目次
• 88条申請は杭工事そのものではなく対象工事で判断する
• 88条申請は何日前までかを最初に押さえる
• 着工基準は「仕事の開始日」から逆算する
• 例1:高さ31m超の建築物で杭工事から始まる場合
• 例2:杭工事はあるが届出対象の規模に達しない場合
• 例3:山留め・掘削が深さ10m以上になる場合
• 杭工事前に確認したい実務チェックの進め方
• 88条申請で遅れやすいポイントと対策
• まとめ:杭工事前の判断は対象工事と開始日の整理がすべて
88条申請は杭工事そのものではなく対象工事で判断する
「88条申請は杭工事前に必要ですか」と聞かれたとき、最初に整理したいのは、法令上の判断単位は「杭工事」という工種名だけではないという点です。実務では88条申請と呼ばれることが多いものの、正確には労働安全衛生法第88条に基づく計画の届出です。建築確認のように許可を受ける手続きというより、危険性の高い建設工事、仮設物、機械等について、あらかじめ計画内容を届け出る制度として理解すると判断しやすくなります。
杭工事は、多くの現場で本体工事の初期に行われます。地盤改良、既製杭、場所打ち杭、山留め壁を兼ねる構造体、試験杭など、名称や施工順序は現場ごとに異なります。そのため、担当者が迷うのは「建物全体では88条関係の届出が必要そうだが、杭工事前なのか、躯体工事前なのか」「杭だけなら届出対象外なのか」「測量や仮囲いなどの準備工を始めてよいのか」という実務上の境目です。
結論として、88条申請が杭工事前に必要になるかどうかは、杭工事の有無だけではなく、工事全体または個別作業が届出対象に該当するか、そして杭工事がその対象となる仕事の開始に当たるかで判断します。たとえば、高さ31mを超える建築物または工作物の建設等、最大支間50m以上の橋梁、一定の橋梁上部構造、労働者が内部に立ち入るずい道等、掘削の高さまたは深さが10m以上である地山の掘削、圧気工法による作業などは、建設工事・土石採取計画届の対象になり得る典型例です。([e-Gov Law Search][1])
この考え方に立つと、「杭工事だから必ず88条申請が必要」とも、「杭工事だけなら常に不要」とも言い切れません。杭工事が、届出対象となる建築物や工作物を建設するための最初の本格的な施工であれば、杭工事前に届出を済ませておく必要がある場面があります。一方で、建物高さ、掘削深さ、橋梁の支間、ずい道等の有無、圧気工法の有無などが対象条件に該当しない場合は、杭工事があっても建設工事・土石採取計画届までは不要と整理できる場合があります。
もう一つ重要なのは、88条申請という言葉が現場で広く使われる一方で、建設工事・土石採取計画届だけでなく、足場、架設通路、型枠支保工、クレーン等の設置に関する届出まで含めて語られることがある点です。要件を満たす足場、架設通路、型枠支保工などは、建物全体の建設工事計画とは別の観点で確認が必要になることがあります。杭工事前の段階では足場がまだ関係しない現場も多いですが、仮設構台や作業床を先行して組む場合は、別の届出対象が潜んでいないかも確認しておく必要があります。
実務担当者にとって大切なのは、「杭工事」という単語に引っ張られず、工事概要、最高高さ、掘削深さ、工法、仮設計画、工程表を並べて見ることです。発注者、元請、設計者、専門工事会社の間で認識がずれていると、確認が遅れます。特に、設計図では高さや地下深さが読み取れるのに、施工計画上の掘削手順や山留め計画がまだ固まっていない段階では、88条申請の要否判断が後回しになりがちです。杭工事が迫ってから「何日前までだったか」を調べ始めると、工程調整が難しくなります。
88条申請は何日前までかを最初に押さえる
「88条申請 何日前」で検索する担当者が最も知りたいのは、いつまでに届け出れば対象工事を始められるのかという点です。建設工事関係では、一定の仕事について、仕事を開始しようとする日の14日前までに所轄の労働基準監督署長へ届け出る類型があります。また、特に大規模な建設業の仕事については、仕事の開始日の30日前までに厚生労働大臣へ届け出る類型があります。さらに、一定の建設物・機械等の設置、移転、主要構造部分の変更に関する届出でも、工事開始の30日前という期限が関係します。([MHLW Prefectural Labor Bureau Locator][2])
