差の原因を推定できます。影損失が大きい場合は、配置や障害物の条件を見直す必要があります。温度損失が大きい場合は、設置方法や通風条件、モジュール面の温度上昇を考える必要があります。PCS側の損失が大きい場合は、容量比や動作範囲を確認します。
損失図を見る際は、各案の損失項目を同じ順番で比較するとわかりやすくなります。一つの案だけを見て「損失が大きい」と判断するのではなく、他案と比べてどの項目が増えているのかを確認します。設計案比較では、絶対値よりも差分が重要になる場面が多いです。たとえば、すべての案で温度損失が同程度であれば、その比較では温度損失は主要因ではない可能性があります。一方、ある案だけ影損失が大きい場合は、その案の配置条件に問題があるかもしれません。
また、損失図は関係者への説明資料としても有効です。発電量が低い理由を単に「条件が悪い」と説明するよりも、「この案では列間影による損失が増えており、その結果として年間発電量が下がっている」と説明できれば、設計変更の必要性が伝わりやすくなります。PVSystの出力結果を実務で活用するには、数値を読む だけでなく、設計判断につながる言葉に変換することが大切です。
損失図で差を確認した後は、その損失が改善可能かどうかを考えます。影損失は配置や離隔を変えることで改善できる場合があります。配線損失はケーブル長や断面、機器配置を見直すことで改善できる場合があります。PCS側の制約は容量や構成を見直すことで改善できる場合があります。一方で、気象条件や地域特性に由来する損失は、設計で大きく変えにくいこともあります。改善できる損失と受け入れるべき損失を分けて考えることで、比較結果を次の設計検討につなげられます。
比較ポイント5:影損失と配置条件の差を見る
PVSystで設計案を比較するとき、影損失は特に注意して確認すべき項目です。太陽光発電設備では、周囲の建物、樹木、地形、架台列、付帯設備などによる影が発電量に影響します。影の影響は、単に発電量を下げるだけでなく、月別の発電傾向や時間帯別の出力にも影響します。そのため、配置案を比較する場合は、影損失の差を丁寧に読み取る必要があります。
高密度にパネルを配置すると、設備容量を増やしやすくなります。しかし、列間距離が不足したり、障害物との離隔が不十分になったりすると、影損失が増える可能性があります。この場合、年間発電量は増えていても、設備容量あたりの効率は下がることがあります。PVSystで比較する際は、パネル枚数を増やした効果と、影損失が増えた影響を分けて確認します。
影損失を見るときは、年間の合計値だけでなく、どの季節に影が大きいのかを確認することが重要です。冬季に太陽高度が低くなる地域では、同じ配置でも季節によって影の出方が変わります。冬季の発電量が重要な計画では、わずかな影でも無視できない場合があります。逆に、年間全体では影損失が一定程度あっても、設計目的や敷地条件を考えると許容できる場合もあります。
また、影の影響は配置だけでなく、ストリング構成や電気的な接続条件とも関係します。同じ影でも、どの範囲にどの時間帯でかかるかによって、発電量への影響は変わります。単に影があるかないかではなく、影の位置、時間、範囲、頻 度を考えることが大切です。PVSystの結果を読むときは、影のモデリング条件がどれだけ実際の現地条件に近いかも確認します。
影損失の比較でよくある失敗は、現地の障害物や地形を簡略化しすぎることです。設計初期段階では簡易的なモデルで比較することもありますが、採用案を絞り込む段階では、現地条件をより正確に反映する必要があります。特に、地形の起伏がある場所、周囲に建物や樹木がある場所、低い太陽高度の影響を受けやすい場所では、現地情報の精度が比較結果に直結します。
比較ポイント6:過積載とPCS側の制約を見る
設計案の比較では、パネル容量とPCS容量のバランスも重要です。パネル容量をPCS容量より大きくする設計は、日射条件が弱い時間帯や季節でもPCSを有効に使いやすい一方で、日射が強い時間帯にはPCS側の上限によって出力が抑えられる場合があります。PVSystで複数案を比較する際は、過積載の程度によって発電量、出力制限、PR、損失図にどのような差が出るかを確認します。
過積載率を高くすると、年間発電量は増えやすくなります。しかし、一定以上になると、追加したパネル容量に対して得られる発電量の増加が小さくなる場合があります。これは、PCS側で出力が頭打ちになる時間帯が増えるためです。PVSystの損失図や結果項目で出力制限に関わる損失が増えている場合は、パネル容量を増やした効果がどの程度活かされているかを慎重に見ます。
