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点群導入で失敗しないための5ステップ|建設現場DXの道しるべ

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AR Civil Engineering

はじめに:点群データ活用の必要性と課題

建設業界では現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、3次元の点群データ(ポイントクラウド)活用が注目されています。点群測量とは、レーザースキャナーや写真測量(ドローン空撮など)によって現場の形状を無数の点の集合体として取得する手法です。従来は人手で一点ずつ測量していた作業も、点群なら短時間で広範囲を高精度にデジタル記録できるのが特徴です。取得した点群から距離・面積・体積を自在に計測したり、図面や3Dモデルを後から作成できるため、出来形管理や土量計算、施工記録の効率化につながります。国土交通省主導の *i-Construction* 施策も追い風となり、大手だけでなく中小建設会社にとっても点群導入は他人事ではなくなっています


しかし、新しい技術を現場へ導入する際には不安もつきものです。特に点群活用については、「導入しても現場で使いこなせず、結局続かないのでは」という現場監督・施工管理者の声もよく聞かれます。実際、社内に根付かず“宝の持ち腐れ”になってしまう導入失敗例も存在します。本記事では、そうした失敗を避けるための具体的な5つのステップを解説します。各ステップごとにポイントを押さえて進めれば、「やっぱり使いこなせなかった…」という事態を防ぎ、点群技術を日常業務に定着させることができるでしょう。


よくある失敗パターンとその原因

点群データの導入に失敗してしまう現場では、いくつか共通するパターンが見られます。以下に代表的な失敗例とその原因を挙げます。


機材・データの扱いが難しすぎる: 高性能な3Dレーザースキャナーやドローンを導入しても、専門知識が必要すぎて現場メンバー全員が使いこなせないケースがあります。また点群データのファイルは巨大で処理に時間がかかり、結局一部の専門オペレーター任せになって他の人は手を出せなくなることもあります。社内で「特定の人しか操作できない」状態に陥ると、その人が忙しかったり異動した途端に活用が止まってしまいます。

現場の業務フローに組み込めない: 新ツールが日常の流れに組み入れられず、「特別な作業」のままだと定着しません。例えば点群計測後のデータ処理に時間がかかりすぎると忙しい現場では敬遠されますし、成果データを他部署と共有する仕組みがないと宝の持ち腐れになります。運用体制が整わないままだと、導入時の盛り上がりが冷めるとともに使われなくなる傾向があります。

オーバースペックによる徒労: 「どうせなら最新最高の機材を」と高価で高度なシステムを導入したものの、現場の実情に合わず持て余す例もあります。必要以上の精度や機能を追求すると、データ処理や人材育成の負担も増大します。その結果、現場では手に負えず従来手法に逆戻りしてしまうケースも報告されています。

費用対効果が見えない: 初期費用やランニングコストばかりかかり、肝心の生産性向上効果が社内で共有されない場合も失敗につながります。経営層が「投資に見合わない」と判断すると継続支援が得られず、現場もモチベーションを失ってフェードアウトしてしまいます。


以上のような課題を踏まえ、次章では「失敗しないための5ステップ」として具体策を示します。それぞれのステップで対策を講じることで、導入効果を最大化しつつ上記の失敗要因を潰していきましょう。


【ポイント】以下の5ステップは順番に進めることで相乗効果を発揮します。一通り実践した後は必要に応じてステップを振り返り、社内状況に合わせた調整を続けてください。


ステップ1:導入目的と適用範囲を明確にする

まず最初に、「なぜ点群を導入するのか」を社内で明確に定義しましょう。目的が不明確なままでは、どの程度の投資や労力に見合うか判断できず、現場も戸惑ってしまいます。例えば導入の主目的が「出来形検査の効率化」であれば、そのために必要な精度・頻度やデータ共有方法など検討すべき要件が見えてきます。反対に「何となく最新技術だから」と闇雲に導入すると、結局使い所が分からず宝の持ち腐れになりかねません。


加えて、点群活用の範囲(ユースケース)を絞り込むことも重要です。最初から「現場のあらゆる場面で点群化しよう」とするのではなく、まずは自社業務で特に効果が大きい用途に絞って小さく始めるのが成功のコツです。例えば「○○工事における出来形検査の省力化」や「△△工事での土量測定時間の短縮」といった具体的なテーマを設定し、関連部門と目的を共有します。その上で、パイロットプロジェクト(試行現場)を一つ選定し、限定的な範囲でテスト導入してみます。最初の小さな成功体験により効果を実感できれば、徐々に他の現場や用途へ横展開しやすくなります。


