88条申請とは、一般に労働安全衛生法第88条に基づく「計画の届出」を指す現場用語です。現場では「88条」「計画届」「88条申請」と呼ばれることがありますが、厳密には許可を求める申請ではなく、一定の機械等の設置・移転・変更や、危険性の高い建設工事等について、開始前に計画内容を届け出る手続きです。
この手 続きは、どの工事にも必要な一般的な着工届ではありません。対象になるかどうかは、工事名ではなく、工事や作業の内容、高さ、深さ、支間、工法、仮設設備の種類、設置期間、作業員の立入り、危険有害作業の有無などで判断します。提出期限も一律ではなく、代表的には開始日の30日前までに届け出るものと、14日前までに届け出るものがあります。
この記事では、88条申請の意味、対象工事、提出期限、必要書類、実務での確認ポイントを、建設現場の担当者向けに整理します。なお、実際の該当性や提出方法は案件条件や所轄の運用確認が関係するため、判断に迷う場合は、早い段階で所轄労働基準監督署などに確認することが重要です。
目次
• 88条申請とは何か
• 88条申請が必要になる対象工事と対象設備
• 提出期限は30日前と14日前を分けて考える
• 88条申請に必要な書類の基本
• 作成から提出までの実務手順
• よくある不備と確認すべきポイント
• 対象外に見える工事で注意したいケース
• まとめ:88条申請は工程管理と安全管理をつなぐ手続き
88条申請とは何か
88条申請とは、労働安全衛生法第88条に定められた「計画の届出等」に関する手続きの通称です。法律上は「申請」ではなく「届出」として扱われます。つまり、行政から事前に許可を得るための手続きというより、危険性の高い工事や設備について、作業開始前に計画を明らかにし、法令上必要な安全衛生対策が計画段階で検討されていることを確認できるようにする制度です。
労働安全衛生法第88条には、大きく分けて三つの届出類型があります。第一に、危険または有害な作業を必要とする機械等、危険な場所で使用する機械等、危険または健康障害を防止するために使用する機械等のうち、厚生労働省令で定められたものを設置、移転、または主要構造部分を変更する場合の届出です。第二に、建設業の仕事のうち、重大な労働災害を生ずるおそれがある特に大規模な仕事を開始する場合の届出です。第三に、建設業その他の政令で定める業種に属する事業の仕事のうち、厚生労働省令で定められた一定の仕事を開始する場合の届出です。
この制度の目的は、事故が起きてから是正するのではなく、開始前の計画段階で危険を洗い出し、作業方法、仮設設備、構造、機械配置、作業手順、緊急時対応などを具体化することにあります。高所作業、深い掘削、橋梁、ずい道、圧気工法、一定の石綿関連作業などは、計画の不備が重大災害につながりやすい分野です。そのため、88条申請は単なる書類作成ではなく、施工計画と安全衛生計画を早い段階で整えるための仕組みと考えると理解しやすくなります。
また、届出を提出すれば必ずそのまま安全性が承認されたという意味になるわけではありません。法令違反が認められる場合には、工事や仕事の開始差止め、または計画変更を命じられる可能性があります。したがって、書類を期限までに出すことだけでなく、提出する計画が実際の施工内容と一致し、安全対策が具体的に示されていることが重要です。
実務担当者が最初に押さえるべきことは、88条申請が「工事名」だけで判断できる手続きではないという点です。たとえば、改修工事、補修工事、外構工事、造成工事といった名称でも、実際には高さのある足場、深い掘削、橋梁上部構造の作業、解体、危険有害作業を含む場合があります。逆に、大きな工事件名であっても、法令上の対象条件に該当しない場合もあります。対象判断では、名称ではなく、実際の作業条件を数値と図面で確認することが大切です。
88条申請が必要になる対象工事と対象設備
88条申請の対象は、大きく分けると、機械等の設置・移転・主要構造部分の変更 に関するものと、一定の建設工事等に関するものがあります。現場担当者は、まず自分の案件が「機械等の届出」に近いのか、「工事または作業の届出」に近いのかを分けて考えると整理しやすくなります。
