建設業界では近年、BIMという言葉が急速に浸透しています。BIMとは *Building Information Modeling* (ビルディング・インフォメーション・モデリング)の略称で、建築物やインフラの情報を3次元モデル上で一元管理・共有する手法です。なお、土木分野では同様の概念を*CIM*(Construction Information Modeling)と呼び、日本では建築と土木をあわせてBIM/CIMとして一体的に推進する動きが見られます。従来の2次元図面中心の業務とは異なり、BIMでは建物の形状に加えて部材の仕様や数量、工程やコストなどあらゆるデータをデジタルなモデルに組み込んで扱います。その結果、プロジェクトに関わる関係者全員が同じモデルを参照しながら計画・設計・施工を進めることが可能となり、様々な面で従来にはない効果を発揮します。
こう したBIMの活用は、建設プロジェクトの成功に直結する重要なポイントとなりつつあります。特にここ数年で国土交通省をはじめ行政主導の推進策が相次ぎ、業界全体でデジタル変革(DX)の波が押し寄せています。まさになぜ今、BIMが必要なのか?という問いが多くの現場で聞かれるようになってきました。本記事では、その答えとなる建設プロジェクトを成功に導く5つの理由について解説します。
1. 業務効率の向上とコスト削減
BIMを導入する最大のメリットの一つが、業務全体の効率化とコスト削減です。3Dモデルを活用することで、設計から施工までのプロセスを大幅に最適化できます。従来は設計図や施工図の作成に多大な時間がかかり、図面間の不整合による手戻りも発生していました。BIMならこれらをデジタル上で事前に検証できるため、無駄な作業ややり直しを減らすことが可能です。結果としてプロジェクト全体の工期短縮やコスト圧縮につながります。
具体的には、BIMを活用することで以下のような効果が得られます。
• 干渉チェックによる手戻り削減:建築・構造・設備など各分野の3Dモデルを重ね合わせて干渉(クラッシュ)チェックを行うことで、設計段階で図面の不整合や衝突を発見できます。施工に入ってから部材が他と干渉して施工できないといったミスを防ぎ、後戻り工事の発生を抑制します。
• 施工シミュレーションによる工程最適化:BIMモデル上で施工手順をシミュレーションし、クレーンの配置や資材搬入の順序を検討できます。これにより工程計画を最適化し、現場での段取り時間を短縮できます。工期の短縮はひいては人件費や仮設費用の削減につながります。
• 正確な数量集計とコスト算出:モデルに部材情報が紐付いているため、材料や部品の数量を自動で集計可能です。そのデータを基に正確な積算やコストシミュレーションができるため、予算管理の精度が向上します。余分な発注や材料ロスを減らし、コスト削減に貢献します。
このようにBIMは、プロジェクトのあらゆる場面で効率化を促し、コスト面でも大きなメリットをもたらします。限られた人員や予算で成果を最大化するための強力な手段と言えるでしょう。
2. 情報共有とコミュニケーションの円滑化
建設プロジェクトは多くの関係者が協働するチーム作業です。発注者(施主)・建築士・施工者・設備業者など、それぞれ異なる立場の人々が関与する中で、情報共有のミスや行き違いが生じるとプロジェクトに支障をきたします。BIMを導入すれば、関係者全員が共通の3Dモデルとデータに基づいてコミュニケーションできるため、情報共有が格段にスムーズになります。
従来は設計変更の度に図面を修正し関係者へ配布するといった手間が発生していましたが、BIMではデジタルモデルを更新すれば最新情報が即座に共有されます。また、平面的な図面だけでは伝わりにくかった完成イメージも、3Dモデルを用いれば施主や現場担当者に直感的に伝えることができます。これによって聞いていた話と違うといった認識の食い違いを防ぎ、合意形成を円滑にする効果があります。
BIMを活用した情報共有の具体例として、次のような点が挙げられます。
