目次
• 災害現場におけるインフラ復旧の課題
• AR土木とは何か
• 精密な被害状況把握を可能にする3D測量
• AR技術による現場施工支援
• デジタル情報共有でスピーディな意思決定
• 小型機器による迅速な初動対応
• 高精度ARを支えるRTK測位技術
• スマホで簡易測量を実現するLRTK
• よくある質問
災害現場におけるインフラ復旧の課題
日本は毎年のように地震や豪雨などの大規模災害に見舞われ、道路や橋梁、斜面など社会インフラが甚大な被害を受けています。例えば2018年の西日本豪雨では、土砂災害が2000箇所以上発生し、多数の道路寸断や堤防損壊が起きました。こうした被災現場では一刻も早いインフラ復旧が求められますが、その現場にはいくつもの課題が立ちはだかります。
• 時間との戦いと人的負担: 従来の測量や復旧計画策定には時間と労力がかかります。被害範囲が広大な場合、トータルステーションなどを使った現地測量では多くの測点を一つ一つ計測しなければならず、復旧工事の着手までに日数を要しました。また測量には通常2人以上の人手が必要で、複数の被災箇所があると限られた技術者では手が回らない状況になります。
• 安全確保の難しさ: 被災直後の現場は地盤が不安定で、崩落現場に人が立ち入るのは危険を伴います。余震や二次災害の可能性がある中での測量作業は、従事者に大きなリスクとなります。加えて、大規模災害では基準点となる測量標石が流失したり停電で測量機器が使えないケースもあり、正確な現況把握が一層困難になります。
• 情報共有と判断の遅れ: 復旧対応には行政や施工業者など多くの関係者が関与しますが、被害状況や工事計画の情報共有には時間がかかりがちです。従来は現場監督が紙の図面や報告書を作成し、会議で説明するといったプロセスを経る必要がありました。これでは刻一刻と状況が変わる災害対応に追いつけず、意思決定が後手に回ってしまいます。現場の写 真や文章だけでは被害の全容を直感的に掴みにくく、認識のズレから対応の遅れやミスが生じるリスクもあります。
このように、迅速なインフラ復旧を妨げる要因として「現況把握に時間がかかる」「人的リソース不足」「危険な現場での作業」「情報伝達の非効率さ」などが挙げられます。これらの課題を克服するためには、従来とは異なる革新的な技術の導入が必要です。そこで近年注目されているのが、AR土木と呼ばれる拡張現実技術の活用です。
AR土木とは何か
AR土木とは、AR(Augmented Realityの略、拡張現実)技術を土木・建設の分野で活用する取り組みのことです。専用のスマートフォンやタブレット、ARグラスなどを用いて、カメラを通した現実の映像に設計図や3Dモデル、各種のデジタル情報を重ね合わせて表示します。簡単に言えば、「現場に仮想の設計図やガイドラインをそのまま映し出す」技術です。
土木工事やインフラ復旧の現場では、図面上の計画を実際の地形や構造物に正確に反映することが重要です。AR土木を活用すれば、現場で直接デジタルな設計モデルを確認できるため、平面図だけでは分かりにくかった完成イメージをその場で共有できます。例えば、従来はベテランの勘に頼っていた作業範囲のマーキングも、ARによって地面上に投影されたラインを見ながら行えるようになります。これにより、経験の浅い技術者でも直感的に施工内容を理解でき、ヒューマンエラーによる手戻りを防ぐ効果が期待できます。
また、AR土木は建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環としても位置づけられています。3次元モデル(BIM/CIM)やドローン計測データなど、建設分野のデジタル情報が充実してきた現在、それらを現場でフルに活用する手段としてARは有望です。実際に国内外で、橋梁工事や造成工事の現場でARを試験導入し、施工ミス削減や打合せ効率向上につなげている事例も報告されています。つまりAR土木は、従来の「図面と現場を見比べる」作業から「デジタル情報を現場に持ち込んで活用する」新しいスタイルへの転換と言えるでしょう。
精密な被害状況把握を可能にする3D測量
大規模災害からの復旧を迅速化するには、まず被害状況を正確かつスピーディーに把握することが欠かせません。そこで威力を発揮するのが、ドローンやLiDAR搭載デバイスによる3D測量です。従来は人力で時間をかけて行っていた現況の測量も、最新技術を使えば短時間で詳細なデータを取得できます。
例えば、崩壊した斜面全体をドローンで上空から撮影すれば、数時間以内に高解像度の3次元点群モデルを生成できます。従来なら測量班が丸1日かけて計測していた広範囲の地形データも、ドローン空撮と写真測量技術により半日足らずで得られるのです。得られた点群データを解析すれば、崩落した土砂の量を正確に算出したり、復旧に必要な盛土や補修の規模を数値的に見積もることができます。
また近年の高性能スマートフォンも、LiDARセンサーやカメラを駆使した簡易3Dスキャンを実現しています。手に持ったスマホを被災現場でかざして歩くだけで、周囲の構造物や地形を点群データとして記録できるようになりました。これらのデジタル測量によって、人が近寄れない危険な場所でも安全に現況把握が可能となり、測量に割く日数を大幅に短縮できます。
3D測量で得た詳細データは、その後の復旧計画策定でも大きな力を発揮します。被災地の正確な地形モデルがあれば、どの部分にどれだけ土砂を盛れば元の形状に戻るか、シミュレーションで検討できます。複数の復旧案を比較する際も、各案の土工量や斜面勾配を点群上で計算し、最適案を客観的に選定できるのです。つまり、現場を丸ごとデジタル化することで、復旧の計画立案が迅速かつ精密になるというメリットがあります。
AR技術による現場施工支援
復旧工事が始まってからも、AR土木の技術は現場の様々な場面で活躍します。特に施工段階では、ARによる視覚的な支援が作業効率と品質を高めてくれます。

