目次
• CIMで維持管理台帳を考える前に押さえる基本
• 視点1 点検で使う情報を優先して残す
• 視点2 位置と範囲が後から追える形にする
• 視点3 劣化や変状の比較に使える情報を選ぶ
• 視点4 更新しやすい属性情報に絞る
• 視点5 関係者が同じ判断をできる記録にする
• CIMデータを維持管理台帳へつなげる実務手順
• まとめ 維持管理で使われるCIM情報を残す
CIMで維持管理台帳を考える前に押さえる基本
CIMを維持管理に活かすとき、最初に考えるべきことは、できるだけ多くの情報を残すことではありません。完成時の形状、施工時の記録、部材の属性、点検結果、補修履歴などをすべて細かく入れようとすると、台帳は一見充実して見えます。しかし、実際の維持管理の現場では、必要な情報をすぐに探せること、現地確認と照合できること、更新の手間が大きすぎないことが重要です。
CIMは3次元モデルを中心に、形状情報と属性情報を結びつけて管理できる点に価値があります。ただし、維持管理台帳は、日常点検、定期点検、補修計画、修繕履歴、更新判断など、長期間にわたって使われる資料です。そのため、施工段階で便利だった情報が、そのまま維持管理でも役立つとは限りません。施工中は工程や出来形の確認に必要だった情報でも、供用後には使われなくなる情報があります。一方で、施工時には目立たなかった材料、接合部、埋設部、不可視部分の記録が、数年後の点検や補修で重要な意味を持つこともあります。
維持管理台帳へ残す情報を選ぶ際には、「完成図として見栄えがよいか」ではなく、「将来の担当者が判断に使えるか」を基準にすることが大切です。担当者が変わっても、現地を見に行く前に状況を把握できること。点検結果と過去情報を比較できること。補修が必要になったときに、構造や材料、位置、範囲、履歴を確認できること。これらを満たす情報が、維持管理で価値を持つ情報です。
また、CIMデータは作成して終わりではありません。維持管理台帳と結びつける以上、点検や補修のたびに更新される可能性があります。更新できないほど複雑な属性項目や、入力ルールが曖昧な情報は、時間が経つほど使われなくなります。最初から完璧な台帳を作ろうとするよりも、点検、補修、引き継ぎで繰り返し使う情報を中心に設計することが、長く使えるCIM活用につながります。
視点1 点検で使う情報を優先して残す
維持管理台帳へ残す情報を選ぶ第一の視点は、点検時に実際に使う情報かどうかです。CIMモデルには多くの情報を持たせることができますが、維持管理の現場で毎回確認される情報は限られています。点検担当者が現地で確認する対象、確認する順番、異常を見つけたときに参照する情報を想定し、その流れに沿って残す項目を決める必要があります。
たとえば、橋梁、道路構造物、擁壁、水路、トンネル、港湾施設などでは、点検対象となる部材や区間が明確に分かれていることが重要です。部材名、管理番号、設置位置、延長、断面、材料、施工年月、補修履歴などは、点検時に現地と台帳を照合するための基本情報になります。これらがモデル上で確認できれば、点検前の準備がしやすくなり、現地での確認漏れも減らしやすくなります。
一方で、点検では使わない細かな施工管理情報まで大量に残すと、必要な情報を探しにくくなります。施工時の仮設情報、途中段階の作業メモ、重複した写真、細分化しすぎた属性などは、維持管理台帳としては整理が必要です。もちろん、将来の不具合原因を調べるために施工記録が必要になる場合もあります。その場合でも、日常的に見る台帳項目と、必要時に参照する詳細資料を分けておくことが大切です。
点検で使う情報を選ぶには、点検者の行動を具体的に想像することが有効です。現地に行く前に、どの施設を確認するのか。現地で、どの部材を見ているのか。異常を見つけたとき、過去の点検結果、補修履歴、設計条件、施工時の写真のどれを見たいのか。この流れを整理すると、台帳に必要な情報と不要な情報が見えやすくなります。
CIMモデル上では、点検対象を部材単位や区間単位で選択できる状態にしておくと便利です。対象を選択したときに、管理番号、部材名、位置、過去の点検結果、関連写真、補修履歴などが確認できれば、台帳としての実用性が高まります。単に3次元形状を表示するだけではなく、点検業務の入口として使える構成にすることが重要です。
視点2 位置と範囲が後から追える形にする
維持管理で特に重要になるのが、異常や補修箇所の位置を後から追えることです。CIMで維持管理台帳を作る場合、部材や施設の情報だけでなく、位置と範囲をどの粒度で管理するかを決めておく必要があります。位置情報が曖昧だと、数年後に同じ箇所を確認したいとき、現地で探す手間が増えます。過去の変状と現在の変状が同じものなのか、別のものなのかも判断しにくくなります。
