衝突限界と落下試験は、どちらも製品や部材が衝撃を受けたときの耐性を確認する場面で使われます。そのため、実務では「落下試験をしていれば衝突限界も分かるのではないか」「衝突限界を設定すれば落下試験を省略できるのではないか」と考えられることがあります。しかし、両者は評価している対象、試験条件の決め方、結果の使い方が異なります。置き換えを検討する場合は、単に衝撃を扱っているという共通点だけで判断せず、目的と条件の対応関係を確認することが重要です。
目次
• 衝突限界と落下試験を混同しやすい理由
• 衝突限界とは何を示す考え方か
• 落下試験とは何を確認する試験か
• 衝突限界と落下試験の大きな違い
• 置き換え判断の基準1:衝撃入力が同等といえるか
• 置き換え判断の基準2:破損モードが一致しているか
• 置き換え判断の基準3:合否判定の目的が同じか
• 置き換えが難しいケースと注意点
• 実務で確認したい進め方
• まとめ
衝突限界と落下試験を混同しやすい理由
衝突限界と落下試験が混同されやすいのは、どちらも衝撃による破損や機能低下を扱うためです。製品を落としたときに壊れる、部品が何かに当たって変形する、輸送中や作業中に衝撃を受けるといった現象は、現場感覚では同じ「ぶつかった」「落とした」「衝撃を受けた」という言葉で表されます。そのため、設計、品質保証、生産技術、評価担当の間で、衝突限界と落下試験の意味があいまいなまま会話されることがあります。
しかし、実務で重要なのは、現象の呼び方ではなく、何をどの条件で確認しているかです。落下試験は、一般に所定の高さ、姿勢、床面、落下回数などを決め、製品や梱包物を落下させて損傷や機能異常の有無を確認する試験です。一方、衝突限界は、ある衝突条件に対して、破損、変形、機能停止、安全上の問題などが許容範囲を超えない限界を整理する考え方です。速度、エネルギー、加速度、荷重、変位、接触条件などを用いて表す場合があります。
つまり、落下試験は「決められた落下条件で耐えられるか」を確認する方法であり、衝突限界は「どの程度の衝突まで許容できるか」を示す設計・評価上の境界として扱われます。両者は関係していますが、同じものではありません。落下試験の結果から衝突限界を推定できる場合もありますが、試験条件が不足していれば限界値として使うには慎重な検討が必要です。反対に、衝突限界を計算や解析で設定していても、落下時の姿勢や接触状態が再現されていなければ、落下試験の代替として十分とはいえません。
置き換え判断で失敗しやすいのは、この違いを飛ばして「衝撃に関する評価だから同じ」と扱ってしまうことです。特に、落下高さだけで衝突速度や衝撃エネルギーを単純に換算し、製品の破損判断まで置き換えようとする場合は注意が必要です。実際の衝撃は、接触時間、接触面の硬さ、製品の姿勢、内部部品の固定状態、緩衝材の有無、局所的な応力集中によって大きく変わります。置き換えを考えるなら、まず衝突限界と落下試験がそれぞれ何を見てい るのかを分けて整理する必要があります。
衝突限界とは何を示す考え方か
衝突限界とは、対象物が衝突や打撃を受けたときに、あらかじめ定めた許容状態を超えない範囲を示す考え方です。ここでいう限界は、必ずしも完全破壊だけを意味しません。外観に傷が付かない範囲、機能が維持される範囲、内部部品が外れない範囲、安全上問題が発生しない範囲、再使用可能と判断できる範囲など、評価目的によって限界の定義は変わります。
衝突限界を考えるときは、まず何をもって限界とするのかを明確にする必要があります。たとえば、外装部品であれば割れ、へこみ、欠け、塗装剥がれ、締結部の緩みなどが評価対象になります。電気機器や制御装置であれば、通電不良、接点不良、内部基板の損傷、表示異常、センサー値のずれなどが問題になります。構造部材であれば、塑性変形、座屈、き裂、接合部の破断、固定部の変位などが限界状態になり得ます。
また、衝突限界は一つの数値で単純に決まるとは限りません。衝突速度が同じでも、相手側が硬い場合と柔らかい場合では、発生する力や変形の仕方が異なります。衝突エネルギーが同じでも、広い面で受ける場合と鋭い角で受ける場合では、損傷の出方が変わります。加速度が同じでも、作用時間が短い場合と長い場合では、内部部品に与える影響が変わることがあります。そのため、衝突限界を扱うときは、速度、質量、接触面、衝突方向、拘束条件、支持条件、温度、繰り返し回数などの条件をセットで記録することが大切です。
