目次
• 活用条件1: 200m対応のレーザースキャナー性能
• 活用条件2: 遠距離での精度と点群密度の確保
• 活用条件3: 測定対象の反射率と大きさ
• 活用条件4: 現場環境(天候・視界)の影響
• 活用条件5: 運用計画と高精度測位の活用
• まとめ
建設や土木の測量、インフラ設備の点検、さらには防災調査の現場などで、レーザースキャナーを用いた3次元スキャン(LiDAR計測)は欠かせない技術となっています。近年では、200m先まで計測可能な「長距離対応」のレーザースキャナーも登場し、離れた場所から大規模な構造物や地形を捉えることが期待されています。例えば、橋梁やダムの全体を一度に捉えたり、急斜面や崩落現場を安全な距離から計測したりと、200m級のスキャン能力があれば測量作業の効率と安全性が大きく向上するでしょう。
しかし、カタログ上で「最大測定距離200m」と謳われていても、それが現場で常に発揮できるとは限りません。もし十分な準備や対策なしに遠距離測定を行えば、精度の低下やデータ欠落といった問題が生じ、せっかくの高性能機器を活かしきれないかもしれません。レーザースキャンで遠距離を計測するには、機器の性能だけでなく対象物や環境、運用方法など様々な条件が影響します。では、200m先までのスキャンを実用的に行うためには、どのような条件を押さえておく必要があるのでしょうか。本記事では現場で200m先までのスキャンを活用するために重要な5つの条件について解説します。
活用条件1: 200m対応のレーザースキャナー性能
200mという遠距離をスキャンするためには、何よりもまず機器がその距離に対応していることが前提です。一般的な地上型3Dレーザースキャナーの多くは有効範囲が数十〜100m程度であり、従来は200m先を直接計測することは困難でした。最近になってようやく、レーザーの出力向上や受光センサーの高感度化によって200m級の測定が可能な機種が登場してきました。ただし「200mまで計測可能」といっても、それは理想的な条件下での最大値である点に注意が必要です。実際、メーカーの仕様には「反射率20%で○○m、90%で○○m」といった形で条件付きの数値が併記されていることもあります。それだけ、対象物の反射特性によって実際に測れる距離が左右されるということです。
レーザースキャナーのカタログに記載された最大測定距離は、多くの場合、高い反射率を持つターゲットに対して確実に測距できる距離として示されています。例えば、反射率の高い白色の板であれば200m先でも計測可能だが、暗い色や光を吸収しやすい素材の対象物ではそれより短い距離で測定限界となるケースがあります。このように、機器性能の上では200m対応であっても、実際の対象によって有効距離は左右されます。長距離計測を行う際は、使用するレーザースキャナーが自分の現場の対象物・目的に対して十分なレンジ(余裕を持った最大測定距離)を持つ機種かを確認しておくことが実用上の条件となります。
また、200m級の計測ではレーザーの種類や計測手法も重要です。一般的に、遠距離用にはパルス飛行時間(ToF)方式のLiDARが用いられ、正確な距離を長距離でも測定できます。一方、フェーズシフト(位相差)方式など高精度だが短距離向きの方式では、200mのような距離はカバーできません。適切な方式と十分な出力を備えたレーザースキャナーを選定することで、初めて200m先のデータ取得が土台に乗るのです。
さらに、長距離対応のレーザースキャナーは高性能ゆえに本体が大型になったり、操作に専門的な知識を要したりする場合があります。現場でその性能を引き出すには、しっかりと取扱説明やトレーニングを受け、機器の準備や調整を万全に行うことも実用上の前提条件となります。
加えて、レーザー光の波長も遠距離計測に影響します。長距離用のLiDAR機器では、人の眼に対して安全性が高く高出力を照射しやすい波長(例えば1.5μm帯の赤外光)を採用していることが多く、一般的な波長(905nm付近)を用いる機種に比べて遠方まで光を届けやすくなっています。こうした波長選択の工夫も、200mというレンジを実現するために重要な技術要素です。
活用条件2: 遠距離での精度と点群密度の確保
