水道工事や上下水道工事、土木一式工事といったインフラ分野では、設計・積算から施工管理までの幅広い業務を効率よく進めることが求められます。また、コスト縮減や工事精度の向上も常に追求すべき課題です。しかし従来の発注方式では、設計段階で作り込んだ図面が現場の実情と合わず、施工中に設計変更が相次いで手戻りによるコスト増・工期遅延が生じるケースも少なくありませんでした。こうした課題解決のアプローチとして近年注目されているのが概算数量設計です。これは設計段階でおおまかな数量を用いて計画・積算を行い、その数量にもとづいて発注した後、現場での詳細設計や測量によって最終的な数量を確定する手法で、現在、水道・下水道事業などで試行導入が進んでいます。国や自治体でもこの「概算数量設計発注方式」の導入が進められており、設計・積算業務の効率化と事業の円滑な執行に寄与すると期待されています。本記事では、まず概算数量設計の定義と仕組みを解説し、それがもたらす5つのメリットについて具体的に紹介します。
概算数量設計とは?
概算数量設計とは、工事に必要な数量を詳細設計前に概算で算出し、その概算数量をもとに工事費の積算・発注を行う設計手法です。例えば水道管の布設工事であれば、過去の工事実績から算出した標準的な単位数量に延長(管の長さ)を乗じることで配管材料の概算総量を見積もり、当初設計の数量とします。この段階では配管の詳細なルート図や材料集計表の作成を省略し、契約後に施工者(受注者)が現地の試掘調査や測量結果を踏まえて詳細な配管図面と正確な数量を確定します。言い換えれば、初期段階では図面上の標準断面や単位長あたりの数量に基づく概算で計画を立て、施工段階で実情に合わせて確定数量へと更新していく流れです。
従来方式との違いを簡単にまとめると、発注前に詳細設計図を用意せず概算数量で入札し、契約後に詳細設計を詰める点にあります。比較すると以下のようなフローになります。
• 従来の発注方式: 発注者が詳細設計図・設計数量を確定 → その数量で工事費を積算・入札 → 受注者は提示された設計図書に基づき施工
• 概算数量設計方式: 発注者が概算数量で設計金額を算出・入札 → 契約後、受注者が現場調査に基づき詳細設計図・数量を作成・確定 → その確定数量に基づき施工・契約精算
このような概算数量設計の狙いは、詳細設計図の作成にかかる手間を省くことで設計・積算業務を省力化し、工事の早期発注や円滑な施工につなげることにあります。また、施工者が自ら詳細設計に関与するため、設計と施工を一貫して進められる点も大きな特徴です。特に、水道管路の布設工事や下水道管渠工事といった線状のインフラ工事で積 極的に採用が進んでおり、今後は道路改良工事など他分野への展開も期待されています。では、概算数量設計を採用することで具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。主な5つの利点を以下に解説します。
1. コスト低減
概算数量設計の導入により、設計・積算プロセスの効率化と無駄の削減が図られ、結果として大幅なコスト縮減につながります。発注者側では、詳細図面を簡略化できるため設計業務に要する時間と人件費を削減可能です。当初の積算も概算数量に基づいて迅速に行えるため、入札・契約までのリードタイムが短縮され、事業全体のスケジュール短縮によるコストメリットも得られます。例えば詳細な設計図書の作成が不要になれば、設計委託費用を大幅に圧縮できるでしょう。
一方、受注者(施工者)側でもコスト縮減の効果が期待できます。契約後に自社で詳細な施工図を作成できるため、現場の実情に即した最適な設計・施工が可能となり、材料の過不足や手戻り作業を減らせます。例えば、設計変更や追加工事が発生した場合でも、当初から柔軟な数量調整を見込んだ契約になっているため、変更に伴う大幅なコ スト増加を抑制できます。施工段階での無駄が減れば、結果的に工事全体のコストパフォーマンスが向上するでしょう。
• 設計コストの削減: 詳細設計図や数量集計表の作成を省略でき、設計積算にかかる手間と時間を大幅に節約
• 施工コストの縮減: 現場状況に合わせた設計調整により、材料ロスや不要な作業を減らし効率的な施工を実現
• 工期短縮による間接費圧縮: プロジェクトの期間が短くなることで、現場管理費や諸経費など間接コストの削減にもつながる
2. 設計と施工の連携強化
概算数量設計では、発注者が行っていた一部の設計業務(例えば詳細な管路設計など)を受注者が担う形になります。このため、設計段階から施工者のノウハウや創意工夫が反映され、設計と施工の連携が格段に強化されます。施工者自身が詳細設計を行うことで、「施工しやすい設計」すなわち施工性の高い計画を立てやすくなり、現場での不整合や施工上の問題が起きにくくなります。
