災害復旧における課題とニーズ
近年、日本各地で地震や台風、集中豪雨などによる自然災害が頻発しています。道路の寸断や河川堤防の決壊、土砂崩れなどの被害が発生した際、一刻も早いインフラの復旧が地域の安全・安心に直結します。しかし、従来の土木工事による災害復旧は、多くの人手と時間を要し、被災地の孤立解消やライフライン復旧に長期間を要するケースが少なくありません。被災規 模が大きいほど復旧作業は長期化し、その間、地域経済や住民生活にも大きな影響が及びます。このような状況から、復旧工事の効率化、すなわち作業時間の大幅短縮と省力化が強く求められています。
加えて、建設・土木業界では担い手不足が深刻化しており、大規模災害が起きた際には限られた人員で多数の復旧現場を対応しなければなりません。そこで注目されているのがドローンやICT(情報通信技術)の活用です。最新技術を駆使して調査・測量から設計、施工管理までのプロセスを効率化することで、復旧工事全体の期間を従来の半分以下に短縮することも可能になりつつあります。本記事では、災害復旧の現場にICTとドローンを導入することで各工程を迅速化・正確化し、復旧時間を50%以上短縮する具体的な方法について解説します。
従来手法の限界と遅延の原因
大規模な災害が起きると、まず現場の状況把握や被害調査を行い、その後復旧工法の検討・設計、工事の発注・施工という段階を踏みます。しかし、従来の方法では各段階で 様々なボトルネックがあり、復旧の着手が遅れがちでした。主な遅延要因として、次のような点が挙げられます。
• 調査・測量に時間がかかる: 従来は技術者が現地に赴き、トータルステーションやスタッフを使って被災物の寸法や地形を一つひとつ測定していました。広範囲の測量では数日~数週間を要することもあり、その間は本格的な復旧設計に着手できません。
• 危険箇所での作業制約: 災害現場は地盤が不安定で二次災害の危険が伴います。急斜面や増水した河川など、人が近づけない場所の情報は従来把握が難しく、安全確保のため作業を中断・延期せざるを得ない状況も生じます。
• 情報共有と意思決定の遅れ: 現場で得られた被害状況の情報や測量データが紙の図面や写真で管理されていると、関係者間で共有するのに時間がかかります。担当部局や協力企業へデータを送ったり会議で説明したりする手間が発生し、そのぶん復旧方針の決定や設計の開始が遅れてしまいます。
• 属人的な作業と人員不足: 従来の測量・設計作業は熟練者の経験と勘に依存する部分が大きく、限られた技術者に負担が集中しがちです。一度の災害で多数の箇所が被災すると、人手が足りず全ての現場を迅速に回れないという問題もありました。
これらの要因により、被災直後から工事完了までに長い時間を要していたのが従来の災害復旧でした。そこで、これらの課題を解決する手段として期待されているのがドローン・ICTの活用による業務プロセスの改革です。
ドローンによる現況把握のスピードと正確さ
被災現場の状況把握には、ドローン(無人航空機)による空撮・写真測量が極めて有効です。ドローンを上空に飛ばせば、人が立ち入れない危険な場所も含め、被害範囲全体を短時間で撮影できます。高解像度カメラを搭載したドローンで上空から連続写真を撮影し、専用のソフトウェアで解析することで、現地の詳細なオルソ写真(真上から見た実写画像)や三次元モデルを作成できます。従来、手作業で数日かかっていた測量も、ドローン空 撮と画像解析を組み合わせればわずか数時間~1日程度で完了します。例えば、ある道路復旧現場では、延べ4日間かけて行っていた地形測量がドローン導入により半日で済んだという報告があります。また別の河川工事では、起工測量に1週間以上費やしていたものがドローンで2日程度に短縮された例もあります。このように、ドローン活用によって現況把握に要する時間が大幅に圧縮され、早期の復旧計画策定につなげることができます。
ドローン測量のメリットはスピードだけではありません。上空から取得したデータは非常に高密度かつ高精度で、人力測量では得られない詳細な地形情報を提供します。数千万点にもおよぶポイントクラウド(点群)データにより、微細な地形の起伏や被災構造物の傾きまで正確に把握可能です。これにより、従来は見落としていた小規模な崩落や亀裂も検出でき、より的確な復旧工法の判断につながります。また、ドローンなら作業員を危険にさらすことなく被災状況を記録できるため、安全性の向上という観点でも優れています。実際、2019年の台風19号(東日本台風)では決壊した堤防の被害状況をドローンで空撮し、その映像がいち早く共有されて復旧作業計画の立案に役立てられました。従来はヘリコプターや人力に頼っていた初動調査も、ドローンの機動力によって迅速かつ詳細に行えるようになっています。
点群データによる変位量分析と土量把握
