はじめに:ARで「見えないもの」を見えるようにする革命
インフラの維持管理において、地中に埋設された設備(上下水道管・ガス管・電力ケーブル・通信線など)の管理は常に大きな課題でした。埋設物は目に見えないため、その位置や状態を把握するには従来、図面や経験に頼らざるを得ませんでした。しかしAR(拡張現実)技術の進化によって、こうした「見えないもの」を現場で直感的に見える化することが可能になりつつあります。本記事では、スマートフォンと最新技術を活用した新しいソリューション「LRTK」により、インフラ維持管理がどのように革新されるかをご紹介します。昨今、建設業界では人手不足や働き方改革による2024年問題を背景に生産性向上が急務となっており、国土交通省主導でi-Constructionなど現場DXも推進されています。そうした流れの中で、ARと3Dデータの活用が現場にもたらす可能性を具体的な事例とともに見ていきましょう。
従来の埋設物記録・探査・維持管理における課題
自治体やインフラ事業者の現場では、埋設管やケーブル類を扱う際に様々な苦労がありました。図面の不正確さや更新漏れによって、記録上の位置と実際の位置が食い違うケースは珍しくありません。その結果、掘削工事の際に目的の管が見つからなかったり、誤って別の埋設物を損傷してしまうといった掘削ミスが起こりがちです。特に老朽化した水道管やガス管の更新工事では、事前に正確な位置を特定するために地図や探知機を頼りに試掘を行う必要があり、大きな手間とコストを伴っていました。
また、施工時に埋設物の記録を残す作業自体も煩雑でした。埋め戻し前に現場の写真を撮影し、後日それをもとに図面化するというアナログなプロセ スでは、測定ミスやデータ紛失のリスクが高まります。近年では仮復旧した道路上に、埋設した管の経路や管径を直接マーキングして記録する光景も見られますが、これも恒久的な保存方法とは言えず限界があります。複数の埋設管が交差する場所では、経験豊富な担当者の勘に頼って位置関係を把握するしかなく、新人には難しい業務となっていたのです。
以上のように、埋設物の維持管理には「記録が正確でない」「位置特定に時間と費用がかかる」「熟練者頼みで属人化しやすい」といった課題が山積していました。これらを解決する鍵として期待されているのが、AR技術の活用とデジタルな三次元記録です。
スマホとLRTKで実現するAR埋設物可視化ソリューション
こうした課題を解決する革新的なアプローチとして登場したのが、スマートフォンとRTK技術を組み合わせた「LRTK」です。LRTKとは、iPhoneなどのスマホに取り付ける小型の高精度GNSS受信機(RTKユニット)と専用アプリ・クラウドサービスを組み合わせたソリューシ ョンで、スマホ一台でセンチメートル級の測位と点群計測ができる万能測量機へと変身させます。点群データとは現実空間の形状を無数の点で表現した3次元データのことで、近年その利活用が建設業界で注目されています。スマホに内蔵されたLiDARセンサー(レーザーによる3Dスキャン機能)とLRTKデバイスを活用することで、現場の状況をこの高精度な点群データとして手軽に記録可能です。
例えば道路工事で地中に配管を敷設する際、埋め戻す前にiPhone+LRTKで配管をスキャンすると、その形状や位置(経路や深さ)を3次元データとしてクラウド上に自動保存できます。取得した点群データにはRTKにより公共座標系での正確な位置情報が付加されるため、後から別の端末で現地に行っても位置ずれなくAR表示できるのが特長です。
さらに専用アプリのAR機能を使えば、取得した埋設物の3Dデータを現場でカメラ映像に重ねて表示できます。スマホの画面越しに見ると、普段は見えない地下の管路が透けて見えるというわけです。例えば、下水管工事で取得した点群を舗装後にAR表示 すれば、道路上から地中の管の通り道が手に取るように分かります。このスマホLRTKによる埋設物の可視化は、図面や記憶に頼っていた従来手法に比べて格段に直感的で正確です。ベテランの勘がなくても、誰もがスマホをかざすだけで地下の状況を把握でき、現場作業の効率と安全性が飛躍的に向上します。
具体的な活用例:施工記録から維持管理・更新計画まで
スマホLRTKとARによる埋設物の見える化は、インフラ管理の様々な場面で役立ちます。ここでは施工時、維持管理時、そして更新計画策定時という3つの局面での具体的な活用例を見てみましょう。
施工時:埋設物の3Dスキャン記録
