建設業界で近年頻繁に耳にするようになった「BIM」という言葉。今さら人には聞けないけれど、実際には何のことかよく分からない...という方も多いのではないでしょうか。本記事では、BIMとは何か、その基本から建設業界にもたらす変革、導入のメリットや課題までを徹底解説します。デジタル技術が建設の現場をどのように変えていくのか、一緒に見ていきましょう。
BIMとは何か?
BIMとはBuilding Information Modeling(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の略称で、建物に関するあらゆる情報を3次元デジタルモデルとして一元管理する手法・概念です。簡単に言えば、コンピュータ上に建物の仮想モデルを作り、その中に 設計図や施工情報、部材の仕様、工程、コストなどのあらゆるデータを紐付けて管理するものです。
従来のCADが平面図や立面図といった図面データを扱うのに対し、BIMでは柱や壁、窓、設備機器といったオブジェクトをデータの単位とします。例えばBIMソフト上で壁を配置すれば、その壁には高さ・厚さ・材料・仕上げなどの属性情報が付与されます。そして複数のオブジェクトを組み合わせて建物全体の3Dモデルが構築され、そこから自動的に平面図や断面図、仕上表、数量表などを生成することができます。このようにBIMモデルは単なる3D図面ではなく、「建物のデータベース」とも言える存在なのです。
BIMが注目される背景
なぜ今、BIMがこれほど注目されているのでしょうか。その背景には、建設業界が抱える構造的な課題とデジタル化の波があります。
日本の建設業界は長年にわたり生産性が伸び悩んでいると言われてきました。人手不足や熟練技術者の高齢化が進む一方で、図面作成や現場管理など多くの業務が従来型の手作業に頼ってきたためです。他産業では製造業を中心に3次元CADやデジタルデータの活用が当たり前になっていますが、建設分野では紙の図面や2次元CADが依然主流で、デジタル化が遅れていました。
こうした状況を打開する手段として期待されているのがBIMです。国土交通省も2016年に「i-Construction」という取り組みを開始し、ICT技術による建設プロセスの革新を推進してきました。その柱の一つがBIMの普及促進です。また近年では、建築確認申請の電子化・デジタル化に伴いBIMの活用が実質的に必須となる流れが生まれつつあります。例えば2025年度から段階的にBIMによる確認申請が始まり、2026年以降にはBIMデータを用いた図面審査が本格化する予定です。将来的にはほとんどの建築プロジェクトでBIMが使われるようになると見込まれており、業界としてその波に乗り遅れないことが重要視されています。
BIMのメリット・効果
BIMを導入すると具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。以下に主要な効果を挙げてみます。
• 設計ミス・手戻りの削減: BIMモデル上で建物全体を立体的に検討できるため、早い段階で干渉チェック(クラッシュチェック)を行い、図面の矛盾や部材の衝突を発見できます。これにより施工段階に入ってからの手戻りや工事ミスを大幅に減らすことができます。
• 生産性・コスト管理の向上: 図面作成作業の自動化や部材数量の自動集計により、設計者・施工管理者の作業効率が向上します。また、正確な数量情報に基づいて材料費や工期の見積もり精度が高まり、コスト管理の面でも効果を発揮します。
• 関係者間の円滑な情報共有: BIMモデルという共通プラットフォームを通じて、建築主・設計者・施工者・設備業者などプロジェクトの全関係者が常に最新の情報を共有できます。図面の読み違いや認識のズレが減少し、コミュニケーションロスが改善されます。3Dのビジュアル情報は施主への説明や合意形成にも役立ちます。
• 施工計画・工程管理の高度化: BIMは4Dシミュレーション(時間軸の要素を加えた施工シミュレーション)により、施工手順や工程を仮想空間で再現できます。これによって、クレーンや重機の配置計画、資材搬入の動線確認、作業員の安全確保といった施工計画が綿密に立てられ、工期短縮や安全性向上に繋がります。
• 維持管理・FM(ファシリティマネジメント)への活用: 建物引き渡し後もBIMデータは価値を持ちます。竣工時のBIMモデルをそのままデジタルな台帳として設備管理に活用したり、リフォーム時に現況図として参照したりできます。建物のライフサイクル全体で情報を引き継ぎ、将来的にはBIMデータを活用したデジタルツインによって高度な維持管理を行うことも可能になります。
このようにBIMは、設計・施工・維持管理のあらゆる段階で多面的なメリットをもたらす技術なのです。
BIMと従来のCADの違い