ドローンやレーザースキャナで取得した三次元の点群データは、災害による地形変化や構造物の変位量を定量的に分析するのに力を発揮します。点群とは、地形や物体の表面を無数の測点で表現したデジタルデータで、被災前後の地形を比較することでどこにどれだけのズレや移動が生じたかを把握できます。例えば、大規模な土砂崩れであれば、崩落前の地形データと崩落後の点群モデルを重ね合わせることで、崩落土砂の体積(土量)を正確に算出できます。従来は現地で縦横断測量を行い、おおまかな土量を推定するのに時間を費やしていましたが、デジタルな点群比較を用いれば短時間で信頼性の高い数値を得ることが可能です。
変位量の分析も同様です。地すべりが発生した斜面では、災害前に比べて地表が何メートル動いたのか、どの部分が沈下・隆起したのかといった情報を点群データから読み取れます。専用の解析ソフトでは、二つの点群モデル間の高低差を色分けしたヒートマッ プとして表示でき、変形量が一目で把握できます。これにより、被災箇所の中でも特に大きく変動したエリアや危険度の高い箇所を優先して対処するといった判断が素早く下せます。また、算出した土砂量はそのままトラックや重機の手配数量、廃材処理の計画などに直結するため、復旧工事の工程・コストを最適化する上でも重要なデータとなります。点群データの活用によって、災害による地形変化を定量的かつ直感的に把握できるようになり、従来にないスピード感で復旧方針の立案が可能になります。
写真測量から設計・発注へ即時活用する流れ
ドローンによる写真測量で得られたオルソ画像や点群データは、復旧工事の設計フェーズに即座に活用できます。従来、被災現場の測量図や断面図を作成してから設計者が工法検討を行っていましたが、写真測量の成果物を用いればその手間を大幅に省略できます。具体的には、ドローンで取得した現況の3Dモデル上で直接、復旧構造物の配置検討や寸法計画を行えるのです。
例えば、崩落した斜 面に擁壁を施工する場合でも、点群データから任意の断面を切り出して被災前後の地形を比較したり、必要な擁壁高や基礎の位置を即座に割り出したりできます。設計担当者はオフィスのPC上で3Dモデルを見ながら復旧案を検討し、その場で工事数量(土量や必要資材量)の算出まで行えます。これまでであれば現場測量→図面化→設計立案→数量計算という順序で数日かかっていたプロセスが、写真測量データの活用によりほぼワンストップで完結するイメージです。
さらに、このデジタルデータは工事発注の段階でも有用です。発注者である自治体や管理者は、3Dモデルやオルソ画像をそのまま業者への説明資料として提供できるため、入札参加者は現場の状況を正確に把握した上で見積もりや施工計画を立てられます。場合によっては、現場見学に行かずともドローンデータから必要情報を得て応札できるケースも出てきています。これは緊急工事で時間が限られる状況下では大きなメリットです。受注者(施工業者)にとっても、早い段階で詳細な現況データと設計条件が共有されることで、着工までの準備を効率良く進められます。このように写真測量から得たデータを設計・発注プロセスに直結させることで、無駄なタイムラグを無くし、災害復旧事業の全体期間を短縮することが可能になります。
クラウドでの進捗・関係者間共有
ICTを活用した災害復旧では、データのクラウド共有が円滑な情報伝達と効率的な進捗管理の要となります。従来は、測量データや写真をUSBメモリで持ち帰って社内サーバーに保存したり、紙の図面を関係者に配布したりしていましたが、クラウドを使えば現場から直接データをアップロードし即座に共有することができます。例えば、ドローンで撮影・生成した3Dモデルやオルソ画像をクラウド上のプロジェクトフォルダに保存すれば、離れたオフィスにいる設計担当者や発注者もその日のうちにデータを閲覧・検討できます。設計修正が生じた場合も、最新データを現場と事務所間でリアルタイムにやり取りできるため、現地の対応を迅速に調整できます。
また、クラウドサービス上で進捗状況を可視化し、関係者全員で共有する取り組みも効果的です。復旧工事のスケジュールや各工程の達成状況、日々の現場写真・ドローン空撮画像などをダッシュボードに集約すれば、発注者・施工者・設計者間で共通の最新情報を見ながら協議できます。これにより、問題発生時の認識齟齬が減り、対応策の決定もスピーディーになります。特に災害復旧では複数の機関(国・県・市町村やライフライン事業者など)が関与するため、クラウド上でデータや報告を一元管理することで連携ミスを防ぎ、スムーズな役割分担が可能となります。
