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ARで産業ロボット周辺の危険範囲を示す5つの対策

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この記事は平均7分15秒で読めます
万能の測量機LRTKの説明

著者: LRTKチーム

目次

ARで危険範囲を見える化する目的

対策1 動作範囲と立入禁止範囲をARで重ねて表示する

対策2 作業状態ごとに危険範囲の表示を切り替える

対策3 人の移動経路と退避位置をARで示す

対策4 点検・教示・復旧作業時の注意点を現場に紐づける

対策5 記録と教育にAR表示を活用して安全意識を定着させる

ARを安全対策に使うときの注意点

まとめ


ARで危険範囲を見える化する目的

産業ロボットが稼働する現場では、ロボット本体だけでなく、アームの可動範囲、エンドエフェクタ、ワークの搬送範囲、治具の回転範囲、周辺装置の動作範囲まで含めて危険を考える必要があります。見た目には空いている空間であっても、ロボットが高速で移動したり、予想外の姿勢でアームが張り出したりすることで、作業者にとって危険な領域になる場合があります。そのため、危険範囲を一部の熟練者だけが理解している状態にせず、現場で誰が見ても確認しやすい形にすることが重要です。


ARは、現実の設備や床面にデジタル情報を重ねて表示できる技術です。産業ロボットの周辺では、図面や手順書だけでは伝わりにくい危険範囲を、実際のロボット、柵、搬送ライン、作業台、通路などに合わせて表示できます。たとえば、床面に立入禁止範囲を重ねたり、ロボットアームの到達範囲を半透明の領域として示したり、作業者が確認する位置を現場上に案内したりできます。


ただし、ARは安全柵、インターロック、非常停止、保護装置、標識、作業手順、教育訓練などの安全対策を置き換えるものではありません。産業ロボット周辺の安全確保では、法令、規格、メーカー資料、リスクアセスメント、社内手順に基づいて必要な保護方策を整えることが前提です。ARはそのうえで、危険を認識しやすくし、作業者の思い込みや見落としを減らすための補助的な見える化手段として位置づけるのが現実的です。


産業ロボット周辺では、通常運転時だけでなく、段取り替え、点検、清掃、教示、異常停止後の復旧など、さまざまな作業状態が発生します。通常運転中は近づかない場所でも、停止中の点検では作業者がロボット周辺に入ることがあります。反対に、停止しているように見えても、残圧、保持物、重力落下、再起動、周辺装置の残留動作などによって危険が残ることもあります。ARで危険範囲を示す場合は、こうした作業状態の違いまで考慮する必要があります。


この記事では、ARで産業ロボット周辺の危険範囲を示すための5つの対策を、実務担当者向けに整理します。単に目立つ表示を作るのではなく、どの範囲を示すのか、いつ表示するのか、誰に向けて表示するのか、どのように記録や教育へつなげるのかを設計することで、現場で使いやすい安全確認の補助表示にできます。


対策1 動作範囲と立入禁止範囲をARで重ねて表示する

産業ロボット周辺の危険範囲をARで示すうえで、最初に取り組みたいのが、ロボットの動作範囲と立入禁止範囲の見える化です。現場では、安全柵や床面表示があっても、実際にロボットアームがどこまで届くのか、ワークがどの方向へ動くのか、周辺装置とどの範囲で干渉するのかが分かりにくい場合があります。特に、ロボットが多関節で複雑な姿勢を取る場合や、複数の工程を同じエリアで行う場合は、平面的な線だけでは危険のイメージが伝わりにくくなります。


ARを使うと、ロボットの周辺空間に動作範囲を重ねて表示できます。床面には立入禁止エリアを色付きの面として表示し、空間にはアームが到達する領域を半透明のボリュームとして示すことで、作業者は「この線を越えてはいけない」という理解だけでなく、「なぜその範囲が危険なのか」まで把握しやすくなります。新人、応援者、別工程から一時的に入る作業者にとって、現場に立ったときに危険範囲を確認できることは大きな助けになります。


表示する範囲は、ロボット本体の最大到達範囲だけで決めないことが重要です。実際の危険範囲には、把持している部品や工具、搬送物、治具、周辺装置の動きも含まれます。ロボット単体では届かないように見える位置でも、長いワークを保持している場合や、回転工具が付いている場合には危険が広がります。AR表示を設計するときは、ロボットの仕様上の可動範囲だけでなく、現場で実際に扱う対象物を含めた作業範囲として整理することが必要です。


