目次
• ダム点検の現状と課題
• ドローンと点群技術とは何か
• 足場不要を可能にする5つの方法
• 実務での導入ポイント
• 高精度GNSS活用の展望
• まとめ
ダム点検の現状と課題
ダムは巨大なコンクリート構造物であり、長年の運用でひび割れや漏水、表面の劣化などが発生する可能性があります。そのため日本では河川法に基づき、ダム管理者に定期的な堤体や洪水吐などの点検が義務付けられており、構造物の健全性を確認する必要があります。しかし、ダムの点検作業には従来から多くの課題が伴っていました。堤体の高さが100mを超えるような場合、上部から基礎部分まで人が近接目視するために足場を設置するだけでも数週間を要することがあります。また、堤体表面の面積は数万平方メートルにも及ぶため、広大な範囲を限られた期間内にくまなくチェックするのは容易ではありません。さらに、貯水池側の壁面を調べるには船舶を出して水上に仮設足場を組む必要があり、安全確保のためのコストも非常に高額になります。
このような高所作業や水上作業には作業員に大きな危険が伴い、墜落事故のリスクも無視できません。また、大規模な足場設置や特殊作業車の手配には莫大な費用がかかるためコスト面での負担も大きく、長期間の工事に伴うダウンタイムも発生します。さらに、熟練技術者が直接目視と打音などで調査する従来手法では、技術者の高齢化や人手不足が進む中で安定した点検体制を維持することも課題となっていました。こうした背景から、足場を使わずに安全かつ効率的にダムを点検できる新しい技術の登場が強く求められていたのです。
ドローンと点群技術とは何か
そこで近年注目されているのが、ドローン(無人航空機)を活用した点検手法と3次元の点群データ技術です。ドローンによる点検とは、カメラや各種センサーを搭載した小型の無人飛行機を用いて構造物の状態を遠隔から観察・記録する方法を指します。人間が立ち入れない高所や危険箇所にもドローンなら安全に接近でき、写真や動画、センサーデータを取得することが可能です。特に橋梁やダムのように大規模なインフラ点検で導入が進んでおり、老朽化する構造物の維持管理や人手不足といった課題に対するソリューションとして期待されています。
一方、点群技術とは、物体や地形の形状を多数の点の集合として三次元的に表現する技術です。ドローンで空撮した多数の写真をコンピュータ解析することにより、対象物の表面形状を構成する何百万もの点を求めて3Dモデル化できます。このような写真測量では、複数の画像に写った共通の特徴点をソフトウェアが照合し、三角測量の原理で各点の位置座標を計算します。その結果得られる点群データには各点に色情報も付与されるため、まるで実物を見ているかのように構造物を忠実に再現した精密な3Dモデルが構築できるのです。
写真測量による点群生成の利点は、何と言ってもその手軽さとコスト効率です。高価なレーザースキャナーを使わなくても、手持ちのカメラとパソコン、あるいはクラウドサービスで高精細な3Dデータを作成できます。ドローンを使えば広範囲を短時間で空撮できるため、地上からでは難しい山間部のダムや高所の構造物も安全にデータ化可能です。近年のソフトウェア進化やハードウェア性能向上により、数百枚を超える写真データでも高速に処理でき、条件が整えばミリ単位の精度を持つ点群モデルを生成することも可能になっています。
なお、ドローンを用いた写真測量はレーザー計測とも補完関係にあります。写真だけでは点群を取得しにくい樹木下の地形や構造物の陰になった部分ではUAV搭載のレーザースキャナーが有効であり、一方で写真測量はカラー情報付きの高密度点群データを低コストで取得するのが得意です。現場の状況に応じて写真測量とレーザ測量を使い分けることで、効率と精度の両立が図れるのが現在のドローン測量のトレンドと言えるでしょう。
