災害時測量の重要性と課題
近年、気候変動に伴う集中豪雨や大規模地震などによって被災地が各地で発生し、迅速な災害対応が求められています。災害現場では、崩壊した地形や損壊した構造物の状況を正確に把握するために測量が不可欠です。例えば、土砂崩れの規模を測定して復旧工法を検討したり、被災したインフラの位置や高さを正確に記録して再建計画に役立てたりする必要があります。災害時測量の重要性は非常に高く、初動での測量結果がその後の復旧計画や救助活動の効率を左右します。
しかし、従来の測量手法にはいくつかの課題があります。一般的なトータルステーション(光学測量機)は高精度ですが、据え付けに手間がかかり、操作に2人以上の人員を要します。機器自体も大型かつ重量で、被災地のような足場の悪い場所へ持ち込むのは大変です。また、従来手法ではポイントごとに測定するため時間を要し、広範囲に点在する被害状況を短時間でカバーするのは困難でした。大規模災害で被災箇所が多数にのぼる場合、限られた測量スタッフでは対応が追いつかず、復旧の遅れや見落としが生じるリスクがあります。さらに、災害現場は二次災害の危険も伴うため、測量担当者の安全確保も重要な課題です。これらの問題を解決し、迅速かつ安全に被災地測量を行うためには、新たな技術と手法の導入が求められています。
GNSSが果たす役割とRTKの限界
近年、災害対応の現場で注目されているのがGNSS(全球測位衛星システム)の活用です。GNSSを使えば人工衛星からの信号で地上の位置を計測でき、基準点が失われた被災地でも自律的に自分の現在位置を把握できます。これは視通しの悪い地形でも測位可能で、広域に点在する被害箇所を効率よく測るのに役立ちます。また、測量データをデジタル地図やGIS上にプロットすることで、被害状況の全体像を迅速に共有でき るという利点もあります。そのため、GNSSは災害時の測量・情報収集を支える重要な技術として期待されています。
しかし、GNSSにも精度面での課題があります。一般的な単独測位のGPS/GNSSでは誤差が5~10メートル程度生じてしまい、これでは復旧工事の設計やインフラ復旧には不十分です。高精度測位を実現するため、通常はRTK(リアルタイム・キネマティック)という手法が用いられます。RTK-GNSSは基地局(基準点)と移動局の2台の受信機を使い、リアルタイムに誤差補正を行うことで数センチの測位精度を実現します。近年は携帯電話網を利用したネットワーク型RTK(GNSS基準局網を利用するVRS方式など)も普及し、専用基地局を設置しなくても高精度が得られるようになっています。
ところが、RTKの限界も災害現場では無視できません。まず、従来型のRTK測量には電源や機材の設置が必要で、被災直後の混乱時に機器を据え付けるのは難しい場合があります。特に大規模災害では広範囲で停電していたり、基準点となる既知座標が流失していたりすることもあります。また、ネットワーク型RTKの場合はインターネットや携帯電話回線への接続が前提ですが、災害で通信イ ンフラがダウンしていたり山間部で通信圏外だったりすると、補正情報を受信できず高精度測位が行えなくなります。加えて、複雑な操作や設定を必要とするRTK機器は、緊急時に必ずしも現場の誰もが使いこなせるとは限りません。こうしたRTK利用上の制約から、災害時には「高精度だけど通信や機材に依存しない測位手段」が求められてきました。
LRTKの特徴と被災地での有用性(通信圏外対応・軽量・即時性)
上記の課題を解決する新しいソリューションとして登場したのがLRTK(エルアールティーケー)です。LRTKはiPhoneに取り付けて使用する小型のRTK-GNSS受信機で、スマートフォンを高精度測位対応の万能測量機に変える画期的なデバイスです。従来のRTKシステムの精度を維持しながら、災害現場で求められる携行性や自立性を備えており、被災地測量において真価を発揮します。以下にLRTKの主な特徴と、災害対応での有用性を紹介します。
• 通信圏外でも使える高精度GNSS:LRTKは日本の準天頂衛星みちびきが提供する「CLAS」信号(センチメーター級測位補強サービス)に対応しています。そのため、携帯通信網が使えない山間部や通信障害下の被災地でも、衛星から直接配信される補強情報によりリアルタイムでセンチ級の測位が可能です。ネット環境に依存せず通信圏外対応であることは、災害時に大きな強みとなります(もちろん通信可能な状況では国土地理院の電子基準点ネットワークを用いたRTKにも接続可能で、全国どこでも安定して高精度測位を実現できます)。