危険範囲は常に同じ広さとは限りません。通常運転時、低速運転時、段取り替え時、停止中点検時では、許容される立ち位置や注意すべき範囲が変わります。最初の段階では、最も基本となる通常運転時の危険範囲を明確に表示し、その後に作業状態別の表示へ拡張すると運用しやすくなります。初めから細かい表示を作り込みすぎると、現場で確認する側が混乱するため、まずは入ってはいけない範囲、近づく前に確認が必要な範囲、安全な通路の区別を分かりやすくすることが大切です。


AR表示では、色や透過率の使い方も重要です。危険範囲を強く示したいからといって、画面全体を濃い色で覆うと、実際の設備や足元が見えにくくなります。反対に、表示が薄すぎると危険範囲として認識されません。床面の立入禁止範囲は視認性を高めつつ、設備確認を妨げない濃さにします。空間上の可動範囲は半透明にし、境界線や注意マークを組み合わせると、奥行きのある危険範囲を理解しやすくなります。


危険範囲の境界は、できるだけ現場の基準物に合わせます。床のライン、柵の支柱、作業台の角、搬送ラインの端、柱、壁など、作業者が実際に認識しやすいものとAR表示を合わせることで、表示と現実のズレに気づきやすくなります。ARの位置合わせが少しずれた場合でも、現場の基準物と照合できれば、作業者が誤解しにくくなります。


動作範囲と立入禁止範囲のAR表示は、単なる注意喚起ではなく、現場の共通認識を作るための土台です。安全担当者、設備担当者、製造担当者、保全担当者が同じAR表示を見ながら確認することで、危険範囲の認識違いを減らせます。紙の図面や口頭説明では伝わりにくかった空間的な危険を、現場の実寸感覚に近い形で共有できる点がARの価値です。


対策2 作業状態ごとに危険範囲の表示を切り替える

産業ロボット周辺の安全対策では、作業状態ごとの違いを無視できません。通常運転中はロボットが自動で動き、作業者は危険範囲の外から監視することが基本になります。一方で、段取り替えや点検では、作業者がロボット周辺に近づく場面があります。教示作業では、ロボットを低速で動かしながら位置を調整することもあります。異常停止後の復旧では、停止原因の確認やワークの取り出しが必要になる場合もあります。


このように、同じロボットセルであっても、作業状態によって危険の内容は変わります。ARで危険範囲を示す場合も、常に同じ表示を出すのではなく、状態に応じて表示を切り替える設計が有効です。通常運転中は立入禁止範囲を強調し、停止中点検では確認すべきエネルギー源や挟まれやすい場所を表示し、教示作業では低速動作時の注意領域や立ち位置を示すといった使い分けが考えられます。


作業状態別の表示を設計する際は、まず現場で発生する作業を整理します。通常運転、起動前確認、停止後確認、段取り替え、清掃、点検、部品交換、教示、異常復旧、試運転など、実際の作業単位で分類します。そのうえで、それぞれの作業で人がどこに立つのか、ロボットや周辺装置がどのように動くのか、危険が残る場所はどこかを確認します。AR表示は、この作業整理とリスクアセスメントに基づいて作る必要があります。


作業状態の切り替えは、現場で迷わず使えることが重要です。表示メニューが複雑すぎると、作業者が正しい状態を選べず、かえって危険な表示になるおそれがあります。通常運転、点検、教示、復旧のように大きな分類から始め、必要に応じて詳細表示へ進む形にすると運用しやすくなります。各表示には、現在どの状態の情報を見ているのかを分かりやすく示し、作業者が表示状態を誤認しないようにします。


ARの表示内容は、危険範囲だけでなく、作業前に確認すべき条件も含めると実務で使いやすくなります。点検表示では、停止状態を確認すること、不用意な再起動を防ぐこと、保持物の落下に注意すること、周辺装置の残留動作を確認することなどを、対象箇所の近くに短い注意文として表示できます。文字だけを大量に出すのではなく、危険箇所に必要最小限の確認事項を紐づけることで、作業者は現場を見ながら確認できます。