機械等に関する届出では、安衛則別表第7などに掲げられる機械等が関係します。建設現場で確認機会が多い代表例としては、架設通路、足場、型枠支保工などがあります。たとえば、一定規模以上の架設通路、つり足場や張出し足場、一定高さ以上の構造の足場、支柱高さが一定以上の型枠支保工などは、種類、寸法、設置期間、構造変更の有無によって計画届の検討が必要になります。短期間で解体される仮設物など、除外される場合もあるため、単に「足場だから必要」「足場だから不要」と決めつけず、条件を確認する必要があります。
建設業のうち、特に大規模な仕事については、開始日の30日前までに厚生労働大臣へ届け出る類型があります。代表的には、高さ300メートル以上の塔の建設、堤高150メートル以上のダムの建設、最大支間500メートル以上の橋梁の建設、つり橋では最大支間1000メートル以上の橋梁の建設、長さ3000メートル以上のずい道等の建設、長さ1000メートル以上3000メートル未満のずい道等で深さ50メ ートル以上の通路用たて坑の掘削を伴うもの、ゲージ圧力0.3メガパスカル以上の圧気工法による作業を行う仕事などです。これらは一般的な現場よりも規模が大きく、提出先や事前調整も通常の届出とは異なるため、早期確認が欠かせません。
一方、一般の建設現場で比較的話題になりやすいのは、開始日の14日前までに所轄労働基準監督署長へ届け出る計画届です。代表的には、高さ31メートルを超える建築物または工作物の建設、改造、解体、破壊の仕事、最大支間50メートル以上の橋梁の建設等の仕事、一定の場所で行われる最大支間30メートル以上50メートル未満の橋梁上部構造の建設等の仕事、労働者が内部に立ち入るずい道等の建設等の仕事、掘削の高さまたは深さが10メートル以上である地山の掘削作業を行う仕事、圧気工法による作業を行う仕事などがあります。
石綿等に関係する作業も注意が必要です。ただし、単に「石綿を扱う工事はすべて88条申請」と断定するのではなく、吹付け石綿等の除去、封じ込め、囲い込みなど、規定された作業に該当するかを確認する必要があります。建築物の解体・改修では、労働安全衛生法第88条の計画届だけでなく、石綿障害予防規則に基づく事前調査、作業計画、作業届、ばく露 防止措置など、複数の制度が関係することがあります。88条申請だけを見て判断すると漏れが出るため、対象建材、作業方法、除去範囲、隔離方法、関係法令を合わせて確認することが重要です。
対象判断で重要なのは、工事名称ではなく実作業です。「外壁改修」「橋梁補修」「設備更新」「地下構造物工事」「造成工事」といった名称だけでは、88条申請の要否は判断できません。高さ、深さ、支間、仮設計画、作業員の立入り、工法、設置期間、施工順序を確認し、法令上の条件に当てはまるかを一つずつ見ていく必要があります。
提出期限は30日前と14日前を分けて考える
88条申請で最も工程に影響しやすいのが提出期限です。実務では「88条は何日前までに出すのか」と一括りにされがちですが、対象類型によって30日前と14日前に分かれます。期限だけでなく、提出先も変わるため、早い段階でどの類型に当たるのかを確認することが大切です。
機械等の設置、移転、主要構造部分の変更に関する計画届は、原則として当該工事の開始日の30日前までに、所轄労働基準監督署長へ届け出る扱いになります。建設業に属する事業のうち、重大な労働災害を生ずるおそれがある特に大規模な仕事についても、開始日の30日前までに届け出る扱いですが、この類型では届出先が厚生労働大臣になります。大型案件や特殊工法を含む案件では、通常の現場書類の感覚で進めるのではなく、基本計画段階から提出先と必要資料を確認する必要があります。
一方、一定規模以上の建設工事等に関する計画届は、開始日の14日前までに所轄労働基準監督署長へ届け出る扱いになります。一般的な現場で「88条申請」と呼ばれるものは、この14日前の計画届を指していることが多いです。高さ31メートルを超える建築物や工作物、一定規模以上の橋梁、ずい道等、10メートル以上の地山掘削、圧気工法、規定された石綿関連作業などは、この枠で確認されることがあります。
ここで注意したいのは、「開始日」が工事全体の着工日と常に同じとは限らないことです。届出の対象になる足場の組立開始日、型枠支保工の組立開始日、掘削作業の開始日、対象となる解体作業の開始日、橋梁上部構造の作業開始日など、対象作業ごとに逆算すべき日が変わることがあります。工程表を作るときは、工事全体の着工日だけでなく、届出対象となる作業の開始日を明確にしておく必要があります。