このように、ドローンと点群技術を組み合わせることでダムの現況をデジタルな3Dモデルとして丸ごと記録・分析できるようになりました。次章では、この手法が足場を使わないダム点検にもたらす具体的な効果について、安全性・コスト・精度・データ共有・作業効率の5つの観点から詳しく見ていきます。
足場不要を可能にする5つの方法
ドローン写真測量による3D点群化は、これまで当たり前だった「足場を組んでの近接目視」というダム点検の在り方を大きく変えつつあります。ここでは、足場を使わない点検を可能にする上でドローン点群技術がもたらす主なメリットを5つの観点から解説します。それ ぞれ安全性、コスト、精度、データ共有、作業効率の面で、従来手法と比較した優れた点を見てみましょう。
安全性の向上という観点では、ドローン点検により作業員が高所のダム斜面など危険箇所に赴く必要が大幅に減ります。足場や吊り橋状のゴンドラを用いた高所作業そのものが不要になるため、墜落・転落事故のリスクを実質ゼロにまで低減できます。不安定な崖や水上での作業を機械に置き換えることで、点検従事者の安全が飛躍的に向上します。特別な高所作業の資格や高度なロープ技術も必要なくなり、誰もが安全にインフラ点検に取り組める環境を実現できます。
コスト削減の観点では、ドローンの活用によって仮設足場や高所作業車が不要になれば、それらの設置・撤去にかかる費用を丸ごと削減できます。実際、ドローン点検に置き換えることで大規模な足場設置費用が不要となり、点検コストを従来比で大幅に削減した例も報告されています。また、重機や作業員を長期間拘束する必要がなくなるため、人件費や機材レンタル費も大幅に圧縮できます。結果として、限られた予算内でも点検の実施頻度を上げやすくなり、ダムの長期的な保全コストの低減につながります。足場組立のために設備を停止したり準備期間を設けたりする必要もなくなるため 、そうした間接コストの削減効果も見逃せません。
精度の向上という点でも、ドローンで取得した高密度な点群データにより、ダムの現況をミリ単位まで精密に記録することが可能です。微細なひび割れやコンクリート表面のわずかな膨張・変形なども3Dモデル上で正確に測定でき、従来の目視では見落としていた異常の早期発見につながります。例えば肉眼では判別しにくい離れた高所のクラックも、ドローン撮影画像から生成した点群であればその幅や長さをデジタルに計測できます。定期的に同じ箇所の点群データを取得して比較すれば、経年変化や変位を定量的にモニタリングでき、ダムの健全性評価や補修計画の立案に役立ちます。さらに、写真測量で得られた点群は各点にカラー情報が含まれるため、コンクリート表面の変色やひび割れ周辺の水染み、藻の繁茂状況なども一目で把握できます。色付きの詳細モデルにより異常箇所の特定や劣化度合いの評価が直感的に行える点も、大きなメリットです。
データ共有の容易化も重要です。ドローンで取得した3次元モデルはデジタルデータとして保存・複製できるため、関係者間での情報共有が格段に容易になります。例えば、点群から生成したオルソ画像や3Dモデルを使えば、現地に行かなくても事務所のPC上でダムの状況を詳細に確認可能です。現場の作業員だけでなく設計者・管理者・発注者が同じデータを閲覧できるため、遠隔地から専門家の意見を仰いだり、多部門で協議したりする際にも役立ちます。完成した3Dモデルや高解像度のオルソマップは報告書や図面資料としても活用でき、発注者や地域住民への説明に説得力を持たせるツールにもなります。さらに、一度デジタル化して蓄積したデータは将来の補修設計や災害発生時に過去の状態と比較するなど、長期的なインフラ維持管理にも応用可能です。
作業効率の改善という面では、ドローン導入により点検作業に要する時間や手間も飛躍的に効率化されます。広範囲を一度に空撮できるため、従来は数日から数週間を要したダムや堤防の測量が数時間から数日で完了することもあります。実際に大幅な工期短縮と人員削減が同時に実現した事例もあり、ドローンと自動解析ソフトによりベテランの職人芸に頼らず一定の精度で現場記録が行えるため、少人数のチームでも効率よく点検・測量が実施でき、人手不足対策にも寄与します。経験豊富な技術者に頼らなくてもデジタルデータで客観的に判断できるようになることで、作業の標準化や技能継承の面でも効果を発揮します。以上のように、ドローンと点群技術は安全性からコスト・効率に至る幅広いメリットをもたらし、足場に頼らないスマートな点検手法を可能にしています。