過積載の比較で重要なのは、単に出力制限があるかどうかではありません。出力制限による損失が、追加容量による発電量増加に対して許容できる範囲かどうかを確認することです。出力制限が多少あっても、朝夕や低日射時の発電量が増え、年間全体として有利になる場合があります。一方で、出力制限が大きくなりすぎると、容量を増やした割に発電量が伸びず、設計効率が低下します。
また、PCS側の制約は容量だけではありません。入力電圧範囲、ストリング構成、温度条件、直列枚数、並列数なども関係します。設計案を比較するときは、発電量だけでなく、電気設計として無理がないかを確認する必要があります。PVSyst上でシミュレーションが成立していても、実際の機器仕様や施工条件に照らして問題がないかは別途確認が必要です。
PCS側の比較では、発電量の最大化だけでなく、運用時の安定性も考えます。発電量がわずかに高い案でも、PCSの動作条件に余裕がない、構成が複雑になる、将来の保守が難しくなるといった場合は、採用時に慎重な判断が必要です。PVSystの比較結果は、電気設計の妥当性を確認するための材料であり、最終判断には実設備の仕様確認と現場条件の確認が欠かせません。
比較ポイント7:設計変更の意図と実務上の採用可否を見る
最後に重要なのが、設計変更の意図と実務上の採用可否を確認することです。PVSystではさまざまな設計案を作成し、発電量や損失を比較できます。しかし、シミュレーション上でよい結果が出た案が、そのまま現場で採用できるとは限りません。実務では、施工性、保守性、安全性、敷地利用、法規制、搬入経路、架台配置、排水計画、点検動線なども考慮する必要があります。
たとえば、発電量を増やすためにパネルを高密度に配置した案があるとします。PVSyst上では年間発電量が増えるかもしれませんが、現場では点検通路が不足したり、草刈りや清掃が難しくなったり、架台施工の自由度が下がったりする可能性があります。このような場合、発電量の増加分と現場運用上の負担を比較して判断する必要があります。
また、傾斜角や方位角を変更した案でも、発電量だけで判断してはいけません。傾斜角を変えることで発電量が改善しても、風荷重、架台仕様、施工コスト、メンテナンス性に影響することがあります。方位を調整することで発電量が増えても、敷地形状との相性が悪くなり、配置効率が下がる場合もあります。PVSystの結果は有力な判断材料ですが、設計案の採用には現地条件との整合が必要です。
設計変更の意図を明確にすることも大切です。なぜその案を作ったのか、何を改善しようとしたのか、結果としてどの指標が改善し、どの指標が悪化したのかを整理します。すべての指標が同時に良くなることは多くありません。発電量は増えたが影損失も増えた、PRは下がったが年間発電量は増えた、施工性は良くなったが発電量は少し下がったというように、設計案には長所と短所があります。
実務で使いやすい比較とは、単に最も数値が高い案を選ぶことではなく、採用理由を説明できる案を選ぶことです。関係者に説明する際には、「この案は年間発電量が最も多いから」だけでは不十分なことがあります。「この案は年間発電量、影損失、PCS制約、施工性のバランスがよく、現地条件にも適している」と説明できる状態を目指します。PVSystの比較結果は、その説明を支える根拠として整理することが重要です。
設計案比較でよくある失敗
PVSystで設計案を比較する際によくある失敗は、比較条件がそろっていない状態で結論を出してしまうことです。たとえば、ある案ではパネル仕様を変更し、別の案では傾斜角を変更し、さらに損失設定も異なっている場合、発電量差の原因を正しく読み取ることができません。比較では、変更したい項目以外をできるだけ固定することが基本です。複数の要因を同時に変える場合でも、どの要因がどの程度影響しているのかを後から説明できるようにしておく必 要があります。
次によくある失敗は、年間発電量だけを見て判断することです。年間発電量は重要ですが、月別発電量、PR、比発電量、損失図、影損失、出力制限を見なければ、設計案の特徴はわかりません。特に、設備容量が異なる案を比較する場合、年間発電量の大小だけでは効率の良し悪しを判断できません。容量あたりの発電量を確認しないまま採用案を決めると、後から「容量を増やした割に効果が小さい」という問題に気づくことがあります。
また、影の入力条件を軽く見てしまうことも失敗の一つです。影は発電量に大きく影響するにもかかわらず、設計初期の簡易条件のまま比較を進めてしまうことがあります。特に、周囲に障害物がある場所や、地形に起伏がある場所では、影の再現精度が結果に影響します。採用案を判断する段階では、できるだけ現地条件に近い形で影を確認することが大切です。