• リアルタイムな図面修正共有:設計内容の変更が生じた際、BIMモデル上で修正すれば自動的に関連図面や数量が更新されます。そのモデルデータをクラウド経由で共有すれば、地理的に離れたチームでも即座に最新情報を閲覧可能です。メールで図面を送付したり、古い版の図面が混在するリスクを減らせます。
• 3Dモデルによる合意形成:施主との打ち合わせ時にBIMモデルを画面に映し出し、建物の内観や外観を360度見せながら説明できます。施主は完成後の姿を具体的にイメージできるため、要望の聞き取りやデザイン確認がスムーズになります。口頭や2D図面だけでは伝わりづらかったニュアンスも共有しやすくなります。
• 課題の早期発見と共有:モデル上で検討を進める過程で、設計上の不備や施工上の課題が見つかった場合、その箇所をモデル上にマークしたりコメントを付けたりして関係者に共有できます。問題点を早期に共有・協議できるため、対応策の検討が前倒しで可能とな り、致命的なトラブルを未然に防げます。
実際に、沖縄県で進められた首里城再建プロジェクトではBIMを用いて「首里城デジタルツイン」が構築され、工事関係者間や来訪者との情報共有に活用されました。デジタルモデルが共通基盤となることで、関係者全員の共通理解が深まり、プロジェクトを円滑に進める一助となった例と言えます。
このようにBIMは共通言語として機能し、チーム内外のコミュニケーションロスを最小限にします。情報伝達のスピードと質が向上することで、プロジェクト全体の生産性と信頼性が高まるでしょう。
3. 設計・施工の品質向上とリスク低減
BIMの活用によって、設計や施工の品質を大きく向上させることができます。デジタルモデル上で事前に綿密な検討を行うことで、現場でのミスや品質不良を減らし、完成物の出来栄えを高められます。また計画段階で潜在リスクを洗い出しておけば、安全管理や工程管理の面でもトラブルを未然に防 止できます。以下にBIMが品質と安全にもたらす具体的な効果を示します。
• 設計段階での品質確保:図面の不整合や要素間の干渉を事前に発見・解消し、可能な限り一回で正しく作ることが可能になります。例えば、鉄骨と配管の取り合いを3D上で検証してクリアランスを確保しておけば、現場で配管が通らず付け直すといったやり直しを防げます。細部まで整合の取れた設計は、そのまま施工品質の向上につながります。
• 安全シミュレーションによるリスク低減:施工フローを4Dシミュレーション(時間軸を含めたモデル化)することで、危険な箇所や作業を事前に洗い出して対策を講じることができます。例えば、高所作業の手順やクレーンの旋回範囲をモデル上で確認し、潜在的なリスクに先手を打っておけば、現場での事故やヒヤリハットを減らせます。BIMを活用した安全計画により、品質と安全の両立したプロジェクト運営が実現できるでしょう。
4. 維持管理への活用とライフサイクル最適化
建設プロジェクトの成功は、引き渡しまでで終わりではありません。竣工後の建物やインフラを長期にわたって有効活用し、維持管理コストを最適化していくことも重要です。BIMは完成後の維持管理(FM: ファシリティマネジメント)の段階でも大きな価値を発揮します。施工時に作成した詳細なデジタルモデルを活用することで、ライフサイクル全体を見据えた資産管理が可能となるのです。
例えば、BIMモデルには建物の各部材や設備の属性情報(メーカー、型番、耐用年数、メンテナンス履歴など)を紐付けておくことができます。これにより竣工後、建物オーナーや管理者はモデルを参照するだけで点検・修繕の必要箇所や時期を把握できます。以下にBIMが維持管理に貢献する例を示します。
• 設備の予防保全と故障予測:設備機器の稼働年数や点検履歴をモデル上で管理することで、故障の予兆を把握したり計画的な部品交換が可能になります。BIMモデルをデータベースとして活用し、老朽化した部材を一覧管理すれば、突然の設備停止といったリスクを低減できます。