長距離スキャンでは、距離が伸びるにつれて精度面のハードルが上がります。レーザーによる距離測定精度自体も重要ですが、それ以上に影響が大きくなるのが角度の誤差です。例えば、スキャナーが発するレーザーの向きにごくわずかなズレがあった場合、近距離では誤差は小さいものの、200m先ではそのわずかな角度のズレが数十センチ以上の位置ずれとなって現れます。つまり、200m先まで正確に測るには、レーザースキャナー本体の角度精度(回転機構の精密さや機器の姿勢制御)が極めて重要です。現場では機器の三脚を安定させ、内部の水準器やIMU(慣性計測装置)が適切に補正されていることを確認して計測を始めることが基本となります。
なお、高精度な地上型レーザースキャナーには内部に傾斜センサーを備え、自動的に本体の傾きを補正する機種もあります。これによりある程度の角度ずれは機器側で補償されますが、その補正機能も定期的なキャリブレーションが必要です。現場に入る前にセンサーのゼロ点調整を行い、測定中も適宜検証することで、遠距離における角度誤差の影響を最小限に抑えられます。
また、遠距離になるほど点群データの密度(解像度)も低下します。レーザーは距離とともに拡散し、スポット径が広がるため、200m離れれば細かな凹凸や構造のエッジは平均化されてしまいがちです。例えば直径数ミリの電線のような細い物体を200m先で捉えるのは極めて難しく、単一の視点からでは点が途切れてしまうこともあります。高密度な点群を得るにはスキャナーの解像度設定を上げたり、必要に応じて対象物に近づいて追加計測するなどの工夫が必要です。
要求される精度水準に対して、実際に得られる点群の品質が満たせているかも現場で確認すべきポイントです。遠距離で取得した点群が、現場の基準点や既知の寸法と整合するかをその場で検証すれば、後で「遠くは誤差が大きかった」という問題を防げます。200m先でも数センチの精度が必要な場合には、事前に機器のキャリブレーションを行い、現地でも何らかの基準対象を測定して精度検証する慎重さが求められます。
なお、レーザースキャナーの仕様に記載される距離精度は、近距離での値であることが多く、200m先での実効的な精度はそれより低下します。たとえセンサー自体の測距誤差が±数ミリ程度でも、先述の角度誤差などが加わることで、遠方の点の位置誤差は数センチ以上になることがあります。求められる精度次第では、200m離れた対象についてはあくまで概略形状の把握にとどめ、より精密な計測が必要な部位は近距離から補足計測する、といったメリハリも重要です。
活用条件3: 測定対象の反射率と大きさ
レーザースキャンの実用性は、測定対象となる物体側の性質にも左右されます。特に重要なのが対象物の表面の反射特性(反射率)と、大きさや形状です。一般に、明 るい色や光沢のない表面はレーザーをよく反射し、遠距離からでも検出しやすくなります。逆に、黒色に近い暗い色の物体やガラス・水面のようにレーザーを吸収・透過してしまうもの、鏡のように反射角が偏ってセンサーに戻らないものは、200m先ではほとんど点群として捉えられない可能性があります。たとえば日陰にある黒いアスファルト舗装や濡れた地面は、数十メートル離れるとレーザーの返りが極端に弱くなり、200mにもなると測定が難しくなります。
対象物の大きさも重要です。レーザースキャナーが投射するビームの広がりや点の間隔を考えると、遠距離では小さな物体ほど検出が困難です。200m先にある細いパイプやケーブル、手すり程度の寸法の構造物は、たとえ素材が金属で反射率が高くても、点群データ上では途切れ途切れになったり消失したりしがちです。また、対象物がレーザーに対して斜めを向いている場合、実質的な反射強度が下がるため、遠方では見落としの原因となります。遠距離スキャンを活用する際には、自分が取得したい対象がこの距離で十分な反射強度を返すか、必要なら距離を縮めて計測し直すかといった判断が求められます。
なお、対象が樹木などの植生の場合は、葉の隙間を通過したレーザーの一部が地表に届いて反射する「 マルチリターン」の機能がある機種でないと、地面の点群がほとんど取れないことがあります。測定対象の特性に応じて、使用するレーザースキャナーの仕様(例えばマルチエコー対応の有無)や配置を工夫する必要も出てきます。
