GNSS機器はもう重くない？スマホ装着型LRTKの携帯性と利便性

重くて扱いづらかった従来のGNSS機器

GNSS測量機器を現場に持ち込む際、その重さや取り回しに苦労した経験はないでしょうか。測量や建設現場で位置を正確に測るためには、GNSS（Global Navigation Satellite System、全球測位衛星システム）機器が欠かせません。しかし、ひと昔前までの高精度GNSS機器は大きく重く、現場で扱うには苦労が多いものでした。従来はミリメートルの精度を得るためにトータルステーションやRTK-GNSS受信機といった専用機材を用いる必要がありましたが、これらは本体や三脚が大型で、重量も数kgに及ぶことがありました。そのため、機材を現場へ運搬するだけでも一苦労で、測量には通常2人以上の作業員を要するケースも一般的です。また、高価な精密機器であるため定期的な校正・メンテナンスが必要で、メーカーに機器を送って調整しなければならない手間もありました。

さらに、GNSSを用いた測位に関しても、従来の簡易GPSでは5～10m程度の誤差が生じ、高精度測位には専用の基地局を設置したり、高額なRTK-GNSSシステムを準備したりする必要がありました。このように、かつてのGNSS測量機器は「重くて扱いづらい」代表格であり、気軽に持ち出して使えるような代物ではなかったのです。もちろん、高精度測量には専門の測量士の技術が求められ、機器の操作も熟練を要しました。現場の誰もが気軽に取り出して使える道具ではなかったのが、従来のGNSS機器なのです。

軽量化の波とスマホ測量の登場

近年、この状況は大きく変わりつつあります。測位技術の進歩とGNSS機器の軽量化が進み、現場での測量スタイルにも変革が起こっています。その一つが「スマホ測量」と呼ばれる新しいアプローチです。スマートフォンに小型の高精度GNSS受信機を装着し、専用アプリで測量を行うというスタイルで、日常使っているスマホがそのまま測量機器に早変わりします。例えば、従来は数メートルの誤差があったスマホ内蔵GPSも、RTK（Real Time Kinematic）技術を組み合わせることで数センチ以内の高精度測位が可能になります。こうした技術の実用化により、専用の重機を使わずとも、スマホと小型デバイスだけで高精度の位置情報が取得できる時代が到来しました。

この流れの中で注目されているのが、スマホ装着型のRTK-GNSSデバイスです。各社から軽量GNSS受信機が登場していますが、中でも代表的な存在が「LRTK Phone」です。次章では、このLRTK Phoneがもたらす携帯性と利便性について詳しく見ていきましょう。

スマートフォンをベースにした測量が注目される理由は、その手軽さだけではありません。日常的に使い慣れたスマホとアプリによって操作できるため、専門の測量技術者でなくとも現場担当者自身が扱いやすいという利点もあります。こうしたスマホ測量の普及は、建設業界のDX（デジタルトランスフォーメーション）やi-Construction推進の一環としても期待されています。

LRTK Phoneとは？その携帯性の真価

LRTK Phoneとは、スマートフォンに取り付けて利用する超小型のRTK-GNSS測位デバイスです。重量はわずか165g、厚さ約1cmで、まさにスマホと同程度のサイズ・重さしかありません。ポケットに入れて持ち運べるほど軽量でありながら、RTKによるセンチメートル級の高精度測位を実現します。取得できる測位結果は緯度・経度・標高（高さ）の情報を含み、従来の大型GNSS機器に匹敵する精度です。バッテリーを内蔵しており約6時間の連続動作が可能で、充電はUSB Type-C経由で行います。モバイルバッテリーから給電しながら使うこともできるため、長時間のフィールド作業でも安心です。

このLRTK Phoneの優れている点は、単にデバイスが小さくなっただけではありません。一人で測量作業を完結できるという運用面での手軽さも大きな魅力です。LRTK Phoneはスマートフォンとワイヤレスで接続され、専用の測量アプリで操作します。難しい設定や煩雑な配線は不要で、直感的なUIで誰でも扱えるよう設計されています。現場ではスマホ一台とLRTK Phoneさえあれば、他の補助機器なしで完結するため、従来必要だった観測助手や重機も必要ありません。

