GNSS(全地球測位システム)を使った位置測定の精度は、用途によって要求されるレベルが大きく異なります。スマートフォンのGPSで数メートルの誤差が出ても地図アプリなど日常利用では支障ありませんが、測量や建設の現場ではセンチメートル級の正確さが求められます。こうした高精度をリアルタイムに実現する技術としてRTK(Real Time Kinematic)測位が注目されており、近年ではその進化形となるLRTKと呼ばれるソリューションも登場しています。
本記事では、まずGNSS測位の精度とは何か、一般的な誤差の要因にはどんなものがあるかを解説します。次に、センチメートル級測位を実現する仕組みとしてRTKの原理 と限界を述べ、さらにRTKを進化させたLRTKの登場背景と特徴を紹介します。続いて、LRTKが高精度(cm級)を維持できる理由(みちびき衛星の活用、多周波測定、誤差補正技術など)を紐解き、LRTKシステムの構成要素や測位の実行手順を説明します。最後に、現場導入で確認された精度や効果のレポートを述べ、LRTKによる簡単な測量手順を具体例とともに示します。それでは順を追って見ていきましょう。
GNSS測位の精度とは?一般的な誤差の要因
GNSS(衛星測位)による位置情報の精度は、単独で測位を行う場合おおよそ数メートル程度と言われます。実際、一般的なスマホのGPS受信機による測位では5〜10mほどのずれが生じるのが普通です。この誤差は受信機の性能だけでなく、GNSS信号が地上に届くまでに様々な要因で乱されることに起因します。主な誤差要因には次のようなものがあります。
• 衛星や時計の誤差:GNSS衛星の軌道情報や時計のわずかなずれが測距に影響し、受信機側でも内部時計の誤差が蓄積します。
• 大気圏での遅延:電離層・対流圏を通過する際に信号が屈折・減速し、距離計算に誤差を生じます(特に電離層誤差は周波数によって異なる特徴があります)。
• マルチパス(多重経路):衛星からの電波が建物や地面で反射して複数経路で受信機に届くと、擬似距離が伸びて誤差が発生します。
• 衛星幾何配置(ジオメトリ):上空の衛星の配置によって測位精度が変動します。空に十分な数の衛星が分散していないと位置の不確かさ(DOP値)が大きくなり誤差が増えます。
上記のような要因が重なると、単独のGNSS測位ではどうしても数メートルの誤差が避けられません。こうした誤差を低減して高精度測位(衛星測位でセンチメートル精度を得ること)を可能にするには、GNSS信号に対する補正や複数点での観測が必要になります。その代表的な手法が次に述べるRTK測位です。
cm級測位を実現する仕組み:RTKとその限界
RTK(リアルタイムキネマティック)測位は、GNSSの誤差を補正してセンチメートル級の精度を得る代表的な手法です。RTKでは位置が既知の基準局(固定局)と、移動しながら測位する移動局(ローバー)の2台のGNSS受信機を同時に運用します。基準局は自分の正確な座標位置がわかっているため、受信した衛星信号から逆算した測位結果との差をとることで、その瞬間の誤差量をリアルタイムに算出できます。この補正情報を無線やインターネット経由で移動局に送り、移動局側で自身の測位値に補正を適用することで、誤差を大幅に打ち消し、結果として数センチの精度で位置を特定できるのです。"1台より2台で測れば誤差を相殺できる"というイメージで捉えるとわかりやすいでしょう。
RTK測位を使うことで、一般に水平位置で数センチメートル、鉛直方向でも数センチ〜数インチ程度の誤差に収まる高精度な測位が可能です。実際、広域の基準局ネットワークを利用するネットワーク型RTK(VRS方式など)では、平面位置で3〜4cm程度の誤差という報告もあります。単独測位では困難だったセンチメー トル精度(cm精度)のGPS/GNSS測量を、RTKは現実のものとしました。
しかし、従来のRTK運用にはいくつかの限界やハードルがありました。主な課題をまとめると次の通りです。
• 機材が大掛かり:RTKを行うには高性能なGNSS受信機やアンテナに加え、基準局用の三脚やバッテリー、通信モデム(無線機)など多くの機器を現場に持ち込む必要があり、セットアップにも専門知識と手間がかかりました。