新たに配管やケーブルを敷設する施工現場では、LRTKが正確な出来形記録として力を発揮します。従来、施工後に埋設物の位置を残すには、巻尺や測量機で要点を測って図面化する必要がありました。しかしLRTKを使えば、埋め戻す直前にスマホで配管をスキャンするだけで、その配管の形状や勾配、埋設深度までも丸ごと記録できます。例えば長い水道管を敷設した場合でも、管の始点から終点まで連続的に点群計測することで、微妙な曲がりや高低差も含めてありのままの3Dモデルとして保存できます。
現場で取得したデータは自動的にクラウドにアップロードされるため、オフィスに戻ってから図面を起こす手間もありません。点群データからは必要に応じて断面図を切り出したり、管径や埋設幅を後から測定するといった活用も可能です。一度のスキャンで将来にわたって有用なデジタル記録が手に入る点が、施工現場にとって大きなメリットです。
維持管理時:ARで地中を“透視”して迅速点検
埋設物を記録しただけではなく、そのデータは維持管理の現場で即戦力となります。地下にある設備の点検や補修の際、LRTKで取得したデータを使ってスマホの画面上にAR投影すれば、地面を掘り返さずともまるで透視したかのように埋設物の位置を確認できます。
例えば、水道管の漏水調査やガス管の定期点検で、担当者が現地でスマホをかざすと、道路下に走る管路がリアルタイムに表示されます。これにより埋設管の探索時間が大幅に短縮され、掘削箇所の特定も正確になります。事前に埋設物の位置が視覚的に分かるため、ショベルで誤って他の管を破損するといった事故も防ぎやすくなります。また、深さ情報も画面上に表示されるため、必要な掘削の深度を把握でき、作業計画を的確に立てることができます。
経験の浅い作業員でも、AR表示されたガイドを頼りに埋設物の所在を特定できるため、熟練者に依存しない維持管理が可能になります。結果として、人的ミスの削減や作業の迅速化によって、ライフラインのサービス停止時間を最小限に抑えることが期待できます。加えて、無駄な試掘や復旧のやり直しが減るためコスト削減の効果も見込めるでしょう。
更新計画策定:デジタルデータで効率的な改修判断
老朽化したインフラの更新や設備増設の計画立案にも、LRTKで取得した3Dデータが活躍します。従来、埋設管の更新計画を立てる際には、古い図面を参考にしつつ現地調査を行い、場合によっては試掘して正確な位置を確かめる必要がありました。これには多大な時間と費用がかかります。しかし既に信頼性の高い点群データが存在していれば、デスク上で現況の3Dモデルを確認しながら計画を練ることができます。
例えば、水道管の更新工事で新旧の配管ルートが交差しないようにしたり、他の地下構造物との干渉を避けたりといった検討を、3D上で直感的に行えます。必要に応じて設計段階のBIMデータやCAD図面をLRTKの点群と重ね合わせ、現況と計画を比較検証することも容易です。これにより、設計ミスや見落としを事前に発見でき、計画変更による手戻りを防げます。
さらに、定期的に点群スキャンを行ってデータを蓄積しておけば、経年による変化を把握して予防保全に役立てることも可能です。例えば前回の点検時の点群モデルと今回新たに取得したモデルを比較すれば、地盤沈下や配管のたわみといった微細な変位も定量的に検知できます。こうしたデジタルな記録に基づく判断により、適切なタイミングでの改修工事計画が立てられ、インフラの延命化とコスト最適化につながります。
点群データの管理・共有と維持管理台帳への活用
LRTKによって取得された点群データや生成された3Dモデルは、クラウド上で一元管理されます。そのため、現場で記録した情報をオフィスのスタッフや別部署ともリアルタイムに共有することができます。インターネット経由でクラウドにアクセスすれば、関係者全員がPCやタブレットから最新の現場状況を3Dで確認できるため、部署間・企業間の連携もスムーズです。
このデータ共有の仕組みは、維持管理台帳への情報反映にも有用です。従来は、竣工図や紙の台帳に埋設物の情報を記録していましたが、LRTK導入後はデジタル台帳として点群由来の正確な3D情報を紐付けることができます。例えば、台帳システム上で設備ごとにスキャンデータやモデルを登録しておけば、将来その設備を点検・工事する際に、担当者はすぐに詳細な埋設状況を確認できます。紙の図面を探し出して読み解く手間がなく、更新漏れによる情報抜けも起こりません。
