近年、測位技術の発達により、GPSだけでなく「GNSS」や「RTK」といった用語を耳にする機会が増えました。現場では高精度の位置情報が求められるシーンが増えており、自動運転やドローン計測、災害時の状況把握などでもGNSSやRTKの活用が進んでいます。GNSSとは何か、RTKとは何が違うのか、そしてこれら高精度測位技術は現場でどのように役立つのでしょうか。本記事ではGNSSとRTKの基本を解説し、その違いを比較するとともに、最新の高精度測位ソリューションであるLRTKについて紹介します。スマートフォンで測量が完結する時代の到来も視野に、現場で役立つ衛星測位技術の基礎知識を見ていきましょう。
GNSSと は何か?その基本概念
GNSSとは、*Global Navigation Satellite System*(全球測位衛星システム)の略称です。簡単に言えば、GPSに代表される衛星測位システムの総称であり、人工衛星からの電波を利用して地球上の現在位置を測定する仕組みです。GNSSにはアメリカのGPS、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、中国のBeiDou(北斗)、そして日本の地域版GNSSである準天頂衛星システム(QZSS、愛称みちびき)などが含まれます。なお、日常的には「GPS」という言葉が広く使われますが、GPSは米国システムの名称であり、他国のシステムも含めた総称としてGNSSという用語が用いられます。
GNSS受信機は複数の衛星から送られてくる時刻情報付きの信号を受信し、それぞれとの距離を算出することで自分の位置(緯度・経度・高度)を割り出します。通常、4機以上の衛星からの信号が受信できれば3次元位置を計算可能です。例えば私たちのスマートフォンやカーナビに内蔵されたGPS受信機もGNSSの一種で、地図アプリで現在地を表示したり経路案内したりするのに活用されています。
ただし、GNSS単独測位(受信機1台のみで衛星信号を測る方法)では、一般的に誤差が数メートル〜十数メートル程度発生します。電離層や対流圏での信号遅延、衛星や受信機の時計誤差、電波の反射(マルチパス)など様々な要因で測位精度が低下するためです。実際、スマホやカーナビのGPSはおおよそ5〜10m程度の誤差範囲と言われます。日常の道路案内や位置情報サービスではそれでも問題ありませんが、土地の境界を正確に測ったり重機の位置を精密に制御したりする用途では、このレベルの精度では不十分です。
RTKとは何か?測位方式としての特徴
RTKとは、*Real Time Kinematic*(リアルタイム・キネマティック)の略で、高精度な衛星測位を実現するための手法の一つです。RTK測位では「基準局」と「移動局」(ローバー)と呼ばれる2台のGNSS受信機を同時に運用し、基準局から送る補正データを使って移動局の測位結果をリアルタイムに補正します。具体的には、まず基準局となる受信機をあらかじめ正確な座標値が分かっている地点(既知点)に設置し、そこでもGNSS衛星信号を受信します。基準局は自分の既知の位置とGNSSで測得した位置との差から誤差成分を算出し、その補正情報を無線やインターネットを通じて移動局側へ送信します。移動局(測位したい対象地点にある受信機)は受信した補正情報を適用し、自身の測位解を補正することで、センチメートル単位の高精度な位置を求めることができるのです。
言い換えると、RTKはGNSS単独測位で残存する誤差を「もう一台の受信機」との相対比較によって打ち消す仕組みです。またRTKでは、衛星信号の電波のうち搬送波と呼ばれる非常に短い波長(数十センチ程度)の位相を測定に利用しており、この位相の整数サイクル(整数波長)を解決することでミリメートルオーダーの精度を実現しています。こうした高度な手法により、RTKでは水平2〜3cm程度、垂直方向でも数センチ〜5cm程度の測位精度が可能になります。なお、RTKの計測値を一定時間(例:数十秒〜数分)平均することで、さらなる精度向上(ミリメートル台の精度)を得ることも可能です。