さらに、クラウド活用はデータ処理の効率化にも寄与します。重い点群データの解析や写真からの3Dモデル生成といった計算負荷の大きい処理も、クラウド上の高性能サーバーで実行すれば短時間で成果を得られます。現場のパソコン環境に左右されずに最新技術を活用できる点もメリットです。クラウドに蓄積した災害記録データは将来の防災計画や維持管理にも役立ちます。例えば、過去の災害点群データを参照して地形の変遷を分析したり、別の地域の事例と比較検討するといったことも容易になります。以上のように、クラウドを介したオープンな情報共有は、復旧工事の効率化と関係者間のスムーズな協働に不可欠な要素となっています。
自治体・施工業者の事例(具体的な活用例)
実際にドローンやICTを駆使して災害復旧を効率化した事例も各地で増えてきました。自治体の取り組みとしては、被災直後の初動対応にドローンを活用するケースが顕著です。ある地方自治体では、大規模な土砂崩れ現場で従来は人力測量に数日を要していた被害範囲の把握を、ドローン空撮によってその日のうちに完了させ、素早い復旧計画の立案につなげました。また別の県では、豪雨で崩落した林道の状況をドローンのオルソ画像で詳細に記録し、早期に応急復旧工事を発注できた例があります。自治体が率先してICTを導入することで、地域の建設会社にもデジタル技術活用の波及効果が生まれ、「災害時はまずドローンで現場を確認」という新たな標準が形成されつつあります。
施工業者の事例では、中小の土木施工会社が社内にICTチームを立ち上げ、ドローン操縦や3Dデータ処理の研修を行う動きが出てきています。東京都内のある建設会社では、国交省の提唱するi-Constructionにいち早く対応し、自社でドローン測量やICT建機を導入しました。その結果、測量作業は従来比で8割近く短縮され、危険な斜面に人が入らずに済むことで安全性も飛躍的に向上しました。同社は復旧工事でも、崩壊箇所の3Dモデルを用いて迅速に土工計画を策定し、ICT建機による丁張りレス施工で工期短縮と省人化を実現しています。このような取り組みは企業の競争力強化にもつながり 、「短期間で安全に仕上げてくれる業者」として発注者から高い評価を得るようになったそうです。
現場で活かすLRTKによる簡易測量(基準点測量、出来形確認、位置記録)
ドローンやクラウドによる上流工程の効率化に加え、実際の施工現場でも新技術を使った簡易測量が威力を発揮しています。その代表格が、スマートフォンとGNSS(全球測位衛星システム)を組み合わせたRTK測量技術、通称「LRTK」です。RTK(Real Time Kinematic)とは、衛星からの位置情報に差分補正を加えることで、数センチの誤差まで測位精度を高める手法です。従来は数百万円の高精度GNSS機器が必要でしたが、近年はスマホに小型のRTK受信機を装着したり、スマホ内蔵の高性能GNSSチップを用いたりすることで、スマホがそのまま高精度測量機として使えるようになりました。
LRTKを活用すれば、現場での基準点測量や出来形(完成形状)の確認、位置情報の記録が飛躍的に効率化されます。例えば、従来は2人1組で半日かけて行っていた工事基準点の設置も、スマホと補正情報 さえあれば1人で短時間に済ませることができます。取得した基準点座標はすぐにクラウド経由で関係者と共有できるため、測量成果を待つために工事を中断するといったタイムロスも発生しません。また、スマホを用いたRTK測量は直感的なアプリ操作で誰でも扱いやすく、特別な資格を持たない現場スタッフでも一定の精度で測定できます。これにより、測量士の手配が難しい緊急時でも現場チームだけで必要最低限の測量を自主的に実施できるようになります。
出来形確認の場面でもLRTKは有用です。盛土や法面整形が設計通りに施工できているか、スマホでポイントごとの高さを計測してその場で確認できます。必要に応じて、スマホ上で設計データと実測点を比較し、ずれがないかチェックすることも可能です。従来は工事終了後に丁張(杭と水糸による基準)を基に確認測量をしていた作業がリアルタイムに行えるため、手戻りや材料の過不足調整を早期に行えます。さらにスマホはカメラを内蔵しているため、測点の写真を位置情報付きで保存でき、例えば埋設物の発見箇所の記録や経過観察が必要な亀裂の位置記録などにも役立ちます。LRTKによる簡易測量の導入で、現場における小回りの利く測定と即時の情報共有が可能となり、復旧工事の現場対応力が格段に高まります。
実装ステップとコスト感
以上のようなドローン・ICT活用を現場に導入するには、段階的な計画と投資が必要ですが、適切に進めれば大きな効果が得られます。一般的な実装ステップとおおよそのコスト感は次のとおりです。
• ニーズの整理と計画立案: まず、自社(自組織)の業務プロセスにおいてどの部分をデジタル化・効率化したいかを洗い出します。被災状況の記録、設計データの共有、施工管理などニーズを整理し、ICT導入計画を策定します。