このステップでは、導入目的・KPI(例えば「測量時間を○割短縮」「出来形検査の手戻りゼロ」等)を明文化し、関係者全員で認識を揃えてください。目的が明確になれば、次の機材選定や体制構築の判断もぶれなくなります。また目的に照らして必要な点群データの精度も検討しましょう。ミリ単位の高精度が要求されるのか、概略把握で十分なのかによって、後述する機材選定(レーザースキャナーかドローンかスマホか等)や運用方法も変わってきます。


【回避すべき失敗例】 導入目的が曖昧なまま高価な機材を購入し、「で、これは何に使うんだ?」と現場が困惑。⇒ *目的と期待効果を事前に共有し、小さな範囲で効果検証してから全社展開することで防げます。*


ステップ2:現場で使いやすい機材・ソフトを選定する

次に、目的に合った機材・ソフトウェアを選定します。ポイントは「高機能すぎるものより、現場で簡単に使えるもの」を選ぶことです。最新の高級機材は魅力的ですが、前述の通りオーバースペックは失敗のもとです。中小企業であれば、十分な精度と使い勝手を両立できる手頃なツールから始める方が継続利用につながります。具体的には以下のような選択肢・工夫が考えられます。


スマートフォン&簡易デバイスの活用: 近年、iPhoneやiPadに搭載された小型LiDARを使って手軽に3Dスキャンできるスマホ点群測量が登場しています。例えばiPhoneに後付けする高精度GNSS受信機と専用アプリを組み合わせれば、ボタン一つの操作で数cm精度の点群計測が誰でも可能です。専用レーザースキャナーを買わずとも、手持ちのスマホ+数十万円程度のデバイスで始められるため、初期投資を大幅に抑えられます。実際、「スマホ計測なら従来機材の1桁以上安いコストで導入できた」という中小企業の声もあります。スマホ操作に慣れた現場スタッフなら直感的に使え、専門知識がなくても現場を歩くだけで3次元点群を取得できる手軽さも魅力です。


 *ドローンによる写真測量も有力な選択肢。空撮画像から点群データを生成すれば、短時間で広範囲の地形を把握できる。従来2~3日かかった測量がドローンなら半日以下で完了するケースもあり、時間・安全面のメリットは大きい。ただし天候に左右されやすい点には注意。*


ドローン・写真測量の活用: 広範囲の現場計測にはドローン+写真測量(フォトグラメトリ)も効果的です。空撮写真をソフトで処理して点群化することで、短時間で現場全体の3Dモデルを取得できます。ドローン測量は地上測量に比べ大幅な時間短縮が可能で(例:2ヘクタールの測量が地上2~3日→ドローン1時間程度)、人が立ち入れない場所の計測も安全に行えます。最近はレーザースキャナー搭載ドローンも実用化が進み、写真測量より高精度な点群取得も可能になりつつあります。ただしドローンは天候や飛行許可の制約があるため、対象現場の環境に応じて使い分けましょう。

クラウドサービス・既存ソフトの活用: 点群処理ソフトについては、社内に高性能PCを用意して高価な専用ソフトを導入しなくても、クラウド型サービスや無償ツールで代替できる場合があります。例えばゼンリンの「ScanX」は月額3万円から利用可能で、中小企業やICT初心者でも圧倒的に低コストで導入可能なオンライン点群処理サービスです。クラウド上でデータ解析ができるため、高価なワークステーションを購入せずに済み、長期のランニングコストも抑えられます。他にもオープンソースの点群ビューワ(例:CloudCompare等)を活用すれば基本的な閲覧・計測は無料で行えます。自社のニーズに合ったツールを調査し、できるだけ低コスト・低リスクで試せる手段から導入しましょう。

機材選定の際の工夫: 実機購入前にレンタルやデモ機貸出を利用して試用するのも有効です。3Dレーザースキャナーはレンタルサービスが各社から提供されており、短期的に借りて自社現場で使い勝手や精度を検証できます。また販売代理店やベンダーに相談すれば、現場でのデモ測量やトライアル版ソフトの提供を受けられることもあります。こうした協力を仰ぎつつ、自社の現場オペレーションになじむかを見極めてから正式導入すると失敗が減ります。ベンダーとの調整時には、導入後のサポート体制(問い合わせ対応やアップデート情報提供)も確認しておきましょう。


【回避すべき失敗例】 操作が煩雑で高度な機材を導入し、「使える人が限られる」「データ処理に時間がかかりすぎる」と現場に敬遠される。⇒ *誰でも直感的に使えるシンプルなツールを選び、必要最低限の機能からスタートすることで解決。スマホやクラウドサービスの活用で、非ICT人材でも扱える環境を整えましょう。*