また、14日前や30日前という期限は、書類を作り始める日ではなく、届け出る期限です。期限直前に図面や計算書を集め始めると、寸法の不一致、古い図面の混在、施工手順の未確定、安全対策の記載不足などが見つかり、提出や補正に時間がかかります。特に、仮設計画や支保工計画は協力会社や専門業者が詳細設計を行うことも多いため、元請側が早めに資料の提出期限を決めておくことが重要です。
提出期限に余裕を持たせるには、工事受注後または施工計画の初期段階で、88条申請の該当性確認を工程に組み込むことが有効です。30日前届出の可能性がある場合はさらに早く、設計条件や施工方法が固まる前から確認を始める必要があります。届出は早く出せばよいというものではありませんが、提出期限に間に合わせるためには、対象判断、資料作成、社内確認、発注者確認、提出、補正対応の時間をあらかじめ見込むことが欠かせません。
88条申請に必要な書類の基本
88条申請に必要な書類は、対象となる工事や設備の種類によって異なります。共通しているのは、工事や設備の概要、場所、規模、構造、施工方法、安全対策を第三者が確認できるように示すことです。書類名だけをそろえるのではなく、計画の中身が読み取れることが重要です。
基本となるのは、対象類型に応じた所定の届出書です。機械等の設置・移転・変更に関する届出では、機械等設置・移転・変更届に相当する様式が使われます。建設工事の計画届では、建設工事計画届に相当する様式が使われます。様式や添付資料は対象ごとに異なるため、所轄労働基準監督署や労働局の案内、厚生労働省の資料を確認し、案件に合ったものを用意します。
届出書には、事業者名、事業場名、工事名称、所在地、工事期間、対象作業の内容、工事や設備の概要などを記載します。記載内容は添付図面や工程表と一致している必要があります。建築物の高さ、工作 物の高さ、橋梁の支間、掘削深さ、ずい道の延長、足場の高さ、架設通路の高さや長さ、型枠支保工の支柱高さ、設置期間など、対象判断に直結する数値は明確にしておくべきです。
位置図や周辺状況図も重要です。現場がどこにあり、周囲に道路、鉄道、河川、隣接建物、送電線、地下埋設物、既設構造物、歩行者動線、搬入路などがどう配置されているかを示します。高所作業や解体工事では第三者災害の防止、掘削工事では周辺地盤や既設構造物への影響、橋梁工事では交通規制や下部空間の管理、ずい道工事では坑口周辺の作業ヤードや避難経路が関係します。
図面類としては、平面図、立面図、断面図、配置図、構造図、仮設計画図、足場組立図、支保工組立図、土留め計画図、掘削断面図、重機配置図、資材置場図、作業動線図などが必要になることがあります。すべての工事で同じ図面が必要になるわけではありませんが、対象となる危険を説明するために必要な図面は省略できません。図面には、寸法、高さ、深さ、支間、設置期間、使用部材、作業床、手すり、昇降設備、開口部養生、立入禁止範囲など、計画判断に必要な情報を記載します。
施工方法を示す書類も欠かせません。施工計画書や作業手順書では、どの順序で作業を進めるのか、どの段階で仮設設備を設置・変更・解体するのか、どの重機を使用するのか、吊り荷や資材の搬入出をどう管理するのか、作業員がどの位置で作業するのかを具体的に説明します。安全対策としては、墜落・転落防止、飛来落下防止、崩壊・倒壊防止、挟まれ・巻き込まれ防止、感電防止、酸欠・有害物ばく露防止、火災・爆発防止、交通災害防止、第三者災害防止など、対象工事に応じた対策を記載します。
構造計算書や強度検討書が必要になる場合もあります。足場、型枠支保工、支保工、土留め、作業構台、仮設通路、吊り設備、仮設架台などは、荷重条件や設置条件を踏まえた検討が求められます。計算書を添付する場合は、図面と計算条件が一致していることが重要です。図面では高さが変わっているのに計算書が旧条件のまま、使用部材が図面と計算書で異なる、積載荷重や風荷重の考え方が説明されていないといった不整合は、確認の遅れにつながります。
工程表も重要な添付資料です。いつ対象作業を開始し、いつ終了し、どの段階で仮設設備を設置・変更・解体するのかを示します。複数工区に分かれる場合、段階的に掘削深さが変わる場合、足場の盛替えがある場合、解体と新設が連続する場合は、工程表と計画図を連動させることが大切です。
