1. なぜ今、自治体にGNSSが必要なのか
近年、地方自治体では測量業務のデジタル化(DX)が急速に進んでいます。紙の図面や手作業に頼っていた公共測量も、GPSやGNSSによる衛星測位技術やドローン・3D計測の導入で大幅な効率化が期待できます。特にリアルタイムキネマティック(RTK)方式による高精度GNSS測位は、道路や橋梁などインフラの測量を飛躍的に効率化し、従来より正確なデータ取得を可能にしています。国もi-Construction(アイ・コンストラクション)などの政策でICT測量や3次元データ活用を推進しており、自治体の公共測量DXはこうした流れの一環として加速しています。
地方自治体がGNSSに注目する背景には、人手不足や予算制約の中で業務を効率化する必要性もあります 。従来は測量会社へ委託したり多人数で作業していた現地測量も、最新のGNSS機器を使えば省人化しつつ迅速に対応できます。さらに豪雨や地震などの災害対応では被災状況の迅速な把握が求められますが、高精度GNSSを現場投入すれば被害の現況を即座にマッピングでき、早期復旧の判断材料を得られます。このように地方自治体にとってGNSS活用は、業務効率化と住民サービス向上の両面で「今」必要性が高まっているのです。
2. 公共測量で求められる精度とスピード
公共測量とは、自治体や国が行う公式な測量業務のことで、成果は公共の地図や台帳に利用されます。そのため要求される精度は非常に高く、数センチメートルの誤差も許されない場合があります。従来は水準測量やトランシットを用いて丁寧に測点ごとに計測していましたが、この方法では多数の人員と時間を要しました。一方、RTK対応のGNSSを使えば、単独測位では数メートルあった誤差を数センチ以内の高精度測位に縮めることができます。公共測量に必要な精度(国家座標系に準拠した測位精度)をGNSSでクリアできるようになったことは大き な進歩です。
また、公共測量ではスピードも重要です。インフラ工事や災害対応では、測量データを迅速に取得し関係部署と共有することが求められます。RTK-GNSSであれば、測量員が移動しながらリアルタイムで多数の点の座標を取得することが可能で、従来数日かかっていた作業を飛躍的に短縮できます。例えば、広範囲の地形測量でもRTK搭載ドローンを飛ばせば当日中に詳細な3Dモデルを作成でき、従来は測量→図面化に数日を要していたプロセスが劇的にスピードアップします。現場で取得したデータを即座にクラウド経由で共有すれば、オフィスに戻るころには関係者がデータを確認できる状態になっているという具合に、精度と速度の両立が公共測量で可能となっています。
3. GNSSの基本とLRTKの特徴
GNSS(Global Navigation Satellite System)はGPSをはじめ複数の衛星測位システムの総称で、地球上のどこでも位置を測定できるインフラです。一般的なスマートフォンやハンディGPS受信機でもGNSS信号を受信 できますが、単体では誤差が5~10m程度生じるため、測量用途にはそのまま使えません。そこで登場したのがRTK(リアルタイムキネマティック)という高精度測位技術です。RTKでは既知の基準点(基地局)と移動受信機(ローバー)で衛星データを同時観測し、基地局から配信される補正情報を元にリアルタイムで誤差を補正します。その結果、数メートルあった位置誤差が数センチメートルまで縮小され、センチメータ級の高精度測位が可能になります。RTKによるセンチメートル精度の位置情報には緯度・経度だけでなく標高も含まれるため、公共測量で必要な高さ情報も同時に取得できます。
こうしたRTK技術を現場で手軽に活用できるツールとして注目されているのがLRTK Phoneです。LRTK Phoneはスマートフォンに装着して使う超小型の高精度GNSS受信機で、iPhoneなどと組み合わせることで手軽にスマホ測量を実現します。その主な特徴は次のとおりです。
• コンパクト設計で携帯性抜群: 本体重量は約165g、厚さ1cm程度とポケッ トに収まるスマホサイズの測量機器です。場所を選ばず持ち運べて、現場でさっと取り出して測位できます。
• センチメートル級の精度: RTK方式に対応し、水平±2cm・垂直±4cm程度の精度で位置を特定可能です。取得した座標には緯度・経度・標高が含まれ、公的な座標系にそのまま利用できます。
• バッテリー内蔵で長時間動作: 内蔵バッテリーで約6時間駆動し、USB Type-C経由で充電・給電も可能です。現場でもモバイルバッテリーさえあれば連続稼働でき、長時間の測量にも耐えます。