実務では、衝突限界を設計余裕の確認、試験条件の設定、解析結果の評価、現場トラブル時の影響判断などに使います。たとえば、ある部品がどの程度の衝撃まで機能を維持できるかを把握しておけば、輸送時の梱包仕様、作業時の取り扱い基準、保護カバーの必要性、交換判断の基準を決めやすくなります。逆に、衝突限界があいまいなままだと、現場で一度衝撃を受けた製品を使い続けてよいのか、再検査が必要なのか、廃棄すべきなのかを判断しにくくなります。
ただし、衝突限界はあくまで特定条件に対する限界です。条件を変えれば限界も変わります。落下、横衝突、圧縮、振動、転倒、局所打撃などをまとめて同じ衝突限界で判断すると、見落としが起きる可能性があります。衝突限界を設定するときは、対象とする衝撃現象を具体化し、その条件で得られた結果だけを適用範囲として扱うことが安全です。
落下試験とは何を確認する試験か
落下試験は、製品、部品、梱包物などを所定の高さから落下させ、落下後の状態を確認する試験です。主な目的は、使用中、輸送中、保管中、施工中、組立中などに発生し得る落下を想定し、製品や梱包が必要な性能を維持できるかを確認することです。落下高さ、落下姿勢、落下面の状態、落下回数、試験後の確認項目をあらかじめ決めて実施します。
落下試験で見ているのは、単なる衝撃エネルギーだけではありません。実際には、落下姿勢によって最初に接触する部位が変わり、局所的な破損の出方が変わります。角から落ちる場合、稜線から落ちる場合、面で落ちる場合では、同じ高さから落としても損傷の傾向は異なります。床面が硬い場合と緩衝性を持つ場合でも、製品に伝わる衝撃は変わりま す。梱包材がある場合は、梱包材のつぶれ方、戻り方、ずれ方によって製品本体への入力が変化します。
落下試験は、現実に近い取り扱いリスクを再現しやすい一方で、結果の解釈には注意が必要です。たとえば、ある高さから落として壊れなかったとしても、それより高い落下に必ず耐えるとは限りません。また、同じ高さでも落下姿勢が違えば壊れる可能性があります。さらに、試験体のばらつき、組付け状態、締結のばらつき、材料の状態、温度環境、経年劣化によっても結果が変わります。落下試験で合格したという事実は、決められた落下条件において合格したという意味であり、すべての衝突条件に対して安全であることを保証するものではありません。
落下試験の結果は、品質保証や顧客提出資料では扱いやすい情報です。所定の条件で落下させ、試験後に外観、機能、寸法、締結状態、漏れ、通電、動作などを確認すれば、合否を比較的明確に記録できます。そのため、製品の取り扱い耐性や梱包仕様の妥当性を確認する手段として有効です。
一方で、落下試験だけでは衝突限界を十分に把握できない場合があります。落下高さを変えた複数条件で試験していなければ、限界がどこにあるのかは分かりません。落下後に壊れなかったという結果だけでは、どれだけ余裕があるのかも分かりにくいです。衝突限界として使うには、落下条件を段階的に変え、損傷の発生条件、再現性、ばらつき、破損モードを整理する必要があります。
衝突限界と落下試験の大きな違い
衝突限界と落下試験の最も大きな違いは、前者が限界を示す考え方であり、後者が試験方法である点です。衝突限界は、どの程度の衝突まで許容できるかを判断するための境界です。落下試験は、所定の落下条件で対象物が耐えられるかを確認する実施手段です。この違いを理解していないと、試験結果を過大に解釈したり、必要な確認を省略したりするおそれがあります。
衝突限界では、評価対象となる入力条件をどう表すかが重要です。速度で表すのか、エネルギーで表すのか、加速度で表すのか、荷重で表すのか、変位で表すのかによって、設計判断のしやすさが変わります。たとえば、移動体同士の衝突や工具の打撃であれば速度やエネルギーが扱いやすい場合があります。内部部品の固定や電子部品の耐性を見たい場合は、加速度や作用時間が重要になることがあります。構造部材の永久変形を見たい場合は、荷重や変位も無視できません。