• ポケットに収まる軽量・コンパクトさ:LRTKデバイス本体は重さ約165g、厚さ1cm程度しかなく、スマホに装着しても負担にならないサイズです。従来の測量機器に比べ圧倒的に軽量で、被災地の瓦礫の上を歩いたり急斜面を登ったりする現場でも携行が容易です。リュックやポケットに入れて持ち運べるため、機動力が要求される災害対応には最適です。内蔵バッテリーで約6時間動作し、モバイルバッテリーからUSB給電しながらの運用も可能なので、長時間の現場活動でも安心です。
• ワンタッチですぐ測位開始:煩雑な設定は不要で、iPhoneに装着して専用アプリを起動すれば即座に測位を開始できます。初期化にも時間がかからず、数十秒程度でセンチ精度の位置情報が得られ ます。現地に着いたらすぐ測量を開始できる即時性は、時間との勝負である災害対応において極めて重要です。専門知識がなくとも直感的に操作できるアプリ設計で、測位開始から各種計測までワンオペレーションで実行できます。
• 一人で安全に作業可能:LRTKを装着したスマホさえあれば、補助者や大型機材がなくても一人で測量作業が完結します。専用の伸縮一脚(モノポッド)にスマホを取り付ければ、測りたい地面の高さに合わせてデバイスをかざすことができ、従来2人がかりだった高さ測定も一人で簡単に行えます。アプリ内で一脚の長さ補正を設定できるため、機器の高さオフセット計算も自動化されています。危険な場所に複数人で立ち入る必要がなくなる分、安全性の向上にもつながります。
• センチメートル級の高精度測位:最大の特徴である測位精度は、水平位置で±1~2cm、垂直方向でも±3cm程度と報告されており、これは高級な測量用GNSS受信機やトータルステーションにも匹敵します。実際、LRTK Phoneで取得した座標は、一級水準のGNSS機器と比較しても差が数ミリメートル程度という検証結果も出ています。高さ方向の測位も可能なので、沈下や段差の測定、復旧工事での高さ合わせなどにも 威力を発揮します。このように高精度測位を手のひらサイズで実現したLRTKは、「精度」と「手軽さ」の両立という点で画期的です。
以上のような特徴により、LRTKは被災地での測量において従来にないメリットをもたらします。通信インフラや重機に頼らず、現場へ駆け付けてすぐに詳細なデータを取得できるため、初動対応のスピードが飛躍的に向上します。また、携帯性と容易な操作によって人手不足の状況下でも運用しやすく、災害対応力の底上げにつながります。次章では、LRTKとスマートフォンを活用することで可能になる高度な現場記録手法について見てみましょう。
測位写真・3Dスキャンによる現場把握の高度化
LRTKの導入により、単に点を測るだけでなく現場状況の記録・把握手法が飛躍的に高度化します。スマートフォンのカメラやLiDARセンサーとLRTKの高精度位置情報を組み合わせることで、被災地の状況を測位写真や3Dスキャンといったリッチなデータで記録できるようになるからです。この章では、従来にはなかった2つのデ ジタル計測手法を紹介します。
1. 測位写真による被害状況の記録 スマホのカメラで撮影する写真自体を測量データにしてしまおうというのが「測位写真」の発想です。LRTKアプリを使って写真を撮影すると、その写真ファイルには撮影地点の高精度な緯度・経度・標高と、カメラの向いていた方位(方向)がタグ付けされます。例えば、崩落現場の瓦礫を撮影すれば、「どの位置からどの方向に撮った写真か」がセンチメートル単位の精度で記録されるのです。これにより、後から写真を見直す際に「これは現場のどの地点だろう?」と迷う心配がありません。災害調査では多数の写真を撮りますが、測位写真であれば全ての画像が正確な位置情報付きのマップとして整理でき、被害状況を空間的に把握しやすくなります。また、写真にタイトルやメモを添えてクラウドにアップロードし、地図上で共有するといったことも可能です。これにより、現場担当者が撮影した被害箇所の情報を、離れた本部のスタッフが即座に確認するといったリアルタイム共有も容易になります。
2. 3D点群スキャンによる現場の立体記録 LRTKとスマートフォンのLiDAR機能を活用すれば、被災現場を3次元の点群デー タとしてスキャンすることができます。具体的には、iPhoneに取り付けたLRTKで測位を開始した状態で現場を歩き回ると、LiDARセンサーが取得する周囲の地形や構造物の点群に、LRTK由来の正確な位置座標がリアルタイムで付与されていきます。こうして得られる3D点群は、全球測位座標系で位置合わせされた高精度なものとなり、まさに現場全体を丸ごとデジタル化した記録と言えます。