さらに、安全衛生管理体制を示す資料も実務上重要です。現場の安全衛生管理組織、元方事業者と関係請負人の役割分担、作業主任者、有資格者、合図者、監視者、緊急時連絡体制、救急対応、避難経路、巡視計画、教育計画などを整理します。届出のためだけでなく、実際の現場運営で使える内容にしておくことで、書類と現場の乖離を防ぎやすくなります。
作成から提出までの実務手順
88条申請を円滑に進めるには、最初に対象判断を行い、次に必要資料を洗い出し、工程に組み込むことが重要です。書類作成そのものよりも、初動の確認が遅れることのほうが大きなリスクになります。工事担当者は、受注後または施工計画の初期段階で、工事概要、構造規模、作業高さ、掘削深さ、橋梁支間、ずい道延長、仮設足場や支保工の条件、危険 有害作業の有無を確認します。
最初の手順は、工事内容を数値で整理することです。建築物や工作物であれば高さ、構造、解体や破壊の有無を確認します。橋梁であれば最大支間、上部構造の施工方法、作業場所の条件を確認します。掘削であれば最大掘削深さ、掘削高さ、法面勾配、土留めの有無、掘削面下方への立入りの有無を確認します。足場であれば高さ、種類、設置期間、つり足場や張出し足場に該当するかを確認します。型枠支保工であれば支柱高さ、荷重条件、コンクリート打設計画を確認します。
次に、対象となる届出の種類と提出期限を確認します。30日前の届出なのか、14日前の届出なのか、提出先は所轄労働基準監督署長なのか、厚生労働大臣なのかを整理します。この段階で迷いがある場合は、所轄の窓口へ早めに相談するのが実務上有効です。相談時には、口頭説明だけでなく、工事概要、位置図、主要図面、工程案、対象となりそうな作業の規模を示せる資料を用意しておくと、判断が進みやすくなります。
必 要書類の洗い出しでは、届出書、工事概要書、工程表、位置図、周辺状況図、配置図、平面図、立面図、断面図、施工計画書、安全衛生計画書、仮設計画図、構造計算書、作業手順書、緊急時対応資料などを、対象工事に応じて整理します。ここで重要なのは、書類の担当者を決めることです。現場担当者がすべてを作成するとは限りません。仮設図は仮設担当、構造計算は専門担当、工程表は工事担当、安全衛生計画は安全担当、施工手順は協力会社が作成することがあります。担当と提出予定日を決めておかないと、最後に資料がそろわない事態が起きます。
書類作成後は、整合確認を行います。届出書の工事期間と工程表、図面の高さや寸法と計算書、施工手順と安全対策、使用重機と配置図、足場設置期間と工程表、掘削深さと断面図、現場位置と案内図が一致しているかを確認します。設計変更や施工条件の変更があった場合は、古い図面や古い工程表が混在しやすいため、図面番号、改訂日、作成者、対象範囲を確認し、最新版で構成することが重要です。
提出前には、社内承認や関係者確認も済ませます。現場代理人、監理技術者または主任技術者、安全衛生責任者、元方安全衛生管理者、協力会社担当者など、現場 の実行責任者が計画内容を理解していることが大切です。届出書類だけが完成していても、現場の作業員や協力会社に共有されていなければ、安全管理としては不十分です。届出後は、提出した計画を現場の施工計画書、安全書類、作業手順、日々の打合せに反映させます。
提出後に内容変更が生じた場合は、変更内容の重要性を確認します。足場の構造が変わる、掘削深さが増える、施工方法が変わる、工期が大きく変わる、重機配置や作業範囲が変わる、安全対策の前提が変わる場合は、軽微な変更として扱ってよいか、追加説明や変更届出が必要かを早めに確認したほうが安全です。届出は一度出して終わりではなく、実際の施工計画と一致し続けることが重要です。
よくある不備と確認すべきポイント
88条申請でよくある不備の一つは、対象判断の遅れです。工事名称だけで対象外と判断し、詳細計画の段階で高さ、深さ、支間、仮設条件が対象に該当していることに気づくケースがあります。特に、解体工事、改修工事、外壁工事、橋梁補修、法面工事、深掘りを伴う造成、地下構造物の工事 では、当初のイメージと実際の作業条件が違うことがあります。見積段階や施工計画の初期段階から、数値条件を確認する習慣が必要です。