実務では、まず「14日前の建設工事・土石採取計画届なのか」「30日前の大規模な仕事の計画届なのか」「30日前の機械等設置・移転・変更届なのか」を分けて考えます。同じ88条関係でも、届出先、様式、添付書類、届出義務者、期限が異なることがあるためです。建設工事・土石採取計画届の様式は、厚生労働省の主要様式でも様式第21号として示されています。([Ministry of Health, Labour and Welfare][3])
ここで注意したいのは、14日前とは、社内で書類を作り始める期限ではなく、所定の届出先に提出する期限として考えるべきだということです。届出書を作るだけでなく、工法説明、図面、工程、安全衛生対策、参画者の資格確認、社内審査、関係者の確認、提出後の確認対応まで含めると、実務上は14日前ぴったりでは余裕がありません。とくに杭工事は、地盤条件や重機配置、搬入動線、近隣対策、山留めとの取り合いが多いため、工程表だけ先に決まっていて、必要図面が追いつかないことがあります。
また、「14日前までに提出したから必ずそのまま着工できる」と軽く考えるのも危険です。届出制度は、危険な工法や設備が採用されないよう、事前に計画を確認する趣旨を持ちます。内容に不足や不整合があれば、説明や修正を求められる可能性があります。現場が始まってから図面を差し替えるのではなく、届出時点で施工計画として説明できる粒度まで整えておくことが、結果的に着工遅れを防ぎます。
杭工事前に必要かを考える場合、届出対象となる仕事の開始日がどこかを先に決めます。対象となる建築物や工作物の建設工事で、杭工事が地中の構造や基礎を形成する最初の本格的な施工であれば、杭工事開始予定日を起点に逆算するのが安全です。もちろん、現場ごとの工程や届出対象の範囲によって判断は変わり得ますが、少なくとも「上部躯体が始まる日までに出せばよい」と安易に考えるのは避けるべきです。
30日前の類型に該当するかどうかも早めに見ます。高さ300m以上の塔、堤高150m以上のダム、一定規模以上の長大橋、長大なずい道等、一定圧力以上の圧気工法など、特に大規模な仕事は14日前の届出とは別の期限になる場合があります。杭工事を始める前に30日前の届出が必要だったと気づくと、工程への影響は大きくなります。大規模工作物や特殊土木工事では、基本設計や実施設計の段階から、88条関係の届出期限を工程表に入れておくことが重要です。
着工基準は「仕事の開始日」から逆算する
88条申請で迷いやすいのが、着工という言葉の扱いです。建設業界では、契約上の着工日、現場乗り込み日、仮囲い開始日、地鎮祭、試験杭、本杭、根切り開始、基礎躯体開始など、さまざまな節目が「着工」と呼ばれます。一方、88条関係で意識すべきなのは、届出対象となる仕事を開始する日です。建設工事・土石採取計画届の記入では、仕事の開始予定年月日を契約工期ではなく実際に施工する時期として整理する考え方が示されています。
このため、工程表に記載された契約上の工期初日だけを見て判断すると、実態とずれることがあります。契約工期は始まっていても、現場では近隣説明、仮設事務所準備、測量、既存物調査だけを行っている場合があります。反対に、契約上の工期初日より前に試験施工や先行作業が行われるケースもあります。88条申請の実務では、対象工事に該当する作業がいつ始まるのかを、工程表と施工計画の両方で確認する必 要があります。
杭工事については、試験杭をどう扱うかも問題になります。試験杭が本設杭と同じ機械、同じ施工ヤード、同じ安全リスクを伴い、実質的に対象建築物の施工計画の一部として行われるなら、単なる調査扱いでよいかを慎重に確認するべきです。支持層確認のための試験、施工性確認、載荷試験など目的はさまざまですが、重機を据え付け、掘削や打設を行う以上、労働災害防止の観点では本工事に近い管理が求められます。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署や社内の安全衛生担当へ早めに確認します。
