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標高とは何か?
日本測地系で定める高さ基準を解説

2025年4月18日 掲載
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建設や土木の現場では「標高」という言葉が日常的に使われますが、一方で「海抜」という表現もあり、混同してしまうことがあります。

例えば、「この地点の標高(海抜)は何メートル?」と尋ねられたとき、何を基準にした高さなのか迷った経験はないでしょうか。実は標高と海抜はほぼ同じ意味で使われており、どちらも平均的な海面からの高さを指しています​。しかし、高さの基準を正しく理解していないと、現場で誤った高さデータを使ってしまい、施工ミスや測量の不整合につながりかねません。

本記事では、標高の定義と日本における高さ基準(日本測地系)について分かりやすく解説します。最新の日本測地系 JGD2024 の動向も踏まえ、正しい標高基準の理解を業務に活かせるようにしましょう。

標高とは?

標高とは、基準となる高さからの垂直距離のことです。簡単に言えば「平均海面からの高さ」が標高です。日本では測量法により東京湾の平均海面を0mと定義しており、この0mからの高さが標高になります。

一方、海抜という言葉は「近くの海の平均海面からの高さ」を意味するのが本来の定義ですが、現在では標高とほぼ同じ意味で使われています。つまり日常会話や防災情報で「海抜〇m」と言えば、実質的には標高〇m(東京湾平均海面からの高さ)を指しています。

混乱しやすい類似の言葉に高度がありますが、これは文脈によって意味が異なります。

航空分野では「高度○m」は地表からの高さ(高さ計の値)を指すことがありますが、測量や地図の文脈ではあまり使いません。基本的に地形や土地の高さを表す場合は標高(海抜)を使うと覚えておきましょう。

日本における標高の基準(日本水準原点と平均海面)

日本では国が統一された高さ基準を定めています。測量法により東京湾の平均海面(Mean Sea Level)を標高0mとしているため、全国どこでもこの基準に基づいて高さを表現できます​。しかし、実際の測量で毎回「東京湾の平均海面」を直接測るのは現実的ではありません。そこで、陸上に高さの基準点を設け、その高さを公式に定めて基準としています。これが日本水準原点と呼ばれるものです​。

日本水準原点は東京都千代田区永田町(国会議事堂前)に設置された石標で、東京湾平均海面(T.P.=Tokyo Peil)から24.3900mの高さに定められています。この値は歴史的に何度か修正されてきました。1891年の設置当初は24.500mと定められましたが、1923年の関東大震災による地盤沈下で1928年に24.414mに変更され、さらに2011年の東日本大震災の後に再測定されて現在は24.3900mとなっています​。日本水準原点そのものの高さが変わったというより、大地震で地盤が動いたため「平均海面から見た高さ」を更新した形です。

日本水準原点は全国の水準点(水準測量による基準点)の出発点であり、ここから各地へ水準測量を伸ばすことで全国の標高が決定されています。明治時代には東京・霊岸島で長期間にわたり海面の高さを観測(検潮)して平均海面0mを定義し、それをもとに日本水準原点の標高を決めました​。なお、霊岸島周辺はその後の埋め立てや河川流入で正確な平均海面が得られなくなったため、現在は神奈川県三浦半島の油壺験潮場で東京湾の平均海面に相当する水位を観測しています​。基準の平均海面は変わっていませんが、観測場所を移しつつ現在も標高0mの基準面(ジオイド)を維持しているのです。

要するに、日本では「東京湾の平均海面=標高0m」と定め、その基準面を陸上の日本水準原点に固定することで、全国どこでも一貫した高さ表現ができるようになっています。この統一基準のおかげで、異なる地域や時期の測量結果でも同じ土俵(基準面)で高さ比較が可能になっているのです。

日本測地系 (JGD) と標高の関係(JGD2000→JGD2011→JGD2024)

日本測地系(Japan Geodetic Datum, JGD)とは、日本における位置基準(緯度・経度・高さ)を定めた座標系の名称です。日本測地系も時代とともにアップデートされており、2000年、2011年、そして2024年に大きな変更が行われました。それぞれの概要と標高への影響を見てみましょう。

  • JGD2000(測地成果2000): かつて日本は「旧日本測地系(Tokyo座標系)」と呼ばれるローカルな座標系を使っていましたが、2000年前後にGPSなど全球測位の普及に伴い、世界共通の座標系へ切り替えました。これがJGD2000です。GRS80楕円体を採用した世界測地系で、WGS84とほぼ同等の地球中心座標系です​。JGD2000への移行で、従来の経緯度は約400mもずれるほど大きな変化がありましたが​、高さの基準(平均海面0m)自体は従来通り東京湾平均海面が使われています。つまり、水平座標系は刷新されたが標高の基準は不変という状況でした。