• みちびき(CLAS)対応: 日本の準天頂衛星みちびきが提供するセンチメータ級補強サービス(CLAS)に対応しており、山間部など携帯通信圏外でも衛星から直接補正情報を受信して高精度測位が可能です。通信インフラに左右されず安定した測位が行えます。
• 一脚・タブレット対応: 必要に応じて測量用の一脚(ポール)に取り付けて本格的に単点測位を行うこともできます。専用ポールを使えば高さオフセット(ポール先端までの高さ )も自動計算され、煩雑な補正作業なしに正確な地物の座標を取得できます。またスマートフォンだけでなくタブレット端末(iPadなど)にも装着可能で、大きな画面で測量結果を確認しながら作業することもできます。
• オールインワンのスマホ測量機能: LRTK専用のiOSアプリを用いて、高精度座標の取得だけでなく、スマホのカメラやセンサーを活用した3Dスキャン測量やAR(拡張現実)表示、杭打ち作業の座標案内(ナビゲーション)など多彩な機能を一台で実現します。測位データや撮影写真はクラウドサービス(LRTKクラウド)と同期でき、その場で取得した情報を事務所のPCで即座に確認・共有することも可能です。
このようにLRTK Phoneを使えば、専門的な機器や高度な知識がなくてもスマホひとつで高精度測位が行えます。現場で取得したデータは自動的にクラウドに保存できるため、あとでデスクに戻ってからUSBでデータ移行…といった手間もありません。GNSS初心者の方でも扱いやすい設計になっており、まさに「誰でも使える公共測量ツール」と言えるでしょう。
4. 活用事例:災害現場での位置記録と復旧支援
日本各地で頻発する地震や豪雨災害の現場でも、GNSSの高精度測位が大いに役立っています。災害対応では被災箇所の状況を迅速かつ正確に把握することが重要ですが、従来の方法(人力の現地踏査や平板測量など)では危険が伴う上に時間もかかっていました。そこで自治体が注目しているのが、LRTKのようなモバイルGNSSを活用した災害現場の測量です。
例えば大雨で土砂崩れが発生した現場では、担当者が安全な位置から崩落土砂の範囲をLRTKで測定し、高精度な現況マップを即座に作成できます。そのデータを基に崩落土量を算出すれば、必要な重機やダンプの手配も的確に行え、復旧計画の立案スピードが格段に上がります。ドローンを併用できる場合は上空から被災エリアを撮影し、RTKで位置情報を付与した精密なオルソ画像や点群データを短時間で生成することも可能です。これは、人が立ち入れない危険地域の状況把握にも有効で、被災直後の貴重な記録として後日の検証や報告にも役立ちます。
実際に、スマートフォンとGNSSを組み合わせた測量システムを災害対応に導入している自 治体も出始めています。福井市ではいち早くiPhoneとLRTKを活用した現場測量を導入し、被災状況の記録に活用しました【注: 福井市が2023年にiPhone測量システム導入を報じたニュースあり】。これにより災害時の早期復旧に必要なデータを迅速に取得するとともに、外部測量の委託費用を削減する効果も得られています。高精度GNSSによる被害状況の「見える化」は、自治体の災害対応力を高め、住民の安全・安心に直結する重要なポイントとなっています。
5. 活用事例:インフラ・施設点検での座標記録とクラウド共有
道路や橋梁、上下水道施設など、自治体が管理するインフラ設備の点検業務にもGNSSが活躍しています。日常的に行われる街路灯や道路標識、ガードレール、橋の橋脚といった設備の点検作業で、位置情報を正確に記録しておくことは維持管理の効率化に不可欠です。従来、点検結果は紙の台帳や写真で管理され、故障箇所の位置は担当者の経験やメモに頼っていました。しかし、高精度GNSS端末を点検員が携行すれば、異常を発見して写真を撮影するだけで正確な座標と日時が自動付与され、その情報がクラウド上に即座に保存されます。
例えば点検員が街路灯の不具合を見つけた際、LRTK Phoneで撮影した写真には緯度経度と撮影日時がタグ付けされるため、「〇〇交差点から東に50m付近の街路灯」といったあいまいな記述より格段に正確な報告が可能です。クラウドに上がったデータを見れば事務所の担当者も即座に場所を特定でき、地図上の座標をカーナビやスマホの地図アプリと連携して現場までナビゲーションすることもできます。その結果、修繕担当者が現場を探し回る無駄がなくなり、対応スピードが向上します。