作業状態別の表示では、危険の優先度を分けることも大切です。すべての注意を同じ強さで表示すると、本当に重要な情報が埋もれてしまいます。即時に立入を避けるべき範囲、接近前に確認が必要な範囲、作業後に確認すべき箇所など、重要度に応じて見え方を変えると、作業者の判断を助けられます。危険度の高い範囲は強い境界線で示し、補足情報は必要なときに確認できる形にすると、画面が整理されます。


作業状態ごとにAR表示を切り替えることで、現場の安全確認はより実務に近づきます。単に危険ですと表示するだけでは、作業者は何をすればよいのか判断しにくい場合があります。しかし、今の作業ではここに入らない、この位置から確認する、この部位の動きに注意するという形で具体的に示せば、作業行動に結びつきやすくなります。ARは、危険範囲を示すだけでなく、作業状態に応じた安全行動を補助する道具として使えます。


対策3 人の移動経路と退避位置をARで示す

産業ロボット周辺の危険範囲を示すときは、入ってはいけない場所だけでなく、人がどこを通り、どこに立ち、どこへ退避するのかを示すことも重要です。危険範囲だけを表示すると、作業者はそこが危険であることは分かっても、どこを通ればよいのか、どこで待機すればよいのかまでは判断しにくいことがあります。安全な行動を促すためには、禁止表示とあわせて、安全な経路や退避位置を示す必要があります。


ARでは、床面に安全通路を重ねて表示できます。ロボットセルの周辺、搬送ラインの横、作業台の前、点検口までの経路など、現場で人が移動するルートをARで案内することで、作業者は危険範囲を避けながら目的の場所へ進みやすくなります。設備が密集している工場や、複数のロボットが並ぶラインでは、どの通路が安全で、どの場所に近づくべきではないかが分かりにくくなりがちです。ARで経路を表示すれば、現場の配置に合わせて直感的に確認できます。


退避位置の表示も有効です。ロボットの動作確認、試運転、復旧後の再起動確認などでは、作業者が安全な位置から状態を見る必要があります。退避位置が曖昧だと、人によって立つ場所が変わり、思わぬ危険につながることがあります。ARで床面に待機位置や確認位置を表示し、そこから見える確認対象も合わせて示せば、作業者の立ち位置を標準化できます。


移動経路を表示するときは、実際の作業動線を踏まえることが大切です。図面上では安全に見える通路でも、現場では工具箱、台車、部品箱、仮置き品、ケーブルなどによって通りにくくなっている場合があります。AR表示を作る前に、実際の作業者がどこを歩いているのか、どこで立ち止まるのか、どこで無理な姿勢になるのかを観察することが必要です。現場の実態と合わない経路表示は使われなくなります。


ARによる経路案内では、進行方向、注意箇所、一時停止位置を分けて表示すると分かりやすくなります。通常の移動経路は床面に連続したラインで示し、ロボットセルに近づく前の確認位置では足元に停止マークを表示します。危険範囲に近づく箇所では注意表示を出して、視線を向けるべき設備を示します。このように、移動しながら確認する情報を段階的に出すことで、作業者は必要なタイミングで必要な情報を受け取れます。


移動経路と退避位置は、緊急時だけでなく日常作業にも役立ちます。部品補給、完成品の取り出し、点検記録、清掃、工具交換など、日々の作業で人が動く範囲をARで示すことで、危険範囲への不用意な接近を減らしやすくなります。作業者が慣れてくると、近道をしたり、柵の近くを通ったり、動作範囲の境界を軽く考えたりすることがあります。ARで安全動線を確認できるようにしておくと、慣れによる油断を抑えるきっかけになります。


複数人作業の場合は、立ち位置の重複や死角にも注意が必要です。ある作業者からは安全に見えても、別の作業者がロボットの陰や装置の裏に入ってしまうと、状況確認が難しくなります。ARで作業者ごとの立ち位置や担当範囲を示せば、誰がどこで何を確認するのかを共有しやすくなります。点検や復旧のように複数部門が関わる作業では、立ち位置を見える化することが作業の混乱防止につながります。


危険範囲を示すARは、禁止を伝えるだけでは不十分です。現場で本当に役立つ表示にするには、安全な動線、待機位置、確認位置、退避位置まで含めて設計する必要があります。作業者がどこに入ってはいけないかだけでなく、どこを通ればよいか、どこから確認すればよいかを理解できるようにすることで、AR表示は安全行動を具体的に支援できます。


