GNSS測量を変える！スマホだけでcm精度を実現するLRTKの革新

GNSSとは何かと測量への応用可能性

GNSSとはGPSなどに代表される人工衛星を利用した位置測定システムの総称です。アメリカのGPS（Navstar）、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、日本のみちびき（QZSS）など複数の衛星測位網があり、それらをまとめてGNSS（Global Navigation Satellite System）と呼びます。GNSS受信機は地球上の自分の位置（緯度・経度・高度）を計算でき、カーナビやスマートフォンの地図アプリでも利用されるように、私たちの生活に欠かせない技術となっています。

測量の分野でも、GNSSは大きな可能性を秘めています。従来は測量と言えば、トランシットやトータルステーションといった光学機器を使い、基準点からの相対的な測定が中心でした。これに対しGNSS測量は衛星測位により地球座標上の絶対的位置を直接測定できるため、広範囲の地形測量や離れた点同士の位置関係把握に威力を発揮します。視通しの悪い地形や山間部でも、上空さえ開けていればGNSSで測位が可能なため、従来困難だった現場での測量にも応用できるポテンシャルがあります。例えば、大規模な用地測量やインフラ工事での基準点設置などにGNSSを活用すれば、効率良く位置座標を取得できるでしょう。ただし、GNSSによる測位には高精度化のために解決すべき課題も存在します。

GNSS測量の現場における課題と限界

しかし、GNSS測量を実用化するにはいくつかの課題があります。最も大きい制約は測位精度です。通常の単独GNSS測位では、衛星信号の誤差や大気の影響などにより5～10メートル程度の誤差が生じてしまいます。例えばスマートフォン内蔵のGPSで得られる位置はそれくらいの精度で、地図アプリでは問題なくても、建物の位置出しや境界確認といったcm精度を要する測量には到底使えません。

また、GNSSは空が開けた環境でないと性能を発揮できないという限界もあります。森林の中やビル街では衛星からの電波が遮られたり反射したりして、測位が不安定になったり誤差がさらに大きくなります。実際、樹木の下で市販GPS端末を使うと5m以上ズレるケースもあります。現場ではこうした電波状況の悪い場所も多いため、「GNSSだけでどこでも高精度に測る」というのは簡単ではありませんでした。

その結果、これまでの測量現場では精度が求められる場面では光学式のトータルステーションなどに頼らざるを得ず、GNSS測量は補助的な位置確認にとどまることが多かったのです。高精度GNSS機器自体は存在しましたが、据え付け型で重量が数kgと重く取り扱いが大変なうえ、2人がかりで操作する必要があるものもありました。さらに機器価格が高額で定期的なメンテナンスや専門的な設定も必要となるため、小規模事業者や自治体には導入のハードルが高いものでした。熟練の測量技術者の減少が進む中、こうした従来手法をこの先も維持するには限界があり、省力化と高精度を両立する新たなアプローチが求められていました。

RTKとLRTKの登場で測量はどう変わったか

こうした中で、GNSSの精度問題を解決する技術として登場したのがRTK（リアルタイムキネマティック）方式です。RTKは基地局と移動局（ローバー）との間でGNSS観測データをリアルタイムにやり取りし、両局間で共通する誤差要因を打ち消すことでセンチメートル級の測位を可能にする手法です。例えば基地局を既知点に設置し、移動局で観測した生データを補正することで、衛星測位の誤差を数cmまで縮小できます。1990年代以降このRTK測位が実用化され、GNSSでも即時に高精度測量ができる時代が始まりました。従来は半日かけて静的観測して得ていた基準点座標も、RTKなら数分で結果が得られるため、土木測量や建設測量の現場でも徐々に活用が広がりました。

とはいえ、従来型のRTK測量機器は高価で大型なものが主流で、運用には専門知識も必要でした。本格的に運用するには専用の基地局装置や無線通信機、あるいはインターネット経由で基準局データを配信するサービス契約（電子基準点網など）が必要で、一般の技術者が手軽に扱えるものではありません。