また、設計と施工を一貫して進めることでコミュニケーションロスが減り、情報共有もスムーズになります。従来は発注者→設計者→施工者という流れで伝達していた変更事項や現場条件のフィードバックが、概算数量設計方式では施工者が直接設計調整に関与するため即座に反映可能です。これにより、設計変更への素早い対応や施工段階での意思決定の迅速化が実現します。さらに、受注者が計画段階から関与することでVE(バリューエンジニアリング)提案や新工法の採用といったアイデアも出しやすく、発注者にとってもより高品質・低コストなプロジェクト実現につながる可能性があります。施工者にとっては設計業務に携わることで技術者としてのスキルアップにもつながり、企業全体の技術力向上や人材育成の観点でもメリットがあります。設計施工一貫の体制(いわゆる設計施工一括方式に近い形態)は、発注者・受注者双方にとってリスク分担が明確になるメリットもあり、トラブルの際の責任範囲がはっきりするという利点も伴います。総じて、設計と施工の垣根が低くなりチーム一丸となってプロジェクトを進められる点が、概算数量設計の大きな強みです。
3. ICT施工との親和性
デジタル技術を活用したICT施工(情報化施工)との相性が良いことも、概算数量設計の魅力です。設計段階から数量データをデジタル管理することで、施工までの様々なプロセスにICTを取り入れやすくなります。例えば概算数量の算出にCADや積算システムを用いれば、人為ミスを減らしつつ設計変更時にも数量計算を自動で更新できます。また、契約後に受注者が作成する詳細設計図もデジタルデータとして整備されるため、そのまま施工の段階でマシンコントロールや出来形管理に流用することが可能です。国土交通省が推進する*i-Construction*の追い風もあり、近年は現場でのICT活用が加速していますが、概算数量設計はそうした最新技術との親和性が高く、施工DX(デジタルトランスフォーメーション)の土台となるでしょう。
例えば、以下のようなICT技術を組み合わせることで設計・施工プロセスの一層の高度化が期待できます。
• 3次元モデル(CIM)の活用: 設計段階から構造物や地形を3Dモデル化し、数量算出や施工シミュレーションを効率化
• ドローン写真測量・レーザースキャナー: 上空や地上から高速に現地形状を計測して高精度な点群データを取得し、概算数量の精度を向上
• RTK-GNSSによる一人測量: スマートフォン搭載型の高精度GNSS受信機などを用い、従来は複数人が必要だった出来形測量を1人で迅速に実施
• マシンガイダンスの活用: デジタル設計データを重機に連動させ、自動制御で精密な掘削・盛土を行い施工時間を短縮
これらのデジタル技術を用いることで、従来は測量班が数日かけていた出来形計測を、例えばドローン空撮なら数時間、GNSS測量ならその場で短時間に完了させ、当日中に点群データや座標値を取得できるようになっています。さらに、データや図面はクラウドを介して即時に共有できるため、発注者への進捗報告や設計変更の協議も円滑になります。ICT施工と概算数量設計を組み合わせれば、調査・測量から設計、施工、検査まで一貫してデータを活用 したスマートなプロジェクト遂行が可能になります。
4. 発注者説明の明確化
概算数量設計は、発注者(工事の依頼主)への説明や発注対応を明確かつ簡素にする効果もあります。従来の詳細設計図書では専門的な図面や複雑な数量表が含まれ、発注者にとって全体像を把握するのが難しい場合もありました。一方で概算数量を用いた設計では、例えば「延長○mあたり管材○本」といった具合に、大まかな数量根拠を示して積算しているため、工事内容や費用の内訳を直感的に理解してもらいやすくなります。必要最小限の図面と数量情報で発注段階を迎えることで、発注者との打ち合わせも「どこにどれだけ施工するか」をシンプルに共有でき、合意形成がスピーディーになります。また、提出する図書自体が簡素化されるため、説明資料の作成や修正に費やす手間も削減されます。
さらに、契約後に数量が確定した段階でも、当初の概算数量との比較や差異の理由をデータで示すことで、発注者に対して明確な説明が可能です。現場で追加の掘削が必要になった場合でも、「標準断面での見込みより土量が増えたため○m³追加施工する」といった説明 を、出来形管理で得られた実測値に基づいて説得力をもって行えます。デジタル測量データや写真記録を併用すれば、口頭や書面だけでなく視覚的にも変化量を示せるため、発注者の納得感も高まるでしょう。
