電線共同溝工事における施工課題と精度管理の重要性
道路の無電柱化(電線類の地中埋設)を進める電線共同溝工事では、多くの関係者や既設インフラとの調整が必要で、施工は高度な精度管理を伴います。1980年代から無電柱化は計画的に取り組まれてきたものの、国内にはなお約3,600万本もの電柱が残存し、その数は減るどころか増加しているのが現状です。電線共同溝の新設には複数の電力・通信ケ ーブルを収容する長大な管路や大型のプレキャスト槽(CCボックス)の設置が伴い、既設の上下水道管やガス管など地下埋設物が錯綜する限られた道路空間での精密な施工が求められます。誤った位置に掘削や埋設を行えば、隣接する埋設物を破損する恐れや、マンホール部材が設計通り接続できない不具合につながりかねません。そのため、地下に何がどこに埋まっているかを正確に把握し、施工誤差を最小化することが極めて重要です。例えば従来は、図面に載っていない埋設物を探し出すため多数の試掘(試験掘り)を行う必要がありました。しかし近年ではGNSS(衛星測位)対応の探査機で埋設物位置をマッピングし、試掘箇所を削減できるようになっています。ある実工事では当初10箇所の試掘を予定していたところ、この高精度探査により4箇所で済み、約3日間の工程短縮と200万円のコスト削減を達成しました。このように、電線共同溝工事では安全かつ効率的に進めるために、事前調査から施工まで一貫して位置の正確さを追求する精度管理が不可欠です。
従来の測量・位置出し方法とその限界
従来の土木測量や位置出し作業は手間と人力に頼るもので、電線共同溝工事も例外ではありません。一般的には測量士と補助者の二人一組でトータルステーション等の機器を操作し、現場に杭や丁張(高さ・位置基準となる板)を設置していきます。1点の位置出しにも巻尺で基準点から距離を取り、合図を送りながら杭を打つといった煩雑な手順が必要で、測点が多ければ丸一日かかることも珍しくありません。夜間施工の多い道路工事では、交通規制下で十分な丁張を先行設置できず苦労する場合もあります。また人力作業ゆえのヒューマンエラーは避けられず、図面の読み違いや記録ミスにより誤った位置に杭を打ってしまえば、後でやり直しや施工ミスにつながるリスクもありました。精度面でも課題は大きく、安価なハンディGPSでは数メートルの誤差が生じるため精密な位置出しには使えず、結局は数百万円の高価な測量機器やベテラン技術者の経験に頼るしかないのが実情でした。さらに電線共同溝工事では工程ごとに出来形(できあがった構造)の寸法を測り写真を撮る必要がありますが、従来は作業を一時中断して複数人がかりで計測し記録するといった非効率な方法に頼っていました。このように、従来の測量・位置出し手法は属人的で時間と労力を要し、作業の遅延や精度低下の一因となっていたのです。
ARと高精度測位(RTK-GNSS)を組み合わせ た新しい位置誘導の仕組み
近年、この状況を一変させる技術として高精度GNSSとAR(Augmented Reality、拡張現実)の組み合わせが注目を集めています。GNSSはGPSや日本の準天頂衛星みちびき等、複数衛星からの電波を受信して自分の位置を測る技術で、特にRTK方式を用いれば誤差数センチの測位が可能です。AR技術はスマートフォンやタブレットのカメラ映像に3次元の設計データや注記を重ねて表示するもので、現実空間上に仮想のガイドやモデルをリアルタイムに描写できます。この二つを組み合わせることで、工事現場での全く新しい位置誘導の仕組みが実現します。
具体的には、まず施工設計図に基づく構造物や通線ルートの座標データをスマホの専用アプリに取り込みます。スマホに装着した小型RTK-GNSS受信機が常にセンチメートル級の現在座標を測定し続け、アプリ上で「目標点まで東に5cm・北に10cm」など作業者の進むべき方向と距離をリアルタイム表示します。作業者は画面の指示通りに数歩動くだけで、狙った位置にぴたりと到達できるのです。従来は数人がかりだった位置出し作業が、スマホ片手に一人で完結するようになります。さらにカメラ映像をARモードに切り替えれば、現地の映像に「ここに杭を打つ」「この位置まで掘削」といった仮想オブジェクトが重ね表示され、直感的に作業ポイントを把握できます。