また、LRTK Phone本体を専用のアタッチメントで一脚（モノポッド）に取り付ければ、従来の測量用ポールのように垂直に据えて測位することも可能です。高さオフセット（地面から端末までの高さ差）はアプリ側で自動補正されるため、一脚の石突き（先端）を地面につけて測れば、その地点の正確な座標を取得できます。これは、基準点の測定や杭打ち作業（いわゆる杭の位置出し）など「本格的な測量」が必要な場合にも威力を発揮します。LRTK PhoneはiPadに装着して使用することもできるため、大画面で地図や点群を確認しながら作業する、といったスタイルにも対応できます。こうした高い携帯性と柔軟な運用性により、LRTK Phoneは次世代の「持ち運びGNSS」デバイスとして現場の期待に応える存在となっています。なお、LRTK Phoneは国土交通省が推進するICT施工にも対応しており、出来形管理要領に準拠した測量データを取得できるため、公共事業の出来形管理にもそのまま活用できます。

災害・山間部・日常点検でこそ光るLRTKの利便性

ここまで、LRTK Phoneの特徴である携帯性と高精度測位について述べてきましたが、それらが真価を発揮するのはまさに現場の実践的なシーンです。代表的な例の一つが、災害対応の現場でしょう。地震や豪雨による土砂崩れ、洪水など災害発生直後には、地形の変化や被害状況を迅速に測定・記録することが求められます。しかし重い測量機器を瓦礫やぬかるみの中で設置・操作するのは容易ではありません。その点、ポケットに入るLRTK Phoneであれば、自治体の職員や技術者が現場に駆けつけてすぐにスマホ測量を開始できます。実際、福井市など一部の自治体ではiPhoneを使った現場測量システムとしてLRTK Phoneを導入しており、災害時の早期復旧とコスト削減に役立てている事例もあります。携帯電話の通信インフラが被災していても、LRTK Phoneは日本の準天頂衛星「みちびき」からの補強信号（CLAS）を利用して高精度測位が可能なため、通信圏外の状況下でも測量が継続できるという強みがあります。

山間部での測量やインフラ点検でも、LRTK Phoneの利便性は大きな武器となります。これまで山奥で正確な測位を行うには、大型の測量機器を担いで徒歩で移動するなど大変な労力が必要でした。LRTK Phoneであれば、軽量なスマホGNSS機材を携行するだけで険しい地形でも測量が可能です。林道や登山道の管理、山間部にある施設（ダム・送電線・橋梁など）の巡視点検では、正確な位置情報の記録が重要ですが、LRTK Phoneならばその場で高精度の位置座標を取得し、写真付きで記録しておくことができます。これにより、後日オフィスで地図と照合したり、問題箇所の特定を行ったりする作業が格段に効率化します。

日常的なインフラ点検や建設現場の管理業務においても、スマホ測量の手軽さは業務効率を高めます。例えば道路標識や下水道施設の定期点検で、「正確な位置を記録しながら異常箇所を撮影する」ような作業はこれまで測量班と調査班が連携して行う必要がありました。LRTK Phoneを活用すれば、担当者自身が高精度GNSSで位置を確認しつつ写真記録を残せるため、1回のフィールドワークで測量と記録が同時に完了します。また建設現場では、施工中の構造物が設計どおりの位置・高さになっているかを確認したり、出来形の状況を記録したりする場面があります。そんな時、現場監督がポケットからスマホとLRTKを取り出してサッと測定できれば、わざわざ測量専門スタッフを呼ぶ必要もなくなります。携帯性に優れたLRTK Phoneは、このように日常業務の「困った」に応える便利さで、現場の生産性向上に貢献します。

運用の自由度とクラウド連携によるメリット

LRTK Phoneの導入によって、測量作業の運用方法にはこれまでにない自由度が生まれます。従来は測量のたびに専門の技術者を手配したり、重機材の貸し出しスケジュールを調整したりする必要がありましたが、LRTK Phoneがあれば現場の担当者自身が必要なときにすぐ測量を行えます。たとえば工事中に急遽あるポイントの高さを確認したい場合でも、その場でスマホ測量を実施して即座に結果を得ることができます。専属の人員や大掛かりな機材が不要になることで、作業スケジュールの柔軟性は飛躍的に向上するとともに、機材の購入費用や外部業者への委託費用を削減できるためコスト面でも大きなメリットがあります。さらに、LRTK Phoneはソフトウェアによる機能拡張性が高く、現場で3D点群スキャンを行って出来形を記録したり、AR（拡張現実）機能で設計図と現況を重ね合わせて確認したり、測位した座標をもとに目的地までナビゲーション（座標誘導）したりと、1台で多様なニーズに応えられます。まさに「万能測量機」と呼ぶにふさわしい一台であり、現場のワークフローに合わせた使い方が可能です。