着工基準を誤りやすいもう一つの場面は、山留めや仮設構台が杭工事より前に始まる場合です。地下工事を伴う建築では、山留め壁、構台杭、乗入れ構台、先行掘削、地中障害撤去が、いわゆる本杭より先に行われることがあります。この場合、「本杭はまだだから88条申請は後でよい」と判断すると、実際には対象となる地山掘削や仮設物の設置が始まっていたという状況になりかねません。着工基準は、工種名の順番ではなく、届出対象作業の開始で見ます。
また、現場ごとに所轄署との確認の仕方にも差があります。法令上の対象条件が明確な場合でも、工程の切り分け、変更届の要否、添付図面の粒度、参画者の資格の示し方などは、事前相談を行ったほうがスムーズです。特に、杭工事の開始日が近い場合や、設計変更で高さ、深さ、工法が変わった場合は、社内判断だけで進めず、届出対象の考え方を早めに確認する体制を作っておきたいところです。
例1:高さ31m超の建築物で杭工事から始まる場合
一つ目の例は、高さ31mを超える建築物を新築する現場で、最初の本格的な施工が杭工事になるケースです。中高層以上の建物では、地盤条件によって杭工事が工程の初期に入ります。現場では、仮囲い、測量、地中障害確認、重機搬入、試験杭、本杭施工という流れになることが多く、建物の地上部分はまだ見えません。しかし、対象建築物の建設工事として見れば、杭工事は本体の基礎を形成する重要な施工です。
このケースでは、88条申請は杭工事前に必要と考えるのが基本です。届出対象は「杭工事」そのもの ではなく、高さ31mを超える建築物または工作物の建設等という仕事です。杭工事がその仕事の実質的な開始であれば、仕事の開始日の14日前までに建設工事・土石採取計画届を提出する前提で工程を組みます。高さ31mを超える建築物または工作物の建設、改造、解体または破壊は、14日前届出の対象として整理されています。
このとき、担当者が確認すべきなのは、最高高さの数え方、工作物の扱い、塔屋や設備架台の扱い、既存躯体を含む改造や解体の扱いです。設計図上の最高高さが31mを少し超える場合、または建築物本体は31m以下でも工作物や付属構造物が関係する場合は、早めに専門部署や所轄署へ確認したほうが安全です。高さの判断を後回しにして杭工事日だけ先に決めると、届出期限が足りなくなる可能性があります。
書類面では、工程表に杭工事開始日を明確に入れ、工法概要では杭種、施工手順、重機配置、搬入経路、作業半径、地盤条件、近接構造物、埋設物対応、立入禁止区画、誘導員配置、重機転倒防止、第三者災害防止などを説明できる状態にします。図面は、建物概要だけでなく、工事用機械や仮設設備の配置が読み取れることが重要です。杭工事は地上からは見えにくいリスクが多いため、地盤調査結果や障害物調査、施工ヤードの計画、残土や泥土の処理動線も、現場の安全計画と整合させておきます。
工程管理上は、杭工事開始予定日の14日前を単純にカレンダーで引くだけでは不十分です。社内審査、協力会社の施工計画確認、図面修正、参画者の資格確認、提出書類の整合確認、必要に応じた事前相談を考えると、実務ではさらに前倒しが必要です。着工直前に地盤改良範囲が変わる、杭径が変わる、重機が変わる、搬入ルートが変わるといった変更は珍しくありません。杭工事前に88条申請が必要な現場では、届出書類を「提出するための書類」ではなく、「安全に着工するための施工計画の集約」として扱うことが重要です。
例2:杭工事はあるが届出対象の規模に達しない場合
二つ目の例は、杭工事は行うものの、建物高さが31m以下で、橋梁、ずい道等、圧気工法、深さ10m以上の地山掘削などにも該当しないケースです。たとえば、比較的小規模な建築物で地盤補強のために杭を施工する場合や、支持層が浅い敷地で既製杭を短期間で施工する場合が考えられます。この場合、「杭工事がある」と いうだけで直ちに88条の建設工事・土石採取計画届が必要になるわけではありません。
