はじめに
土地管理やインフラ整備、都市計画に携わる自治体職員の皆様にとって、正確な地籍図の平面図作成は欠かせない業務の一つです。例えば、道路や河川などの公共用地と民有地との境界確認、都市計画図の更新、農地の区画整理など、あらゆる場面で信頼できる現況の平面図が求められます。しかし、従来の平面図作成には手間と時間がかかり、いくつかの課題がありました。トランシットやGNSS測量機といった大型機材を用いた現地測量では、専門の技術者と補助者による慎重な作業が必要で、機材の準備・操作に多くの人手と日数を要します。さらに得られた測量データを紙図面やCADに起こす作業も煩雑で、部署間での共有にも時間がかかりがちでした。
近年、こうした平面図作成を取り巻く課題を解決するために、スマートフォンを使った手軽な測量と、RTK(リアルタイムキネマティック)による高精度測位を組み合わせた新しい手法が注目されています。スマホの測量アプリと小型RTK受信機を用いれば、誰でも現地で簡単にセンチメートル級の高精度測量が可能となり、そのデータから即座に地籍図等の平面図を作成できます。本記事では、この「スマホ測量×RTK」が自治体業務にもたらすメリットと具体的な活用法について、従来手法との比較や現場でのワークフロー、実際の事例を交えながら詳しく解説します。
スマホ測量とRTKとは
まず、スマホ測量とRTKについて簡単に説明します。スマホ測量とは、その名のとおりスマートフォンやタ ブレットを使って測量作業を行うことです。従来は測量専用の機器が必要だった位置座標の計測や地形の記録を、スマホ内蔵のGPSやカメラ、さらには最新機種に搭載されたLiDARセンサー(光による測距センサー)などによって代替しようという試みです。しかし通常のスマホGPSでは位置精度が5~10メートル程度と低く、地籍図やインフラ管理に必要な精度(数センチメートルレベル)には達しません。そこで登場したのがRTK(Real Time Kinematic、リアルタイムキネマティック)という高精度測位技術です。
RTKは、GNSS(全地球測位衛星システム)から得られる位置情報にリアルタイムで補正を加えることで、測位誤差を飛躍的に小さくする技術です。具体的には、既知の正確な座標値を持つ「基準局」と移動しながら観測する「移動局(ローバー)」の2点で同時にGNSS測位を行い、基準局のデータを用いて移動局の測位結果に含まれる誤差を補正します。この仕組みにより、通常は数メートルあった誤差を数センチまで縮小でき、しかもリアルタイムに高精度な位置を得ることが可能です。元々は測量士が用いる高価なGNSS機器で使われてきたRTKですが、近年はこれをスマートフォンで手軽に活用できるシステムが登場しています。
ス マホ対応RTKシステムでは、スマートフォンに取り付けるポケットサイズのRTK-GNSS受信機と専用アプリを組み合わせ、スマホを高精度な測量機器に変身させます。受信機には高性能な衛星アンテナと測位エンジンが内蔵されており、Bluetooth等でスマホと接続して動作します。スマホアプリ上でボタンを押すだけで衛星からの信号受信から補正データの取得・適用、座標の計算まで自動で行われ、専門知識がなくてもcm級の測位が実現します。その精度は、国土地理院の電子基準点(GNSS基準局)や民間の補正情報サービスをインターネット経由で利用することで確保されており、通信圏外の山間部などでも日本の準天頂衛星システム「みちびき」から配信されるセンチメータ級補強サービス(CLAS)を直接受信することで安定した測位が可能です。つまり、平坦な市街地から山間部の現場まで幅広い環境で、一貫して高精度な位置情報を取得できるわけです。
では、スマホ×RTKによる測量は具体的にどのようなメリットを現場にもたらすのでしょうか。第一に挙げられるのが機動性と手軽さです。スマホと小型受信機を組み合わせた機材は、総重量で数百グラム程度と軽量で、ポケットに入れて持ち運べるほどコンパクトです。三脚や重たいバッテリーを担いで測量機を運ぶ必要がなく、思い立ったときにすぐ現地で測量を開始できます。また一脚(ポール)にスマホを固定すれば、従来2人以上必要だっ た測量作業も1人で完結します。第二に、高精度であること。スマホ測量と聞くと精度に不安を感じるかもしれませんが、RTK技術のおかげで水平位置で±1~2cm程度、高さ方向でも±3cm程度の精度が得られます。これは従来の1級GNSS測量機にも匹敵する精度であり、実際に同一地点を高精度GNSS機器とスマホRTKでそれぞれ測位した比較でも、差は数ミリメートル程度という結果が出ています。