熟練の勘や高度な測量知識がなくとも、画面に表示されたガイドに従うだけで高精度の杭打ち・墨出しが可能となり、測点ミスや打ち直しを大幅削減できます。このGNSS×ARによる自動誘導の精度は、水平数cm・垂直数cm程度とトータルステーション等に匹敵し、視通しが悪い場所でも機器の据え直しなしに連続測定できるなど作業効率も高いのが利点です。まさにスマホ測量とも呼ぶべき新たなワークフローが現場に革新をもたらしており、これは国土交通省が推進するi-Construction施策とも軌を一にしています。実際、2023年度からは電線共同溝工事へのICT施工(3次元設計データや出来形計測の活用)の試行も始まっており、業界全体で3次元データを活用した現場DXが加速しつつあります。
スマホ+GNSS端末によるAR表示でできること(通線位置の仮想表示、仮設構造との干渉チェック)
スマートフォンとGNSS端末を使ったAR表示により、現場では設計上の位置・構造物をその場で仮想的に“可視化”できます。例えば 電線共同溝の管路(ケーブル通線ルート)をARで地面上にライン表示すれば、掘削前にどこを掘ってどこに管を通すか一目で理解できます。電力系・通信系合わせて10条以上の管を同時に埋設する電線共同溝工事では、既設埋設物を避けつつ縦横方向にカーブさせて配管するような複雑な場面も多く、ベテラン作業員でも施工後の配管状況を頭の中でイメージしにくい場合があります。ARで新設管路と既設埋設管を3D表示し事前に確認することで、経験の浅い作業員でも配管経路を直感的に把握しやすくなり、その結果配管作業の進捗が向上したという報告もあります。このようにARは、図面だけでは伝わりにくい完成イメージを現地で共有できるため、チーム全員の認識合わせと施工計画の最適化に大きな効果を発揮します。
また、ARは仮設構造物や周囲設備との干渉チェックにも有用です。設計データに基づき仮設の山留め材や既存構造物のモデルをAR上に表示すれば、新旧構造のクリアランス(隙間)を事前に確認できます。もし計画中のルートが仮設支保工や他の埋設物と交差・接触する恐れがあれば、AR上で即座に視認できるため施工前に対策を講じることができます。実際にBIM/CIMモデルとARを用いて、狭い現場でのクレーン作業時に上空の架空線との干渉をチェックし、安全性向上に役立て た例もあります。さらに、安全管理の面では、ARで地下埋設物の位置を地表に可視化しながら重機掘削を行うことで、水道管やガス管の誤損事故を未然に防ぐことが可能です。例えば作業前にタブレットやARグラスをかざせば、地中に眠る既設管が透けて見えるようになり、オペレーターは注意すべき地点がひと目で分かります。このようにスマホ+GNSS+ARによる可視化は、施工の事前検討から実作業の誘導、そして安全確認まで幅広く活用でき、電線共同溝工事の現場をスマートにする強力なツールとなっています。
位置誘導とAR確認を組み合わせた省人化と品質向上の効果
高精度GNSSによる位置誘導とARによる目視確認を組み合わせることで、施工の省人化と品質向上が同時に実現します。まず省人化の効果として、これまで複数人が必要だった位置出し作業が一人でできるようになるため、人手不足の現場でも効率良く進められます。実際、新潟県内のある電線共同溝工事ではワンマン測量システムを導入し丁張レス施工(丁張を設置せずに施工)を達成、1日の施工延長が従来の4mから6mに向上しました。慣れてきた後半には下請けの職長自らが装置を使いこなし、技術者 (測量の専門担当)いらずで施工を続行できたと報告されています。また、出来形測定の場面でも劇的な効率化が見られます。従来は2〜4名で測量機やスケールを使い、写真撮影も含めて10〜15分かかっていた各工程の出来形計測が、iPhoneのLiDARスキャナを用いた新手法では1人で約3分程度で完了しています。このような作業短縮により施工全体の生産性が大幅に向上し、ひと現場あたりの作業負荷や必要人員を減らすことができています。