遠距離ゆえに取得できないデータが生じる場合、それが機器の問題なのか対象物の性質によるものかを見極めることも大切です。対象物側に起因する欠測であれば、スキャン手法を変えるか近距離で補足計測するなど、柔軟に対応する必要があるでしょう。
なお、ガラスや水面を遠距離からスキャンすると、点群データ上ではそれらの部分が抜け落ちたり誤点が散らばったりすることがありますが、センサーの特性上これは避けられない現象です。得られた点群を解釈する際には、そうした材質由来の欠損箇所が生じうることを理解しておく必要があります。
さらに、多くのレーザースキャナーでは各点の反射強度(インテンシティ)データも取得できます。遠距離では全般に反射強度が低下する傾向がありますが、特に反射率の低い対象やギリギリ捉えた点はIntensity値も低 くなるため、点群データの強度情報を確認すれば「どの部分が弱い信号なのか(=精度や信頼性が低い可能性があるか)」を把握できます。計測後のデータ解析では、強度分布も参考にして欠測箇所やノイズの見極めを行うと良いでしょう。
活用条件4: 現場環境(天候・視界)の影響
200m先までのスキャンを成功させるには、現場の環境条件が良好であることも欠かせません。まず天候の影響は無視できない要素です。雨や雪が降っている状況では、途中の降水粒子でレーザーが散乱されてしまい、遠距離ほどほとんど光が届かなくなります。霧やもやが出ている日も同様に、有効距離が大幅に縮んでしまうでしょう。できるだけ晴天で空気が澄んだタイミングを選ぶことが重要です。また、夏場の日中など直射日光が強い場合には、センサーに入り込む外乱光が増えて遠方の弱い反射信号がノイズに埋もれやすくなります。必要に応じ、日差しの弱い時間帯に計測する、あるいはセンサーに日よけをするなどの配慮でノイズ低減が期待できます。
視界(ラインオブサイト)の確保も実用上の大きな条件です。レーザースキャナーは光学機器であり、障害 物があればその背後は計測できません。200mもの距離を狙う場合、その間に樹木や建造物、地形の起伏などで見通しが遮られていないか確認が必要です。例えば、市街地で遠方の建物をスキャンしようとしても、途中に別の建物があれば陰になってしまいます。山間部の斜面を離れた場所から測る場合でも、手前の盛り上がった地形や林が一部エリアを隠してしまうことがあります。現場では可能な限り高い位置や開けた位置から機器を設置する、障害物がある場合は位置を変えて補完するなど、視界を確保する工夫が求められます。
さらに、現場環境における被写体の動きにも注意しましょう。遠距離スキャンでは対象が静止していることが理想です。強風時に樹木が揺れていると、その部分の点群は二重に重なったり不鮮明になったりします。また交通の激しい道路越しに測定する場合、往来する車両がレーザーを遮るたびにその背後の点群が欠落してしまう可能性があります。これらは後処理でノイズ除去やデータ補完することもできますが、最初から落ち着いた環境下で計測するに越したことはありません。長距離のスキャンほど、天候・視界・周囲の動的要素といった環境条件を選ぶことが、実用上の重要なポイントとなります。
長距離計測を成功させるには、このように天候や周囲の状況を慎重に見極め、条件が整ったタイミングで実施することが重要です。無理な状況下で敢行しても十分な成果が得られないことが多いため、環境条件の管理もまた技術者の腕の見せ所と言えるでしょう。
活用条件5: 運用計画と高精度測位の活用
現場で200m級のスキャンを有効に活用するには、測定の運用方法やデータ処理の工夫も欠かせません。まず、広い範囲をカバーするにはスキャナーの設置計画が重要です。単一の場所からでは見通せない領域がある場合、複数箇所に移動してスキャンする必要があります。その際、各スキャンデータを後でつなぎ合わせる(位置合わせする)工程が発生します。従来は、点群同士に十分な重複部分を持たせたり、現場に位置合わせ用のターゲット(標識)を設置し、それらの座標をトータルステーションなどで測量しておくなど各地点からそれを測定するなどの手法で対応してきました。しかし、200mのような広範囲を扱う場合、移動ごとにターゲットを配置・測量するのは手間がかかります。