さらに、シミュレーション結果を実務条件と切り離してしまうことも問題です。PVSyst上で発電量が高い案でも、施工できなければ意味がありません。保守が難しい、点検動線が確保できない、配線が複雑すぎる、設置条件に無理があるといった案は、実務では採用しにくくなります。設計案比較では、発電性能と現場条件を同時に見る必要があります。
最後に、比較結果の記録が不十分なこともよくある失敗です。どの案で何を変更したのか、なぜその案を作ったのか、結果として何が変わったのかを残しておかないと、後から説明が難しくなります。PVSystのファイル名やバリアント名だけに頼るのではなく、変更点と判断理由を文章で整理しておくと、社内確認や顧客説明の際に役立ちます。
実務で使いやすい比較の進め方
実務でPVSystを使って設計案を比較する場合は、最初に基準案を作成し、その基準案から条件を一つずつ変えていく進め方が有効です。基準案は、現地条件、機器条件、標準的な配置、妥当な損失設定を反映した案にします。そのうえで、傾斜角を変えた案、方位を変えた案、配置密度を変えた案、PCS容量を変えた案、影回避を重視した案などを作成します。
各案を作成するときは、変更点を明確にします。たとえば、傾斜角の比較であれば、他の条件はできるだけ同じにします。配置密度の比較であれば、パネル枚数の変化と影損失の変化をセットで確認します。PCS容量の比較であれば、年間発電量と出力制限の関係を確認します。このように、比較目的ごとに見る指標を決めておくと、結果の読み取りが安定します。
比較結果を整理する際は、年間発電量、月別発電量、比発電量、PR、主な損失、影損失、出力制限、実務上の注意点を確認します。表形式にしなくても、各案の特徴を文章で整理するだけで判断しやすくなります。たとえば、「高密度配置案は年間発電量が増えるが、冬季の影損失が大きく、比発電量は低下する」「影回避案は年間発電量がやや少ないが、PRが安定し、保守動線を確保しやすい」といった形でまとめると、設計判断につながります。
また、比較は一度で終わらせるものではありません。初回の比較で有望な案を絞り込み、その後、現地条件や施工条件を反映して再度シミュレーションする流れが実務的で す。設計初期では大まかな傾向をつかみ、詳細設計に進む段階で入力条件を精緻化します。特に、地形、障害物、機器仕様、損失条件が変わる場合は、結果も変わるため、最新条件で再確認することが大切です。
PVSystの使い方に慣れていない段階では、画面上の数値をそのまま追うだけになりがちです。しかし、実務で重要なのは、数値の背景を読み取ることです。なぜこの案は発電量が多いのか、なぜこの月だけ差が出るのか、なぜPRが下がるのか、なぜ損失が増えるのかを考えることで、PVSystは単なる計算ソフトではなく、設計判断を支える検討ツールになります。
まとめ
PVSystで設計案を比較する方法の基本は、年間発電量、月別発電量、PR、比発電量、損失図、影損失、PCS側の制約、実務上の採用可否を順番に確認することです。発電量差を見るときは、単純に数値が大きい案を選ぶのではなく、その差がどの条件から生じたのかを読み解くことが重要です。設備容量が違うのか、影が違うのか、傾斜角や方位が違うのか、出力制限が増えているのかを確認することで、設計案の良し悪しを実務的に判断できます。
特に、年間発電量だけで結論を出さないことが大切です。年間値は比較の入口として便利ですが、月別の変化や損失の内訳を見なければ、本当の差はわかりません。発電量が多い案でも、容量あたりの効率が低い、影損失が大きい、PCS制約が強い、施工や保守に不利という場合があります。逆に、年間発電量が少し低くても、安定性や施工性、保守性に優れた案が実務上は採用しやすいこともあります。
PVSystを使いこなすうえでは、基準案を作り、変更点を明確にし、比較結果を説明できる形で整理することが重要です。設計案ごとに何を変えたのか、どの指標が改善し、どの指標が悪化したのかを記録しておくことで、社内検討や顧客説明の質が高まります。PVSystの結果は、設計判断の根拠をつくるための材料であり、現地条件や施工条件と組み合わせて読むことで、より実務に近い判断ができます。
そして、PVSystの比較精度を高めるためには、シミュレーションに入れる前の現地情報の精度も重要です。計画地の位置、 標高、地形、障害物、既設構造物、周辺環境を正確に把握できれば、影や配置条件の検討もしやすくなります。現地で取得した位置情報や点群データを設計検討に活用できると、机上の条件と実際の現場との差を小さくできます。
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