また、点群データは客観的な現物記録として信頼性が高いため、発注者への報告や工事検査のエビデンスとしても活用できます。現場でARを使って施工内容を検証し、その様子を写真や動画で記録しておけば、後から誰が見ても説得力のある記録となります。こうしたデジタルデータの積み重ねが、インフラ資産のデジタルツイン化につながり、長期的な維持管理の高度化に資するでしょう。
スマホ1台で完結する測量・記録・共有ワークフロー
LRTKソリューション最大の特長は、スマホ1台で現場の測量から記録・共有まで完結できるその手軽さにあります。特殊な大型機材を持ち込む必要も、専門の測量チームを手配する必要もありません。現場担当者がポケットからスマホとLRTKデバイ スを取り出し、すぐに測定・記録を開始できます。
測定作業自体も、スマホアプリのシンプルな操作で直感的に行えます。難しい技術知識がなくとも、画面の指示に従って歩き回るだけで現況の3Dスキャンが完了します。取得後は自動でクラウド同期されるため、SDカードの受け渡しや事務所でのデータ処理も不要です。現場にいながら即座にデータを確認し、不足があればその場で取り直すこともできます。
また、ARによる活用までスマホ上でシームレスに行える点も、日常業務での使い勝手を高めています。以前は、AR技術を現場で活用するにはBIMモデルの作成や専用ゴーグルへのデータ転送など煩雑な準備が必要でした。しかしLRTKでは、現場でスキャン→自動で3Dモデル化→その場でAR表示という一連の流れが一気通貫で可能です。言い換えれば、計測から可視化までがワンストップで完了するため、ARを現場で「普段使い」することが現実的になったのです。
導入の容易さ・低コスト・多用途性で広がる可能性
スマホLRTKの魅力は、その導入ハードルの低さにもあります。必要なのはスマートフォン(iPhoneなど)と小型のLRTK受信機だけです。高価な従来型3Dスキャナーや測量機を購入するより遥かに低コストで、しかも1人1台の配備も無理のない価格帯です。重量わずか125g程度の受信機は携行も容易で、バッテリー内蔵型のため現場ですぐに使用できます。現場スタッフからは「スマホに装着するだけですぐ測れる手軽さが良い」と評価されており、事前研修なしでも使いこなせるほど操作も簡単です。新人でも正確なデータを取得できるため、人材不足や技術継承の課題を緩和する効果も期待できます。
実際、LRTKは現場の施工管理者や作業員の間で静かなブームとなりつつあり、「1人1台あれば現場業務の生産性は大幅に向上しそうだ」という期待の声も上がっています。導入する企業・自治体も増え始めており、現場DXへの実践的なツールとして注目されています。
さらに、LRTKは多用途に活用できる汎用 性も備えています。埋設物の可視化だけでなく、土木・建設現場における様々な計測業務を1台で担えるため、現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を強力に推進します。例えば、地形の現況測量、盛土や掘削土量の算出、構造物の出来形チェック、災害時の被害状況記録など、用途は多岐にわたります。これらを従来より格段に少ない手間で実現できるため、投資対効果(ROI)の高いツールと言えるでしょう。
おわりに:見える化から始まるインフラ維持管理の新時代
埋設物をARで見える化する技術は、インフラ維持管理の現場にこれまでにない安心感と効率性をもたらします。LRTKを活用すれば、熟練者の「勘と経験」に頼っていた作業が誰にでも再現可能なデジタルプロセスに生まれ変わり、ミスの削減や工期短縮、そして安全性向上といった成果が期待できます。これはひいては、ライフラインの安定供給やコスト削減にも直結する重要な進歩です。
幸い、スマホ と小型デバイスさえあれば始められるLRTKの導入は難しくありません。小さく始めて徐々に活用範囲を広げることも可能であり、既に現場では「一度使ったら手放せない」という声も聞かれます。国土交通省が推進するi-Constructionなどインフラ分野のDX戦略にも合致する取り組みであり、これから普及が加速すると見られています。インフラ管理の変革が求められる今こそ、現場の見える化にAR×LRTKという新たな選択肢を取り入れてみてはいかがでしょうか。きっと現場の風景が一変し、維持管理の在り方が革新する未来が拓けるはずです。このようなARと点群を組み合わせたソリューションは、今後インフラ維持管理における新たな標準となっていくことでしょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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