この問題を解決するために有効なのが、高精度測位(GNSS)の活用です。あらかじめ既知点の座標 をGNSSで計測しておき、それらを基準に各スキャンを現地で位置合わせすれば、後処理を大幅に簡略化できます。最近ではスマートフォンに接続できるRTK-GNSS受信機なども普及してきており、専門の測量機がなくても現場でセンチメートル級の位置座標を取得することが可能です。こうした高精度GNSS機器を活用しておけば、取得した点群データを即座に既知の座標系に重ねることができ、200mスキャンの精度管理やデータ統合が容易になります。
さらに、測定の運用スタイル自体を工夫することで、長距離スキャンをより効率的に行える場合があります。例えば、三脚に据えて静止点ごとに計測するのではなく、オペレーターが機器を持って歩き回りながらスキャンする移動計測というアプローチがあります。高精度GNSSやIMU(姿勢センサー)を組み合わせたモバイルマッピングシステムを用いれば、広範囲を連続的に計測しつつリアルタイムで自己位置を把握できるため、複数地点の点群を後から手動で合成する必要がなくなります。専用の計測バックパックや手持ち式のLiDARデバイスなど、最新技術を活用した運用方法を検討することで、200m先までのスキャンをより一層実用的に活かすことができるでしょう。
なお、長距離をカバーした点群計測では、その分だけ得られるデータ量も膨大になります。広範囲を一度にスキャンすると数千万から億単位の点を取得することもあり、パソコン上での処理時間や保存容量も増大します。現場でタブレット等にリアルタイム表示させる場合も、データ量が多いと描画が重くなるため、必要に応じて領域を限定してスキャンする、解像度を調整する、といった配慮も求められます。取得後の点群データの整理やノイズ除去にも時間がかかるため、スキャン後の処理工程も見据えて運用計画を立てることが大切です。
まとめ
以上、200m先までのレーザースキャンを現場で実用的に活用するための5つの条件を見てきました。機器性能・精度管理・対象物・環境条件・運用手法のそれぞれにしっかり対策を講じれば、従来は難しかった遠距離からの安全で効率的な計測が可能となります。特に、建設・土木の現場測量やインフラ点検、防災の初動調査といった場面でも、200m級のスキャン能力が発揮されれば、作業時間の短縮や危険箇所への立ち入り回避といった大きなメリットが得られるでしょう。例えば、山間部で大規模な土砂崩れが発生した際にも、遠距離からレーザースキャンできれば、危険な崩落現場に立ち入らずに地形の変形状況や崩壊土砂の体積を迅速に把握できます。また、高架橋や煙突といった高所構造物の点検でも、離れた地点から橋全 体の三次元形状を取得し、一度の計測で橋脚や桁のゆがみを把握するといった活用が可能です。
また、こうした長距離スキャンを支える新しい技術も登場しています。例えば、スマートフォンに装着して利用できる高精度GNSS測位デバイス「LRTK」を活用すれば、現場で手軽にセンチメートル精度の位置情報が取得できます。そのデータとレーザースキャンを組み合わせることで、測定直後に点群を地図座標に重ね合わせたり、リアルタイムで自分の測位位置を確認しながら計測を進めたりすることも可能です。従来は専用の高価な装置が必要だったRTK測位をスマートフォンで実現できる点で画期的なデバイスであり、長距離スキャンと組み合わせることで現場のDX(デジタル化)を一層促進してくれるでしょう。
今後もLiDARセンサーや測位技術の進歩により、長距離スキャンのハードルは着実に下がっていくでしょう。ぜひ本記事で挙げたポイントを念頭に置いて、200m級スキャンのポテンシャルを現場で最大限に引き出してみてください。長距離レーザースキャンと高精度測位技術の組み合わせによって、現場のデータ取得はこれまでにないスピードと精度で進む時代が来ています。必要な条件を整えつつ、ぜひ200m先の計測にも挑戦してみてください。
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