次に多いのが、提出期限の誤認です。14日前でよいと思っていたら30日前の届出に該当する可能性があった、あるいは工事全体の着工日ではなく対象作業の開始日を基準に考える必要があった、というケースです。提出期限を過ぎると、工程調整が必要になることがあります。工程表には、対象作業の開始日だけでなく、届出書類作成、社内確認、発注者確認、提出、補正対応の期間を入れておくと、関係者の認識を合わせやすくなります。
図面の不整合もよくある不備です。平面図、立面図、断面図、配置図、構造計算書、工程表がそれぞれ別の時点で作られていると、寸法や範囲が食い違うことがあります。足場の高さが図面ごとに違う、掘削深さが施工計画書と断面図で違う、支保工の部材仕様が計算書と図面で一致しない、重機の作業半径と立入禁止範囲が示されていない、仮設通路の幅や勾配が不明確といった不備は、提出後の問い合わせや補正につながります。
安全対策の記載が抽象的すぎることも問題になります。「十分注意する」「安全帯を使用する」「監視員を配置する」といった記載だけでは、どこで、誰が、何を、どのタイミングで実施するのかが分かりません。墜落防止であれば作業床、手すり、中さん、幅木、親綱、昇降設備、開口部養生などを具体的に示します。掘削であれば法面勾配、土留め、排水、立入禁止、地山点検、重機との接触防止、崩壊時対応などを具体化します。解体であれば倒壊防止、飛散防止、散水、立入禁止範囲、搬出経路、近隣対策などを計画に反映します。
現場条件の反映不足にも注意が必要です。標準的な施工計画書を流用すると、現場固有の危険が抜けやすくなります。狭小地、隣接建物、前面道路、通学路、架空線、地下埋設物、傾斜地、軟弱地盤、河川沿い、交通量の多い道路、夜間作業、同時作業、第三者通行などは、計画内容に大きく影響します。88条申請の書類には、一般論ではなく、その現場で実際に起きる可能性がある危険と、それに対する対策を示すことが求められます。
もう一つ重要なのが、届出書類と現場運用の乖離です。提出した計画では立入禁止範囲を広く取っているのに、実際の現場では資材置場や通行帯の都合で範囲が狭くなる、計画では特定の施工順序になっているのに、工程短縮のために順序を変える、計画では有資格者を配置することになっているのに、実際の作業日に配置が確認されていないといった状況は避けなければなりません。届出書類は保管するだけでなく、現場の作業打合せ、朝礼、危険予知活動、巡視、協議会で活用することが大切です。
対象外に見える工事で注意したいケース
88条申請は、明らかな大規模工事だけが対象だと思われがちですが、実務では「対象外に見える工事」ほど注意が必要です。工事名が小規模に見えても、実際の作業が高所、深掘り、仮設構造、解体、危険有害作業を含んでいれば、計画届や別の安全衛生手続きが必要になることがあります。
外壁改修工事では、建物そのものを新築するわけではなくても、高さのある足場を長期間設置する場合があります。足場の種類、高さ、設置期間によっては、機械等に関する計画届の確認が必要になります。つり足場や張出し足場は、通常の枠組足場と は危険性が異なり、設置条件や固定方法、作業床、落下防止、組立・解体手順を慎重に確認する必要があります。外壁改修という工事名だけで判断せず、足場計画そのものを見ることが大切です。
解体工事でも注意が必要です。建築物や工作物の高さ、構造、解体方法、周辺状況によっては、計画届の対象となる可能性があります。特に、高さ31メートルを超える建築物または工作物の解体や破壊を伴う場合は、対象判断が重要になります。解体では、墜落、飛来落下、倒壊、重機接触、粉じん、騒音、振動、第三者災害など、多くのリスクが重なります。届出対象かどうかにかかわらず、施工順序、支保、散水、搬出、立入禁止、隣接物保護、緊急時対応は具体化する必要があります。
掘削工事では、掘削の高さまたは深さが10メートル以上となるかどうかが重要な確認ポイントになります。ただし、単純に最終掘削深さだけを見るのではなく、段階施工、切土、法面、掘削面下方への立入り、掘削機械の使用状況、土留め、排水、地山の状態を確認します。掘削機械を用いる作業で、掘削面の下方に労働者が立ち入らないものは除外される扱いがありますが、現場では測量、確認、清掃、配管、型枠、鉄筋、埋戻し準備などで立ち入る場面が生じやすいため、実態に即して判断する必要があります。