また、蓄積された高精度な位置データは、インフラ設備の施設管理や長期的な保全計画にも役立ちます。同じ橋梁部材を定期的にRTK測量して座標を記録しておけば、経年的な沈下や変位が数センチ単位でもデータ上で把握できます。これにより、従来はベテラン職員の「勘と経験」に頼っていた異常検知が、データに基づく客観的な判断へと変わりつつあります。実際に、一部の自治体ではGNSS計測とIoTセンサー、GISを組み合わせて上下水道管や橋梁のモニタリングを行い、異常兆候を早期に検知する取り組みも始まっています。高精度GNSSを取り入れたインフラ点検は、属人的になりがちだった現 場情報を組織全体で共有し、スマートな維持管理を実現する鍵となっています。
6. 活用事例:農業用水路や農業施設の管理と記録
農村部の自治体や土地改良区では、農業用水路や用水ポンプ場、ため池といった農業施設の維持管理が重要な業務です。これらは長年使われてきた施設だけに、正確な位置や形状のデータが十分に整備されていない場合もあります。GNSS測量を活用すれば、広範囲にわたる農業インフラを効率よく巡回しながらポイントごとの位置を記録し、デジタル地図上に資産台帳を構築することが可能です。
例えば、農業用水路の定期点検では、担当者がLRTK搭載スマホを片手に堤防や水路沿いを歩きながら異常箇所を調べ、その位置を次々と測位・記録できます。ひび割れや漏水箇所を写真撮影すれば、クラウド上に高精度な座標付き写真が保存され、事務所に居ながらにして地図上で状況を把握できます。これにより、従来は現地での経験に頼っていた施設管理がデータ主導に変わり、補修の優先度判断や工程計画を合理的に行えるようになります。また、大規模灌漑施 設の更新計画立案時にも、GNSSで取得した精密な現況データがあることで設計の精度が増し、無駄のない投資判断につながります。
災害時にも農業施設の位置情報は重要です。たとえば地震で水路が崩壊した際、被災箇所の正確な座標を即座に記録しておけば、復旧工事の見積もりや支援要請資料を迅速に用意できます。広域に分散した農業施設こそ、GPS・GNSSによるスマート管理の恩恵が大きい分野と言えるでしょう。限られた人員でもLRTKのようなツールを使って効率よく巡回・記録することで、農業インフラの維持管理水準を向上させることができます。
7. 活用事例:都市施設や道路標識の位置台帳整備
都市部の自治体には、街路灯や信号機、消火栓、ベンチ、公園遊具など多種多様な都市施設が存在し、それらを管理するための位置台帳整備が課題となっています。位置台帳とは各施設の所在地や属性をまとめたデータベースですが、古くからの設備だと座標情報が未整備だったり紙の図面で保管されていたりします。高精度GNSSを活用すれば、こうした都市施設一つひとつの正確な位 置座標を測定し、デジタルな位置台帳を充実させることが可能です。
例えば市内全域の道路標識について、担当者がLRTKを用いて一本ずつ設置位置を測定すれば、数センチ単位で正確な緯度・経度データ付きのリストを作成できます。新設や撤去の履歴もクラウド上で管理すれば、いつでも最新の施設配置図を把握できます。このように位置台帳を整備しておくことで、道路工事や街路の計画時に支障物の位置を事前に把握して円滑に施工できるほか、災害や事故で施設が損傷した際にも被害状況を地図上で即座に把握できます。さらに、モバイル端末上でAR機能を使えば、現地でカメラ越しに見た映像に既存資産の位置を重ねて表示させることもでき、埋設物や地下管路の位置を直感的に確認することも可能です。
高精度な位置台帳は、市民サービスや都市計画の精度向上にも寄与します。例えば防犯灯のLED化工事を効率的に進めるには、全防犯灯の正確な位置と管理番号が把握できていることが理想です。GNSSで測量した位置台帳があれば、地図上で工程管理したり、業者への発注資料にそのまま活用したりできます。LRTKによる手軽な現地測量を積み重ねて資産情報を蓄積していけば、将来的には都市インフラのデジタルツイン(現実の街の詳細なデジタルモデル)構築にもつながり、スマートシティの基盤となるでしょう。
8. LRTKによる省人化とコスト削減の効果
公共測量やインフラ点検の現場でLRTKを活用することで得られる最大のメリットの一つが、省人化による業務効率向上とコスト削減です。従来、精密な測量を行うには2人1組以上のチームで作業するのが普通でしたが、LRTK Phoneを使えば基本的に1人で測量が完結します。人件費ベースで考えれば単純に労力が半減・削減されることになり、限られた職員で多くの仕事を回さなければならない自治体には大きな助けとなります。特に山間部の巡回や夜間の緊急点検など人手を割きにくい場面でも、一人一台のスマホ測量機があれば対応可能になるため、業務の継続性・機動性が向上します。