位置を残す方法には、座標、測点、距離標、施設番号、部材番号、区間名、写真撮影位置などがあります。どれか一つだけに頼るのではなく、現場で使いやすい表現と、データ上で管理しやすい表現を組み合わせることが大切です。たとえば、座標だけでは現地作業員が直感的に理解しにくい場合があります。一方で、区間名だけでは詳細位置を特定できない場合があります。CIMモデルと維持管理台帳をつなぐなら、モデル上の位置、台帳上の管理単位、現地での呼び方が対応している状態を目指すべきです。
変状や補修の記録では、点ではなく範囲を残すことも重要です。ひび割れ、沈下、欠損、腐食、漏水、はく離、段差などは、発生位置だけでなく、広がりや方向、長さ、面積、深さなどが判断材料になります。CIMモデル上で範囲を示せるようにしておけば、次回点検時に進行状況を比較しやすくなります。補修済みの範囲も同様に、どこからどこまで施工したのかを残しておくことで、再劣化が起きたときの原因確認に役立ちます。
また、維持管理では不可視部分の位置記録も重要です。埋設管、鉄筋、アンカー、継手、排水経路、地中構造物などは、完成後に目視できない場合があります。施工時にCIMへ位置情報を整理しておけば、掘削、補修、更新、事故対応の際に確認資料として使えます。ただし、不可視部分の情報は精度や取得方法もあわせて残す必要があります。推定位置なのか、施工時に確認した位置なのか、計測値なのかによって、維持管理での扱い方が 変わるためです。
位置と範囲を後から追える台帳にするには、記録の単位をそろえることも欠かせません。ある点検では部材単位、別の点検では写真単位、さらに別の補修では文章だけで記録していると、履歴の比較が難しくなります。CIMを使うなら、施設、区間、部材、変状、補修範囲の関係を整理し、台帳上でも同じ考え方で記録できるようにしておくことが大切です。
視点3 劣化や変状の比較に使える情報を選ぶ
CIMを維持管理台帳に活かす大きな目的の一つは、時間の経過による変化を追えるようにすることです。施設は完成した瞬間が終わりではなく、供用環境、荷重、雨水、温度変化、塩害、凍結、地盤変動、使用状況などの影響を受けながら少しずつ変化します。その変化を見逃さないためには、劣化や変状を比較できる情報を残す必要があります。
比較に使える情報とは、単に「異常あり」「異常なし」と いった結果だけではありません。変状の種類、位置、範囲、程度、発見日、撮影方向、点検条件、前回からの変化、対応方針などがそろって初めて、次回点検時に意味のある比較ができます。CIMモデルと紐づけて記録する場合は、変状がどの部材のどの面にあるのか、どの方向から確認したのか、どの写真と対応するのかを分かるようにしておくと、判断しやすくなります。
劣化や変状の記録では、表現のばらつきを減らすことも重要です。担当者によって「小さいひび割れ」「軽微なひび割れ」「細い割れ」など表現が変わると、後から比較しにくくなります。維持管理台帳では、変状の分類、程度、記録方法をできるだけ標準化することが望ましいです。CIMモデルの属性項目にも、自由記述だけでなく、選択式の分類や一定の入力ルールを設けると、長期的なデータ活用がしやすくなります。
また、写真や点群、計測値を残す場合は、将来比較できる形で整理する必要があります。写真であれば、撮影位置、撮影方向、対象部材、撮影日、点検名が分かる状態にします。点群や計測データであれば、取得範囲、座標系、基準点、処理条件、比較対象を明確にします。これらが不足していると、データ自体は残っていても、次回の比 較に使えないことがあります。
CIMでは、完成時の状態を基準として残しておくことも有効です。完成時の形状、出来形、部材配置、表面状態、施工時写真などが整理されていれば、供用後に発生した変状が施工時からあったものなのか、供用後に進行したものなのかを判断しやすくなります。特に、完成後に隠れてしまう部分や、点検頻度が低い部分では、初期状態の記録が重要です。
ただし、比較に使える情報を増やしすぎると、更新負担が大きくなります。すべての部材に詳細な劣化指標を持たせるのではなく、重要度の高い部材、過去に不具合が出やすい箇所、環境条件が厳しい箇所、更新費用が大きい箇所を優先する考え方が現実的です。CIMで維持管理台帳を作る際には、施設全体を一律に扱うのではなく、リスクや点検頻度に応じて情報量に差をつけることが大切です。
視点4 更新しやすい属性情報に絞る
維持 管理台帳は長く使うものです。そのため、CIMモデルに持たせる属性情報は、更新しやすいことが非常に重要です。初期整備の段階では多くの属性を入力できても、供用後の点検や補修のたびに更新できなければ、情報は少しずつ古くなります。古い情報が混在した台帳は、現場判断を迷わせる原因になります。