• 技術の選定と機材準備: 利用するICT技術と機材を決定します。具体的には、ドローン本体(空撮カメラ付き機体や必要に応じてLiDAR搭載機)、写真測量ソフトウェア(もしくはクラウドサービス)、3次元設計CADやCIMツール、クラウド共有プラットフォーム、LRTKデバイス(スマホ用GNSS受信機)などです。あわせてドローン飛行許可や電波利用申請など法規制の対応も事前に準備します。
• 人材育成と体制構築: 機材を扱うオペレーターやデータ解析を行う人材の育成を行います。ドローン操縦は国家資格化されたため、社内で有資格者を確保するか、外部のプロと連携しましょう。また、ICT活用を推進する専任チームや担当者を置き、現場と本社・設計部門との橋渡し役を担う体制を整備します。
• 試行導入(パイロットプロジェクト): いきなり本番の災害現場で使うのではなく、小規模な現場や過去のデータを用いて試行的に運用します。ドローンで撮影からデータ処理、クラウド共有まで一連の流れをテストし、問題点や現場での運用上の課題を洗い出します。社内研修やデモンストレーションを実施して、現場スタッフに新技術への理解を深めてもらうことも重要です。
• 本格導入と標準化: 試行で得られた知見をもとに、実際の災害復旧業務にICTを組み込んでいきます。ドローンによる初動調査や、3Dデータ提出を入札要件に加えるなど、運用ルールを社内外で標準化します。実案件での活用を通じて、効果(時間短縮、安全性向上など)を検証し、さらに改善点があればフィードバックして運用フローを磨き上げます。
コスト面については、導入する機材やサービスによって幅があります。参考までに、一般的な価格帯を挙げると、産業用ドローン一式は機体やカメラ、バッテリー・周辺機器を含めて数十万~数百万円程度が目安です。写真測量用のソフトウェアは買い切り型で数十万円から、クラウドサービス利用なら月額数万円程度で始められるものもあります。LRTK用のスマホ接続GNSS受信機も十万円前後で市販されており、高価な専用機器を揃えるより低コストです。初期投資こそ必要ですが、工期短縮による人件費削減や、早期復旧による社会的損失の軽減効果を考えれば十分に元が取れるケースが多いでしょう。また、国や自治体によるICT活用促進策や補助金制度が利用できる場合もあるため、そうした支援策も活用しながら段階的に導入を進めるのがおすすめです。
今後の展望(AI連携、遠隔支援、統合ダッシュボードなど)
ICTとデジタル技術による災害復旧支援は日進月歩で進化しており、将来的にはさらに高度な活用が見込まれます。最後に、今後期待される展望について触れておきます。
• AIによる被災判定の自動化: 今後は、ドローンで取得した画像や点群データをAI(人工知能)が解析し、自動で被害箇所の認識や危険度判定を行う技術が進むと考えられます。既に研究段階では、複数時期の点群データから崩壊斜面の動きをAIが検知したり、建物の損壊度合いを画像認識で分類したりする試みが始まっています。AIによって被害報告書のドラフトや復旧優先度のマップが即座に作成できれば、初動対応のスピードは飛躍的に向上するでしょう。
• 遠隔支援・無人施工: ドローンで構築した「バーチャル現場」やライブ映像を活用し、遠隔地から専門家が支援・指示を行う取り組みも拡大していきます。例えば、本部にいる技術者がVRゴーグルを通じて被災現場の3D映像を確認しながら、現地スタッフに的確な助言を行うといったことが可能になります。また、通信環境の整備やロボット技術の発展により、災害現場での重機の遠隔操作や自動施工も一般化してくるでしょう。危険な崩落現場に人が立ち入らずとも、遠隔操縦の建機で土砂の除去や応急工事を行えるようになれば、作業の安全性と 速効性がさらに高まります。
• 統合ダッシュボードと防災プラットフォーム: 複数の情報源を一元管理できる統合ダッシュボードの活用も進む見通しです。災害対応では、ドローンから得られる地形データ、現場の作業進捗、資機材・人員の配置状況、さらには気象情報や避難状況など、実に多様な情報を扱います。将来はこれらを統合した防災情報プラットフォーム上で、関係機関がリアルタイムにデータ共有・意思決定できる仕組みが整備されるでしょう。画面上で被災地の3D地図と工事ダッシュボードを重ね合わせ、全員が同じ状況認識を持って復旧作業を指揮・協力できれば、従来以上に無駄のない迅速な対応が可能になるはずです。
このように、ICTによる土木工事の効率化と高度化は、災害復旧分野でも着実に進んでいます。技術の発展とともに、人間では成し得なかったスピードと精度で復旧を進めることが現実のものとなりつつあります。被災地の一日も早い復旧・復興を実現するために、ドローンやAIをはじめとした先端技術を積極的に取り入れていくことが、これからの土木・防災のスタンダードになっていくでしょう。
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