(はじめに) 道路工事や造成現場などの施工管理をしていて、「点群データ」や「レーザースキャナでの測量」という言葉を耳にしたことがあっても、「結局それで何ができるの?従来の図面や写真と何が違うの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。点群の存在自体は知っていても、具体的な活用イメージがつかめず現場で使えていない土木技術者・施工管理者の方々に向けて、本記事では点群とは何かという基本から、図面・写真との違い、そして点群で現場業務の何ができるのかを土木目線でわかりやすく解説します。さらに、最近ではスマートフォンや安価なGNSS機器を組み合わせた手法(いわゆる「スマホ測量」や「LRTK」)も登場し、点群の導入ハードルが下がっています。その簡便な始め方にも触れ、「これなら自分の現場でも使えそうだ」と感じてもらえることを目指します。
点群とは何か?(基本定義と取得方法)
図1:道路交差点を計測した3次元点群データの例。多数の測定点が建物や路面の形状を立体的に表現している。 「点群(point cloud)」とは、文字通り多数の「点」の集まりから構成されるデータです。各点には位置を示すX・Y・Zの座標値が含まれ、さらに測定方法によっては色(RGB値)や反射強度などの情報を持たせることもできます。こうした点の集合体によって地形や構造物の形状を詳細かつ立体的に記録でき、点の密度が高く精度が良ければ写真のようにリアルな3Dモデルを再現できる点が特徴です。
点群データは主に3次元計測(スキャニング)によって取得します。代表的な取得手法には、地上設置型やモバイル型の3Dレーザースキャナー(LiDAR)測量、ドローンなどで多数の写真を撮影して解析する写真測量(フォトグラメトリ)、移動体にGPSとセンサーを搭載したMMS(モバイルマッピングシステム)などがあります。最近ではiPhoneなどに搭載された簡易LiDARや深度センサーを利用して点群計測を行うケースも増えており、専用機器がなくても現場の3Dスキャンが手軽に試せるようになってきました。
取得された点群データは、座標系が揃っていない複数のスキャン結果を位置合わせ(レジストレーション)したり、不要な点やノイズをフィルタリング除去したりする処理を経て、測量成果や設計・施工に活用できるデータになります。点の数は現場全体で数百万~数億点に及ぶこともあり、情報量は非常に膨大です。そのため、点群を扱うためには専用のソフトウェアや高性能PC、クラウドサービスなどが必要になりますが、得られるメリットが大きいため建設業界でも活用が広がってきています。
図面と点群の違い(情報量・更新性・活用範囲)
従来、土木の現場では平面図や断面図などの2次元図面を用いて地形や構造物の形状を表現し、施工計画や出来形の確認に活用してきました。一方、点群データは上記のように空間上の大量の点で対象物を直接記録した3次元デジタルデータです。両者には以下のような違いがあります。
• 情報量の違い: 図面は必要最低限の寸法や構造を線や数字で示した要約情報ですが、点群は現実の形状を隅々まで測定した詳細情報です。例えば地表面の起伏や構造物の微妙なゆがみまで、点群ならすべての点で把握できます。線や面だけでも形状などを表現できますが、複雑な地形ほど点群の方が直感的かつ高精度に現況を記録・再現できるのがメリットです。また点群データがあれば、あとから任意の断面を切ったり寸法を測ったりできるため、現場で「計り残し」が起きにくくなります。
• 更新性の違い: 図面は一度作成すると、変更箇所が生じても人手で修正しない限りアップデートされません。現地では設計図面と実際の地形に差異があるケースも多いですが、紙の図面では常に最新状況を反映するのは困難です。しかし点群なら、工事の進捗に合わせて繰り返し測量してデータ更新することが容易です。例えば基礎掘削前・後でそれぞれ点群を取得しておけば、出来形図を描き直すことなく現況を3Dモデルで把握できます。古い設計図しか残っていない構造物でも、現場をスキャンして点群を保存しておけば必要なときに現況の3Dモデルを作成できるため、改修計画の立案もスムーズになります。
• 活用範囲の違い: 図面は施工や設計の指示書・確認用として不可欠ですが、点群はそれに加えて多目的なデジタル素材として活用できます。点群から寸法を拾って2D図面に転用したり、逆に設計データと点群を重ね合わせて出来形をチェックしたりと、用途に応じた使い分けが可能です。特に元図面が散逸している既設インフラでは、点群測量によって現況をデジタル保存し、あとから復元図(現況図面)を起こすといった使い方も各地で始まっています。この ように、図面と点群は対立するものではなく、お互いを補完し合う関係と言えるでしょう。
写真と点群の違い(「見える」vs「測れる」、定量性)
施工管理ではカメラで記録写真を撮る機会も多く、点群と写真はどちらも現場の状況をビジュアルに記録する手段です。しかし両者には決定的な違いがあります。それは、写真は「見える」データであり、点群は「測れる」データであるという点です。