第三に、取得できる情報の豊富さです。スマホのLiDARやカメラを用いれば、単に点の座標を測るだけでなく、周辺の地形や構造物を3次元の点群データとして記録することも可能です。取得した点群には各点に緯度・経度・高さの情報が付加されますので、後でオフィスに戻ってから詳細な寸法計測や断面図・3Dモデルの作成を行うこともできます。つまり、現地で見たままの状況を丸ごとデジタルデータとして持ち帰り、必要に応じて平面図や立面図、3Dビューで活用できるのです。これらのメリットを総合すれば、スマホ測量×RTKは自治体の現場業務において「迅速・手軽・高精度」な測量と図面作成を実現する鍵となる技術と言えるでしょう。
従来の平面図作成との比較
次に、従来の方法による平面図作成とスマホ×RTK活用による手法 を比較し、その違いを整理します。ポイントとなる観点は作業時間、必要な人手、測定精度、そしてデータの共有性です。それぞれについて見てみましょう。
• 作業時間: 従来は境界測量や現況測量の際、一つひとつのポイントをトータルステーションで照準して測り、紙の野帳に記録し、後日オフィスで図面化するといった流れを踏むため、平面図作成に非常に時間がかかっていました。現地作業だけで丸一日、図面化にさらに数日というケースも珍しくありません。一方、スマホ×RTKによる測量では、現地で測ったデータがその場でアプリ上の地図にプロットされます。例えば境界線に沿って歩きながら連続測位すれば、毎秒最大10点の座標を取得して軌跡を描画でき、そのまま平面図として確認できます。現場で必要な点の取りこぼしがあってもすぐに気づいて補測できるため、即日で図面化まで完了することも可能です。
• 必要な人手: 従来の測量では測量士と補助者の少なくとも2名が現地に 必要で、場合によっては更に人員が加わることもありました。重たい機材を運搬・設置したり、ターゲットを持って移動したりと、人手に頼る部分が多かったのです。スマホ測量×RTKでは、スマホと小型GNSS受信機さえあれば一人で測量ができます。ポールに取り付けて自撮り棒のように扱えば、届きにくい場所のポイントも独力で測定可能です。人員手配の手間が減り、少人数で効率よく作業できるようになります。
• 測定精度: 精度面では、最新のスマホRTKシステムは前述のように従来の高精度機器に匹敵する測位精度を実現しています。トータルステーションによる測量はミリ単位の精度を確保できますが、スマホRTKも平坦な場所であれば誤差数センチ以内に収まるため、地籍図やインフラ管理用途には十分実用的です。また、スマホのLiDAR点群によって従来は抜けがちだった細部の形状もカバーでき、現地の状況を余すところなく記録できる点で優位性があります。もちろん、公式な基準点設置や検測など厳密な精度管理が必要な場面では従来手法との併用も考えられますが、日常業務の範囲であればスマホRTKの精度でほとんどの要件を満たせるでしょう。
• データの共有性: 従来は紙の図面やCADデータで管理していた情報も、スマホ×RTK測量なら初めからデジタル データとして取得できます。測量が終わればワンタップでクラウドにアップロードし、庁内の同僚と即座にデータを共有することも容易です。平面図や点群データはインターネット経由で閲覧・ダウンロードできるため、現場に行かなくてもオフィスから進捗状況を確認したり、別部署と情報を連携したりできます。また、取得データは標準的な座標系で保存されているので、GISソフトにインポートして他の地理情報と重ね合わせたり、DXFやCSV形式で出力して他システムに受け渡すのもスムーズです。こうしたデータ連携のしやすさは、アナログな平面図作成にはない大きな利点です。
地籍図作成の現場ワークフロー
それでは、スマホ×RTKを活用して地籍図の平面図作成を行う場合の一般的なワークフローを見てみましょう。現場での一連の流れを、以下に4つのステップに沿って説明します。
• 筆界の確認: まず作業に先立ち、現地で筆界(敷地境界)の確認を行います。土地所有者や関係者の立会いのもと、境界標(杭や石標)が適切な位置に設置されているか、境界線にズレや不明点がないかを チェックします。これは従来と同様に重要なプロセスで、スマホを使う場合も事前に過去の地籍図や公図をスマホに表示して参照しながら、現場で認識合わせを行うとスムーズです。