対策4 点検・教示・復旧作業時の注意点を現場に紐づける

産業ロボット周辺で特に注意が必要なのは、点検、教示、復旧などの非定常作業です。通常運転時は安全柵や保護装置によって人とロボットの領域が分けられていても、非定常作業では人がロボット周辺に入る場面が発生します。このとき、作業者が危険箇所や確認手順を正しく理解していないと、思わぬ事故につながるおそれがあります。


ARは、非定常作業時の注意点を現場の対象物に直接紐づけて表示できる点で有効です。点検対象のカバー、ロボットの関節部、挟まれやすい治具、ワークの保持部、搬送装置の停止位置、エアや電源の確認箇所などに、短い注意文や確認項目を重ねて表示できます。作業者は手順書を持ち替えたり、図面と現場を見比べたりしなくても、目の前の対象物を見ながら確認できます。


点検作業では、確認順序をARで示すと分かりやすくなります。最初に停止状態を確認し、次に周辺装置の状態を見て、その後に点検対象へ近づくといった流れを、現場上に順番表示できます。注意点を一覧で表示するだけでは、作業者がどの順番で確認すべきか迷うことがあります。ARで対象箇所に番号や進行順を重ねれば、確認漏れを減らしやすくなります。


教示作業では、ロボットが低速で動いていても、挟まれ、接触、巻き込まれ、予期しない姿勢変化などに注意が必要です。ARで教示中の注意範囲を表示する場合は、アーム先端だけでなく、関節部や後方へ張り出す可能性のある部位も示すことが重要です。作業者は注目している工具先端ばかりを見がちですが、ロボット全体の動きが危険になることがあります。ARで複数の危険箇所を同時に示すことで、視野を広げた確認を促せます。


異常停止後の復旧作業では、停止した理由やワークの状態によって危険が変わります。ワークが途中で引っかかっている、保持姿勢が不安定である、周辺装置が中間位置で停止している、再起動時に予期しない動作が起こる可能性があるなど、状況に応じた確認が必要です。ARで復旧作業用の表示を用意し、停止位置、確認箇所、立入前の注意点、再起動前の確認位置を示せば、復旧時の判断を補助できます。


非定常作業向けのAR表示では、文字量を増やしすぎないことも大切です。現場では、作業者が工具を持っていたり、保護具を着用していたり、狭い場所で確認していたりするため、長文を読む余裕がない場合があります。表示する文は短く、行動に直結する内容に絞ります。詳しい手順が必要な場合は、対象箇所を選択したときに詳細を開くようにし、通常画面では重要な注意だけを見せると使いやすくなります。


AR表示は現場の手順書や教育資料と矛盾してはいけません。手順書では停止確認を先に行うことになっているのに、ARでは点検箇所が先に表示されると、作業者はどちらを信じればよいか迷います。AR導入時には、既存の安全手順、点検表、教育資料、現場掲示と内容を合わせる必要があります。ARだけを別管理にすると、更新漏れや内容の不一致が起きやすくなります。


点検、教示、復旧作業でARを使う価値は、危険情報を作業する場所に直接結びつけられることです。手順書に書かれた注意事項は、読むだけでは現場のどこを指しているのか分かりにくい場合があります。ARなら、注意すべき部位、近づいてはいけない方向、確認すべき位置を現実空間に重ねられます。非定常作業ほど作業者の判断に頼る場面が増えるため、ARによる現場連動の注意表示が役立ちます。


対策5 記録と教育にAR表示を活用して安全意識を定着させる

ARで危険範囲を表示する取り組みは、現場でその場限りに使うだけでなく、記録と教育にも活用できます。産業ロボット周辺の安全対策では、危険範囲を一度説明して終わりにするのではなく、作業者が繰り返し確認し、現場の変更に合わせて更新し、教育内容として定着させることが重要です。AR表示を記録や教育に組み込むことで、危険範囲の理解を継続的に高められます。


まず有効なのが、AR表示付きの現場記録です。ロボットセルの写真や動画に、危険範囲、立入禁止エリア、安全通路、退避位置、点検対象などを重ねた状態で保存すれば、後から見返したときにも現場の状況を理解しやすくなります。文字だけの点検記録では、どの範囲を確認したのか、どこを危険と判断したのかが伝わりにくい場合があります。AR表示付きの記録なら、現場の空間情報を残せるため、教育や改善検討に使いやすくなります。


