はじめに
建築・建設業界における生産性向上や効率化を実現する技術として、BIM(Building Information Modeling)は近年ますます注目を集めています。BIMとは、建物を3次元モデルで表現し、形状と関連情報を一元管理することで、設計から施工・維持管理まで活用できるデジタル技術です。建物の設計から施工、維持管理まで一元的に情報を扱えるBIMは、図面や現場管理のデジタル化を進める「i-Construction」など国の取り組みにも合致し、業界全体で導入が推進されています。実際、BIMの社会実装を速めるための支援策として補助金制度が創設されるなど、今まさに多くの企業がBIM導入に乗り出そうとしています。
とはいえ、現実には「BIMを導入してみたものの効果を実感できない」「かえって現場が混乱した」といった声も耳にします。新しい技術であるBIMの導入には、いくつかの落とし穴が潜んでいるのも事実です。せっかく時間とコストをかけて導入しても、進め方を誤れば期待した成果が得られないばかりか、業務に支障をきたす恐れもあります。
そこで本記事では、BIM導入時に企業が陥りがちな典型的な落とし穴を3つ取り上げ、それぞれの対策方法と合わせて解説します。BIM導入を検討中の方や、導入に行き詰まっている方は、ぜひ参考にして自社の取り組みに役立ててください。
落とし穴1: 導入目的や計画が不明確なまま進めてしまう
落とし穴の症状: BIM導入でまずありがちなのが、「何となく流行っているから」「上層部に指示されたから」という理由だけで、明確な目的や計画を持たずに導入を進めてしまうケースです。例えば経営層がトップダウンで「うちもBIMを導入せよ」と号令をかけたものの、現場レベルでは「結局何をどう変えればいいのか分からない」という状態に陥ることがあります。目的が 曖昧なままソフトウェアを購入し、形だけモデルを作成しても、肝心の業務改善につながらなければ現場は混乱するばかりです。
具体的には、導入前に「なぜBIMを導入するのか」が社内で共有されていないと、各部署・プロジェクトでバラバラな使い方になったり、従来業務との齟齬が生じたりします。本来BIMはコスト削減や品質向上、業務効率化など明確な課題解決の手段であるはずですが、そのゴール設定をしないまま進めると、「結局従来と何が変わったのか分からない」という結果になりかねません。また、社内にBIM導入の責任者(BIMマネージャー等)を置かずに進めてしまうと、指示系統が曖昧で現場の疑問や問題を解決できないまま時間だけが過ぎてしまう恐れもあります。
対策: BIM導入を円滑に進めるために、以下の3点を事前に押さえておきましょう。
• 導入目的・効果の明確化: 自社の業務プロセスや課題を洗い出し、BIMで何を改善・達成し たいかを具体的に定めます。例えば「設計と施工間の情報齟齬をなくす」「設計変更による手戻りを◯%減らす」など、明確なゴールを設定し社内で共有します。導入目的が曖昧なままでは現場も戸惑ってしまうため、このステップを最優先しましょう。
• 導入計画の策定: 適用範囲や使用ツール、社内ルールの変更点などを盛り込んだロードマップを作成します。可能であれば小規模なプロジェクトを選んで試行し、段階的に展開する計画にすると現場への負荷も軽減できます。必要に応じて外部の専門家からアドバイスを得つつ、計画段階から現場の設計者・施工管理者の意見を取り入れ、机上の空論にならないようにしましょう。
• 推進体制の整備: 社内にBIM推進のためのチームや委員会を立ち上げ、責任者となるBIMマネージャーや各部署のキーパーソンを配置します。現場からの問い合わせやトラブルに対応できる窓口を設け、継続的にフォローする体制を築くことが大切です。
落とし穴2: 現場のプロセスと噛み合わず、運用が定着しない
落とし穴の症状: BIM導入の次の関門は、「導入したはいいが現場で使いこなせない」「従来の業務プロセスと噛み合わず定着しない」という問題です。これは主に、人材育成や社内体制、既存業務フローとの整合性に起因します。例えば、BIMソフトを導入しても担当者への教育が不十分なまま現場に放り込めば、操作に戸惑ったり従来の2D作業に逆戻りしたりして、かえって非効率になる可能性があります。また、「現場にはBIMに詳しい人がいない」「操作は分かっても実務でどう活用するか分からない」という状況では、せっかくのツールが宝の持ち腐れになってしまいます。