• 基準局の確保:自前で基準局を設置する場合、誤差のない既知点(電子基準点や既設の測量桿など)を探しアンテナを据え付けなければなりません。あるいは携帯回線を通じて公共・民間の基準局ネットワークサービス(例:国土地理院の電子基準点網や通信キャリア提供の補正サービス)を利用する方法もありますが、いずれにせよ測位には基準局の情報入手が不可欠です。
• 通信環境への依存:移動局が補 正情報を受け取るには、無線またはインターネット通信が途切れずに繋がっている必要があります。山間部や通信圏外の地域ではリアルタイムな補正を得られずRTK測位が成立しない場合があります。
• 測定範囲の制約:RTKの精度は基準局と移動局の距離に大きく左右されます。一般に両者が数km以内と近ければ誤差要因が共通で精度が高くなりますが、離れるにつれて大気誤差などが差異を増し精度が低下します。広範囲で安定したcm級測位を行うには、高密度な基準局網が必要です。
• コストと運用負担:高精度RTK対応の測量機器は従来非常に高価であり、導入には予算上のハードルがありました。また機材の運搬・設置や複数人での作業(例:一人が移動局を持ち、もう一人が基地局の管理をする)が必要になるケースもあり、現場で気軽に使えるものではありませんでした。
このように、高精度なRTK-GNSS測量は精度面では優秀なものの、誰もが簡単に扱える技術ではありませんでした。しかし近年、これらの課題を解決する新たなRTKソリューションとして登場したのがLRTKです。
RTKを進化させたLRTKの登場
前述の課題を解決すべく登場したのがLRTKです。LRTKはレフィクシア社が開発した次世代のRTK測位デバイスで、従来別々に用意していた機材一式をオールインワンで小型化・軽量化した革新的なGNSS受信機です。アンテナ・受信機・バッテリー・通信モジュールなどRTKに必要なものを全て一体化し、さらにケーブル接続を廃して無線連携を可能にすることで、現場でのセッティングを飛躍的に簡素化しました。防塵防水性能も備えており、土木現場の過酷な環境下でも安心して使用できます。
LRTKシリーズには複数のモデルがありますが、中でも注目すべきなのがポケットサイズのLRTK Phoneです。これはスマートフォン一体型のRTK受信機で、専用の小型GNSSモジュール(重量約125g・厚さわずか13mm)をiPhoneやAndroid端末に装着するだけで、手持ちのスマホがセンチメートル級測位の本格的な測量機器に変身します。
一般的な従来型RTK機器との主な違いをまとめると、LRTKには次のような強みがあります。
• スマホがあればOK:専用コントローラーや基地局装置は不要で、必要なのは手持ちのスマートフォンのみ。現場に持ち込む機材が格段に減ります。
• 小型軽量で携帯性抜群:スマホと一緒にポケットに入るほどのコンパクトサイズで、現場移動も楽に行えます。内部にバッテリーを内蔵し一度の充電で約13時間連続測位が可能なため、1日の作業もカバーできます。
• 無線接続で簡単セットアップ:ケーブル接続が不要で、BluetoothやWi-Fi経由でスマホとLRTKデバイスが連携します。煩雑な配線や長い初期設定作業がいりません。
• 直感的なアプリ操作:スマホにインストールした専用のLRTKアプリからワンタッチで測位開始・データ記録ができます。測定点の座標は自 動で所定の座標系に変換表示され、複数点間の距離・面積・体積計算、写真への位置タグ付け、座標を指定してのナビゲーション(杭打ち誘導)など、多彩な機能も統合されています。
• 堅牢で現場向け:防塵・防水仕様で雨天や粉じんの多い現場でも故障しにくく設計されています。専用のポール(一脚)に取り付けて従来の測量機器のように使うことも可能で、状況に応じて柔軟に運用できます。
このようにLRTKは、RTK測位の高精度を"誰でも・どこでも・簡単に"活用できるようにしたソリューションと言えます。専門の測量技術者や高価な機材に頼らなくても、現場のあらゆる人がスマホ感覚でセンチメートル精度の測位を扱えるようになるため、生産性の飛躍的向上が期待されています。実際、ある施工現場でLRTKを導入したところ、従来は測量士の到着を待っていた作業が減り、施工管理者自らがその場で測量・出来形確認をこなせるようになったという報告もあります。LRTKはまさにRTK技術の新たな進化形であり、GNSS高精度測位の現場活用を次のステージへ引き上げる存在と言えるでしょう。