BIMの理解を深めるために、従来のCADとの違いも押さえておきましょう。最大のポイントは、扱う情報の粒度と一貫性です。
従来の2次元CADでは、平面図や立面図など複数の図面を個別に作図し、それぞれを人手で整合させる必要がありました。例えば柱の位置を変更した場合、関連するすべての図面を修正しなければならず、修正漏れがミスに繋がることもあります。また、CAD図面そのものには部材の数量や仕様といった情報は含まれておらず、別途拾い出しや仕様書を参照する必要がありました。
一方、BIMでは前述の通り単一の3Dモデルにすべての情報が集約されています。壁や柱を動かせば連動して各図面も自動更新され、変更漏れが発生しません。また各オブジェクトには属性データとして材質や寸法、メーカー品番、重量、価格など必要に応じた情報を付与できます。つまり、一つのBIMモデルが設計図書であると同時に、見積書や部材表にもなり得るのです。情報が一元管理されているため、変更があれば瞬時に関連情報へ反映され、プロジェクト全体の「単一の真実(Single Source of Truth)」を保つことができます。
要するに、CADが「線と面による図面作成ツール」だとすれば、BIMは「オブジェクトと情報による建築データプラットフォーム」であると言えるでしょう。
BIMがもたらす建設業界の変革
BIMの導入は、個別プロジェクトの効率化に留まらず、建設業界全体の働き方やビジネスモデルにも変革をもたらすと期待されています。
まず、生産性革命です。BIMによって従来は膨大な時間を要した図面調整や数量拾いなどの業務が効率化され、人手不足の中でも少人数で質の高い成果物を出せるようになります。これは慢性的な職人・技術者不足の解消策としても重要です。また手戻り削減によるコスト圧縮効果は、受注競争力の強化にも繋がります。
次に、コラボレーションの深化があります。BIMの共有プラットフォームを通じて設計者と施工者が初期段階から緊密に連携する「フロントローディング」が可能となり、設計と施工の垣根を越えた協働が進みます。結果として品質向上やリスク低減が実現し 、ひいてはクライアント満足度の向上やクレーム削減にも寄与します。
さらに、BIMは建設プロセスのデジタル化を通じて新たなサービスの創出も促します。例えばBIMモデルをクラウドで共有して遠隔地から現場の進捗をモニタリングしたり、VR技術と組み合わせて完成予想をバーチャル体験できるサービスを提供したりと、デジタルならではの付加価値が生まれています。プレハブ工法やモジュール建築ではBIMデータをもとに工場生産を行い、現場作業を縮減する取り組みも活発化しています。こうした流れは建設業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させるものです。
日本におけるBIMの現状と動向
海外に比べ立ち遅れていた日本のBIM導入ですが、近年になって急速に動きが活発化しています。大手ゼネコンや設計事務所の多くは既にBIMプロジェクトを進めており、国交省発注の公共事業でもBIM/CIMの活用が拡大しています。
国レベルでは、前述の通り建築確認申請のBIM対応という大きな目標が設定されました。2025年度から一部でBIMによる電子申請が試行され、2026年春にはBIMで作成したデータによる図面審査が開始、さらに2029年には全国でBIMデータを用いた申請・審査が導入される予定です。つまり数年内には、建築の許認可手続き自体がBIM前提へと移行する見込みであり、業界として対応は待ったなしの状況です。
現在、日本でBIMを「何らかの形で活用している」企業・案件の割合は約50%弱とも言われています。英国など海外では既に実務者の70%以上がBIM活用しているとの調査もあり、日本の遅れが指摘されています。しかしその差を埋めるべく、国や業界団体も研修やガイドライン整備、導入支援策に力を入れています。特に中小規模の建設会社や設計事務所にもBIMを浸透させることが課題となっており、クラウド型の安価なBIMソフトや簡易BIMツールの提供など、参入ハードルを下げる試みも増えてきました。
このように、日本のBIM活用はまさに過渡期にあります。早めに経験を積みノウハウを得た企業が競争力を高める一方、対応を先送りした企業は将来的に仕事を失うリスクもあります。今後、生き残りをかけてBIMへの対応が不可欠と言えるでしょう。
BIM導入の課題とポイント
多くのメリットがあるBIMですが、その導入にはいくつかの課題も指摘されています。新しい技術ゆえのハードルを理解し、対策を講じることが成功の鍵です。
• 初期投資とコスト: 専用のBIMソフトウェアライセンスや高性能なPCの用意など、導入初期には一定の費用がかかります。またソフトの導入だけでなく社員研修や運用ルール作りにもコストと時間を要します。これらを惜しまず、将来的な効果への投資と捉えられるかがポイントです。