  • JGD2011(測地成果2011): 2011年の東日本大震災は、日本列島の測地系にも大きな影響を与えました。東北地方を中心に地殻が大きく変動し、場所によっては数m規模の位置ずれが生じたため、国土地理院は基準点座標を一斉に見直しました​。こうして生まれた新しい基準系がJGD2011です。定義上はJGD2000と同じ楕円体・座標系を使いますが、東北地方などで経緯度・標高の値を更新し、震災後の正しい位置・高さを反映しています​。先述の日本水準原点も震災後に24.3900mへ改定されました​。JGD2000とJGD2011で北海道や西日本では違いは生じませんが、東北を中心に測量成果が異なるため、震災前後でデータを混用しないよう新しい名称に切り替えたのです。

  • JGD2024(測地成果2024): さらに近年、2024年を基準とした新たな測地系への移行が行われています。令和7年(2025年)4月1日から、電子基準点や水準点など全国の高さの公式値が最新の「測地成果2024」に改定されました​。日本測地系の名称もJGD2011からJGD2024へ変更されています​。JGD2024では、2011年以降に蓄積した全国の地殻変動によるズレを解消し、人工衛星測位と新しいジオイドモデル「ジオイド2024」を用いて高さの基準を見直しています。これにより、従来は日本水準原点から遠く離れるほど蓄積していた水準測量の誤差が解消され、どこでも一貫した精度で標高が求められるようになりました​。今回の改定で、地域によっては最大60cm程度も標高値が変わる場所があるとされています。例えば遠隔地や離島の一部では、従来の測量網のわずかな誤差が積み重なっていたものが一挙に補正されたということです。なおJGD2024では水平座標値(緯経度や平面座標)はJGD2011から変更されていません​。あくまで基準系の名称統一と高さ(標高体系)の刷新が目的で、位置自体はJGD2011を引き継いでいます。このようにJGD2024への移行によって、日本の測量体系は衛星測位を基盤とした新しい標高体系にシフトしました。現場でもGNSSを用いた高さ測定(後述)が公式に導入され、測量や施工の効率向上が期待されています。

標高の求め方:水準測量とGNSS測位の比較

現場で高さ(標高)を求める方法には、大きく分けて2つあります。1つは昔ながらの水準測量(レベリング)、もう1つはGPSなどのGNSS測位を利用する方法です。それぞれ原理も手間も異なりますので、特徴を押さえておきましょう。

  • 水準測量による標高測定: 水準測量は、レベル(測量用の望遠鏡)と標尺を使って既知点からの高低差をコツコツ測っていく手法です。ある既知の水準点(標高が分かっている地点)からスタートし、隣の点との高さ差を測定、その点を経由してさらに先へ…という具合に伝播させて目的の点の標高を求めます。直接水準測量とも呼ばれ、精度は非常に高く、短い区間であればミリ単位の誤差しか生じません。建設現場で高さの基準(ベンチマーク)を出す際や、精密な高さが必要な公共測量では不可欠な方法です。ただし、人力で機械を据えては読取り…を繰り返すため手間と時間がかかるのが難点です。数km以上の長距離を水準測量でつなぐと、たとえ1kmあたり数mmの誤差でも積み重なってしまいますし、山岳地やアクセス困難地では作業自体が大変です。

  • GNSS測位による標高測定: GNSS(全球測位衛星システム)測量では、人工衛星からの信号で自分の位置を決定します。専用のGNSS受信機を用いれば、どんな場所でも即座に高さを含めた三次元位置を取得できます。水準点が近くになくても測れるため、離れた現場で基準点を新設するときなどに重宝します。また複数の衛星を同時利用する高精度測位(RTK-GNSSやネットワーク型GNSS)により、現在ではほぼ数センチの精度で高さを求めることも可能になっています。しかし重要なポイントは、GNSSで直接得られるのは「楕円体高」と呼ばれる値だということです​。

  • 楕円体高とは地球の基準楕円体(GRS80など)から測った高さであり、私たちが必要とする標高(平均海面からの高さ)とは基準面が異なるのです。標高を得るには、この楕円体高からジオイド高(基準楕円体と平均海面との高低差)を差し引く必要があります​。幸い、日本では国土地理院が精密なジオイドモデルを整備・公開しており、これを利用することで楕円体高から容易に標高を算出できます​。例えば、国土地理院の提供する「ジオイド2024」を使えば、最新のJGD2024に対応した正確な標高がGNSSで求められます。GNSS測位のメリットは短時間で広範囲の高さ情報が得られる効率性にあり、特に近くに水準点がない地域や広域測量で威力を発揮します​。デメリットとしては、専用機器や測位環境が必要なこと、そして最終的に標高に変換する手間(ジオイドモデルの適用)がある点です。それでも近年の技術進歩により、GNSSによる高さ測定(GNSS水準測量)は実用域に達しており、国土地理院も公共測量に活用し始めています​。

