目次
• ARで保全巡回の優先度を色分けする意味
• 方法1 緊急度を赤黄緑で直感的に分ける
• 方法2 劣化の進行度を段階色で見える化する
• 方法3 巡回ルート上で対応期限を色に反映する
• 方法4 設備種別ごとに色の意味を統一する
• 方法5 記録写真と点検コメントを色分けに結び付ける
• AR色分けを運用に定着させるための注意点
• まとめ
ARで保全巡回の優先度を色分けする意味
保全巡回では、限られた時間の中で多くの設備や構造物を確認し、異常の有無を判断します。現場には、早急に確認したい箇所もあれば、経過観察でよい箇所、通常巡回で状態を確認すればよい箇所もあります。しかし、紙の点検表や写真フォルダだけで管理していると、どの場所を先に見るべきか、どの異常が重要なのかを現場で判断しにくくなることがあります。
ARを使った保全巡回では、現実の設備や構造物に対して、点検情報や注意情報を重ねて表示できます。そこで優先度を色分けしておくと、担当者は現場を歩きながら、危険度や対応順を視覚的に把握しやすくなります。たとえば、緊急確認が必要な箇所を赤、早めの確認が必要な箇所を黄、通常巡回でよい箇所を緑で表示すれば、経験の浅い担当者でも判断の入口をそろえやすくなります。
保全巡回で重要なのは、単に異常を見つけることだけではありません。異常を見つけた後に、どの順番で確認し、誰に共有し、どの記録を残すかまでを流れとして整えることです。ARの色分けは、この流れを現場で迷わず実行するための補助になります。画面上に色が出ることで、担当者は「ここは見落としてはいけない」「ここは前回から変化を確認する」「ここは通常確認でよい」といった判断を短時間で行いやすくなります。
また、保全巡回は複数人で担当することが多く、担当者ごとの経験差が結果に出やすい業務です。ベテランであれば違和感に気付ける箇所でも、新任者は重要性を判断しにくい場合があります。AR上で優先度を色分けしておけば、判断基準を現場に持ち込めるため、巡回品質のばらつきを抑えやすくなります。
ただし、色分けは便利である一方、運用ルールが曖昧だと逆効果になることがあります。赤が多すぎると本当に確認すべき箇所が埋もれます。黄と緑の違いが人によって変わると、記録の意味が揺らぎます。色の意味を現場全体で統一し、判断基準と記録方法をセットで決めておくことが、AR活用の前提になります。
方法1 緊急度を赤黄緑で直感的に分ける
ARで保全巡回の優先度を色分けする最も基本的な方法は、緊急度を赤、黄、緑のような分かりやすい色で表すことです。現場担当者が画面を見た瞬間に、どこから確認すべきかを判断できるため、巡回の初動を整えやすくなります。
赤は、すぐに確認または対応判断が必要な箇所に使います 。たとえば、漏水の疑いがある箇所、部材の破損が進んでいる箇所、通行や作業に支障が出る可能性がある箇所、前回点検から状態が悪化している箇所などです。赤で表示された場所は、巡回中に必ず立ち止まり、写真、コメント、位置情報、確認時刻を残す運用にすると、対応漏れを防ぎやすくなります。
黄は、すぐに停止や修繕が必要とは限らないものの、注意して確認すべき箇所に使います。軽微なひび割れ、にじみ、変色、固定部のゆるみ、異音の兆候など、今後の変化を追うべき状態が該当します。黄の箇所は、赤に変わる前の予兆を拾う役割を持ちます。そのため、黄を単なる中間色として扱うのではなく、「次回も同じ視点で確認する箇所」として記録を残すことが大切です。
緑は、通常巡回で問題が確認されていない、または前回から大きな変化がない箇所に使います。緑の表示があることで、担当者は確認済みの場所を把握しやすくなります。特に広い施設や複雑な現場では、同じ設備を二重に確認したり、逆に確認漏れが発生したりすることがあります。緑の表示は、巡回の進捗管理にも役立ちます。
この三色分類を使う場合は、色を付ける条件をできるだけ具体的に決める必要があります。たとえば、「赤は作業停止や立入制限の検討を含む状態」「黄は次回点検までに変化確認が必要な状態」「緑は通常範囲内で記録のみ残す状態」のように、現場で使える言葉に落とし込みます。判断基準が曖昧なままだと、ある担当者は赤にする状態を別の担当者は黄にするなど、記録の一貫性が失われます。