写真は被写体の様子を直感的に伝えるのに優れますが、そこに写っている対象の寸法や距離を正確に測ることはできません。写真からおおよそのスケール感は掴めても、レンズの歪みや遠近法の影響で精密な長さ・面積を知ることは困難です。一方、点群データは各点が実空間の座標を持つため、写っている構造物のあらゆる部分の距離や面積、体積を定量的に計測できます。例えば掘削前後の点群か ら自動で盛土・切土量を算出したり、構造物の変形量を時系列で捉えたりすることも可能です。
また、写真は表面の色や質感など見た目の情報を豊かに記録できますが、通常は単一の視点から平面的に撮影されるため死角があります。点群は必要に応じて複数方向から計測することで構造物をあらゆる角度から立体的に記録できるため、写真では見えない背面の形状も含めてデータ化できる強みがあります。さらに近年の点群計測ではカメラで撮影した画像を使って各点に色を付与することも一般的で、写真と同様のカラー表現が可能です。つまり点群は写真と図面の中間のような存在で、写真の持つ視覚的な分かりやすさと、図面の持つ寸法的な正確さを兼ね備えたデータと言えるでしょう。
点群で実現できる現場業務(測量、出来形管理、土量算出、工程記録など)
では、実際の土木現場で点群データを活用すると何ができるのでしょうか。 ここでは主要な活用シーンをいくつか紹介します。
• 出来形管理・品質検査: 点群測量は、盛土やコンクリート打設後などの出来形管理に革命をもたらしています。従来は墨出しや抜き取り測定で一部の点の高さ・厚みを確認していましたが、点群を使えば施工範囲全体を面的に測定でき、設計データとの差異を高精度にチェックできます。例えばコンクリート打設面の点群を設計モデルと重ねて不陸を色分け表示すれば、一目で不適合箇所を洗い出せます。出来形計測の点群データは3次元設計データと併用してCIMモデル化し、発注者との出来形検査の事前協議に活用するケースも出てきています。
• 土量計算・出来高管理: 工事における土砂の搬出入量算定にも点群が威力を発揮します。施工前後の地形点群を比較して自動的に盛土量・切土量を算出すれば、出来高数量報告書の作成が格段に効率化できます。人力測量では数カ所の断面から推定していた土量も、点群データを使えば全面積での厳密計算が可能となり、出来高管理の精度と信頼性が向上します。
• 測量・墨出し作業の効率化: 点群データはそれ自体が高精度な測量成果です。後処理で基準点に合わせれば、あらゆる地点の座標を取得したのと同等の価値があります。現場では重機土工の仕上がりチェックや、埋設物の深さ確認などにも利用可能です。また逆に、点群とAR技術を組み合わせて、設計モデルを現地に投影表示しながら墨出しや機械誘導を行う先進事例も登場しています。点群による測量は人が立ち入れない危険箇所の計測にも有効で、災害現場の遠隔検測や大規模法面の変状モニタリングなど安全確保にも役立ちます。
• 工程管理・記録の高度化: 工事の進捗状況を点群で記録しておけば、施工ステップごとのデジタルな「現場タイムマシン」を構築できます。後から点群データ同士を比較すれば、どの段階でどのくらい形状が変化したかを詳細に追跡でき、施工不良の原因究明や将来の工法検討に活用できます。特に埋設前の配管や鉄筋の位置をスキャンして残しておけば、完成後に直接見えなくなる部分も3Dデータでトレーサビリティ確保できます。このように点群は現場の出来事を時系列で「見える化」し、施工管理の高度化とDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に貢献します。
図面・写真との使い分けと併用事例
以上のように点群データには多くの利点がありますが、だからといって図面や写真が不要になるわけではありません。実際の現場では、それぞれの得意分野に応じた使い分けや組み合わせ利用が肝心です。最後に、図面・写真・点群の併用事例や使い分けの考え方を確認しましょう。
• 設計図面は指示と契約の拠り所、点群は現況把握の切り札: 施工前の計画段階では、やはり設計図にもとづいて数量計算や段取り検討を行うのが基本です。一方、着工後に現場の状況が設計と食い違っていることが判明した場合、点群測量を行うことで即座に現況の3Dモデルを入手できます。そのモデル上で設計の修正案を検討したり、干渉の有無をチェックすれば、早期に対応策を講じることが可能です。設計図(計画 )と点群データ(現況)を突き合わせて活用することで、手戻りのない計画調整が実現します。
• 写真は詳細記録用、点群は計測用: コンクリートのひび割れ状態や舗装面の色調、設備の銘板情報など、質感やテキスト情報の記録には写真が適しています。写真は手軽で膨大な数を残せるため、点群では表現しきれない微細な状況証拠を補完できます。実際の施工記録では、点群+写真の両方を撮っておき、点群で形状・寸法を把握しつつ、写真で細部の様子を参照する使い方が効果的です。点群データをビューアで表示すると、対応する位置に現場写真をリンクさせることもできるため、3D空間上で「計測できる模型」と「実物そのものの画像」を行き来しながら確認作業を進めることができます。