そして、クラウド連携によるメリットも見逃せません。LRTK Phoneで取得したデータは、スマートフォンからワンタップで専用クラウドに同期することができます。クラウド上にデータをアップロードすれば、オフィスの同僚や別現場のチームともリアルタイムで情報を共有可能です。例えば測量した座標データや点検時に撮影した写真をその場でクラウドに上げておけば、後続の設計担当者や発注者がオフィスから即座に確認できます。いちいちUSBメモリでデータを受け渡したり、図面に書き写した数値をメールで送ったりする必要はありません。ウェブ上の共有リンクを発行すれば、関係者は専用ソフトを持っていなくてもブラウザ経由でデータを見ることができます。点群データであればブラウザ上で3Dモデルを回転・拡大して閲覧でき、ライセンスを持たないクライアントにも現状を直感的に伝えられます。また、クラウドに蓄積されたデータは時系列管理にも活用でき、過去の測量データと最新のデータを比較して地形変化や構造物の劣化状況を分析するといった高度な利用も可能です。クラウドにデータがあることで堅牢なバックアップにもなり、仮に現場でスマホや端末を紛失・破損した場合でも測量成果はクラウド上に残ります。このように、LRTK Phoneとクラウドの組み合わせは、現場とオフィスをシームレスにつなぎ、情報共有と意思決定のスピードを格段に高めるのです。

LRTKによる簡単な測量の流れ（自然な導入と誘導）

最後に、LRTK Phoneを使った測量作業が実際どのように行われるか、その流れを簡単に見てみましょう。スマホ測量がいかに手軽かを実感できるはずです。

• 準備とセットアップ: まず、スマートフォンにLRTK Phone本体を取り付けて電源を入れます。Bluetoothなどでスマホと接続されるため、ケーブル接続のわずらわしさもありません。専用アプリを起動し、画面上の「端末接続」ボタンからLRTK端末を選択すれば、すぐに測位の準備完了です。

• 高精度測位の開始: アプリ上で「測位開始」を実行すると、衛星からの受信が始まります。最初の数秒はスマホ内蔵GPSと同程度（数メートル）の誤差ですが、空が十分開けた場所であれば20～30秒ほどで測位精度が飛躍的に向上します。衛星からの差分補正情報を受け取り、ステータスがRTKの「Fix」（固定解）となれば、高精度測位が可能な状態です。インターネット接続がある場合は基準局ネットワークから補正データを取得し、圏外の場合でもみちびきのCLAS信号でセンチ級精度を確保できます。

• ポイントの測定と記録: 測位が安定したら、測りたい地点でアプリの「ポイント測定」ボタンをタップします。これだけで現在の高精度な座標値がスマホに記録されます。任意でポイントに名前やメモを付けて保存できるため、「建物A北西角」や「基準点1」など後から見ても分かりやすく整理可能です。また、測位写真機能を使えば、測定と同時にスマホのカメラで写真を撮影し、その写真に位置座標と方位情報を自動で付加して保存できます。例えば橋脚のクラックを調査する際、その場で写真を撮っておけば、ひび割れの場所をセンチ精度の座標付きで記録できるので、後日の報告や比較も容易になります。

• データの保存とクラウド同期: 測定が終わったら、アプリ上で「保存」操作を行います。記録されたデータはスマホ内に保存されると同時に、ワンタップでLRTKクラウドへ同期可能です。現場で通信環境が整っていれば即座にアップロードされ、オフィスからリアルタイムでデータを参照できます。仮に圏外でもデータはスマホに蓄積されるため、後で電波が届く場所でまとめて同期することもできます。

• オフィスでの活用: クラウドに保存された測量データは、オフィスのPCからブラウザ経由で確認できます。座標値の一覧や写真はもちろん、点群データであれば3Dビューワーで現場の立体モデルをチェックすることも可能です。さらに必要に応じて、取得した座標をCADソフトで図面に反映したり、他のGIS（地理情報システム）に取り込んで解析したりできます。共有リンクを使えば、関係者全員が最新の現場データにアクセスでき、現場と設計側で常に情報を同期した状態でプロジェクトを進められます。

このように、LRTK Phoneを使えばこれまで煩雑だった測量の一連の流れがシンプルになります。重い機材の準備や人員手配も不要で、思い立ったときにすぐ高精度測位を開始し、そのデータを即座に共有・活用できるのです。まさに「GNSS機器はもう重くない」新時代の到来と言えるでしょう。スマホと軽量GNSSデバイスによる測量という革新が、建設・測量業界や自治体業務の現場にもたらす効果は計り知れません。もし従来の重機材に頼った作業に課題を感じているなら、ぜひ一度スマホ測量の利便性を体験してみてはいかがでしょうか。