実務での導入ポイント
優れたメリットが多いドローン点群技術ですが、実務に導入する際にはいくつか注意すべきポイントがあります。まず挙げられるのは法規制の遵守と安全管理です。日本国内で業務目的でドローンを飛行させる場合、飛行場所や方法によって事前に国土交通省への許可・承認が必要となるケースがあります。例えば、ダムが人里に近い場所にある場合の上空飛行や、目視外・夜間での飛行には、航空法に基づく申請手続きを経て飛行計画を策定しなければなりません。また、機体の重量や飛行形態に応じてライセンスが求められる場合もあります。安全に運用するため、ドローン操縦者には十分な訓練を積み、関連法令と安全対策について正しい知識を身につけさせておくことが不可欠です。
次にデータの精度管理も重要なポイントです。ドローン写真測量で高精度な3Dモデルを得るには、撮影する写真に十分な重複を確保するよう飛行計画を立て、必要に応じて地上に既知座標点を設置すると良いでしょう。近年はRTK-GNSS受信機を搭載したドローンも増えており、機体がリアルタイムにセンチメートル級の自己位置を記録できるため、少ない標定点でも高い測量精度を担保できるケースが多くなっています。条件次第では、RTK対応ドローンを用いて標定点なしでも数センチ以内の精度を実現する例も報告されています。もっとも、精度要求が高いプロジェクトでは出来上がったモデルの品質確認として検証点を設置し、誤差を計測することが推奨されます。たとえRTKドローンを使う場合でも、念のため数点の標定点を設けて最終成果の精度を検証すれば一層安心です。
データ処理フローの確立も導入前に検討しておきましょう。ドローンで撮影した多数の写真から点群モデルを生成するには、フォトグラメトリ専用のソフトウェアまたはクラウドサービスが必要です。現在、高機能な商用ソフトから無償のオープンソースツールまで多数の選択肢が存在しており、撮影した写真を投入するだけで自動的に点群やオルソ画像を出力できます。生成された点群データは専用ビューアソフトのほか、CADやGISソフトに読み込んで活用することも可能です。標準的な形式で保存すれば他の測量データと統合して扱えるため、既存の維持管理システムへの組み込みも容易でしょう。また、近年は現場での即時活用に向けてクラウドサービスとリアルタイム処理を組み合わせる動きもあります。ドローンで取得した大量の写真データを現場から直接クラウドに送信し、自動処理された3Dモデルをタブレット端末でその場で確認するといったワークフローも実現しており、解析結果を待たず即座に計測や意思決定に活かすことが可能になってきています 。
そのほか、現場環境と運用体制に応じた計画も大切です。山間部にあるダム現場では急な強風や濃霧が発生しやすいため、天候条件を見極めて安全に飛行できる日時を選定する必要があります。また、ダム直下はGNSS受信が不安定になる場合もあるため、状況に応じて高精度な慣性航法装置を備えた機体を選ぶなどの配慮も考えられます。飛行中は第三者の立入禁止措置や監視員の配置など安全管理を徹底し、万一の機体墜落に備えたリスクアセスメントも事前に行っておくべきです。社内に専門人材がいない場合には、まず実績のあるドローン点検サービス事業者に協力を仰ぎ、ノウハウを蓄積しながら段階的に内製化を進めるのも一案です。最後に、取得した図化データをどのように既存の維持管理プロセスに組み込むかも検討しておきましょう。例えば、点群データから自動で劣化箇所を検出して台帳に反映する仕組みを整備すれば、従来の報告書作成作業の負担を減らし、デジタルデータを一元管理して有効活用できるようになります。