落下試験では、落下高さが条件の中心になりやすいです。高さが分かれば落下直前の速度や位置エネルギーを概算できますが、それだけで製品に入る衝撃が決まるわけではありません。落下後の接触時間が長くなればピーク荷重は小さくなり、接触時間が短ければピーク荷重は大きくなりやすいです。床面や緩衝材の硬さ、製品の剛性、落下姿勢によって接触時間や変形分布が変わるため、落下高さだけで衝突限界を同一視するのは不十分です。
また、結果の使い方にも違いがあります。落下試験の合否は、試験条件に対する適合確認として使われます。衝突限界は、設計の許容範囲、使用上の注意、再検査の判断、解析モデルの評価、保護構造の必要性など、より広い判断に使われることがあります。落下試験の結果を衝突限界として使う場合は、どの条件まで一般化できるのかを明確にしなければなりません。
さらに、再現性の考え方も異なります。落下試験は実物を使うため、現実の破損を捉えやすい反面、姿勢の微妙な違いや試験体のばらつきの影響を受けます。衝突限界は、試験、計算、解析、経験値を組み合わせて設定されることがあり、条件整理がうまくできれば設計判断に展開しやすくなります。しかし、前提条件が不明確な限界値は、現場で誤用されやすくなります。
したがって、衝突限界と落下試験は対立するものではなく、役割が違うものとして扱うのが適切です。落下試験は衝突限界を検討するための一つの手段になり得ますが、落下試験そのものが常に衝突限界を示すわけではありません。衝突限界は落下試験の代替条件を検討するための軸になりますが、衝突限界があるからといって落下試験を必ず省けるわけでもありません。
置き換え判断の基準1:衝撃入力が同等といえるか
衝突限界と落下試験を置き換えられるかを判断する第一の基 準は、衝撃入力が同等といえるかです。ここでいう同等とは、単に落下高さや衝突速度の数値が近いという意味ではありません。対象物に実際に入るエネルギー、荷重、加速度、接触時間、変形の仕方が、評価目的に対して同じと見なせるかという意味です。
落下試験では、重力によって対象物が加速し、床面や治具に衝突します。衝突直前の速度は落下高さから概算できますが、衝突後に製品へどのような力が入るかは、接触条件によって変わります。硬い床に角から落ちる場合は、短時間で大きな衝撃が発生しやすくなります。柔らかい緩衝面に面で落ちる場合は、同じ高さでも衝撃が分散されることがあります。つまり、高さが同じでも入力は同じとは限りません。
衝突限界を速度やエネルギーで定義している場合、落下試験条件に換算しやすいように見えることがあります。たとえば、落下高さから速度を求めたり、質量と高さから位置エネルギーを求めたりする考え方です。この換算自体は条件整理の入口として有効ですが、置き換え判断としては不十分です。製品に伝わる衝撃の大きさは、エネルギーがどこで吸収されるかによって変わるためです。外装が変形して吸収するのか、緩衝材がつぶれるのか、内部部品に直 接伝わるのかで、損傷リスクは大きく異なります。
実務では、衝撃入力の同等性を確認するために、落下高さ、質量、姿勢、接触部位、床面条件、治具条件、梱包状態、支持状態をそろえて考える必要があります。さらに、可能であれば衝突時の加速度波形、最大加速度、作用時間、変形量、損傷位置を記録し、衝突限界で想定している入力と比較します。数値が完全に一致しなくても、評価対象に影響する主要な入力が同等であると説明できることが重要です。
置き換えが比較的検討しやすいのは、落下試験の条件が衝突限界の想定条件と近く、損傷に支配的な入力も明確な場合です。たとえば、特定の姿勢で特定の面が接触し、その部位の割れや変形を評価する場合は、条件を管理しやすくなります。反対に、落下姿勢が不安定で、どの部位に衝撃が入るかが毎回変わる場合は、衝撃入力の同等性を説明しにくくなります。
この基準で重要なのは、置き換えをする側が「同じ衝撃です」と言い切ることではなく、「評価対象に対して主 要な入力差が小さい」と説明できることです。説明できない入力差が残る場合は、置き換えではなく補完関係として扱う方が安全です。
置き換え判断の基準2:破損モードが一致しているか
第二の基準は、破損モードが一致しているかです。衝撃入力が似ていても、壊れ方が違う場合は置き換えに注意が必要です。衝突限界で想定している破損モードと、落下試験で発生する破損モードが異なるなら、両者は同じ評価とはいえません。