橋梁工事や橋梁補修でも、支間や上部構造の作業条件によって届出対象となる場合があります。新設だけでなく、改造、解体、破壊に該当する作業があるか、上部構造の施工条件がどうなっているか、下部に道路、鉄道、河川、歩行者空間があるかを確認します。橋梁工事では、高所作業、吊り作業、交通規制、第三者災害、落下物、風の影響、夜間作業などが複合するため、計画書と現場管理の整合が非常に重要です。
石綿等の除去を伴う工事では、88条申請だけでなく、石綿障害予防規則や大気汚染防止法など、複数の制度が関係します。88条申請の対象となる作業に該当するか、別の届出や報告が必要か、事前調査結果の扱いはどうするかを分けて確認する必要があります。石綿関連の手続きは改正や運用確認も重要なため、最新の行政案内を確認し、専門担当者や所轄窓口と早めに調整することが安全です。
また、設計変更や施工方法の変更によって、途中から対 象に近づくケースもあります。当初は浅い掘削だったが、地中障害物や設計変更で深くなった、仮設計画を変更して足場高さが増えた、工期変更で設置期間が長くなった、施工順序を変えた結果として一時的に危険な状態が発生する、といったケースです。88条申請の判断は契約時だけで終わらせず、施工計画の変更時にも再確認する必要があります。
対象外と判断した場合でも、その根拠を記録しておくと後から説明しやすくなります。対象外判断の記録には、工事概要、主要寸法、高さ、深さ、支間、足場条件、設置期間、作業方法、確認日、確認者、必要に応じた相談記録などを残しておくとよいです。これは、届出対象外だから安全管理が不要という意味ではありません。対象外であっても危険性が高い作業は多いため、リスクアセスメント、作業手順、教育、巡視、記録管理を徹底することが大切です。
まとめ:88条申請は工程管理と安全管理をつなぐ手続き
88条申請は、労働安全衛生法第88条に基づく計画の届出を指す現場用語であり、正式には「申請」ではなく「届出」として理解するのが正確 です。ただし、実務上は提出期限、添付書類、計画内容の整合、関係者確認が必要になるため、単なる形式的な書類提出ではありません。対象工事や対象設備に該当するかを早期に判断し、工事や作業の開始前に安全な施工計画を具体化するための重要な手続きです。
対象工事を確認するときは、工事名だけで判断せず、高さ、深さ、支間、工法、仮設設備、設置期間、作業員の立入り、危険有害作業の有無を具体的に確認する必要があります。建築物や工作物、橋梁、ずい道、掘削、圧気工法、足場、架設通路、型枠支保工、規定された石綿関連作業を伴う工事では、88条申請や関連する安全衛生手続きの要否を早めに確認することが重要です。
提出期限は、代表的には30日前と14日前に分かれます。機械等の設置や特に大規模な建設工事では30日前、一定規模以上の建設工事等では14日前が目安になりますが、対象作業の開始日をどの時点と見るか、提出先がどこになるかは案件ごとに確認が必要です。期限直前に書類を集めるのではなく、工程表の中に対象判断、資料作成、社内確認、提出、補正対応の期間を入れておくことで、着工直前の混乱を避けやすくなります。
必要書類は、届出書だけでは足りません。工事概要、位置図、周辺状況図、平面図、立面図、断面図、配置図、施工計画書、安全衛生計画書、仮設計画図、構造計算書、工程表、作業手順書、緊急時対応資料などを、対象工事に応じて整理します。重要なのは、書類同士の整合と、書類と現場運用の一致です。提出した計画が現場で実行されなければ、届出の意味は薄れてしまいます。
現場担当者にとって、88条申請は「提出しなければならない書類」ではなく、「危険な作業を始める前に計画を固める仕組み」です。早めに対象を見抜き、必要資料を集め、図面と工程を整え、関係者に共有することで、工期遅延のリスクを減らしながら、安全管理の質を高めることができます。現場の位置、仮設範囲、作業ヤード、掘削位置、足場位置、搬入経路、危険区域を正確に記録し、図面や計画書と結びつけることも、提出書類の根拠整理や施工中の変更管理に役立ちます。
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