そこで登場したのが、スマートフォンでRTK測位を実現する画期的なデバイス「LRTK（エルアールティーケー）」です。LRTKはiPhoneに装着して用いる小型のRTK-GNSS受信機で、スマホの手軽さとRTKの高精度測位を両立させたソリューションとして注目されています。このデバイスの登場により、いわば「スマホ測量」の時代が幕を開けました。重い測量機や三脚を持ち出さなくても、手持ちのスマホひとつで現場の測位や杭打ち作業まで完結できるようになりつつあります。RTKがもたらした測量革新をさらに押し進め、誰でもどこでもcm精度で測れるようにしたのがLRTKの登場による変化なのです。

LRTK Phoneの技術的特徴と他方式との比較

LRTK Phone（LRTKデバイス＋専用iPhoneアプリによる測量システム）は、従来の測量機器にはない様々な特長を備えています。主な技術的特徴を他の方式とも比較しながら紹介します。

• コンパクト・軽量設計: LRTKデバイス本体は約165gと軽く、厚さも1cm程度しかありません。スマートフォンの背面に貼り付けるように装着でき、持ち運びや現場での取り回しも容易です。ポケットに収まる測量機として一人で片手で扱えるため、従来のトータルステーションのように複数人で重機材を運搬・操作する必要がありません。

• センチメートル級の高精度測位: GNSSのRTK技術により、水平位置で±1～2cm、高さ方向で±3cm程度の高精度測位が可能です。これは国家基準点に基づく1級GNSS測量機にも匹敵する精度で、実際に1級機との比較試験では誤差5mm以内という結果が得られています。従来のスマホ内蔵GPSが5～10mの誤差しか出せないことを考えると、LRTKを用いることでスマホが一気に測量機器レベルの精度を手にすることになります。緯度・経度はもちろん、従来スマホでは難しかった高さ方向の座標も正確に取得でき、地形測量や工事測量に十分対応できます。

• 長時間駆動と簡単接続: LRTKデバイスは内蔵バッテリーで約6時間連続動作し、USB Type-Cポートから充電可能です。屋外でもモバイルバッテリーを使って充電でき、長丁場の測量作業にも耐えられます。スマホとの接続もシンプルで、BluetoothまたはLightning経由でペアリングし、専用アプリを起動するだけで即座に高精度測位が開始します。複雑な初期設定や専用コントローラーは不要で、スマホ一台ですぐ使い始めることができます。

• 通信圏外でも測位可能: LRTKは日本の準天頂衛星「みちびき」が配信するセンチメータ級補強サービス（CLAS）に対応しています。そのため山間部や災害現場など携帯電話の電波が届かない環境でも、衛星からの補強信号を直接受信して高精度測位が可能です。従来のRTK測位はインターネット経由で基準局データを取得するNtrip方式が一般的でしたが、LRTKなら通信圏外でも衛星経由で誤差補正が行えます（もちろん通信可能エリアでは国土地理院の電子基準点ネットワークを利用したネットワーク型RTK測位にも対応しています）。

• 衛星途絶時のセンサー補完: LRTKはiPhone内蔵の各種センサーやカメラとも連携しています。特にiPhone/iPad ProモデルではAR技術を活用し、一時的に衛星信号が受信できない環境下でも測位を継続可能です。例えば橋梁の下や樹木の茂る場所では通常RTK測位が途切れてしまいますが、LRTKではスマホのカメラ映像と慣性センサーによる自己位置推定によって短時間なら位置を維持できます。移動に伴って若干の誤差は蓄積しますが、従来は全く測位できなかった領域でも連続してデータ取得が行える点は大きなメリットです。

• スマホならではの多彩な機能: LRTK専用アプリには測位以外にもスマホの性能を活かしたユニークな機能が充実しています。例えば、iPhoneのLiDARスキャナーとカメラを用いて現場を走査し、高精度な3D点群データを取得することができます。得られた点群には全球座標が付与されているため、従来のレーザースキャンのように後処理で位置合わせする手間がありません。また、設計データの3Dモデルを現地の映像にAR表示し、ずれなく重ねて確認することも可能です。さらに、撮影した写真に測位時の緯度・経度・方位をタグ付けして保存できる測位写真機能も備わっており、点検記録や時系列比較に役立ちます。そのほか、指定した座標まで矢印で誘導する座標ナビゲーション機能（杭打ち支援）や、取得した点群上で長さ・面積・体積を計測する機能など、一台のスマホであらゆる測量ニーズに対応可能なオールインワン設計も大きな特徴です。これら従来は別々の機器やソフトで行っていた作業が、LRTKとスマホだけで完結する価値は非常に大きいと言えるでしょう。