さらに、既存の業務習慣や他部署との連携とBIM運用がかみ合わないケースも落とし穴です。例えば、設計部門はBIMモデルを作っても、施工部門や協力会社は従来通り2D図面で作業してしまい、最新の変更が現場に共有されないといったミスコミュニケーションが生じることがあります。さらに、ある部分は2D図面上だけ修正し別の部分はBIMモデルのみ更新するといった二重管理に陥れば、設計情報の整合性が崩れて品質低下のリスクさえ生じます。「最新の図面・モデルはどれか分からない」という事態になれば、BIM導入前よりも情報管理が混乱してしまいます。また、社内に統一ルールがなく担当者ごとにバラバラな運用をすると、データの互換 性や精度にばらつきが出てトラブルのもとになります。
対策: この落とし穴を回避するには、人とプロセスの両面で準備を徹底することが重要です。まず人材面では、教育・研修の充実が鍵です。BIMソフトの基本操作はもちろん、プロジェクトでの具体的な活用方法まで含め、段階的に研修プログラムを用意しましょう。初めてBIMに触れる社員が多い場合、小規模な社内勉強会や外部セミナーを活用してスキル底上げを図ります。現場でBIMの経験がある社員や若手を「BIMリーダー」に任命し、周囲をサポートさせるのも有効です。重要なのは、一部の担当者だけに任せきりにせず、組織全体で徐々にBIMリテラシーを向上させていくことです。
次にプロセス面では、社内ルールの標準化と業務フローの再設計が不可欠です。BIM導入に合わせて、情報の共有方法やデータ管理の仕組みを見直しましょう。例えば、共通データ環境(CDE)と呼ばれるクラウド上のプラットフォームを用意し、図面やモデル、ドキュメントを一元管理するように します。ファイル名の付け方やバージョン管理のルールを定め、誰が見ても最新情報が分かる状態にすることが理想です。また、各プロジェクトフェーズで「どこまでモデル化するか(LODの水準)」や「どの情報を入力するか」を定めたBIM実行計画を作成し、関係者間で合意しておくと良いでしょう。
さらに、スモールスタートとフィードバックも大切です。最初から全社で一斉にBIM化を進めるのではなく、まずは小規模なプロジェクトや一部部署で試行し、実際の運用上の課題を洗い出します。例えば、試験案件で設計〜施工までBIM運用し、その中で発生した問題(コミュニケーション不足やツール間の不具合など)を検証します。そして得られた知見をもとにワークフローを改善し、次のプロジェクトへ展開していくと、無理なく定着させることができます。定期的に現場の声をヒアリングして「何が使いづらいか」「旧来手法の方が良いと感じる点は何か」を把握し、ツールやルールのアップデートに反映させる姿勢も重要です。
最後に、現場と経営層の橋渡しも忘れてはいけません。経営層には現場の状況や課題を適宜報告しサポートを仰ぐ一方、現場には経営層の期待やBIM導入の意義をきちんと伝え、モチベーションを高めるよう努めましょう。トップダウンとボトムアップ双方のコミュニケーションが円滑に行われれば、組織全体でBIM活用の文化が根付きやすくなります。
落とし穴3: 初期コストばかりに目が行き、効果検証を怠る
落とし穴の症状: 3つ目の落とし穴は、BIM導入に伴うコストと効果のバランスを見誤ることです。BIM対応のソフトウェアやハードウェアの導入費用、教育研修のコスト、運用開始までの時間など、BIM導入には決して小さくない投資が必要です。そのため、導入当初はどうしても費用面に目が行きがちですが、短期的なコスト意識ばかり強いと、「こんなにお金をかけたのに成果が出ないじゃないか」と早計に判断してしまう危険があります。
例えば、経営層が導入直後にROI(投資対効果)を過度に期待し、「費用ばかりかさんで効果が見えない」とネガティブな評価を下してしまうケースです。BIMは運用を軌道に乗せてナンボの部分があり、モデル作成や社内ルール整備に初期段階では時間がかかるため、すぐに劇的な効率アップが得られるわけではありません。それを理解せずに「思ったより生産性が上がらない」と途中で投資を絞ってしまえば、せっかくの取り組みが中途半端に終わってしまいます。また逆に、具体的な効果測定をしないまま漫然と続けてしまい、「結局何を改善できたのか分からない」という状況に陥る場合もあります。効果を定量的に示せないと、社内でBIM推進の意義が伝わらず、モチベーション低下や予算打ち切りにつながりかねません。
対策: コストと効果のギャップを埋めるには、長期的な視点で投資対効果を管理することが必要です。まず、BIM導入によって期待される効果を数値化し、KPI(重要業績評価指標)として設定しましょう。例えば、「設計ミスによる手戻り件数を◯%削減」「干渉チェックに要する時間を◯時間短縮」「設計〜施工間の情報伝達ミスをゼロにする」など、プロジェクトの質や効率に関わる項目をモニタリングします。これらの指標を導入前後で追跡することで、BIM導入の成果を客観的に評価できますし、問題があれば早期に対策を講じることもできます。