破損モードとは、対象物がどのように損傷するかを示す考え方です。外装が割れる、角が欠ける、固定部が緩む、内部部品が外れる、基板が損傷する、配線が抜ける、機能が停止する、寸法が変化する、シール部から漏れる、可動部が引っかかるなど、衝撃後に起きる不具合の形はさまざまです。同じ衝撃でも、弱い部位や拘束条件によって破損モードは変わります。
落下試験では、 製品全体が床に衝突するため、外装や角部に局所的な損傷が出ることがあります。一方、衝突限界の検討では、特定部品に横方向の衝撃が加わる場面、移動体が停止部材に当たる場面、工具や治具が一部に当たる場面などを想定していることがあります。この場合、落下試験で外装が問題なかったとしても、横衝突で締結部がずれる可能性は残ります。逆に、衝突限界の評価で内部部品が安全と判断されていても、落下試験では外装の角割れが発生することがあります。
置き換えを判断するには、まず限界状態を明確にする必要があります。衝突限界で問題にしているのは外観なのか、機能なのか、安全なのか、寸法なのか、再使用性なのかを整理します。そのうえで、落下試験で同じ限界状態を確認できるかを見ます。外観不良を評価したいのに内部加速度だけを比較しても不十分です。内部機能を評価したいのに外観確認だけで合格とするのも不十分です。
破損モードが一致しているかを見るときは、合格品だけでなく、不合格品や限界に近いサンプルの観察が役立ちます。壊れたときにどこから壊れたのか、変形はどの方向に進んだのか、初期損傷は表面なのか内部なのか、締結部や接合部にどのような変化があったのかを確 認します。衝突限界の想定と落下試験の損傷履歴が一致していれば、置き換えの説明力は高まります。
一方、破損モードが複数ある場合は、置き換え判断が難しくなります。低い衝撃では外装の傷が問題になり、高い衝撃では内部部品の外れが問題になり、さらに高い衝撃では構造破壊が起きるといった場合、どの限界を基準にするかで結論が変わります。このようなケースでは、落下試験を一つ実施しただけでは全体の衝突限界を代表できません。損傷段階ごとに評価基準を分けるか、置き換え範囲を限定する必要があります。
破損モードの一致は、単なる試験結果の合否よりも重要です。合格か不合格かだけを見ると、偶然壊れなかった結果を過大評価してしまうことがあります。どの部位にどのような負荷が入り、どの不具合が起きる可能性を見ているのかを確認して初めて、落下試験と衝突限界の関係を安全に扱えます。
置き換え判断の基準3:合否判定の目的が同じか
第三の基準は、合否判定の目的が同じかです。衝突限界と落下試験は、同じ衝撃現象に関係していても、評価目的が違えば置き換えられません。設計検討のための限界把握、量産品質の確認、出荷判定、輸送梱包の妥当性確認、現場で衝撃を受けた後の再使用判断では、必要な確認内容が異なります。
たとえば、開発段階で衝突限界を知りたい場合は、どの条件で壊れ始めるか、どの部位が弱いか、どの設計変更が有効かを把握することが目的になります。この場合、段階的に入力を変え、限界に近い条件まで確認することが重要です。単一条件の落下試験で合格しただけでは、設計余裕や弱点を十分に把握できないことがあります。
一方、量産品の品質確認では、あらかじめ定めた条件に対して安定して合格するかが重視されます。この場合、落下試験は合否判定として有効です。ただし、量産確認の落下試験をもって、未知の衝突条件に対する限界まで保証することはできません。量産確認の目的は、設計時に想定した条件に対して品質が維持されているかを確認することであり、すべての異常取り扱いを評価することではないからです。
輸送や梱包の評価では、製品本体だけでなく梱包材を含めた系として考える必要があります。落下試験で梱包状態の耐性を確認している場合、その結果を製品単体の衝突限界として使うのは慎重に考えるべきです。梱包材が衝撃を吸収している場合、製品本体の限界は試験結果から直接分かりません。反対に、製品単体の衝突限界が分かっていても、梱包状態の落下で製品が同じ入力を受けるとは限りません。