また、AR画面では色が強く見えすぎる場合があります。赤の表示が多いと、現場全体が危険だらけに見えてしまい、本当に優先すべき箇所が分かりにくくなります。そのため、赤は厳しめに使い、黄を予兆管理、緑を通常確認として整理することが重要です。色の数を増やしすぎず、まずは三段階で運用を始めると、現場に定着しやすくなります。
方法2 劣化の進行度を段階色で見える化する
保全巡回では、異常の有無だけでなく、劣化がどの程度進んでいるかを把握することが重要です。ひび割れ、腐食、摩耗、沈下、傾き、変形、 漏水跡などは、一度見ただけでは判断しにくい場合があります。そこでAR上に劣化の進行度を段階色で表示すると、前回との違いや重点確認箇所が分かりやすくなります。
劣化の進行度を色分けする場合、単純な危険度だけでなく、時間軸を意識することが大切です。たとえば、前回と変化がない箇所は青系や緑系、軽微な進行が見られる箇所は黄、明らかな進行がある箇所は橙、対応判断が必要な箇所は赤のように分けます。これにより、担当者は「現在危険かどうか」だけでなく、「悪化しているかどうか」を現場で確認できます。
保全業務では、急に壊れる箇所だけが問題になるわけではありません。少しずつ進行する劣化を見落とすと、ある時点で大きな修繕が必要になることがあります。ARで進行度を色分けしておけば、巡回時に過去の記録を探し直さなくても、現場で変化を意識できます。特に、同じ場所を定期的に見る業務では、色の変化そのものが重要な判断材料になります。
この方法を使う場合は、写真や点検コメントと組み 合わせることが欠かせません。色だけでは、なぜその色になったのかが分からないからです。たとえば、黄で表示された箇所には「前回より変色範囲が広がっている」「固定部周辺に軽微なさびがある」「水跡が前回より濃い」といったコメントを残します。赤であれば、「ひび割れ幅が拡大している」「部材端部に欠損がある」「周辺使用に影響する可能性がある」など、判断理由を具体的に記録します。
AR上の段階色は、点検者の記憶に頼らず、現場の状態を継続的に追跡するための仕組みです。前回担当者と今回担当者が違っても、色と記録が残っていれば、確認の視点を引き継ぎやすくなります。これにより、属人的な巡回から、履歴に基づく巡回へ移行しやすくなります。
ただし、劣化の評価は設備や構造物の種類によって異なります。ある設備では軽微な変色でも注意が必要な場合がありますし、別の設備では通常の経年変化として扱える場合もあります。そのため、現場共通の色分けだけでなく、設備ごとの判断基準を補足しておくと実用性が高まります。
方法3 巡回ルート上で対応期限を色に反映する
保全巡回では、異常の重要度だけでなく、いつまでに確認または対応すべきかも大切です。危険度が高い箇所でも、すでに応急処置済みで次回確認まで余裕がある場合があります。一方で、軽微な異常でも、期限が近い確認項目であれば優先して見なければならない場合があります。そこでARの色分けに対応期限を反映すると、巡回ルートの中で優先順位を判断しやすくなります。
たとえば、当日中に確認が必要な箇所を赤、今週中に確認が必要な箇所を橙、次回定期巡回で確認する箇所を黄、期限に余裕がある箇所を緑のように設定します。このように期限を色に変換しておけば、担当者は現場を歩きながら、どの場所に時間をかけるべきかを判断できます。
対応期限の色分けは、巡回ルートの検討にも役立ちます。広い施設や長い道路、複数階にまたがる建物、屋外設備が点在する現場では、すべての箇所を同じ順番で見ると効率が悪くなる場合があります。AR上で期限が近い箇所を目立たせれば、先に確認すべき場所を巡回ルートに組 み込みやすくなります。
また、対応期限を色で表示すると、管理者と現場担当者の認識も合わせやすくなります。管理者が「今週中に見てほしい」と考えている箇所を黄や橙で登録しておけば、現場担当者は巡回時にその意図を確認できます。口頭連絡や別紙の指示だけに頼るよりも、現場の位置と優先度が直接結び付くため、伝達ミスを減らしやすくなります。
この方法で注意したいのは、期限の色と危険度の色を混同しないことです。赤が「危険」を意味するのか、「期限が今日」を意味するのかが曖昧になると、現場判断が混乱します。運用上は、表示モードを分ける、ラベルを併記する、色に加えて期限文字を表示するなどの工夫が必要です。たとえば、通常は危険度表示で巡回し、必要に応じて期限表示に切り替える方法があります。