ただし、不要と判断する前に、杭工事の周辺に別の届出対象がないかを確認します。たとえば、掘削深さが10m未満でも、仮設足場、型枠支保工、架設通路、建設用の機械設備など、別の規模要件に該当するものが後工程で出てくる可能性があります。杭工事前には不要でも、上部躯体、外装、設備工事の段階で別の88条関係届出が必要になることがあります。したがって、杭工事時点だけを切り取るのではなく、全体工程で届出対象の有無を洗い出すことが大切です。
このケースで実務上よく起こるのは、元請と専門工事会社の認識違いです。専門工事会社は杭工事の安全計画を作成しているものの、現場全体の高さや後工程の仮設計画までは把握していない場合があります。一方、元請は建物全体の情報を持っていますが、杭工事の詳細な施工手順や重機条件は専門工事会社の計画待ちということがあります。88条申請が不要かどうかは、どちらか一方の情報だけでは判断しにくいため、工事概要と施工計画を突き合わせる場を早めに設ける必要があります。
また、届出不要と判断した場合でも、その根拠を残しておくことが重要です。後から監査や安全パトロールで確認されたときに、「何となく不要と聞いた」では説明になりません。高さ、掘削深さ、工法、仮設物の規模、作業開始日、確認した図面や工程表、判断日、判断者を記録しておけば、社内の引き継ぎや現場変更時にも役立ちます。届出不要の記録は、書類を減らすためではなく、判断の再現性を確保するために残します。
このような現場では、杭工事前に88条申請が不要だったとしても、労働安全衛生上の管理が軽くなるわけではありません。杭打機や掘削機械の転倒、吊り荷、接触、騒音、振動、地中障害物、埋設物、泥土処理、近隣第三者への影響など、杭工事特有のリスクは依然として存在します。届出の有無と安全管理の必要性は別問題です。88条申請が不要な現場ほど、法定届出がないことを理由に施工計画の確認が甘くならないよう注意が必要です。
例3:山留め・掘削が深さ10m以上になる場合
三つ目の例は、杭工事と前後して山留めや根切りを行い、地山の掘削の高さまたは深さが10m以上になるケースです。地下階のある建築物、駅前や都市部の再開発、深いピットを伴う建物、擁壁や構造物の改修を伴う工事では、杭工事そのものよりも、掘削計画が88条申請の要否を左右することがあります。届出対象には、掘削の高さまたは深さが10m以上である地山の掘削の作業を行う仕事が含まれます。ただし、ずい道等の掘削や岩石採取のための掘削は別扱いであり、掘削機械を用いる作業で掘削面の下方に労働者が立ち入らないものは除かれるため、条件の読み分けが必要です。
このケースでは、杭工事前に建設工事・土石採取計画届が必要かどうかを、掘削開始日と杭工事開始日の関係で確認します。たとえば、先に山留め壁を施工し、その後に深さ10m以上の掘削へ進む場合、届出の起算日は掘削作業の開始日だけでよいと考えたくなるかもしれません。しかし、山留め壁の施工が深い掘削と一体の施工計画を構成している場合、全体としていつから対象となる仕事が始まるのかを確認する必要があります。安全側に考えるなら、杭工事や山留めに入る前から、深い掘削を含む計画として届出準備を進めるべきです。
深さ10m以上の掘削では、崩壊、肌落ち、地下水、土留め支保工、周辺地盤沈下、近接構造物、埋設物、重機動線、作業員の昇降、避難、計測管理など、確認項目が多くなります。届出書類でも、作業場所の周囲状況、四隣との関係、工法の概要、労働災害を防止する方法や設備、工程表などが重要になります。深い掘削は、杭工事の施工ヤードや重機配置にも影響するため、杭工事だけの平面計画と、掘削時の計画が矛盾していないかを見ておく必要があります。
実務で特に注意したいのは、「最終掘削深さは10m以上だが、杭工事時点ではまだ浅い」というケースです。この場合でも、工事全体として10m以上の地山掘削に進むことが分かっているなら、届出要否を後工程まで含めて判断します。杭工事時点では届出が不要に見えても、直後に深掘りへ進む工程で14日前の余裕がなくなる可能性があります。杭工事、山留め、一次掘削、二次掘削、床付けの工程を分けて、どの時点が対象作業の開始なのかを明確にしておきます。