ステップ3:スモールスタートで効果を検証する

適切な機材・ソフトの目星がついたら、小規模なパイロットプロジェクトで実際に使ってみましょう。最初から全現場・全業務に一斉展開するのではなく、まずは1つの現場やプロセスに限定して導入するのがポイントです。例えば試験的に選んだ工事現場で、施工途中の出来形管理にスマホ点群計測を取り入れてみる、といった具合です。


この段階では、「とにかく使ってみる」こと自体が目的です。小さな範囲でも実際に現場で運用してみると、机上では見えなかった課題や効果がリアルに見えてきます。現場担当者から操作性に関する率直なフィードバックを集めたり、得られた点群データを使ってどんな分析・報告ができるかを試行しましょう。可能であれば従来手法での結果と精度や作業時間を比較し、効果を定量的に測定します。「点群計測により土量算出に要する時間を◯時間短縮できた」「出来形検査の記録作成が△日早く完了した」など、具体的な成果指標を記録します。


スモールスタートの利点は、仮に課題が見つかっても軌道修正が容易なことです。例えば「平坦地の土量測定には有効だったが、樹木が茂る環境ではデータ欠損が多かった」等の問題が判明したら、機材設定の変更や追加測定方法の併用など改善策を検討します。小規模ゆえにトライ&エラーを素早く回せるので、大失敗する前にノウハウを蓄積できるのです。


なお、パイロット段階では現場スタッフの負荷が過度に増えないよう配慮しましょう。従来業務にプラスして新ツールの実験も行うため、繁忙期を避け余裕のある時期・人員で実施するのが望ましいです。また結果の良し悪しにかかわらず、テスト導入の経験自体を社内で共有して、次のステップ(全体展開)への学びとします。


【回避すべき失敗例】 最初から高額投資して一斉導入したものの、現場ごとの課題に対応できず混乱。⇒ *まず一部で試行し、小さな成功例と教訓を得てから拡大することで、無駄な投資や現場混乱を防げます。*


ステップ4:担当者の育成と社内サポート体制の構築

パイロットで手応えを得たら、本格展開に向けて人材育成と社内体制づくりを進めます。新技術は人が運用してこそ価値を生むため、「使える人」を増やすことが継続利用の鍵です。


まず、現場担当者のスキル習得支援を行います。最初はパイロットに関わったメンバーなど、比較的詳しい人が社内インストラクター役となり、他のスタッフへの操作指導を行いましょう。公式マニュアルや操作動画を用意し、現場で実機を触りながら習得できるOJTの機会を作ります。社内勉強会で点群活用の事例発表を行い、成功体験やノウハウを共有するのも有効です。重要なのは、「○○さんしか使えない」を避けてチーム全員が使えるようにすることです。得意なメンバーだけに任せず、徐々に輪を広げていきましょう。


次に、社内サポート体制を整備します。点群導入当初は何かとトラブルや疑問が出るものです。そこで、社内に問い合わせ先やサポート窓口的な役割を設けます。例えばICT担当者や導入プロジェクトチームが中心となり、「データの変換方法が分からない」「スキャン結果の精度確認方法は?」といった現場からの質問に答えたり、ベンダーへの問い合わせを代行したりします。可能であれば社内に簡易マニュアルやQ\&A集を作成して配布し、現場が困ったときすぐ参照できるようにしましょう。


また、外部リソースの活用も検討します。点群やICT活用に関する公共のセミナー・研修への参加、専門ベンダーによる出張トレーニングなどを利用すれば、社内ですべてを独学で賄うより習得が早まります。国や自治体も中小企業向けにDX人材育成支援策を用意しており、例えば人材開発支援助成金を活用すれば社外研修の費用補助を受けることも可能です。こうした制度も活かし、計画的な人材育成を進めてください。


最後に、現場の業務フローへ点群作業を組み込むことも大事です。定例業務の一環として点群計測・処理を位置づけ、ルーチン化することで習熟と定着が進みます。例えば「毎週の進捗記録日に5分スキャン」「出来形検査の際に必ず点群も取得する」など習慣づけてしまいましょう。取得データはすぐクラウドにアップして社内共有し、設計部署や本社とも連携して活用する仕組みを作ります。現場だけでなく他部署も恩恵を感じられれば組織全体のモチベーションが高まり、点群技術が企業文化に根付いていきます。


【回避すべき失敗例】 教育を怠り「結局詳しいAさんしか使えない」状況に。Aさん不在時はストップし、属人化で継続不可に…。⇒ *チーム全員が扱えるよう計画的に教育・知識共有を行いましょう。社内に質問できる支援役も決め、孤軍奮闘させない体制づくりが重要です。*