高精度GNSS活用の展望
ドローン本体へのRTK-GNSS搭載は既に述べた通り写真点群の精度向上に大きく寄与して いますが、今後はそれにとどまらず、高精度GNSS測位技術を現場で幅広く活用していく展望が開けています。その代表例が、スマートフォンとGNSSによる新しい測量手法です。近年ではスマホに装着できる超小型のRTK-GNSS受信機が登場しており、手のひらサイズの機器を使ってスマホによる簡易3D測量が可能になりつつあります。例えばLRTKはスマートフォンの背面に取り付けて使用する高精度GNSSデバイスで、RTK技術によりスマホで撮影する写真にセンチメートル級の位置情報を与えることができます。専用アプリで複数の写真を撮影すれば、その場でグローバル座標に合致した3D点群モデルが自動生成され、距離や面積、体積の計測も即座に行えます。従来は高価な機材と専門スキルが必要だった精密測量を、スマホ1台で完結できてしまう画期的なソリューションと言えるでしょう。
LRTKのようなデバイスを活用すれば、ドローンを飛ばせない狭いエリアや屋内空間でも手軽に3D点群を取得できます。実際、広大なダム全体の概況把握にはドローン空撮が有効ですが、補修工事で部分的に組んだ足場周辺の詳細計測や、トンネル内部・ダム設備棟の室内点検などではスマホ測量が威力を発揮します。GPSが届かない環境やドローン飛行に制約のある場所でも、スマホ片手に必要なデータを収集できるため、現場適用の幅が大きく広がります。デバイス自体も軽量で持ち運びが容易なうえ、スマホ画面上にリアルタイムで点群が構築されていくため誰でも直 感的に3Dスキャンを始められる点も優れています。取得した点群データは初めから絶対座標を持っているため、後処理で他の測量データと位置合わせする手間も必要ありません。
このように、スマートフォンと高精度GNSSを組み合わせたアプローチはインフラ管理の現場に新たな選択肢を提供し始めています。広大なエリアの測量には引き続きドローンが適していますが、細部の追加計測や日常点検には手軽なスマホ測量を組み合わせることで、点群技術の利活用範囲が一段と拡大するでしょう。高価な専用機材をすべて揃えなくても自社で気軽に3Dデータ取得に取り組めるようになるため、導入のハードルが下がり、インフラ維持管理のDX促進にも寄与すると期待されます。さらに今後は、スマホやタブレットに高精度GNSSを組み合わせて取得した3DモデルをARで現場に重ね合わせ表示し、その場で図面や設計モデルを可視化して確認するといった応用も見込まれています。ドローンによるマクロな点検と、LRTKのようなスマホ計測によるミクロな高精度データ取得を使い分けることで、ダム点検の精度と効率は今後ますます向上していくことでしょう。
まとめ
ダム点検にドローンと点群技術を導入することで、従来は危険と隣り合わせだった高所作業から人を解放し、足場を組まなくても安全かつ精密に構造物の状態を把握できるようになりつつあります。安全性、コスト、精度、データ共有、作業効率のあらゆる面で優れたメリットを発揮するこれらの技術は、老朽化が進む社会インフラの維持管理においてまさにゲームチェンジャーと言えるでしょう。無人化やデジタル化によって熟練者の勘や経験に頼らない点検・診断が可能となり、誰もが客観的データに基づいて判断できる時代が到来しつつあります。今後は高精度GNSSデバイスの普及も相まって、現場で簡単に3次元データを取得・活用できるようになることで、インフラ点検のDXはさらに加速すると考えられます。ダム点検分野でも、ドローン点群による足場不要の手法が標準となり、安全性の飛躍的向上と作業効率化を両立したスマートメンテナンスが主流になることが期待されます。新技術を積極的に取り入れ、未来志向のインフラ管理に備えていきましょう。
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