RTK測位を行うには基準局と移動局間の通信手段が必要ですが、近年はインターネットを利用したネットワーク型RTKが普及しています。例えば国土地理院の電子基準点ネットワーク(GNSS連続観測システム)を利用した民間の補正情報配信サービスや、日本のQZSS(みちびき)が提供するセンチメータ級補強サービス(CLAS)を用いることで、ユーザー自身が基準局を設置しなくても高精度のGNSS補正情報を得ることができます。その結果、移動局側の受信機だけでリアルタイムにセンチ精度測位を行うことも可能になっています。ちなみに、単一の基準局方式では基準局と移動局の距離が離れるほど補正効果が薄れ精度が低下しますが、ネットワーク型RTKでは複数の基準点データを基に仮想的な基準局を算出することで、より広範囲で安定したセンチ級測位が可能です。もっとも、最高精度を得るには見通しの良い空環境で十分な数の衛星信号を受信する必要があり、トンネル内や高層ビル街など電波状態が悪い場所ではRTKでも精度が出ない、あるいは測位自体が成立しない場合もあります。
GNSSとRTKの違いを比較(精度・用途・構成)
それでは、GNSS(単独測位)とRTKの具体的な違いを、いくつかの観点で比較してみましょう。
• 測位精度の違い: GNSS単独では一般に誤差が数メートル〜10メートル程度生じますが、RTK-GNSSを用いた測位では誤差数センチ以内に収めることができます。例えば通常のスマホGPSの精度が5〜10m程度なのに対 し、RTKなら約2〜3cmの精度が期待できます。
• 主な用途の違い: GNSS(単独測位)の精度で十分な場面としては、カーナビやスマホ地図アプリによる現在地表示、物流のトラッキングなど日常利用の範囲が挙げられます。一方、RTKの高精度が求められる場面では、例えば土木測量での基準点設置や用地測量、建設機械のマシンガイダンス、農業における自動運転トラクターの走行制御、ドローンによる精密な空撮測量、地盤変動のモニタリングなど、多岐にわたる分野で活用されています。
• システム構成の違い: GNSS単独測位では受信機1台が衛星からの信号を受信するだけで測位が完結します。これに対しRTK測位では基準局+移動局の2台の受信機と両者を繋ぐ通信が必要となります(もしくは基準局に相当する補正情報サービスへの接続)。従来は現場ごとに自前の基準局を立て、高価なGNSS受信機や無線モデムを用意する必要がありました。しかし現在では、全国に整備された基準局ネットワークから補正情報を受け取ったり、小型・低コストのRTK対応受信機を利用したりできるようになり、RTK測位システムの構成も手軽なものになりつつあります。
なぜRTKが現場で選ばれるのか(測量・建設・農業・災害)
高精度なRTK測位は、どのような現場業務で特に有用なのでしょうか。代表的な活用分野をいくつか紹介します。
• 測量(地図作成・土木調査): 土地の境界を定めたり詳細な地形図を作成したりする測量の分野では、位置の高精度さが何より重要です。RTK-GNSS測量なら、従来の光学式測量機(トータルステーション)に匹敵する精度で効率的に観測が行えます。国や自治体が発注する公共測量でも、RTKによるGNSS測量が活用され始めています。また、GNSSは光学機器と異なり測定点間の視通しが不要なため、地形や障害物の多い現場でも1人で測量を進めやすい利点があります。
• 建設(施工管理): 建設現場では、重機の自動制御や工事箇所への杭打ち・墨出しなど、センチメートルのズレが品質に影響する作業が数多くあります。RTKによる高精度な位置情報を使ったマシンガイダンスや測量データの活用により、施工精度の向上と作業効率化が実現しています。出来形管理(完成した構造物の形状測定)にもRTK-GNSSが用いられ、誤差の少ない出来形検証が可能になっています。
• 農業(スマート農業): 自動運転トラクターや田植え機、農薬散布ドローンなど、近年のスマート農業でも高精度測位が欠かせません。RTKに対応したGPSガイダンスにより、農機が自分の位置を正確に把握して直線的に走行したり、定められた間隔で種まき・施肥を行ったりできます。重複やムラを減らし、生産性向上や省力化に寄与するため、多くの先進的農家がRTK-GNSSを導入しています。
• 防災・災害対応: 地震や土砂災害の現場では、地形や構造物の変化を素早く把握する必要があります。災害調査でドローン空撮と組み合わせてRTK測位を使えば、被災地域の詳細な地図や3Dモデルを迅速に作成可能です。また災害復旧の現場では、被害箇所の正確な測定や仮設工事の位置出しにRTKが威力を発揮します。実際に日本の一部自治体では、iPhoneとRTK受信機を活用した独自の現場計測システムを導入し、災害対応の迅速化・省力化に取り組んでいます。
高精度RTKの進化版LRTKとは?