現場での再使用判断でも、目的の違いが重要になります。作業中に製品を落とした、部材がぶつかった、保管中に荷崩れがあったという場合、必要なのは「その衝撃後に使ってよいか」という判断です。このとき、落下試験の合格条件や衝突限界の数値があっても、実際の衝撃条件が分からなければ判断は難しくなります。衝撃を受けた方向、接触した部位、外観変化、機能確認、使用前後の差分を記録し、基準との対応を確認する必要があります。
合否判定の目的が同じかを確認するには、誰のための評価なのか、何を合格とするのか、合格後にどこまで使 用を認めるのかを整理します。社内の設計判断なのか、出荷可否なのか、顧客への説明なのか、現場作業の安全判断なのかによって、求められる根拠の深さは変わります。置き換えを検討する場合は、試験方法だけでなく、判定結果をどの意思決定に使うのかまで合わせる必要があります。
この基準を曖昧にすると、試験自体は成立していても、使い方を誤ることがあります。開発評価の結果をそのまま量産保証に使う、梱包落下の結果を製品単体の耐衝撃性として説明する、計算上の衝突限界だけで出荷試験を省略する、といった扱いは慎重に避けるべきです。目的が違う評価は、似ていても置き換えではなく補足資料として扱う方が安全です。
置き換えが難しいケースと注意点
衝突限界と落下試験の置き換えが難しいケースは、実務では少なくありません。特に注意したいのは、衝撃の入り方が複雑な場合です。製品の重心が偏っている、形状が非対称である、突起部がある、内部に可動部がある、固定されていない部品がある、柔らかい部材と硬い部材が組み合わさっている場合は、落下時の挙動 が安定しにくくなります。このような対象では、落下試験の姿勢が少し変わるだけで損傷部位が変わることがあります。
また、接触相手が異なる場合も置き換えは難しくなります。硬い床への落下と、金属部材への横衝突と、樹脂部材同士の接触では、発生する応力や変形が異なります。落下高さや衝突速度だけを合わせても、接触面積や局所圧力が違えば、同じ破損にはなりません。特に角部、薄肉部、穴周り、締結部、接着部、溶接部、嵌合部などは局所的な応力集中が起きやすいため、接触条件の違いが結果に大きく影響します。
温度や経年状態も見落とせません。材料によっては低温で脆くなったり、高温で剛性が下がったりすることがあります。長期間使用された部品では、劣化、摩耗、締結力の低下、微小き裂、吸湿などにより、新品時とは衝撃耐性が異なることがあります。新品サンプルの落下試験で合格したからといって、長期使用後の衝突限界まで同じとは限りません。保守や現場判断に使う場合は、使用期間や環境条件を含めた確認が必要です。
試験体数が少ない場合も注意が必要です。衝撃評価はばらつきの影響を受けます。ある一体が合格したとしても、組付けばらつきや材料ばらつきによって別の個体が同じ結果になるとは限りません。特に限界に近い条件では、わずかな差で合否が変わることがあります。置き換え判断では、試験体数、試験条件の再現性、結果のばらつきを確認し、単発結果に依存しないようにすることが大切です。
さらに、試験後確認の範囲が不足している場合も置き換えは危険です。外観に異常がないだけで合格としていると、内部部品の緩みや微小な機能低下を見逃すことがあります。反対に、機能確認だけで外観や寸法を見ていないと、後工程や現場で問題になる損傷を見落とす可能性があります。衝突限界と落下試験を比較する際は、試験後に何を確認したかまで合わせなければなりません。
置き換えが難しい場合でも、落下試験や衝突限界の検討が無駄になるわけではありません。むしろ、それぞれの結果を組み合わせることで、より安全な判断ができます。落下試験で実際の壊れ方を把握し、衝突限界で入力条件や設計余裕を整理すれば、試験条件の妥当性や現場基準を説明しやすくなります。重要なのは、無理に一方を省略するのではなく、評価目的に対して必要な根拠を不足なくそろえることです。
実務で確認したい進め方
実務で衝突限界と落下試験の置き換えを検討する場合は、最初に評価目的を明確にすることが大切です。開発段階の弱点把握なのか、量産品の合否確認なのか、輸送梱包の検証なのか、現場で衝撃を受けた後の再使用判断なのかを整理します。目的が決まると、必要な入力条件、確認項目、判定基準、記録内容が決めやすくなります。