• クラウド連携: LRTKで取得したデータはワンタップでクラウドに同期でき、その後の共有・活用も容易です。専用のLRTKクラウド上で、測位点や軌跡、写真、点群データを地図画面や3Dビューで閲覧したり、座標変換や距離・面積の計測、点群からの断面図作成などをブラウザ上で行うことができます。URLで共有すれば関係者が専用ソフト無しで結果を確認できるため、現場とオフィスの情報連携が格段にスムーズになります。従来は高価なソフトが必要だった点群データの解析もWeb上で手軽に行えるなど、データ利活用の面でも他方式にはないメリットがあります。

導入事例と現場の声（インフラ・自治体・災害・メンテナンス）

インフラ（建設）分野: 建設現場ではLRTKの導入が進みつつあり、大幅な効率化と精度向上の効果が報告されています。従来は2人1組で行っていた出来形測量（施工物の出来映え確認）も、LRTKを使えば1人で測定と記録が可能になり、人手不足の現場で重宝されています。ある土木現場では、LRTKによる一人測量で杭打ち作業の時間が従来比で半分以下に短縮できたという声もあります。また、広範囲の地形を点群スキャンして施工前後の地表変化をまるごと把握するなど、これまで一部のみサンプリングしていた情報を網羅的に取得できるようになった点も評価されています。「スマホ測量がこれからの現場の新常識になる」という期待も業界内で高まっており、実際テレビや新聞などメディアでも先端技術として取り上げられるなど注目を集めています。

自治体での活用: 地方自治体でもLRTKを現場業務に取り入れる動きが出ています。測量の専門部署がなくても職員がスマホで測量できるため、インフラ点検や都市計画の現地調査などで活用が期待されています。特に災害対応では有効で、福井市は2023年に災害復旧の現場へいち早くLRTKを導入しました。被災箇所を職員が発見してすぐ測定に移れるため、現場と役所間の往復を減らして対応スピードの向上とコスト削減に成功したと報じられています。実際、福井市の事例ではLRTK導入後、限られた人員でも迅速に被災状況を記録でき、復旧計画立案の効率が上がったとのことです。このように、スマホだけで現地の精密計測ができることは自治体にとって大きなメリットであり、防災分野でも注目されています。

災害対応の現場: 災害時には通常の通信インフラが寸断される場合がありますが、LRTKは衛星通信のみで動作するため非常に有用です。実際、2023年の能登半島地震では被災地の測量にLRTKが活用され、電波圏外の地域でもCLASによる補正で地盤変位の詳細記録を行えました。災害直後の緊急対応では、一刻も早く現況を把握することが重要です。ヘリコプターやドローンでは上空から全体状況を把握できますが、地上の細かな寸法は測れません。LRTKがあれば被災現場に駆けつけた職員がその場で詳細な測量を実施し、結果をクラウド経由で即座に共有できます。現地調査と情報共有のスピードが飛躍的に向上するため、今後の防災・減災にも欠かせないツールとなっていくでしょう。

維持管理（メンテナンス）分野: インフラ施設の維持管理業務にもスマホ測量は力を発揮しています。例えば道路や橋梁の定期点検では、LRTKで取得した測位写真が活躍しています。点検担当者が橋のひび割れ等を撮影すると、その正確な位置座標と撮影方向が自動で記録されるため、後日同じ箇所をピンポイントで再調査したり経年変化を比較したりするのが容易です。「以前は前回の点検箇所を探すのが大変だったが、座標付き写真のおかげで確実に同じ地点を追跡できるようになった」という現場の声もあります。また、LRTKを用いて橋梁全体を点群スキャンし、普段目視できない橋桁の裏側まで含めた詳細な3Dモデルを作成する試みも行われています。GNSS単体では測位困難な場所でも前述のセンサー技術により一括してデータ取得でき、後からオフィスで微細なひび割れまで確認できるため、従来にない効率的なメンテナンス手法として期待されています。