教育では、実際の現場に立ってAR表示を見ながら学ぶ方法が考えられます。新人教育では、図面や座学だけではロボットの動作範囲を具体的にイメージしにくいことがあります。ARで可動範囲や危険範囲を表示しながら説明すれば、作業者は現場の設備と危険の関係を体感的に理解できます。ロボットが停止している状態でも、AR上で到達範囲や注意領域を示せるため、実際に動かさなくても危険のイメージを共有できます。


教育用のAR表示では、単に危険範囲を見せるだけでなく、なぜその範囲が危険なのかを説明することが大切です。アームが通過する場所、ワークが振れる可能性のある場所、治具との間に挟まれやすい場所、視界に入りにくい裏側の可動部など、危険の理由を対象箇所に紐づけて表示します。理由が分かると、作業者は表示がない場面でも応用して判断しやすくなります。


AR表示を教育に使うときは、作業者の理解度確認にも活用できます。危険範囲を一方的に見せるだけでなく、作業者に安全な立ち位置を選んでもらう、点検前に確認すべき箇所を順番に指してもらう、再起動前の退避位置を確認してもらうといった運用が考えられます。AR表示を使って現場確認型の教育を行えば、座学だけでは見えにくい理解不足に気づきやすくなります。


記録面では、現場変更への対応も重要です。ロボットの動作プログラム、治具、ワーク、搬送装置、作業台、柵、通路、仮置き場所などが変わると、危険範囲も変わる可能性があります。AR表示を一度作って終わりにすると、現場実態と表示がずれてしまうおそれがあります。設備変更や作業変更があったときには、AR表示の更新履歴を残し、変更前後の危険範囲を確認できるようにすることが大切です。


安全教育では、ベテランの暗黙知を可視化することも課題になります。ベテラン作業者は、経験的にここに立つと危ない、この角度から見ると動きが分かる、この復旧作業では先にここを見ると理解している場合があります。しかし、その知識が新人や他部門に十分伝わっていないことがあります。ARでベテランの注意ポイントを現場に重ねて記録すれば、暗黙知を教育資産として残しやすくなります。


AR表示付きの記録は、改善活動にも使えます。ヒヤリハットが発生した場合、どの範囲に人が近づいたのか、表示されていた危険範囲は十分だったのか、安全通路は分かりやすかったのかを振り返ることができます。改善前後のAR表示を比較すれば、安全対策の変更内容も説明しやすくなります。危険範囲を見える化するだけでなく、見える化した情報を記録し、教育し、改善する流れを作ることが重要です。


ARは、現場の一時的な案内表示としてだけでなく、安全教育と改善活動を支える情報として活用できます。危険範囲を表示し、作業者が確認し、記録に残し、教育で使い、変更時に更新する。この循環を作ることで、AR表示は単なる便利機能ではなく、現場安全を支える実務ツールになります。


ARを安全対策に使うときの注意点

ARで産業ロボット周辺の危険範囲を示す場合、便利さだけでなく限界も理解しておく必要があります。AR表示は視覚的に分かりやすい一方で、位置ずれ、表示遅れ、視界の遮り、端末の操作性、現場環境の影響などによって、誤解を生む可能性もあります。安全に関わる用途では、AR表示を過信せず、既存の安全対策と組み合わせて使うことが大切です。


特に重要なのが、ARの位置合わせ精度です。危険範囲の表示が実際のロボットや床面からずれていると、作業者が安全な場所を誤認するおそれがあります。表示が数センチずれるだけで問題になる場面もあれば、広い注意範囲を示す用途では大きな問題にならない場面もあります。どの程度の精度が必要かは、表示目的によって異なります。立入禁止範囲の概略表示なのか、点検位置の案内なのか、狭い通路での境界表示なのかを分けて考える必要があります。


AR表示を安全用途に使う場合は、表示と現実が合っているかを確認する手順を設けることが重要です。基準点、床ライン、設備の角、支柱など、現場で確認しやすい位置に合わせて表示を確認します。作業開始前に、AR表示が正しく重なっているかを確認する習慣を作れば、位置ずれによる誤認を減らせます。表示がずれている場合は、その場で使用を中止する、再調整する、通常の手順に戻るなどの判断基準を決めておく必要があります。