LRTKがcm精度 を維持できる理由(みちびき・多周波・補正)
LRTKが一人で持ち歩ける小型デバイスでありながらセンチメートル級の精度を安定して実現できるのは、最新の衛星技術と測位手法を駆使しているためです。主なポイントを挙げると次の通りです。
• みちびき(QZSS)衛星利用:LRTKは日本の準天頂衛星「みちびき」が提供するセンチメートル級測位補強サービス(CLAS)に対応しています。これにより、携帯電話の電波が届かない山間部などでも上空の衛星から直接補正情報を受信し、高精度測位を継続できます。みちびき衛星は日本の真上付近に常時1機が位置する軌道をとっているため、周囲が遮蔽された環境でも従来より衛星信号を捕捉しやすく、他のGPS端末では数メートルの誤差が生じる状況でもLRTKなら測位できる場合が多く報告されています。
• デュアル周波数による誤差低減:LRTKのGNSSモジュールは複数の周波数帯の衛星信号を受信できます。1つの衛星から異なる周波数の信号(例えばL1とL5)を取得し、その差を利用することで電離層遅延など周波数依存の誤差を相殺できます。単一周波数の測位よりも速く安定してセンチメートル精度の「Fix解」を得ら れるため、特に高さ方向の精度維持に威力を発揮します。
• マルチGNSS・高精度補正情報の活用:GPSだけでなくGLONASSやGalileo、BeiDou、みちびきを含むマルチGNSSに対応し、常に多数の衛星から測位可能です。衛星配置が良好になり、都市部や山間部でも必要な衛星数を確保しやすくなります。また、国土地理院の電子基準点網などから配信される高精度な衛星軌道・時計誤差や大気誤差の補正データをリアルタイムに取り込むことで、誤差要因を徹底的に除去しています。インターネット経由の補正と、前述のCLAS衛星補強を組み合わせることで、日本全国どこでも安定してセンチメートル精度の高精度測位を維持できるのがLRTKの強みです。
こうした技術的な裏付けにより、LRTKは水平位置で約±1~2cm、鉛直方向で±3cm程度という驚異的な測位精度を一貫して提供できます。これは1級水準の高性能GNSS測量機と遜色ないレベルであり、LRTKによって手のひらサイズの機器でその精度が得られることになります。
LRTKの構成要素と測 位の実行手順
LRTKシステムは、大きく3つの要素で構成されています。
• LRTK Phone端末:高精度GNSS受信機本体(L1/L5対応)。スマホの外付けデバイスとして機能し、衛星からの測位データを取得します。
• LRTKアプリ:スマートフォン(iOS/Android)上で動作する専用アプリ。端末と連携して測位の開始/停止やデータの記録、各種機能の操作を行います。
• LRTKクラウド:PCやタブレットのWebブラウザからアクセスできるクラウドサービス。現場で取得した測位データ(ポイント座標、軌跡、写真、点群など)を同期・保存し、地図や3Dビュー上での確認、測定、データ共有が可能です。
では、実際にLRTKを用いて測位(測量)を行う手順の一例を見てみましょう。
• 端末の起動と接続:LRTK端末の電源を入れ、スマホのLRTKアプリからデバイスを選択して接続します。Bluetooth経由でペアリングが完了すると、端末が受信を開始します。
• 衛星捕捉と精度確認:屋外の見通しの良い場所で数十秒待つと、複数のGNSS衛星を捕捉して測位が始まります。アプリ画面に現在位置が表示され、精度インジケーターが徐々に改善していきます。やがて状態が「Fix(cm精度)」となれば高精度測位の準備完了です。
• ポイント測位・記録:測りたい地点に端末を移動させ、アプリ上で測位ボタンをタップすると、その地点の高精度な座標値が記録されます。必要に応じて点名やメモを入力できます。また、連続測位モードで軌跡を記録したり、写真を撮影して自動タグ付けすることもできます。