測量の未来：スマホとLRTKが変える働き方

以上のように、スマホと高精度GNSSの組み合わせは、現場の「測る」作業そのものを大きく変えつつあります。今までは専門の測量チームに依頼していた位置出しや出来形確認も、これからは現場の担当者自らが必要な時にさっと測れる時代になりつつあります。衛星測位の高精度化とスマホの手軽さが融合したことで、測量作業の民主化が進み、現場の誰もが測量者になれると言っても過言ではありません。

これは単に便利になるだけでなく、働き方そのものにも変革をもたらします。例えば、従来は測量結果の報告を待ってから次の工程に進めていた工事現場でも、その場で即座に計測・共有できるため意思決定が迅速化します。結果として工期短縮やコスト削減に繋がり、ひいては生産性の向上に寄与します。また、現地で取得したデータをクラウドで共有すれば、遠隔地の上司や専門家がリアルタイムに状況を把握してアドバイスすることも可能になり、移動時間の削減やリモート監督も現実的になります。危険な現場での作業時間を短縮できる点でも、安全性の向上に役立つでしょう。

さらに、スマホ測量の普及は慢性的な技術者不足に対する解決策にもなります。操作が直感的で教育コストが低いため、新人や非専門職でも短期間で扱えるようになります。ベテラン技術者に依存せずとも現場での計測が回せるようになれば、人材不足や技術継承の課題にも対応できます。こうしたLRTKがもたらす高精度測位の手軽さは、国土交通省が推進するi-Constructionなど建設業界のDX（デジタルトランスフォーメーション）を強力に後押しする技術と言えるでしょう。今後ますますスマホを活用した測量手法が広がり、測量の在り方や働き方が大きく変わっていくと期待されます。

LRTKでの簡単測量手順（自然に紹介・誘導）

最後に、LRTKを使ったスマホ測量がどれほど簡単か、その基本的な手順を紹介します。専門的な知識がなくても、以下のステップで誰でもcm精度の測定が可能です。

• セットアップ: LRTKデバイスをiPhoneに取り付け、専用アプリを起動します（初回のみユーザー登録とログインが必要）。デバイスとスマホはBluetoothまたはLightningで自動接続され、すぐに測位が開始します。

• 測位の準備: アプリがGNSS衛星を受信し、補正情報を取得して測位精度を高めます。数十秒ほどで位置が安定し、センチメートル精度で測れる状態になります（アプリ上で高精度測位のステータスが表示されます）。

• ポイントの測定: 測りたい地点でiPhoneを静止させ、アプリの「ポイント測位」機能で測定を行います。画面上のボタンをタップすると数秒間の観測が行われ、平均化された高精度な座標値が取得されます。その地点の緯度・経度・高さが表示されるので、必要に応じて点名を付けて保存しましょう。

• 写真の記録: 現場の状況を写真に残したい場合は「測位写真」モードに切り替えます。カメラで対象を撮影すると、写真に撮影場所の高精度な位置座標とカメラの向き（方位）が自動的に記録されます。こうして取得した測位写真は、あとでクラウド上で地図と照合しながら確認できるため、報告書作成や経年比較に役立ちます。

• 杭打ち・誘導: 設計で決められた位置に杭を打ったり、現地で特定ポイントを探したりする場合は「座標ナビ」機能を使います。目標とする座標値を入力すると、スマホ画面上の矢印が目標方向を示し、目標地点までの距離がリアルタイムで表示されます。指示に従って移動し、矢印アイコンが緑色になれば目的の地点に到達です。その地点に杭やマーキングを施せば、設計通りの位置出しが完了します。

• データ共有: 測量が終わったら、アプリ内の「同期」ボタンを押してデータをクラウドにアップロードします。測定した座標値や写真、点群データがクラウド上に保存され、事務所のPCから即座に確認可能です。共有用URLを発行すれば関係者がブラウザ経由でデータを閲覧でき、距離や面積を測ることもできます。現場で測ってすぐ正確な結果を共有できるため、その後の業務を迅速に進めることができます。

このように、LRTKを使えばこれまで専門技術者に頼っていた高精度測位が驚くほどシンプルな手順で実現できます。スマホさえあれば誰でもcm精度の測量ができる時代です。その革新をぜひ体感してみてください。