表示内容の更新管理も欠かせません。ロボットの動作プログラムや作業内容が変わったのに、AR表示だけが古いままだと危険です。設備変更、工程変更、治具変更、ワーク変更、通路変更があった場合には、AR表示も確認対象に含めます。安全関連の表示は、誰が作成し、誰が確認し、いつ更新したのかを管理する必要があります。現場の担当者が自由に編集できるだけでは、内容の正確性を保ちにくくなります。


AR表示は作業者の視界を妨げないように設計する必要があります。危険範囲を目立たせるために大きな表示を重ねすぎると、足元、設備、部品、人の動きが見えにくくなる場合があります。安全のための表示が、かえって現場確認を妨げてはいけません。危険範囲の境界、注意マーク、短い説明文を適切に組み合わせ、必要な情報だけを見せることが大切です。


端末の使い方にも注意が必要です。ARを表示する端末を持ちながら作業すると、片手がふさがったり、画面に意識が集中したりすることがあります。ロボット周辺では、端末を見ること自体が危険になる場面もあります。そのため、AR確認は作業前の説明、停止状態での確認、教育、点検前の位置確認など、使う場面を限定することが現実的です。稼働中の危険範囲内で端末を注視するような運用は避けるべきです。


AR表示は、作業者の判断を助けるものですが、最終的な安全確保は現場のルール、設備安全、作業手順、教育、監督体制によって支えられます。ARを導入するときは、見えるようになったから安全と考えるのではなく、見える化によってどの確認が確実になるのか、どの見落としを減らすのか、どの作業で使うのかを明確にする必要があります。


安全用途のARでは、最初から全工程へ広げるよりも、危険範囲が分かりにくい工程や、教育で説明しにくい場所、ヒヤリハットが起きやすい作業から始めると効果を確認しやすくなります。小さく始め、現場の反応を見ながら表示内容を改善し、運用ルールを整えていくことで、実務に定着しやすくなります。


まとめ

ARで産業ロボット周辺の危険範囲を示すことは、現場の安全理解を高めるための有用な補助手段です。ロボットの可動範囲、ワークの移動範囲、立入禁止範囲、安全通路、退避位置、点検箇所などを現実空間に重ねて表示することで、図面や口頭説明だけでは伝わりにくい危険を直感的に共有しやすくなります。


重要なのは、ARを単なる目立つ表示として使うのではなく、作業行動に結びつく形で設計することです。通常運転中の立入禁止範囲を示すだけでなく、点検、教示、復旧、段取り替えなどの作業状態に応じて表示を切り替えることで、現場の実態に合った安全確認を補助できます。また、危険範囲だけでなく、安全な移動経路や退避位置を示すことで、作業者が取るべき行動を具体的に理解できます。


非定常作業では、注意点を現場の対象物に紐づけて表示することが役立ちます。どの部位に近づくと危険なのか、どの順番で確認するのか、どこから状態を見るのかをARで示せば、確認漏れや認識違いを減らしやすくなります。さらに、AR表示付きの記録を残し、教育や改善活動に活用することで、危険範囲の理解を一時的な説明で終わらせず、現場に定着させることができます。


一方で、ARは安全装置そのものではありません。位置ずれ、表示内容の古さ、視界の妨げ、端末操作への集中など、ARならではの注意点もあります。安全柵、保護装置、非常停止、作業手順、教育訓練などの基本対策を前提に、ARを補助的な見える化手段として使うことが大切です。


産業ロボットの現場では、危険範囲を理解しているつもりでも、作業状態や立ち位置が変わると判断が難しくなることがあります。ARを活用すれば、危険範囲を現場の空間に合わせて示し、作業者が同じ認識を持ちやすくなります。まずは、ロボット周辺の動作範囲、立入禁止範囲、安全通路、退避位置を整理し、現場で確認しやすいAR表示から始めるとよいでしょう。


ARによる安全表示を実務に取り入れる際は、現場で手軽に確認できることだけでなく、表示精度の確認、更新管理、教育との整合、使用場面の限定をセットで考える必要があります。安全対策の主役はあくまで設備側の保護方策と正しい作業手順であり、ARはそれらを分かりやすく伝えるための補助表示として運用することが、公開記事としても実務上も安全な整理です。


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