• 現地での測位・点群データ取得: 筆界が確認できたら、スマホ×RTKによる測量で境界点や地形情報を計測します。スマホにRTK受信機を装着し、測量用アプリを起動して準備完了です。境界標の位置については、一脚に取り付けたスマホを各境界点に当ててボタンを押すだけで、高精度の座標を記録できます。また、境界線に沿ってゆっくり歩きながら連続測位を実行すれば、境界線全体の軌跡をデータとして取得することも可能です。さらに周辺の地形や構造物を把握するため、スマホのLiDARスキャン機能で現地をぐるりとスキャンしておきます。これにより、土地の高低差や隣接する道路・建物の位置などが反映された詳細な3D点群データを取得できます。測位した座標点には自動で測点番号やタイムスタンプが付与され、点群にも世界座標が付くため、これらのデータは後続の図面化工程で土台情報として役立ちます。
• 平面図への図面化: 現地で集めた境界点データや点群データをもとに、地籍図の平面図を作成します。スマホアプリ上で簡易的な図面化を行える場合は、現場で境界線をなぞってデジタル地籍図を描くことも可能で す。より精密な作図が必要であれば、クラウド上にアップロードされたデータをオフィスのPCで開き、専用ソフトやCADソフトでトレース作業を行います。取得した点群を真上から見下ろすように表示し、境界線や建物輪郭をマウスでなぞれば、そのまま正確な平面図を描けます。スマホRTKによる測量データは初めから公共座標系(平面直角座標系など)で位置づけられているため、作成した図面も実空間に即した寸法・座標を備えたものになります。完成した平面図はDXFなどの汎用形式でエクスポートでき、成果図として利用したり他者に提供したりできます。
• GISとの連携: 作成した平面図データは、自治体のGISシステムや他の管理システムと連携させることで真価を発揮します。例えば、描いた地籍図を統合型GISに取り込めば、既存の土地台帳情報や道路台帳情報と重ね合わせて閲覧でき、庁内の様々な部署で共同利用が可能です。属性情報(地番、地目、所有者など)とのひも付けも、GIS上で平面図のポリゴンに入力することでスムーズに行えます。スマホRTKで取得した座標は制度改正に伴う新しい測地系(JGD2011やJGD2024)に即しているため、国土地理院の基盤地図情報や他のオープンデータとも高い整合性を保ちます。こうしてGIS連携まで完了すれば、紙図面に頼らないデジタルな地籍図管理が実現し、必要な情報を必要なときに迅速に活用できるようになります。
実際の活用事例
スマホ測量×RTKを取り入れることで、自治体のさまざまな業務において平面図作成の効率化・高度化が期待できます。ここでは具体的な活用シーンの例として、「道路占用業務」「用地境界の明確化」「災害復旧現場の状況把握」の3つを取り上げ、そのメリットを紹介します。
道路占用での迅速な平面図作成
道路管理担当部署では、工事やイベントなどで道路の一部を占用する際に、その占用範囲を正確に把握し図面化する必要があります。従来は現場で巻尺を使って道路幅や占用区画を測り、手書きでスケッチを作成してから清書するといった手順を踏んでいたため、時間がかかる上にヒューマンエラーのリスクもありました。スマホ×RTK測量を活用すれば、担当者が現地でスマホ片手に道路端から端まで歩くだけで、その軌跡が高精度な平面図として記録されます。取得データから占用範囲の面積や寸法も自動計算できるため、申請図書作成の手間が大幅に軽減されます。クラウド経由でオフィスにデータを送り即座に共有できるので、申請内容の確認や関係機関との調整もスピーディーに行えるで しょう。
用地境界の明確化への応用
都市計画や用地買収の場面では、公有地と民有地の境界を正しく示す平面図が欠かせません。例えば道路拡幅や河川改修を行う際、関係地権者と境界協議を行って用地境界を確定しますが、このとき基になる図面の精度が低いと認識違いによるトラブルにつながりかねません。スマホ×RTK測量で現地の境界点を迅速に測定し、最新の地籍図を作成しておけば、関係者全員が同じ情報を共有できます。境界標の有無や移設状況も点群データから視覚的に確認でき、必要に応じてAR機能で現地に境界ラインを投影して示すことも可能です。これにより境界確認作業の透明性と効率が向上し、合意形成までの時間短縮が期待できます。
災害復旧現場での活用
豪雨や地震による災害発生時には、被災現場の状況を速やかに把握し、復旧計画の立案や被害認定に役立てることが求められます。スマホ×RTK測量は、災害対応の現場でも威力を発揮します。被災箇所に職員が赴き、崩壊した道路や地割れの状況をスマホのLiDARでスキャンすれば、その場で詳細な3Dモデルが得られます。崩土の量や浸水範囲なども点群から計測可能で、復旧工事の優先度判断や設計に必要な数値を即座に割り出せます。従来は専門業者の測量を待っていた場面でも、自治体職員が迅速に現況の平面図や断面図を生成できるため、初動対応のスピードが格段に向上します。得られたデータは災害対策本部ともリアルタイムで共有でき、関係各所との情報共有を円滑にします。