• データ保存と同期:取得した座標データはスマホ内に保存され、オフラインでも確認できます。通信環境が整えば、アプリの同期ボタンひとつでLRTKクラウドにデータをアップロード可能です。クラウド上では測点 や軌跡が地図上に表示され、オフィスのPCから2D/3Dで結果を閲覧したり、距離・面積の計測、点群データとの比較など高度な解析を行ったりできます。関係者とデータを共有することも容易です。
以上の手順により、従来は手間のかかっていたGNSS測量が、LRTKでは驚くほどシンプルに実行できます。一人で端末とスマホを操作するだけで、短時間で複数の測点をcm単位の精度で取得でき、測量後のデータ管理や活用もスムーズに行えるのです。
導入現場での精度・効果レポート
実際にLRTKを現場導入した例から、その精度と効果について報告された内容を紹介します。
• 測位精度の検証:LRTK Phoneの座標精度は、既存の最高級GNSS測量機と比較しても遜色ありません。同一地点をLRTKと1級GNSS受信機で測位し、数十秒間の平均位置を比べた社内検証では、両者の差は5mm未満だったと報告されています。また、山間部の試験では従来機で5m以上の誤差が出た環境でも、LRTKではcm 精度で測位ができたケースが確認されました。こうした結果から、LRTKの信頼性はプロ仕様の測量機レベルに達していると言えます。
• 作業効率の向上:LRTK導入により、測量作業の生産性が飛躍的に向上したという声が上がっています。ある施工現場では、これまで外部の測量班を待っていた出来形確認作業を、現場監督者自らがLRTKとスマホで即時に行えるようになり、待ち時間が大幅に削減されました。従来2人以上で行っていた測量も、LRTKなら1人で完結でき、人員不足の解消や工程短縮につながっています。
• 多様な活用事例:LRTKは土木・建設以外にも様々な分野で活用が進んでいます。例えば自治体では災害現場の測量・記録にLRTKが用いられ、被災箇所の正確な位置座標と現場写真を速やかに記録して共有することで、復旧対応の迅速化に役立てられました。また、埋設インフラの維持管理では、LRTKの杭打ち誘導機能を使って地中の配管位置を正確に再現・確認するといった応用も報告されています。低コストで扱いやすいLRTKが普及することで、これまで高精度GNSSを活用してこなかった現場にもセンチメートル級測位の恩恵が広がりつつあります。
LRTKによる簡単な測量手順
LRTKを使った測量作業は驚くほど手軽です。最後に、その流れをイメージしてみましょう。例えば設計図で指定された位置に杭を打って基準点を設置するケースを考えてみます。従来は測量士がトータルステーションで座標出しを行っていたような場面でも、LRTKがあれば1人で対応可能です。
まずスマホに事前に登録した目標点の座標を呼び出し、LRTK端末を起動します。衛星を捕捉して数センチ精度が出たら測量スタートです。アプリの画面には目標地点の方向と離れた距離がリアルタイムに表示されるので、それを頼りに移動していきます。まるでスマホの地図アプリで目的地に向かうような感覚で、残り数十センチ、数センチ…と誤差が小さくなり、「0cm」付近になればそこが指定の座標です。誤差がほとんどないことを確認して杭を打ちます。
次に、その基準点に立ち会わせる形で別のポイントも測量してみましょう。LRTK端末をポイント上に移動し、アプリの「測位」ボタンをタップするだけで、その地点の座標がcm精度で記録されます。測り終えたら、スマホで現場写真を撮影すれば、その写真には撮影位置の高精度な緯度・経度と方位が自 動タグ付けされます。こうして取得したデータはクラウドにも同期されるため、事務所に戻る頃にはPCで測点の配置や距離を即座に確認できます。
このように、LRTKによる測量は直感的かつスピーディーです。高価な専用機材を使っていた作業が、今やスマートフォン片手に誰でも行える時代になりました。GNSS測位のcm精度を現場でフルに活用し、効率的で正確な測量を実現できるLRTKは、これからの測量・施工現場の強力なパートナーとなるでしょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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