属性情報を設計するときは、まず固定情報と更新情報を分けることが大切です。固定情報には、施設名、管理番号、構造形式、部材名、材料、完成年月、設計条件、施工区分などがあります。これらは頻繁には変わりません。一方、更新情報には、点検日、点検結果、健全性の評価、変状内容、補修履歴、次回確認事項、担当者、写真、関連資料などがあります。更新頻度の異なる情報を同じ扱いにすると、管理が複雑になります。
更新しやすい属性にするには、入力項目を増やしすぎないことも重要です。維持管理に役立ちそうだからといって、細かな項目を大量に作ると、点検後の入力作業が重くなります。入力されない項目、担当者によって書き方が変わる項目、判断に使われない項目は、台帳の品質を下げる原因になります。必要な項目を厳選し、記録する理由が明確な項目だけを残すことが大切です。
自由記述欄の扱いにも注意が必要です。自由記述は現場の状況を柔軟に残せる一方で、検索や集計、比較には向きにくい場合があります。変状の種類、対応状況、優先度、点検区分などは、できるだけ選択式や定型化された表現にしておくと、後から活用しやすくなります。自由記述は、選択項目では表現しきれない補足や判断理由を残す欄として使うと、台帳全体の整合性を保ちやすくなります。
CIMモデルと維持管理台帳を連携させる場合、属性の管理主体も明確にする必要があります。設計段階で入力する情報、施工段階で確定する情報、維持管理段階で更新する情報を分けておかないと、誰がどの情報を修正してよいのか分からなくなります。管理主体が曖昧なまま運用すると、古い情報が残ったり、必要な更新がされなかったりします。
また、属性情報は、後から別の形式に出力したり、他の台帳と突き合わせたりする可能性があります。そのため、名称や番号の付け方を統一しておくことが重要です。同じ部材を、図面、写真、点検調書、CIMモデルで別々の名前で呼んでいると、データ連携が難しくなります。施設番号、部材番号、区間番号、点検番号などは、できるだけ共通のルールで整理するべきです。
更新しやすい属性情報に絞ることは、情報を単純に減らすことではありません。将来も使える情報に整えることです。維持管理台帳は、作成時の完成度よりも、運用を続けられるかどうかが重要です。CIMを使うことで見える情報が増えるからこそ、何を残し、何を外部資料として扱い、何を更新対象にするのかを明確にする必要があります。
視点5 関係者が同じ判断をできる記録にする
維持管理台帳は、一人の担当者だけが見るものではありません。発注者、管理者、点検者、補修業者、設計者、施工者、行政担当、引き継ぎを受ける後任者など、さまざまな関係者が参照します。そのため、CIMで残す情報は、関係者が同じ対象を見て、同じ前提で判断できる状態にしておくことが大切です。
同じ判断をするためには、まず情報の意味が分かることが必要です。部材名、管理番号、点検区分、評価区分、補修区分などが、関係者によって異なる意味で使われていると、台帳の信頼性が下がります。CIMモデル上の属性名も、専門的すぎる略語や社内だけで通じる表現に偏ると、将来の引き継ぎ時に理解されにくくなります。できるだけ一般的で分かりやすい名称を使い、必要に応じて定義を残すことが重要です。
また、判断の根拠が残っていることも大切です。点検結果として評価だけが残っていても、なぜその評価になったのかが分からなければ、次回担当者は判断に迷います。写真、位置、変状内容、前回比較、補修の有無、経過観察の理由などが残っていれば、過去の判断を踏まえて次の対応を考えやすくなります。CIMモデルでは、対象部材と根拠資料を結びつけておくことで、台帳を読む手間を減らせます。
維持管理では、緊急時にも台帳が使われる可能性があります。災害後の点検、事故対応、漏水や沈下の確認、通行規制の判断などでは、短時間で必要な情報を取り出す必要があります。このとき、情報が多すぎて探せない台帳や、関係資料の所在が分からない台帳は役 に立ちません。重要な施設情報、点検履歴、補修履歴、不可視部分の位置、連絡事項などが、CIMモデルや台帳からすぐにたどれる構成が求められます。
関係者が同じ判断をできるようにするには、記録の粒度をそろえることも必要です。ある部材は詳細に記録されているのに、別の部材は文章だけで済ませている場合、比較や優先順位付けが難しくなります。すべてを同じ細かさにする必要はありませんが、重要部材、一般部材、付属物などの区分ごとに、最低限残す項目を決めておくと運用しやすくなります。