ステップ5:効果の検証と全社展開・定着へ

最後に、導入効果を検証してさらなる展開計画を立てます。パイロットプロジェクトや初期導入現場で得られた成果をきちんと測定・評価し、社内にフィードバックしましょう。具体的には、以下の観点で効果検証を行います。


定量的なKPI評価: ステップ1で設定したKPIに対する達成度を測ります(例:「測量作業時間が◯%短縮」「出来形検査の手戻り件数がゼロになった」等)。可能であれば数値目標に対し実績を報告できる形にまとめます。例えば「◯日間で◯箇所の土量測定を完了し、従来より△時間短縮できた」といった成果を、導入から数週間~1ヶ月以内に一つでも出してみるとよいでしょう。

定性的な現場改善効果: 現場担当者の声として、「安全性が向上した」「若手社員がIT活用に前向きになった」「顧客(発注者)への説明資料として喜ばれた」等のポジティブな変化があれば記録します。点群導入が現場にもたらしたプラスの影響を可視化しましょう。

投資対効果(費用対効果)の検討: 導入に要した費用(機材費、ソフト費、教育コスト等)に対して、得られた効率化効果や品質向上効果が見合うかを評価します。ここで効果が十分確認できれば、経営層への報告資料を作成し、追加投資や本格展開の承認を得る材料とします。逆に効果が限定的だった場合は、原因(操作方法の問題か、適用範囲のミスマッチか等)を分析し、改善策を考えます。


効果検証の結果は、社内外へ積極的に発信しましょう。社内では成功事例として展開することで他部署・他現場の理解と協力を得やすくなります。特に経営陣には早めに成果を報告し、DX推進の継続支援(予算確保や方針後押し)を取り付けることが重要です。社外に向けても、自社の施工事例紹介や営業資料、セミナー発表などで点群活用による改善効果をアピールすれば、企業の技術力PRにもつながります。


最後に、全社展開・継続利用へのロードマップを策定します。パイロットでの成功を踏まえ、次にどの現場・プロジェクトへ広げるか、必要な追加リソース(機材増設やソフトライセンス追加、人材配置など)は何かを計画します。場合によっては国や自治体の補助金・優遇制度の活用も検討します。例えば先述のものづくり補助金やIT導入補助金は、生産性向上に資する設備投資やITツール導入費用を支援してくれる制度です。点群導入による業務改善効果を示すことで、こうした補助金に申請・採択される可能性も高まるでしょう。外部資金も活用しつつ、費用対効果に優れた形で社内DXをスケールアップさせてください。


【回避すべき失敗例】 効果検証を曖昧にして拡大投資を行い、後から「本当に意味があったのか?」と疑問が生じる。⇒ *定量・定性の両面から成果を見える化し、経営層も納得の上で次の展開に進みましょう。早期に成果を示すことで社内の支持も得られ、DX施策がブレずに継続します。*


おわりに:導入成功へのチェックリスト

以上、点群データを建設現場で導入する際に失敗しないための5ステップを解説しました。最初はハードルが高く感じられるかもしれませんが、近年はスマホやクラウドサービスの登場で「高い・難しい・プロしか使えない」は過去のものになりつつあります。中小企業でも工夫次第で安価にスモールスタートでき、現場監督や作業員が日常的に使いこなせる強力な道具になり得ます。ぜひ本記事のステップを参考に、自社の規模や目的に合った形で点群活用への第一歩を踏み出してみてください。


最後に、導入計画を進めるにあたって確認すべきポイントをチェックリストとしてまとめます。計画段階のセルフチェックや、社内提案資料の検討項目としてご活用ください。


目的の明確化: 導入の目的・期待効果は明確か?関係者で共有されているか

適切な機材選定: 自社の用途・予算・技術力に見合った機材・ソフトを選んでいるか(過剰性能や扱いづらさはないか)

小規模導入で検証: まず小さく試し、効果や課題を検証する計画になっているか

人材育成計画: 担当者への教育やマニュアル整備、サポート体制の準備はできているか

効果測定と展開: 成功指標(KPI)を設定し、導入後に測定・報告・展開する仕組みを用意しているか


これらの項目をクリアしていけば、「点群導入で失敗しない」どころか、社内DXの好事例として大きな成果を上げることも夢ではありません。現場の知恵と最新技術を融合させ、建設現場DXの道しるべとなる成功体験をぜひ創り出してください。現場を知る皆さん自身が主体となってDXを推進することで、業界全体の生産性向上と働き方改革にもつながっていくでしょう。応援しています!


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