• 人材育成と慣熟期間: BIMソフトの操作や3Dでの設計手法には習熟が必要です。導入後しばらくは従来業務より時間がかかるケースもあります。しかし初期の試行錯誤を経て社内にBIM人材が育てば、その後の大幅な効率化に繋がります。若手社員を中心に外部セミナーやトレーニングを受講させるなど計画的な人材育成が重要です。
• ワークフロー の見直し: BIM導入は単にツールの置き換えではなく、業務プロセス自体の改革を伴います。設計・施工間の情報共有手順や発注者との合意形成プロセスなど、従来のやり方を見直す必要があります。社内外で共通ルール(命名規則やモデルの作り方等)を策定し、関係者との協調体制を整えることが求められます。
• 他社とのデータ連携: プロジェクトでは複数の企業が関与するため、BIMデータの共有・互換性も課題です。ソフトウェアが異なるとネイティブデータを直接やり取りできない場合もありますが、中立的なIFC形式などデータ交換標準を活用することで解決を図ります。発注者側がプラットフォームを用意して関係者全員がアクセスできる共通データ環境(CDE)を構築する事例も増えています。
これらの課題に対しては、まず小規模なプロジェクトや部分的な業務からBIM運用を試し、成功体験を積むことが有効です。経営層の理解と現場の協力を得ながら計画的に段階導入することで、リスクを抑えつつ定着を図れるでしょう。
BIM時代の簡易測量:現場のデジタル化を手軽に始める
BIMの効果を最大限に引き出すには、現場の情報をいかに正確かつ効率的にデジタル化するかがポイントになります。例えばリノベーションやリフォームでは、既存建物をレーザースキャナー等で測量して点群データを取得し、BIMモデル化する手法が普及しています。また土木工事においてもドローンによる空撮測量や3Dスキャンで地形モデルを作成し、CIM(Construction Information Modeling)の基盤データとするケースが増えています。
こうした3D測量には以前は高価な機材や専門技術が必要でしたが、近年は手軽に現場のデジタルデータ取得を行えるソリューションも登場しています。その一つが、スマートフォンを活用した簡易測量です。
例えばiPhoneやiPadに小型のRTK-GNSS受信機を取り付けて高精度な測位を行う[LRTK Phone](https://www.lrtk.lefixea.com/lrtk-phone)というデバイスがあります。この仕組みを使うと、スマホがセンチメートル級の精度を持つ測量機器に早変わりし、1人でも手軽に位置座標や標高の計測が可能です。取得した点の座標データはクラウド上で地図にプロットして管理できるほか、スマホ内蔵のカメラ やLiDARスキャナと組み合わせて現場の写真や簡易点群を記録することもできます。従来は専門の測量チームや高額な機材が必要だった作業が、ポケットサイズのツールで実現できるのです。
このような簡易測量の技術を活用すれば、低コストで精度の高い現場データを入手できるため、BIM導入の下準備や小規模案件でのデジタル化がぐっと身近になります。例えば小さなリフォーム案件でも、LRTKのようなツールで現況寸法を素早く取得し、そのデータをもとにBIMモデルを起こすことで、効率的に計画を進めることが可能です。BIMと現場を繋ぐ橋渡し役として、最新の測量ガジェットを上手に使いこなすことが、これからの建設DXの鍵を握るでしょう。
まとめ:デジタル技術で建設業の未来を切り拓く
BIMは単なる流行のITツールではなく、建設プロジェクトの進め方を根本から変革する力を持ったテクノロジーです。図面や情報を一元管理することで生産性を飛躍的に高め、関係者全員がデータに基づいて意思決定できるようになります。少子高齢化や働き方改革といった課題に直面する建設業界にとって、BIMの活用は避けて通れない未来と言えるでしょう。
もっとも、デジタル化の恩恵を得るためには、実際の現場とデータを繋ぐ努力も不可欠です。まだBIMに踏み出せていないという方は、まずは手軽に始められるところからデジタル技術を取り入れてみてはいかがでしょうか。例えばスマホを使った簡易測量で現場のデータを集めてみるだけでも、従来との違いを実感できるはずです。それがBIM活用への第一歩となり、ひいては建設業界全体の生産性向上に繋がっていくでしょう。デジタル技術を味方につけて、これからの建設の未来を一緒に切り拓いていきましょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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