 

両者をまとめると、精度重視なら水準測量効率重視ならGNSS測位という使い分けになります。実際の現場では、双方の利点を活かして併用するケースも多いでしょう。例えば、まずGNSSで現場付近の既知点からおおよその高さを割り出し、その点を起点に短距離の水準測量で厳密な高さ基準を通すといった手順です。新しいJGD2024ではGNSSによる標高測定の精度向上が図られていますので​、今後はGNSSだけで高さを出し切る場面も増えるかもしれません。ただし、現状でもミリ単位の厳密な高さ決定には従来通り水準測量が欠かせない場面もあります。現場の状況や要求精度に応じて、最適な方法を選択・組み合わせることが肝心です。​

現場で注意すべき高さデータの取扱い

標高や高さデータを扱う際には、以下のポイントに注意しましょう。

  • 基準の統一を確認する: 高さデータの基準面が何かを常に意識してください。同じ「m」という単位でも、東京湾平均海面基準(JGD2011まで)と新しいJGD2024では場所によって数十cm差が生じています​。例えば、2025年前後ではJGD2011とJGD2024の標高データが混在する可能性があります。古い図面の標高と最新の測量結果を比較する際などは、必ず基準系(どの日本測地系に基づくか)を確認し、必要なら国土地理院提供の変換パラメータや補正ソフト(PatchJGDなど)を使って統一しましょう。ネットワーク型RTK-GNSS測位を利用する場合も、サービスがJGD2024対応に切り替わっているか確認し、異なる基準の高さデータを混在させないよう注意が必要です​。

  • 「楕円体高」と「標高」を取り違えない: GNSS機器や3D設計データの高さは、しばしば楕円体高(地球中心基準の高さ)で出力されることがあります。日本付近では楕円体高は標高より30~40mほど高い値になるため、もし楕円体高を標高と勘違いして使ってしまうと重大なミスにつながります。必ず使用する高さデータが何を基準にした高さなのかを把握し、必要に応じてジオイドモデルを適用して標高(正しい高さ)に換算してください​。

  • 「海抜◯m」の表現: 地元の案内板やハザードマップで見かける「海抜◯m」という表示は、基本的に標高と同じ意味で使われています​。かつては離島などで独自に近隣の海面を基準に高さを測る場合もありましたが、現在はほとんどの地域で東京湾平均海面に統一されています​。したがって海抜=標高と考えて差し支えありません。ただし古い資料でごく稀に異なる基準が使われている可能性もゼロではないため、一応注意しましょう。

  • 公式な水準点・既知点を活用: 現場で新しく高さ基準を設ける際は、できるだけ近くの水準点(既知の標高点)を利用しましょう。国土地理院の「基準点成果閲覧」サービスで付近の水準点の標高(JGD2024対応済み)を調べ、その点を起点に現場まで水準測量で高さを移設すれば信頼性が高まります。GNSSを使う場合も、いきなり単独測位の値を信じるのではなく、近くの電子基準点データや既知点で機器の高さ精度を検証すると安心です。

  • 地殻変動や沈下の影響: 日本は地震大国であり、大規模な地震や火山活動によって局所的に地盤が上下することがあります。過去の震災後には公式の標高値が更新された例(2011年の東北地方など)があるため、最新の情報に留意しましょう。例えば、東日本大震災以降、東北沿岸部では従来の地図に記載の標高より実際の土地が低くなっている場所もあります。公共事業ではその都度測量し直していますが、古い地形図やデータを参照する場合は注意が必要です。

「標高とは何か」という基本的な疑問から、日本の高さ基準の仕組み、そして日本測地系の変遷まで一通り解説しました。普段何気なく使っている標高ですが、その背後には統一された基準面(東京湾平均海面)と、国土地理院による長年の測量努力があり、日本全国で一貫した高さ表現が可能になっています。

特に最新のJGD2024では衛星測位の活用が本格化し、効率的かつ高精度に標高を求められる時代となりました。本記事で紹介した知識を活かし、現場で高さデータを扱う際には基準の違いに留意してミスのない測量・施工を心がけてください。正しい標高基準の理解は、安全で確実な業務遂行の土台となります。

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