• 点群+図面+写真でデジタルツインへ: 国土交通省が推進する *i-Construction* では、3次元設計データと施工中の出来形点群、そして出来形写真を組み合わせてCIMモデル(デジタルツイン)を構築し、発注者との合意形成を図る取り組みが進んでいます。例えば出来形検査の前に、施工者が自社で点群と図面を付き合わせて不備を洗い出し是正しておくことで、検査を一回でパスするケースもあります。図面(設計情報)と 点群(施工実績)を付き合わせることは、今や新しい施工管理の常識になりつつあります。
このように、それぞれの手法には役割分担があります。日常の記録や伝達には手軽な写真と図面を活用し、精密な検証や現況把握には点群を投入する、といった使い分けが効果的です。また併用によって互いの不足を補えば、「設計意図どおりに施工されているか」を立体的かつ確実に検証でき、関係者間のコミュニケーションも円滑になります。
点群導入のハードルを下げる方法(スマホ・LRTK・クラウド活用)
「とはいえ、点群を扱うには高価なレーザースキャナや特別なスキルが必要なのでは?」と尻込みしている方もご安心ください。近年は技術革新により、低コストで簡単に点群を取得・活用する手段が増えてきました。
• スマホ測量で手軽に3Dスキャン: 最新のスマートフォンには高性能なカメラやセンサーが搭載されており、専用アプリを使えば誰でも簡単に点群測量が可能です。例えば *iPhone 12 Pro* 以降のモデルならLiDARスキャナが内蔵されており、これとGPS受信機を組み合わせることで高精度な3次元測量が実現します。実際、国内では「OPTiM Geo Scan(オプティム ジオスキャン)」のようなスマホ測量アプリが登場し、測量初心者でもスマホをかざすだけで高密度・高精度の点群データを取得できるようになっています。スマホで手軽に現場の3Dデータ化ができれば、小規模な現況確認から始めてみるといったスモールスタートも可能でしょう。
• LRTKなどGNSS補助デバイスの活用: スマホ単体では測位精度が数m程度ですが、外付けの小型GNSS受信機(RTK対応)を使うことで測量級の位置精度が得られます。最近話題の「LRTK」はスマホやタブレットに装着できるデバイスで、これ一つでセンチメートル級の測位を実現し、現場測量のやり方を変える革新的なツールです。重量わずか数百グラムの筐体に高性能アンテナとバッテリーを内蔵し、スマホだけで単独測位・連続測位が可能になります。専用アプリを使えば、スマホでの3D点群スキャンや土量計算、写真に位置情報・方位を同時記録した撮影、ARによる出来形の合成表示まで、多彩な計測・管理が可能です。LRTKのようなデバイスを使えば、これまでトータルステーションやレベルで行っていた測量作業をスマホ一つでカバーでき、現場管理が一気にスマート化します。
• クラウドサービスの活用: 点群データの処理や共有に関しても、クラウドの力を借りれば省力化できます。例えば前述のスマホ測量デバイスLRTKは、クラウド連携によりその場で取得した点群や写真を即座に社内で共有したり、一元管理したりすることが可能です。自前で高性能PCを用意しなくても、クラウド上でデータのマージ(合成)や解析を自動実行してくれるサービスも登場しています。大容量の点群データをネット経由で閲覧できるプラットフォームも増えており、現場事務所にいなくても関係者がデータを確認できます。クラウド活用により、「計測は現場で、処理はクラウドで」という役割分担が可能となり、現場のDX化をより一層促進します。
このように、専用機器がなくてもスマホ+αで始められる時代になりつつあります。まずは身近なツールを使って小さく試し、徐々に現場全体に展開していく ことで、無理なく点群活用を導入できるでしょう。
まとめ:図面・写真に点群を加えて、現場の「確かさ」と「効率」を両立する
点群データは、従来の図面や写真では得られなかった現場のリアルを高精度にデジタル記録できる画期的な手法です。その情報量と定量性によって、施工管理の確実性を飛躍的に高めつつ、業務の効率化(省力化・時間短縮)にも寄与します。図面による計画・指示、写真による視覚的記録に、この「測れる3Dデータ」である点群を加えることで、現場の状況把握と合意形成が格段にスムーズになります。
もちろん、点群活用にはデータ処理の手間や初期導入コストといった課題もあります。しかし現在、そのハードルは着実に下がりつつあり、スマホ測量やクラウドサービスの登場によって誰もが点群を使える時代が目の前に来ています。まずは小さな現場や一部の工程からでも、点群データを活用することで得られるメリットを実感してみてはいかがでしょうか。図面・写真・点群という三種のデータを使いこなして、あなたの現場でも「確かさ」と「効率」を両立した新しい施工管理に踏み出しましょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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