また、掘削機械を用いる作業で、掘削面の下方に労働者が立ち入らないものは対象から除かれる扱いがありますが、この条件を安易に使うのは避けるべきです。実際の現場では、測量、手直し、支保工 設置、排水、点検、埋設物確認などで人が立ち入る場面が生じることがあります。施工計画上は立ち入らない予定でも、作業手順の細部で立入りが発生するなら、判断が変わる可能性があります。書類上の表現ではなく、実際の作業実態で確認することが大切です。
杭工事前に確認したい実務チェックの進め方
杭工事前の88条申請判断は、設計図を見て終わりではありません。まず、工事全体の概要を整理します。建築物や工作物の最高高さ、地下深さ、橋梁であれば最大支間、ずい道等の有無、圧気工法の有無、石綿除去や廃棄物焼却施設の解体の有無など、届出対象になり得る条件を確認します。次に、工程表を見て、対象になり得る作業がいつ始まるのかを確認します。杭工事が最初なのか、山留めが先なのか、仮設構台が先なのか、試験施工があるのかによって、逆算の起点が変わります。
そのうえで、届出に必要な情報がそろっているかを確認します。工事場所の周囲状況、隣地との関係、近接道路、鉄道、架空線、埋設物、重機配置、施工範囲、搬入出経路、工法概要、安全衛生対策、工程 表、参画者の資格情報などです。杭工事の場合は、杭種、杭径、杭長、施工機械、支持層、排土や泥水の処理、安定液の扱い、施工順序、重機転倒防止、敷鉄板や地盤養生、立入禁止措置、誘導計画も確認したい項目です。これらは届出書類のためだけでなく、現場の安全計画そのものです。
社内フローとしては、施工担当だけに任せず、安全担当、技術担当、機械担当、協力会社、必要に応じて設計担当を交えて確認します。88条申請の遅れは、単に書類担当の作業が遅いから起きるのではありません。工法が固まらない、図面が更新されない、協力会社の計画が届かない、工程変更が共有されない、参画者の資格確認が後回しになるといった複合的な原因で起こります。杭工事前の段階では、現場がまだ静かに見えるため油断しやすいですが、実際には安全書類の準備が最も集中する時期です。
判断記録も重要です。届出が必要な場合は、提出日、仕事の開始予定日、届出先、提出書類、確認や補正の有無、最終版の保管場所を記録します。届出不要と判断した場合も、対象条件に該当しない理由を記録します。高さ31m以下である、掘削深さが10m未満である、圧気工法を用いない、該当する仮設物がない、といった根拠を、図面 番号や工程表の版数と合わせて残しておくと、後日の変更確認が容易になります。
オンラインで利用できる安全衛生関係の手続案内もありますが、電子的に出せることと、内容が早く整うことは別です。労働局・労働基準監督署への申請・届出ではオンライン活用の案内が整備されているため、対象手続、提出方法、添付書類の扱いは最新の案内と所轄署の指示で確認します。提出方法を効率化するだけでなく、現場から最新情報を集め、どの版の図面で届出したかを管理することが重要です。([Ministry of Health, Labour and Welfare][4])
88条申請で遅れやすいポイントと対策
88条申請が遅れやすい最大の理由は、要否判断が「誰かがやっているはず」になりやすいことです。発注者は元請が判断すると思い、元請は専門工事会社の施工計画待ちになり、専門工事会社は元請から届出対象かどうかの指示を待つ、という状態になると、杭工事開始日だけが先に迫ります。88条申請は、現場が始まる前に危険性を確認する制度であるため、着工直前に担当者が一人で帳尻を合わせる運用には向いていません。
対策としては、初回工程会議や着工前会議の時点で、88条申請の要否確認を議題に入れることです。ここで大切なのは、単に「必要」「不要」と口頭で確認するのではなく、どの条件を見て判断したのかを残すことです。高さ、深さ、支間、工法、仮設物、石綿や特殊解体の有無、仕事の開始予定日を確認し、判断が保留なら保留理由と期限を決めます。保留のまま杭工事予定日だけ確定させると、後で工程が詰まります。