次に、衝撃条件をできるだけ具体化します。落下であれば、高さ、姿勢、落下面、回数、梱包の有無、試験体の状態を整理します。衝突限界であれば、衝突速度、質量、接触部位、相手材、方向、拘束条件、許容する損傷状態を整理します。この段階で条件を言葉だけでなく、図面番号、仕様条件、試験手順、確認項目と紐づけておくと、後から判断を追跡しやすくなります。
そのうえで、同等性を説明できる範囲を決めます。すべての衝突条件を落下試験で代表させるのではなく、特定の姿勢、特定の部位、特定の損傷モードに限定して置き換え可能かを検討します。置き換え範囲を限定すれば、過大な一般化を避けやすくなります。たとえば、梱包状態での落下耐性は梱包評価として扱い、製品単体の局所衝突は別評価として扱うといった切り分けが有効です。
試験を行う場合は、合否だけでなく、途中経過や損傷の兆候を記録します。落下後に壊れたかどうかだけでなく、どの部位が最初に接触したか、外観にどのような変化があったか、機能確認で変化があったか、締結部や内部部品に異常がないかを確認します。限界に近い評価では、写真、測定値、作業記録、試験体の個体情報を残すことで、後の説明力が高まります。
解析や計算を併用する場合は、前提条件を明確にします。解析上の衝突速度、接触条件、材料特性、拘束条件が、落下試験の実際の状態と対応しているかを確認します。解析結果の最大応力や変形量だけを見て判断するのではなく、実試験で見られた破損モードと合っているかを確認することが大切です。解析と試験の破損位置や変形傾向が合わない場合は、モデル条件または試験条件の見直しが必要です。
社内で基準化する場合は、用語の定義もそろえる必要があります。衝突限界、落下耐性、耐衝撃、合格条件、再使用可否、外観異常、機能異常といった言葉が部署ごとに違う意味で使われていると、判断がぶれます。基準書や手順書では、限界状態の定義、試験条件、判定方法、適用範囲、適用外条件を明記し、現場担当者が迷わない形にすることが重要です。
最終的には、置き換えの可否を一言で決めるのではなく、置き換えられる範囲と置き換えられない範囲を分けて整理するのが現実的です。衝撃入力が同等で、破損モードが一致し、合否判定の目的も同じであれば、条件付きで置き換えを検討できます。どれか一つでも説明できない場合は、完全な置き換えではなく、補完評価、追加試験、限定適用として扱うべきです。
まとめ
衝突限界と落下試験は、 どちらも衝撃に関する評価でありながら、役割は異なります。衝突限界は、ある衝突条件に対して許容できる範囲を示す考え方です。落下試験は、所定の高さ、姿勢、落下面、回数などを決めて、対象物がその条件に耐えられるかを確認する試験です。落下試験の結果から衝突限界を推定できる場合はありますが、落下試験そのものが常に衝突限界を示すわけではありません。
置き換えを判断する際は、三つの基準を確認する必要があります。第一に、衝撃入力が同等といえるかです。落下高さや速度だけでなく、接触時間、接触面、加速度、変形、エネルギー吸収のされ方まで見なければなりません。第二に、破損モードが一致しているかです。外装割れ、内部部品の外れ、機能停止、寸法変化など、何を限界としているかが違えば、同じ評価とはいえません。第三に、合否判定の目的が同じかです。開発評価、量産確認、梱包評価、再使用判断では、必要な根拠が異なります。
衝突限界と落下試験を安全に扱うには、目的、条件、判定基準、適用範囲を明確にすることが欠かせません。条件が一致している範囲では置き換えを検討できますが、説明できない差が残る場合は、安易に省略せず、追加確認や補完評価として扱う方が 実務上は安全です。特に、落下姿勢が不安定な製品、接触部位によって損傷が変わる部品、内部機能が重要な機器、長期使用後の再使用判断では、単純な換算だけで判断しないことが大切です。
衝突限界は設計や品質判断のための境界であり、落下試験は実際の取り扱いリスクを確認するための有効な手段です。両者を正しく切り分ければ、不要な試験の重複を減らしながら、必要な安全性や品質根拠を確保しやすくなります。自社の製品や部材で、落下試験を衝突限界の評価に置き換えられるか、または衝突限界の整理から落下試験条件を見直したい場合は、対象物、想定衝撃、試験条件、判定基準を整理し、設計・品質保証・評価担当の間で適用範囲を確認してから検討を進めることが重要です。
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