課題と注意点
便利なスマホ×RTK測量ですが、導入・運用にあたって押さえておきたい課題や注意点もいくつかあります。
• 衛星測位の可視性: RTK測量はGNSS衛星からの信号を利用するため、上空の視界が極端に遮られた環境では精度が低下したり測位が困難になったりします。高層ビル街の谷間や森林の中などでは衛星を十分に捕捉できず、スマホRTKのメリットを発揮しにくい場合があります。そのような場所では、あらかじめ衛星配置が良い時間帯を選んで測量に臨む、周辺の開けた場所から相対測量で補間する、といった工夫が必要です。 また、補正情報を通信で取得する方式の場合は電波の届かない地域で代替手段(CLASの活用など)を確保しておくことも重要です。
• 現場での精度管理: 手軽に扱えるスマホRTKとはいえ、測量である以上、現場での精度管理は欠かせません。大切なのは検証と校正です。作業前後に既知点を測って機器の誤差傾向を確認したり、重要なポイントは複数回測定して平均値をとるなど、基本的な精度確保策は従来同様に実施すべきです。また、測量ポールを使う場合は機器に傾斜補正機能があるか確認し、ない場合はできるだけポールを垂直に保持して測るよう注意します。得られた座標値についても、明らかに不自然な値(飛び値)がないか現地でチェックし、必要に応じて取り直す慎重さが求められます。
• 既存データとの整合: 新たに作成した平面図データを既存の台帳データや他部署の資料と統合する際には、データ形式や座標系、項目名の揺れなどに注意が必要です。GISにインポートする場合は、事前に項目対応表を用意して属性情報のひも付けを行うとスムーズです。座標系が異なるデータ同士を重ねる場合は、スマホRTKのデータを所定の系に変換するローカライズ(測地成果2011と旧測地系との変換など)を確実に行いましょう。また、地籍調査業務など法的な 精度や手続きが求められる場面では、スマホRTKの成果を参考資料としつつ最終的な確定作業は専門家に委ねるなど、用途に応じた使い分けも大切です。
【まとめ】地籍・インフラ業務の平面図作成を支える実務DXの鍵
スマホ測量×RTKの技術は、自治体の地籍管理やインフラ業務における平面図作成のDX(デジタルトランスフォーメーション)を力強く後押しします。従来は手間と時間がかかっていた境界測量や現況図作成が、一人の職員とスマートフォンだけでこなせるようになり、業務効率と成果品のクオリティが飛躍的に向上します。点群データやARといった新しいデジタル情報も活用することで、紙の図面では見落としがちだった現場の変化や細部まで共有でき、意思決定のスピードアップにつながります。また、リアルタイムなクラウド共有によって庁内の情報連携が円滑になり、縦割りになりがちな部署間協力も促進されるでしょう。
このように、スマホ×RTKを活用した次世代の測量手法は、単なる技術革新にとどまらず、自治体業務の進め方そのものを変革する可能性を秘めています。平面図作成のプロセスがデジタル化・簡素化されることで、これまで測量の専門家に依存していた業務を現場主体で進められるようになり、人材不足への対応や若手職員のスキル向上にも寄与するでしょう。デジタル技術を積極的に取り入れていくことが、これからの地域行政における持続可能なインフラ管理・土地管理の鍵となります。
最後に:LRTKによるスマホ×RTK測量で誰でも手軽に高精度図面作成
平面図作成の現場に革新をもたらすスマホ測量×RTKですが、実際に導入するには信頼できるソリューションの選定が重要です。この記事で紹介したスマホ対応RTKシステム「LRTK」は、その代表的な例と言えます。LRTKを活用すれば、測位から点群取得、図面化、共有に至るまで一台のスマホで完結し、専門技術者でなくても高精度な測量成果を得ることができます。まさにLRTKによるスマホ×RTK測量によって、自治体職員一人ひとりが誰でも手軽に高精度な図面作成を実現できる時代が到来したと言えるでしょう。ぜひこの機会に、最先端の測量DXツールを活用して日頃の業務に変革をもたらしてみてはいかがでしょうか。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
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