コスト面でも、高精度GNSS機器の低価格化は自治体にとって追い風です。かつてRTK測量機器一式を導入しようとすると数百万円規模の投資が必要でしたが、近年ではLRTK Phoneのようなスマホ装着型デバイスが安価に登場し、初期導入ハードルが下がっています。一台で測量か ら点検支援まで幅広く使えるため、部署ごとに別々の機器を揃える必要もありません。またクラウドサービスとの連携により、データ整理や報告書作成にかかる手戻り時間も減らせます。測量精度が向上すれば、誤測や設計ミスによるやり直し工事の発生も抑制でき、間接的なコスト削減効果も期待できます。
さらに、自治体によっては国の補助金や交付金を活用してDX機器導入を支援してくれるケースもあります。防災やインフラ老朽化対策の一環として、高精度測位技術の導入費用を補助する制度があれば積極的に活用すると良いでしょう。トータルで見れば、LRTK導入による効率化・省力化のメリットは費用を上回る可能性が高く、現場DXの投資効果は十分に見込めます。
9. LRTKによる公共測量の簡単な手順と導入のすすめ
実際にLRTKを使ったスマホ測量は、操作もシンプルで短時間で習得できます。ここでは公共測量業務への活用を念頭に置いた基本的な手順を紹介します。
• 準備とセットアップ: 測量担当者はまずLRTK Phone本体をスマートフォン(例:iPhone)の背面に装着します。電源を入れ、専用のLRTKアプリを起動して機器と接続します。初回利用時にはアプリへのログインや簡単なセットアップ(プロジェクト名や座標系の設定など)を行いますが、一度設定すれば以降は素早く測量を開始できます。
• 衛星補正の取得: 現場で測位を始める前に、RTK測位用の補正情報を受信します。携帯通信圏内であればアプリ経由でネットワーク型RTKサービスに接続したり、通信圏外であれば自動的にみちびき(CLAS)から補強信号を受信したりして、デバイスがセンチメートル級測位モードになるのを待ちます。数十秒ほどで高精度測位が可能な状態(RTKフィックス)になり、画面上に現在位置が高精度で表示されます。
• 測量の実施: アプリの測量モードで必要なデータを取得します。単点の座標を記録したい場合はポイント測量を行い、ポイント名や属性情報とともに緯度・経度・標高を保存します。写真を撮影すれば自動で撮影位置の座標が付加されますし、連続した軌跡を記録するロギング機能を使って移動経路を測量することもできます。iPhoneのLiDARスキャナ対応機種であれば、周囲の構造物を3Dスキャンして点群データ化するこ とも可能です。測りたい対象に合わせて柔軟に測量を行いましょう。
• クラウドへの同期: 測定データや写真は取得と同時にクラウドへアップロードされます(オフラインの場合は端末内に保存され、後でネット接続時に同期可能)。オフィスのPCからLRTKクラウドにアクセスすれば、現場で取得された座標点や写真が地図上にプロットされて確認できます。必要に応じてデータをダウンロードしてCAD図面に取り込んだり、共有リンクを発行して他部署とデータを共有したりも簡単に行えます。
以上のように、LRTKを使った公共測量の基本フローは直感的で分かりやすく、特別な測量の知識がない職員でも短期間の研修で扱えるようになります。まずは災害現場の記録係や道路維持課の点検業務など、身近な業務からスマホ測量を導入してみることをおすすめします。小規模な導入で成果を実感できたら、ぜひ他の部署や業務にも横展開し、自治体全体のDXを推進してください。
精度とスピード、そして省力化というメリットを兼ね備えた高精度GNSS測量は、今や地方自治体の強力な武器となります。LRTK Phoneを活用すれば、公共測量の現場が劇的にスマート化し、限られたリソースでこれまで以上に質の高い行政サービスを提供できるでしょう。ぜひこの機会に、スマホで始める高精度測位の世界に踏み出してみてください。あなたの自治体の現場が、きっと大きく変わるはずです。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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