また、ROIの正しい理解も重要です。BIM導入の恩恵は、短期的な作図作業の効率化だけではなく、施工中のトラブル削減や将来的な維持管理コストの削減など、中長期にわたる効果があります。またBIMモデルは竣工後の維持管理や改修にも資産として活用できるため、そうした長期的価値も含めて評価することが重要です。初期費用だけを見るのではなく、例えば「衝突検出によって施工現場での手直し工事が激減した」「関係者間調整の手間が省けて会議時間が短縮した」「一度作ったモデルを維持管理に活用し、将来の改修計画に役立てられた」など、様々な角度で効果を捉えましょう。場合によっては定性的な効果(例えばコラボレーションの質向上や社員のITスキル向上)もあるため、それらも含めて経営層に報告すると、投資への理解が深まります。
段階的な投資も賢明な戦略です。最初から高額なソフトを社内一括導入したり最新機材を揃えたりせず、効果が見込める範囲から少しずつ投資することで、コストに見合ったリターンを得やすくなります。例えば、まず一部署でソフトライセンスを取得して結果を検証し、その成果を踏まえて全社展開時の費用対効果を試算する、といった進め方です。小さな成功体験を積み重ね、それをエビデンスとして社内展開することで、無駄のない投資計画が立てられます。
最後に、成功事例や最新情報の収集も積極的に行いましょう。他社のBIM導入事例でROIがどう改善されたか、業界全体でどのような効果報告があるかを知ることで、自社の導入効果を測る際の参考になります。海外ではBIM義務化によって国家レベルでのコスト削減が実証されている例もありますし、国内でも大手ゼネコンを中心に「初年度で投資額以上のコスト削減効果を達成した」といった報告があります。こうした情報は社内の意思決定にも説得力を与えてくれるでしょう。
まとめ
BIM導入で陥りやすい3つの落とし穴と対策について解説しました。「目的・計画の不備」「現場との不整合」「費用対効果の誤解」はいずれも多くの企業が直面するポイントですが、事前にしっかり準備し正しいアプローチを取れば乗り越えられる課題です。BIMは単なるソフトウェア導入ではなく、自社の業務プロセスや文化そのものをアップデートする取り組みと言えます。導入過程では試行錯誤もあるでしょうが、失敗から学び改善を重 ねていく姿勢が成功への鍵を握ります。だからこそ経営層のビジョン設定から現場レベルのルール作り、人材育成まで包括的な視点で計画を練り、段階的に実行していくことが成功への近道となるでしょう。
BIMを上手に活用できれば、設計・施工の品質向上、プロジェクト全体の効率化、ひいては将来的な建物維持管理の高度化まで、多くのメリットが得られます。その実現のためにも、本記事で挙げた落とし穴を他山の石とし、確実に対策を講じながら導入を進めてみてください。
また、BIMの効果を最大化するには、現場での正確なデータ取得が欠かせません。 既存建物や施工現場の寸法・形状を高精度に把握することで、BIMモデルの信頼性が高まり、施工計画や出来形管理もスムーズになります。そこで注目されているのが、スマートフォンを活用した簡易測量です。例えば、スマホに装着できる小型GNSS端末「LRTK」を使えば、専門の測量機器がなくても誰でも手軽にセンチメートル精度の測位が可能です。複雑な設定や高額な機材を必要としないLRTKによる簡易測量なら、現場担当者自ら短時間で現況データを取得し 、そのままBIMモデルに反映できます。こうした最新ツールを活用することで、測量コストの削減やヒューマンエラーの防止にもつながり、BIM導入の効果をさらに高めることができるでしょう。なお、LRTKによるセンチメートル級測量は国土交通省が提唱するi-Constructionの理念にも合致しており、現場DXの有力なソリューションとして期待されています。興味がある方は、ぜひ[LRTK公式サイト](https://www.lrtk.lefixea.com/)もチェックしてみてください。手軽で高精度な現場測量の手法が、皆様のBIM活用を力強く後押ししてくれるはずです。
BIMという新たな挑戦の先には、大きな成果が待っています。皆様の現場でも、ぜひ一歩ずつ着実に取り組んでみてください。
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