引き継ぎの視点も欠かせません。維持管理は長期間続くため、担当者が変わることを前提に台帳を作る必要があります。作成した人だけが分かる整理ではなく、数年後に初めて見る人でも、施設の概要、注意箇所、過去の対応、次に確認すべき点が分かる状態を目指すべきです。CIMは視覚的に構造を把握しやすい利点がありますが、その利点を活かすには、モデルと記録の関係を分かりやすく整理することが不可欠です。
CIMデータを維持管理台帳へつなげる実務手順
CIMで維持管理台帳へ残す情報を選ぶには、設計や施工の最終段階で急いで整理するのではなく、できるだけ早い段階から維持管理を意識することが大切です。設計段階では、将来の点検対象となる部材や区間を想定し、管理単位を決めておきます。施工段階では、完成後に見えなくなる部分や、施工時にしか確認できない情報を記録します。完成時には、台帳へ引き継ぐ情報と、参考資料として保管する情報を整理します。
まず行うべきことは、維持管理で使う場面を洗い出すことです。日常点検、定期点検、詳細調査、補修設計、修繕工事、災害時確認、更新計画、住民説明など、台帳が使われる場面を想定します。それぞれの場面で必要な情報を考えると、残すべき項目が見えてきます。点検で使う情報、補修で使う情報、長期計画で使う情報は重なる部分もありますが、必要な粒度が異なります。
次に、管理単位を決めます。施設全体で管理するのか、区間で管理するのか、部材で管理するのか、変状単位で管理するのかを整理します。CIMモデルでは細かな部材ま で表現できる場合がありますが、維持管理台帳で同じ粒度が必要とは限りません。細かすぎる管理単位は更新負担を増やします。逆に粗すぎる管理単位では、異常箇所や補修範囲を追えません。現場の点検方法と台帳更新の負担を考えながら、適切な単位を設定することが重要です。
そのうえで、属性項目を整理します。施設名、管理番号、部材名、位置、材料、完成年月、点検結果、変状内容、補修履歴、写真、関連資料などを候補にし、必須項目、任意項目、参考項目に分けます。必須項目は、空欄があると維持管理に支障が出る情報です。任意項目は、対象や状況によって必要になる情報です。参考項目は、日常的には使わないものの、詳細確認時に役立つ情報です。この区分を明確にしておくと、台帳の入力品質を保ちやすくなります。
また、CIMモデルと台帳を結びつける識別番号を整えることも重要です。モデル上の部材、写真、点検記録、補修履歴、図面、帳票が同じ対象を指していることを確認できるようにします。識別番号がそろっていれば、将来データを移行したり、別の管理形式に変えたりする場合にも対応しやすくなります。
最後に、運用ルールを決めます。誰が更新するのか、いつ更新するのか、どの資料を根拠にするのか、古い記録をどう残すのかを決めておかないと、台帳は次第に使われなくなります。点検後に更新する項目、補修後に更新する項目、年次で確認する項目を分け、運用に無理のない範囲で管理することが大切です。
まとめ 維持管理で使われるCIM情報を残す
CIMで維持管理台帳へ残す情報を選ぶときは、多くの情報を詰め込むことよりも、将来の点検や補修で使える情報を選ぶことが重要です。点検で使う情報を優先し、位置と範囲を後から追えるようにし、劣化や変状を比較できる記録を残します。そのうえで、更新しやすい属性情報に絞り、関係者が同じ判断をできる形に整えることが大切です。
維持管理台帳は、完成時の納品物で終わるものではありません。供用後の点検、補修、更新、引き継ぎの中で繰り返し使われ、少しずつ情報が積み重なっていくものです。CIMを活用すれば、形状、位置、属性、写真、履歴を結びつけ、施設の状態を立体的に把握しやすくなります。しかし、その効果を出すには、情報の選び方と運用ルールが欠かせません。
これからCIMを維持管理へつなげる場合は、まず現場で本当に使う情報を整理することから始めるとよいです。点検者が見る情報、補修時に確認する情報、将来の担当者へ引き継ぎたい情報を分けて考えることで、台帳に残すべき項目が明確になります。さらに、現地での位置確認や写真記録を効率よく行う仕組みを組み合わせれば、CIMデータと維持管理台帳のつながりはより実務的になります。
維持管理で使われるCIM情報は、完成時に大量のデータを残すだけでは育ちません。点検で確認し、補修で更新し、引き継ぎで意味が伝わる形に整えていくことで、台帳としての価値が高まります。情報を選び、位置と履歴をそろえ、更新しやすい仕組みにすることが、CIMを維持管理に定着させるための基本です。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
製品に関するご質問やお見積り、導入検討に関するご相談は、
こちらのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。ぜひLRTKで、貴社の現場を次のステージへと進化させましょう。