次に遅れやすいのは、参画者の確認です。対象となる計画の作成には、一定の資格を有する者を参画させる必要がある場合があります。現場代理人や施工管理担当者が経験豊富であっても、法令上求められる参画者の要件を満たすかどうかは別に確認が必要です。人選、経歴確認、資格書類の準備、社内承認に時間がかかることがあるため、杭工事の直前に探し始めるのではなく、届出要否の判断と同時に進めます。
図面の版管理も見落とされがちです。杭伏図、山留め図、仮設計画図、重機配置図、工程表、近隣状況図の版がずれていると、提出後に説明が難しくなります。地盤改良範囲や杭本数の変更、搬入ゲートの変更、仮設構台の追加、掘削ステップの変更がある場合は、88条申請に影響するかを確認します。届出後に計画が変わる可能性がある現場では、変更が安全衛生上重要な変更なのか、軽微な修正なのかを整理し、必要に応じて所轄署へ相談します。
さらに、現場写真や日々の記録が分散することも問題です。88条申請の書類は提出時点で完結するものではなく、着工後の安全管理とつながっています。届出した重機配置と実際の配置が違う、立入禁止区画が現場で変わった、搬入動線が変更された、地中障害で施工順序が入れ替わったという場合、記録が残っていないと後から経緯を追いにくくなります。杭工事は短期間で進むことが多いため、現場の判断を写真、位置、日時、コメントと一緒に残す運用が有効です。
最後に、88条申請を「安全書類の一つ」とだけ捉えないことです。届出対象になる工事は、そもそも災害リスクが高い仕事です。杭工事前の判断を通じて、重機転倒、接触、墜落、崩壊、埋設物損傷、第三者災害、近隣への影響を見直す機会にできます。書類を間に合わせるだけでなく、工程と安全対策が同じ方向を向いているか を確認することが、実務上の最大の目的です。
まとめ:杭工事前の判断は対象工事と開始日の整理がすべて
88条申請が杭工事前に必要かどうかは、「杭工事をするか」だけでは決まりません。判断の中心は、工事全体または個別作業が届出対象に該当するか、そして杭工事や山留め、掘削、仮設物の設置が対象となる仕事の開始に当たるかです。高さ31mを超える建築物で杭工事から始まるなら、杭工事前に14日前の届出を済ませる前提で工程を組むのが基本です。杭工事があっても対象規模に達しない場合は、建設工事・土石採取計画届は不要と整理できることがありますが、後工程の足場や型枠支保工、深い掘削など別の届出対象を見落とさないことが重要です。深さ10m以上の地山掘削が関係する場合は、杭工事そのものよりも掘削計画が判断の軸になることがあります。
「88条申請 何日前」という疑問に対する実務上の答えは、多くの建設工事・土石採取計画届では仕事の開始日の14日前まで、特に大規模な仕事や機械等に関する一部の届出では30日前まで、という整理になります。ただし、本当に大 切なのは期限そのものよりも、何を仕事の開始日と見るかです。契約工期の初日ではなく、対象となる仕事が実際に始まる日を工程表で確認し、杭工事、試験杭、山留め、掘削、仮設構台などの順序を見ながら逆算します。
杭工事前の段階では、まだ建物が立ち上がっていないため、88条申請の必要性が見えにくいことがあります。しかし、危険はこの段階から始まっています。重機が入り、地盤を掘削し、地中に構造体をつくり、周辺地盤や近隣環境に影響を与えるからです。だからこそ、着工前に届出要否を確認し、必要書類を整え、判断根拠を記録することが、工程を守るうえでも安全を守るうえでも欠かせません。
現場の記録を残す運用まで含めて整えるなら、杭工事前後の写真、位置情報、図面との対応、是正履歴を一元的に扱える仕組みが役立ちます。88条申請の準備と着工後の安全管理をつなげ、現場で起きた変更を後から追える状態にしておくことが、実務担当者の負担軽減につながります。杭工事前の確認は、届出の有無を決めるだけでなく、施工計画、安全対策、記録管理を同じタイミングで整えるための重要な工程です。
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