対応期限の色分けは、保全巡回を単なる確認作業から、計画的な対応管理へ広げる方法です。点検で見つけた異常をその場で記録し、次の巡回や修繕計画に反映することで、現場の情報が止まらず に流れていきます。ARを使えば、その流れを現場の位置情報と一緒に見える化できます。
方法4 設備種別ごとに色の意味を統一する
保全巡回では、対象となる設備や構造物が多岐にわたります。電気設備、機械設備、配管、道路付属物、建物外装、橋梁部材、排水設備、照明、標識、フェンスなど、現場によって確認対象は異なります。これらをすべて同じ色ルールだけで扱うと、かえって分かりにくくなることがあります。
そこで有効なのが、設備種別ごとに色の意味を統一しておく方法です。たとえば、配管では漏水や腐食の優先度、電気設備では発熱や破損の優先度、構造物ではひび割れや変形の優先度というように、対象ごとに重視する確認項目が違います。AR上で色を付ける際も、設備種別に応じた判断基準を持たせることで、より実務に合った巡回が可能になります。
ただし、設備ごとに色の意味を変え すぎると、担当者が覚えきれません。そのため、基本の色ルールは共通にしながら、判断理由を設備別に補足する形が使いやすくなります。赤は緊急確認、黄は注意確認、緑は通常確認という基本を維持しつつ、赤にする条件を設備ごとに定義します。配管であれば漏水や著しい腐食、電気設備であれば破損や異常発熱の疑い、外装であれば落下や剥離の恐れがある箇所といった形です。
AR画面では、色だけでなく、設備種別のラベルも一緒に表示すると分かりやすくなります。たとえば、赤いマーカーに「配管」「外装」「排水」などの分類が表示されれば、担当者はどの視点で確認すべきかを理解しやすくなります。色は優先度、ラベルは対象、コメントは判断理由という役割分担にすると、画面情報が整理されます。
設備種別ごとの色分けは、管理台帳との連携にも向いています。設備番号、設置場所、過去の修繕履歴、前回点検結果をAR表示と結び付ければ、現場で台帳を探す手間が減ります。特に、似たような設備が並ぶ場所では、どの設備が点検対象なのかを間違えやすくなります。ARで位置と色を重ねて表示すれば、対象設備の取り違えを防ぎやすくなります。
また、設備種別ごとに色の意味を統一すると、報告書作成時にも整理しやすくなります。赤の配管異常、黄の外装変化、緑の通常確認というように、優先度と設備種別を組み合わせて集計できます。これにより、どの設備種別で注意箇所が多いのか、どのエリアに赤が集中しているのかを把握しやすくなります。
方法5 記録写真と点検コメントを色分けに結び付ける
ARで優先度を色分けする場合、色だけを表示して終わらせないことが重要です。色は現場での判断を助ける入口ですが、後から見返したときに、なぜその色になったのかが分からなければ、保全記録としては不十分です。そこで、記録写真と点検コメントを色分けに結び付ける運用が必要になります。
たとえば、赤にした箇所では、全景写真、近景写真、異常部分の写真を残し、コメントには異常の種類、確認した状態、必要な対応を記入します。黄にした箇所では、前回比較ができるように同じ角度から写真 を撮り、変化の有無をコメントで残します。緑にした箇所でも、確認済みであることが分かる最低限の記録を残しておくと、巡回漏れの確認に役立ちます。
ARの利点は、写真やコメントを位置と結び付けやすいことです。従来の写真管理では、撮影後にどの場所の写真なのかを整理する手間が発生します。似た設備が並ぶ場所では、写真だけでは対象を判別しにくい場合もあります。ARで現場位置に記録を紐付けておけば、後から同じ場所を確認したときに、過去の写真やコメントをその場で参照できます。
色分けと記録を結び付ける際は、コメントの書き方も標準化しておくと効果的です。「異常あり」「要確認」だけでは、次の担当者が判断できません。「前回より変色範囲が広い」「固定部のゆるみを確認」「周辺に水たまりあり」「次回巡回で再確認」など、具体的な状態と次の行動が分かる表現にします。AR上で短く表示するコメントと、詳細記録として残すコメントを分けてもよいです。
さらに、色の変更履歴を残すことも重要 です。黄から赤に変わった箇所は、状態が悪化した可能性があります。赤から黄に変わった箇所は、応急対応や修繕によってリスクが下がった可能性があります。緑から黄に変わった箇所は、新たな注意点が発生したことを示します。このような変化を履歴として残せば、保全判断の根拠を説明しやすくなります。