一方、品質向上の効果も見逃せません。ARのガイドに従って作業すれば人為ミスが大きく減り、結果として出来形のばらつきや施工不良の防止につながります。熟練者の勘に頼らずとも常に設計通りの位置で施工できるため、再施工や手直しの発生率も下がります。さらにARによるその場確認で、施工中に計画と現状のずれを即座に発見・修正できることも品質確保に寄与します。例えば配管の勾配や深さが設計と異なっていれば、後述する出来形管理の段階を待つまでもなく、作業中にAR表示で違和感として気付けるでしょう。従来は完成後に測量して図面と照合しミスに気付くケースもありましたが、ARを併用すれば手戻りの防止が可能になります。このように、高精度な位置誘導とARによる確認を組み合わせることで、人員削減による効率アップと品質管理の強化を両立できるのです。
出来形測量や記録との連携:設計と現場のギャップをその場で可視化
電線共同溝工事では出来形(完成形状)の確認や記録も極めて重要ですが、ARとRTK-GNSSの導入によってそのプロセスもリアルタイムかつ高度なものに変わりつつあります。従来は各工程の終わりに作業を止め、スタッフがメジャーで寸法を測り、書き留めた数値をもとに完成形が設計と合っているか後日検証するといった手順でした。これに対し現在では、スマホやタブレットで現場をスキャンして点群データ(3次元測定データ)を取得し、即座に設計3Dモデルと比較して出来形を評価できるシステムが登場しています。例えばiPhone/iPadのLiDAR機能で掘削後の溝をぐるりと一周スキャンすれば、公共座標系に合致した現場全体の高精度点群モデルがわずか数分で得られます。そのデータから自動的に掘削幅や深さ、管路埋設位置などが抽出され、あらかじめ用意したBIM/CIM設計モデルとほぼリアルタイムに照合できます。これにより、数名がかりでメジャーと水準を使っていた出来形計測・書類作成作業に比べて生産性が飛躍的に向上したことが確認されています。
電線共同溝の埋設管路部を埋戻した直後、施工管理技術者がスマートフォンのLiDARで掘削部周囲をスキャンしている様子(左)。すると公共座標系上に現場全体の高密度点群データ(右)が生成され、即座に設計モデルとの出来形比較が可能になります。点群データに含まれる膨大な情報から、掘削の幅・深さや管路の勾配など所要の寸法を自動抽出し、設計値との誤差を検出するといった解析も自動化されています。ARによる出来形シミュレーション機能を用いれば、こうした点群計測結果と設計3Dモデルを現地で重ね合わせて表示し、人間の目でも設計と現場のギャップを直感的に把握できます。例えば設置した管の位置・高さが設計とずれていれば、AR上で仮想の管が実際の地面から浮いて見えたり沈み込んで見えたりするため、その場ですぐに補正すべき箇所が分かります。従来は工事完了後に別途測量して図面上で整合性を確認し、不具合があれば是正工事…という流れでした。しかしARとデジタル計測を組み合わせることで、施工中に即検証・即是正が行えるため、後戻りや品質低下を防ぎながら工期短縮が図れるのです。
さらに、RTK-GNSS連携のスマホで撮影した写真には緯度・経度・高さとカメラ方位が自動タグ付けされるため、出来形の写真記録も「どの地点のどの向きを撮影し たか」が確実に残ります。こうした座標写真はクラウド上のデータベース(デジタル台帳)に即時アップロードでき、オフィスのPCから現場の状況を地図上で確認することも容易です。紙の写真帳では後から場所の特定に苦労していたものが、地図上のプロットとひも付いた写真で明快に管理できるようになります。測量データや点群も含め、現場で取得された全ての情報がクラウドに集約・共有されるため、出来形図書の作成や発注者への報告もスムーズです。設計値と出来形とのわずかな差異までその場であぶり出し記録できる――このレベルの高度な出来形管理が、スマホ+RTK-GNSS+ARの組み合わせにより実現しつつあります。
ARとRTKによる維持管理フェーズへの波及効果