RTK技術の発展により 、近年登場したのがLRTKと呼ばれる最新ソリューションです。LRTK(エルアールティーケー)は、高精度RTK測位をより手軽に行うためのスマートフォン対応の測位デバイスおよびクラウドサービスで、高精度RTKの“進化版”と言える存在です。スマートフォンに装着可能なポケットサイズ(重量約150g・厚さ約1cm)のRTK-GNSS受信機(LRTK端末)と、測位用の専用アプリ・クラウドから構成されており、従来は高価で専門的だったセンチメートル級測位を誰でも使える技術にすることを目指しています。ポケットサイズの端末には高性能アンテナとバッテリーが内蔵されており、煩雑な機器構成を必要としないシンプルさも特徴です。
例えばiPhoneに専用の小型受信機を取り付けてLRTKアプリを起動すれば、それだけでリアルタイムにcm精度の位置情報を取得できます。LRTK端末は日本の準天頂衛星みちびきが配信するCLAS信号や、各種ネットワーク型RTKの補正データを受信する機能を備えており、特別な基地局を用意しなくても高精度測位が可能です。また、携帯電波圏外の山間部や災害現場でも、みちびき(CLAS)の衛星補強信号を受信できればインターネット接続なしで高精度測位を継続でき、現場での信頼性が向上します。得られた測位データ(緯度・経度・高さ)はスマホ内に保存されるだけでなく、 即座にクラウド上に同期されます。専用のクラウドWebページにアクセスすれば、現場で測った点の位置を地図上で確認したり、チームでデータを共有したりも簡単に行えます。
さらにLRTKシステムは、取得した高精度座標を活用して様々な機能を提供します。スマホの画面上に3D点群スキャンやAR(拡張現実)による設計データの重ね合わせ表示、測点間の距離・面積・体積の自動計算など、多彩な測量・計測機能をオールインワンで実現しています。例えば、設計図の座標データをLRTKアプリに取り込めば、AR機能によってスマホ画面上にその設置位置を表示しながら杭打ち作業を行うことも容易です。にもかかわらず機器はコンパクトで扱いやすく、価格も従来の業務用GNSS機器に比べて非常に抑えられているため、1人1台のスマホ測位端末として現場で携行・活用することが現実的になってきました。実際の検証でも、LRTKで得た測位精度は従来の一級GNSS測量機と遜色なく、誤差5mm以下という結果も報告されています。まさにRTK技術の民主化とも呼べる革新であり、高精度測位が特殊な専門家だけのものではなく誰の手にも届く時代が始まりつつあります。
スマホ測量の時代へ:LRTKによる簡単な測量手順
それでは、LRTKを使ったスマートフォン測量は具体的にどのように行うのでしょうか。その基本的な手順の一例を紹介します。
• LRTK端末とスマホの準備: まずスマートフォンにLRTK端末(専用の超小型RTK受信機)を取り付け、端末の電源を入れます。屋外の見通しの良い場所で衛星を捕捉できるよう準備しましょう。
• 高精度測位の開始: スマホでLRTKアプリを起動し、Bluetooth等で端末と接続します。アプリ上で補正情報の受信を開始すると、約30〜60秒ほどで測位が安定し、高精度測位モード(Fix解)になります。これでスマホがセンチメートル級の測量機として使える状態になります。
• ポイントの測量: 測りたい地点にLRTK端末(必要に応じて専用ポールや一脚の先端に取り付け可能)を合わせ、スマホアプリの「測位」ボタンをタップします。すると瞬時にその地点の緯度・経度・高さが計測され、日時やメモとともにスマホ内に記録されます。必要に応じて測点ごとに写真を撮って紐付けることもできます。
• データの保存と共有: 記録した測位データはクラウドと自動同期させることができます。現場で取得した座標データをその場でクラウドにアップロードすれば、オフィスに戻ることなく地図上で結果を確認したり、他のメンバーと情報共有したり可能です。紙の野帳に手書きで記録するといった従来の手間も不要になります。
このように、LRTKを活用すれば従来は専門機器と高度なスキルを要した測量作業が驚くほど簡単になります。スマートフォンさえあれば高精度測位と各種計測が現場で完結するため、土木・建設のみならずあらゆる分野の「現場」が大きく変わろうとしています。GNSSとRTKの進化形であるLRTKが普及することで、効率的かつ高度なスマホ測量の時代がすぐそこまで来ていると言えるでしょう。高精度GNSSの普及は現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を力強く後押しし、より安全で生産性の高いスマートな現場作業の実現が期待されています。これらの高精度測位技術は、私たちの生活や産業を支える基盤として今後ますます発展していくでしょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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