記録写真と点検コメントを色分けに結び付けることで、ARは単なる表示ツールではなく、保全履歴を蓄積する仕組みになります。現場で見た情報をその場で記録し、次の巡回、修繕判断、報告書作成へつなげることができます。
AR色分けを運用に定着させるための注意点
ARで保全巡回の優先度を色分けする仕組みは便利ですが、導入しただけで自然に定着するわけではありません。現場で使い続けるためには、色の意味、記録の粒度、更新のタイミング、確認責任を明確にする必要があります。
まず、色 の意味を現場全体で共有することが重要です。赤、黄、緑の意味が担当者ごとに違うと、記録の信頼性が下がります。巡回前に簡単な基準表を用意し、赤は即確認、黄は注意確認、緑は通常確認といった共通理解を作ります。特に赤の条件は厳格にしておく必要があります。赤が多すぎると、緊急度の高い情報が埋もれてしまうからです。
次に、色を更新するタイミングを決めます。点検したら必ず色を見直すのか、異常が変化した場合だけ更新するのか、修繕後に誰が色を変更するのかを決めておかないと、古い色が残り続けます。古い赤が残っていると、対応済みなのか未対応なのか分からなくなります。逆に、確認しないまま緑に戻してしまうと、リスクの見落としにつながります。
また、AR表示に頼りすぎないことも大切です。ARの色分けは判断を補助するものであり、最終判断を完全に自動化するものではありません。現場の音、におい、振動、周辺状況、天候、使用状況など、画面だけでは分からない情報もあります。ARで赤や黄が出ていない場所でも、担当者が異常を感じた場合は記録できる運用にしておく必要があります。
画面の見やすさにも注意が必要です。屋外では日差しで画面が見えにくくなることがあります。暗い場所や雨天時、手袋をした作業、足元が悪い場所では、画面操作に時間をかけにくい場合もあります。色分けはできるだけ単純にし、操作回数を少なくすることが現場定着につながります。
さらに、色覚の違いへの配慮も必要です。色だけで判断させるのではなく、文字ラベル、アイコン、優先度名を併用すると、より多くの担当者が使いやすくなります。赤だけでなく「緊急」、黄だけでなく「注意」、緑だけでなく「通常」と表示すれば、色の見え方に差があっても判断しやすくなります。
保全巡回でAR色分けを定着させるには、最初から複雑な仕組みにしないことも重要です。初期段階では、緊急度の三色表示と記録写真の紐付けから始め、運用に慣れてから劣化進行度、対応期限、設備種別、履歴比較へ広げるとよいです。現場で使われない高機能より、毎回使える簡単な仕組みの方が効果を出しやすくなります。
まとめ
ARで保全巡回の優先度を色分けすると、現場で確認すべき箇所を直感的に把握しやすくなります。赤、黄、緑のような基本的な色分けだけでも、緊急確認、注意確認、通常確認を分けることができ、巡回の抜け漏れを減らす助けになります。
さらに、劣化の進行度、対応期限、設備種別、記録写真、点検コメントを色分けと結び付けることで、ARは単なる現場表示ではなく、保全判断を支える情報基盤になります。前回との変化を確認し、期限が近い箇所を優先し、設備ごとの注意点を共有し、記録を次回巡回へつなげることができます。
一方で、色分けはルールが曖昧だと混乱を招きます。赤の基準、黄の意味、緑の扱い、更新タイミング、記録方法を決めておくことが欠かせません。色だけに頼らず、ラベルやコメント、写真、履歴を組み合わせることで、担当者が変わっても判断を引き継ぎやすくなります。
保全巡回では、現場で見た情報をその場で判断し、記録し、次の対応へつなげることが重要です。ARの色分けは、その一連の流れを分かりやすくする方法です。まずは緊急度の三色表示から始め、現場に合った判断基準を少しずつ整えることで、巡回の効率化と見落とし防止につながります。
現場でARを活用し、位置情報付きの記録や優先度表示を保全業務に取り入れたい場合は、スマートフォンを使った現場確認の流れまで含めて検討すると実践しやすくなります。保全巡回の記録、確認、共有を一つの流れにまとめたい担当者は、まず小さな巡回範囲から試験運用し、色分けの基準と記録方法を現場に合わせて整えていくことが大切です。
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