従来、災害現場の立体的な把握には専門の3Dレーザースキャナーやドローン空撮(写真測量)などが必要でした。しかしLRTK対応のスマホがあれば、特別な機材がなくても3Dスキャンが可能です。例えば、大規模な斜面崩壊現場でも、担当者がスマホを片手に斜面の周囲を歩くだけで、わずか数分で崩壊地形の詳細な点群モデルを取得できます。その点群データから崩落土砂の体積を計算すれば、搬出すべき土砂の量を即座に見積もることができますし、地形の歪み具合を解析すれば二次災害の恐れがある箇所の検知も可能です。点群は非常に高密度な座標集合なので、部分的な見落としが少なく、被害状況を余すところなく記録できる点も優れています。実際にスマホやドローンで取得した点群を設計データと照合し、僅かなズレまで検出できたという報告もあります。災害対応においても、被災前の図面や地形図と現況点群を比較することで変状を詳細に特定でき、精度の高い復旧計画策定につながるでしょう。
さらに、この点群データはデジタルで保存・共有できるため、現場にいない関係者とも立体的な被害状況を共有できます。例えば、LRTKクラウドや対応ソフトウェア上で点群を閲覧し、遠隔地から被災地の3Dモデルを見ながら対策会議を行うといった使い方も可能です。2次元の地図や写真だけでは掴みづらい被害の全貌を、3Dデータなら直感的に理解できるため、意思決定のスピードと的確さが大幅に向上します。このように、LRTKを用いた測位写真や3Dスキャンは、災害現場の情報収集を飛躍的に高度化し、復旧・復興に必要な判断材料を豊富かつ正確に提供してくれるのです。
自治体・建設業での導入事例と効果
革新的なLRTKによる高精度測位ソリューションは、その有用性から全国の自治体や建設業界で徐々に導入が進み始めています。特に災害対応に関しては、先進的な自治体がいち早くLRTKを採用し、成果を上げています。
例えば福井県福井市では、災害復旧現場の測量業務にLRTK Phoneを導入しました。従来は災害のたびに測量士を現地派遣し、復旧工事に必要な地形測量や被害記録を行っていましたが、LRTK導入後は職員がスマホ測量で即座に現場の状況をデジタル計測できるようになりました。その結果、従来手法に比べて復旧作業のスピードアップとコスト低減に成功したと報告されています。被災直後の危険な斜面も遠巻きに短時間で点群計測でき、人海戦術では難しかった迅速な全容把握が可能になったことが要因です。福井市では2023年の能登半島地震の復旧活動にもLRTKを活用しており、早期復旧に寄与した実績があるとのことです。
また、国や他の自治体でもLRTKへの注目が高まっています。内閣府の準天頂衛星システム(QZSS)担当ページでLRTKが紹介され、総務省や国土交通省の防災分野で実証的に使われ始めるなど、公的機関でもその効果が認められつつあります。今後、地方自治体が策定するDX推進計画の中で、災害現場でのスマホ測量体制構築が盛り込まれるケースも出てくるでしょう。実際、福井市のDXアクションプランには「災害発生時、通信障害下でもiPhoneをRTK対応測量機として活用し、現場測量の効率化を図る」旨が明記されており、先進自治体の取り組みが他地域へ波及する可能性があります。
建設業界でもLRTKの導入事例が増え始めています。大手建設会社や測量会社の中には、従来のトータルステーションやGNSS測量機に加えてLRTKを現場に持ち込み、出来形管理や用地測量に活用している例があります。一人で測量から杭打ち(位置出し作業)までこなせる手軽さから、人手不足対策や業務効率化のツールとして注目されています。現場の熟練技術者からは「スマホでこれだけ正確に測れるとは驚きだ」「新人でもすぐ使えて助かる」といった声も上がっており、現場作業のスタンダードを変えうる技術として評価されています。特にインフラ点検や災害復旧工事の現場では、LRTKで取得した測量データをクラウド経由で本社と共有し、設計変更の協議や工程調整を迅速に行うといった運用も実現しており、業務フロー全体に好影響を与えています。
以上のように、自治体・建設業での導入事例からは、LRTKが早期復旧・コスト削減・省力化・安全性向上に寄与していることが伺えます。従来の常識を覆すスマホ測量の効果が実証されつつある今、今後さらに多くの現場でLRTKが活躍することが期待され ています。
LRTKによる災害現場での簡単測量の流れ