例えば、タブレットのAR(拡張現実)機能を使って現地に設計モデルを重ね合わせて見せることで、「どこに管を埋設するのか」「完了後の地形がどう変わるのか」といった点を発注者が直感的に理解できるようになります。図面だけでは伝わりにくい空間的な情報も、AR表示や3Dモデルの活用によって見える化でき、発注者への説明や地域住民への周知にも役立ちます。結果として、発注者対応がスムーズになり、信頼関係の向上にもつながります。
5. 現場対応力の向上
概算数量設計は、現場での突発的な事態や変更への対応力を高める効果もあります。詳細な設計を前もって固めすぎないことで、施工中に判明した状況に柔軟に対処できる余地が生まれます。例えば、地下埋設物の位置ずれや予期せぬ障害物が見つかった場合でも、施工者が即座に設計を修正し発注者と協議して進められるた め、大幅な工事中断ややり直しを防げます。契約上も当初から数量調整や設計変更を織り込んだ方式のため、現場での小規模な変更であれば契約変更の手続きも円滑に進められ、工期への影響を最小限に抑えられます。
また、現場で出来形(完成した形状・数量)を計測しながら進めるスタイルになることで、施工後の検査や出来形管理とも直結した運用になります。施工直後に自ら出来形数量を測定・集計して設計値と比較検証できるため、「やりっぱなし」ではなく常に品質を確認しながら進行できます。近年はICT技術の進歩により、ドローン測量や地上型レーザースキャン、さらにはRTK-GNSSによる高精度な測位など、現場担当者自身が短時間で出来形を把握できる手段が増えています。こうしたツールと概算数量設計を組み合わせれば、施工中の微調整や追加対応が必要になった際にも、スピーディーに定量的な判断を下せるようになります。
現場対応力が向上する具体例:
• 地中から予想外の埋設物や障害物が出てきても、その場で迅速に設計変更を検討し施工方法を修正できる
• 出来形の実測値をすぐに契約数量に反映し、追加発注や減額精算の手続きを円滑に処理できる
• 設計変更に伴う追加工事が生じても、現場で早急に対策を講じ工期遅延を最小限に抑えられる
このように、現場で起こり得る様々なイレギュラーに強く、プロジェクト全体を計画通りに完遂しやすくなる点も概算数量設計の見逃せないメリットです。従来は現場で問題が起きると設計者や発注者への確認・照会に時間を要しましたが、設計と施工が一体となった体制ではその場で判断できる事項が増え、意思決定のスピードアップによって安全かつ円滑な施工管理が実現します。なお、平時の工事のみならず災害復旧工事のような緊急時においても、現場で迅速に判断・対応できる体制は大きな強みとなるでしょう。
まとめ
概算数量設計は以上のように、コスト面(生産性向上)・技術面(精度向上)双方で大きな効果を発揮する手法です。設計と施工を一貫させ、ICTも駆使するこのアプローチを取り入れることで、水道・下水道工事をはじめ土木一式工事全般における業務効率化と精度向上が期待できます。まさに建設業の生産性向上とDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する一つのアプローチと言えるでしょう。
そして、こうしたメリットを現場で最大限に引き出すには、測量や出来形管理の作業を手軽かつ正確に行うことが鍵となります。そのための心強いツールの一つが、LRTKの「簡易測量」機能です。スマートフォンと小型測位デバイスを組み合わせたこのソリューションを使えば、専門の測量機器や複数人の人員を必要とせずに、現場担当者自ら短時間で必要な計測を行えます。
具体的には、写真測位による寸法計測、AR表示による設計データの重ね合わせ、測定データのクラウド同期、専用ポールを用いた一脚測定、さらには掘削土量などの体積算出(体積計算)まで、これ一台で対応可能です。例えば埋設管の高低差や離隔距離を写真から即座に測ったり、クラウド上に図面と出来形データを同期してチームで共有したりと、必要なときにすぐ自分たちの手で測り、すぐ共有し、すぐ次のアクションに移せます。
こうした最新のICTツールを積極的に活用することで、概算数量設計のメリットをより確実なものにできるでしょう。現場のデジタル化を一歩進めることで、これまで両立が難しかった業務効率化と精度管理の向上を同時に実現することも可能になるのです。このような取り組みが、今後の現場運営における新たなスタンダードとなっていくかもしれません。ぜひ一度その導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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