高精度な位置情報とARによる現場可視化は、施工後の維持管理業務にも大きな波及効果をもたらします。施工時に取得された精密な3Dデータや座標情報は、そのまま維持管理用のデジタル台帳として資産化され、将来の点検・改修に役立てることができます。例えば、工事完了後に道路を点検する際、埋設された電線共同溝の位置を現地で正確に把握するのは容易ではありません。しかしタブレットやスマホのAR機能を使えば、地中の管路を地表に 投影表示できるため、どこに共同溝が走っているか一目瞭然です。これにより、仮に道路を掘り返して別工事を行う場合でも、誤って共同溝や他の埋設物を破損するといったリスクを低減できます。また定期点検業務でも、GNSSとARを活用したスマート点検が可能です。従来、インフラ点検では担当者が現場で気付いた異常をメモと写真で記録し、後日図面に場所を書き込む方法が一般的でしたが、この方法では写真に正確な位置や向きの情報が残らず、後で「どこを撮ったものか」が他の人には判別しにくい問題がありました。一方、位置タグ付きの写真であれば撮影地点が緯度経度や地図上の点で示されるため、誰でも撮影箇所を特定可能です。さらにARを使えば、過去に撮影した写真の位置が現実空間にアイコン表示されるので、点検時にスマホ画面越しに前回と同じポイントに立ち、同じアングルで新たな写真を撮影することも容易です。例えば共同溝マンホール内部のクラック(ひび割れ)点検であれば、前回撮影した位置に合わせて再度写真を撮ることで、ひび割れの進展具合を一目で比較できます。高精度測位による一貫性のおかげで毎回全く同じ構図・距離で記録でき、経年変化の定量的な追跡が可能になるわけです。また必要に応じて、スマホのLiDARで構造物表面をスキャンし点群データとして保存しておけば、形状の変位や損傷部位を後から3Dで詳しく分析することもできます。こうした点検データはすべて現場からクラウドにアップロードされ、オフィスにいながら即座に共有・閲覧できるため、報告書作成や関係者間の情報伝達も円滑です。このようにAR+RTK技術を維持管理フェーズに応用すれば、地下構造物の所在把握から定期点検記録までプロセス全体がスマート化され、見落とし防止や記録精度の向上に大きく寄与するでしょう。
スマホRTK+AR誘導+点群取得の融合:LRTKが拓く現場DXの未来
スマートフォンに取り付ける超小型RTK-GNSS受信機「LRTK Phone」。重量約150g・厚さ1.3cmほどのポケットサイズの端末(写真の青いデバイス部分)を装着するだけで、スマホがセンチメートル級精度の測位端末に早変わりします。このようなスマホ連携型のRTKソリューションにより、これまで見てきたスマホ+RTK+ARを駆使した施工DXが、誰にでも手軽に実践できる時代が到来しつつあります。LRTKのようなシステムでは、スマホ一台で測量(単点座標計測)から点群取得、墨出し(位置出し)やARによる施工シミュレーションまで幅広い機能を利用可能です。取得したデータを使って距離・面積・体積計算を行うこともでき、現場で得た測位情報は即座にクラウド送信して事務所と共有するといった連携もシームレスに行えます。専用機器が不要になり操作も平易なため、現 場担当者一人ひとりが自分専用の高精度測位ツールを使って自律的に作業できる「一人一台測量」のコンセプトも現実味を帯びてきました。実際、スマホと超小型GNSS端末さえあればいつでもどこでも測位・計測・AR表示ができる手軽さから、現場の測量士だけでなく施工管理技術者や作業員自らが測量・検測を行うケースも増えてきています。電線共同溝工事のように精密な施工と記録が要求されるインフラ分野でこそ、これらスマホRTK+AR技術のメリットは大きいと言えます。本文で述べてきたような位置誘導の効率化、出来形管理の高度化、維持管理への応用まで、すべてを単一のデバイスで賄えるソリューションが現れたことで、現場DXのハードルは格段に下がりました。
今や、スマートフォンを中心に据えた高精度測位・AR活用ワークフローが現場の新常識になりつつあります。電線共同溝工事に限らず、あらゆる土木施工で効率アップと品質確保の両立を図る鍵として、スマホRTK+ARの技術は今後ますます普及していくでしょう。最新のデジタル技術を積極的に取り入れることで、将来的には「スマホ1台で測量から施工管理まで完結する」世界が本当に実現するかもしれません。電線共同溝工事におけるAR活用は、施工現場のDXを牽引する一例として、これからのインフラ整備と維持管理の在り方を大きく変えていくことが期待されていま す。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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