最後に、LRTKを使った災害現場測量が実際にどのように行われるのか、その簡単測量の流れを追ってみましょう。ここでは土砂崩れ現場を例に、従来との比較も交えながら自然な形で導入プロセスを説明します。
① 現場へ出動・準備 大雨による土砂崩れが発生したとの報せを受けた自治体職員は、急ぎ現場へ向かいます。持ち物はiPhoneとLRTKデバイス、それに必要であれば一脚や安全装備のみです。現場に到着したら、まずiPhoneの背面にLRTKを装着し電源を入れます。専用アプリを立ち上げると、自動的に衛星捕捉と初期化が始まり、約30秒ほどで「Fix」(RTKによる高精度測位の確立)状態になります。通信圏外の山間部ですが、みちびきのCLAS信号を直接受信しているため、基地局が無くてもセンチ単位の測位ができています。煩雑な設定は一切なく、ボタンを押すだけで準備完了です。
② 被災状況の測量開始 まず崩落した斜面の全体像を把握するため、職員はiPhoneを片手に現場の周囲を歩いて回ります。LRTKによってリアルタイムに補正された高精度位置情報が得られている状態で、iPhoneのLiDARセンサーとカメラを使って3Dスキャンを実施します。土砂崩れた法面の下部をなぞるように歩き、続いて崩壊土砂の山を取り囲むように移動します。すると、見る見るうちにアプリ上に現場の点群データが生成されていきます。崩壊地形の起伏や倒木の位置まで含めた精密な3Dモデルが、わずか数分のスキャンで取得できました。従来なら測量班が危険を冒して斜面上と下から何十点も観測し、一週間がかりで図面化していたような作業が、ほんの短時間で一人で完了したことになります。
次に、要所ごとの状況を詳細に記録するため測位写真を撮影します。崩壊の起点となった谷側の斜面頂部や、流出土砂が堆積した地点、被害を受けた道路の寸断箇所など、重要ポイントごとに写真を撮っていきます。写真にはそれぞれ撮影位置の座標と方角が自動記録されているため、後で見返した際に「どの場所のどちら向きの写真か」が一目瞭然です。また、アプリ上で写真にメモを付け、「〇〇地区土砂災害_現場A_東方向から」などとタイト ルを付けておけば、クラウドにアップロードした際に関係者と共有しやすくなります。併せて、被災現場の要点となる測量ポイントもいくつか観測しておきます。例えば、崩壊土砂の末端部の座標や、被災家屋があった場所の基礎高などを測定しておけば、後続の復旧設計に役立ちます。これらのポイント測量も、スマホを持って該当箇所へ行きボタンを押すだけで瞬時に記録できます。
③ データ共有と活用 ひと通り現地の測量が完了したら、集めたデータを関係者に共有します。通信圏外の場合はいったんスマホ内にオフライン保存されていますが、車で市街地に戻り次第クラウドにアップロードします(もし現場でネット接続できる環境があれば即座にアップロード可能です)。LRTKシステムでは、測位点・写真・点群データがクラウド上で統合管理され、担当者だけでなく上司や協力会社ともオンラインで情報を閲覧できます。職員がオフィスに戻る頃には、既にクラウド経由で共有された被災状況データを本部スタッフが確認し、復旧方針の検討を始められる状態になっています。点群データから崩落土砂のボリュームを計測したり、航空写真ベースの地図に高精度座標の被害箇所プロットを重ねたりと、デジタル計測データならではの解析も迅速に行えます。従来は現場からの報告を待ち、手描きの略図や口頭説明で状況を把握していた初動対応が、LRTK導入によって一変しました。測量からデータ共有までのリードタイムが飛躍的に短縮され、かつ情報の精度と量も向上したことで、的確な意思決定と迅速な復旧作業の開始が可能になったのです。
以上が、LRTKによる災害現場での簡単測量の一例です。この流れを見ても分かる通り、従来は重機材と多数の人員を要した現地測量が、今やスマホ一つで効率的かつ高度に実施できるようになりました。GNSS技術とスマートデバイスを融合したLRTKは、災害対応の現場に新たなスタンダードをもたらしつつあります。頻発化・激甚化する自然災害に対し、自治体や企業が迅速かつ的確に動けるよう、LRTKのような革新的ツールを積極的に取り入れていくことが今後ますます重要になるでしょう。高精度GNSSが支える次世代の災害対応は、被災地の早期復旧と安全確保に大きく貢献していくに違いありません。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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