目次
• 逆打ち工法における地下水対策の基本
• 視点1 地下水位と地盤条件を早い段階で読み解く
• 視点2 山留め壁と止水性を施工計画に組み込む
• 視点3 掘削中の湧水と排水を安全に管理する
• 視点4 床付け後と躯体完成後の浮き上がりを考える
• 視点5 計測と記録で判断を現場に残す
• まとめ 地下水対策は逆打ち全体の工程管理につながる
逆打ち工法における地下水対策の基本
逆打ち工法は、地上階の構築と地下階の掘削・躯体構築を並行しやすい工法として、都市部の建築工事や大規模地下工事で採用されることがあります。一般には、構真柱や山留め壁を先行して施工し、地上部や地下階の床・梁を支保構造として利用しながら、地下を順に掘り下げていく点が特徴です。周辺道路や隣接建物が近い現場では、山留めの変形抑制や敷地利用の面でメリットが期待される場合があります。
一方で、地下水への対応は計画段階から慎重に検討する必要があります。逆打ち工法では、地下階の床が段階的に構築されるため、掘削面が外気に開放される範囲や、排水設備を配置できる空間が工程によって変化します。作業床、開口、仮設階段、資機材搬入口、排水経路が限られる中で、湧水や濁水を処理しなければならない場面があります。地下水位が高い場所では、掘削底の盤ぶくれ、ボイリング、地盤の緩み、躯体の浮き上がりなどにも注意が必要です。
地下水対策を考える際に重要なのは、単に水を抜くか止めるかという二択で捉えないことです。水位を下げる計画、山留め壁で止水性を確保する計画、掘削中だけ排水する計画、完成後の地下躯体で水圧を受ける計画は、それぞれ目的もリスクも異なります。周辺地盤の沈下、井戸や地下埋設物への影響、近隣建物の基礎への影響、排水の水質管理、行政や発注者との協議の要否なども含めて検討する必要があります。
特に逆打ち工法では、上部に床がある状態で地下作業を進めるため、現場の見通しが悪くなりやすく、湧水箇所や排水経路の変化に気づきにくい場合があります。工事が進むほどやり直しが難しくなるため、計画段階で地下水の挙動を想定し、施工中に確認し、必要に応じて見直す流れを作っておくことが大切です。
視点1 地下水位と地盤条件を早い段階で読み解く
地下水対策の出発点は、現場の地下水位と地盤条件を把握することです。逆打ち工法では、掘削深さが大きくなるほど、地下水圧や地盤の安定性が工程に与える影響も大きくなります。表層の水たまりや雨水だけを見て判断すると、深い砂層や透水層からの湧水を見落とすおそれがあります。
まず確認したいのは、地盤調査で得られる土質柱状図、標準貫入試験の結果、地下水位、透水性の高い層の位置です。砂質土や砂礫層は水を通しやすく、掘削時に湧水が発生しやすい傾向があります。粘性土が主体でも、薄い砂層が挟まっている場合には、その層を通じて水が流れ込むことがあります。地層が水平ではなく、傾斜している場合や、旧河道、埋立地、造成地のように地盤が不均質な場所では、調査点の間で水の出方が変わることもあります。
地下水位は季節や降雨、周辺工事、近隣の揚水状況によって変動します。調査時点の水位だけでなく、過去の地盤資料、近隣工事の記録、周辺の地下構造物の情報を確認しておくと、施工中の想定外を減らしやすくなります。特に河川や海に近い場所、低地、地下鉄や共同溝が近接する場所では、地下水の流れや水圧を単純に判断しないことが重要です。
逆打ち工法では、掘削の各段階で地下水対策の条件が変わります。最初の掘削では問題がなくても、下層に進むにつれて透水層に当たり、急に湧水量が増えることがあります。また、床スラブができた後は排水ポンプの設置場所や配管ルートが制限されるため、どの段階で水が出る可能性が高いのかを事前に整理しておく必要があります。
地下水位を読み解く際には、設計地下水位、施工時地下水位、完成後に想定する地下水位を分けて考えることも大切です。施工時は一時的に水位を下げる場合がありますが、完成後は周辺地下水位が回復し、地下躯体に水圧が作用することがあります。施工中の安全だけを優先して過度に 水を抜くと、周辺地盤の沈下を招く可能性があります。一方で、水を抜かずに掘削を進めると、掘削底の安定や作業性に問題が生じることがあります。
このため、地下水対策は地盤担当者、構造担当者、施工担当者、設備担当者が早い段階で同じ情報を見ながら検討することが望ましいです。地盤条件は山留め計画、構真柱計画、仮設床開口、排水設備、躯体防水、完成後の維持管理にまで関係します。逆打ち工法で地下水対策を考える時は、地盤資料を一度確認して終わりにせず、工程ごとのリスク表として使える形に整理しておくことが実務上有効です。
視点2 山留め壁と止水性を施工計画に組み込む
地下水対策では、山留め壁の止水性が大きな役割を持ちます。逆打ち工法では、地上階や地下階の床を山留め支保として利用することが多く、山留め壁の変形を抑える計画と、地下水の流入を抑える計画を一体で考える必要があります。山留め壁が構造的に成立していても、継手部や根入れ部から水が回り込むと、掘削中の作業性や安全性に影響します。
山留め壁には、地盤条件や掘削深さ、周辺環境に応じてさまざまな形式が選ばれます。止水性を期待する場合は、壁体そのものの連続性、継手部の処理、施工精度、根入れ深さ、透水層との関係が重要になります。砂礫層や転石を含む地盤では、壁の施工時に欠損や乱れが生じやすく、そこが水みちになる可能性があります。設計図上では連続している壁でも、実際の地盤条件によっては局所的な漏水が起こることがあります。
逆打ち工法では、床スラブができた後に山留め壁の内側を広く確認することが難しくなる場合があります。漏水箇所を見つけても、足場や作業空間が限られ、補修に手間がかかることがあります。そのため、山留め壁の施工段階で品質管理を徹底し、掘削前から漏水の可能性が高い箇所を把握しておくことが重要です。壁の施工記録、芯ずれ、鉛直精度、施工継目、障害物の有無を後工程でも確認できるように残しておくと、湧水発生時の原因追跡がしやすくなります。
また、山留め壁の根入れ深さは、地下水の回り込みや掘削底の安定に関係します。止水層まで壁を到達 させる計画であれば、水の流入を抑えやすくなりますが、地盤条件や施工性によっては完全な止水を期待しにくい場合もあります。止水層が深すぎる場合や連続性に不安がある場合は、山留め壁だけに頼らず、補助工法、排水計画、計測管理を組み合わせて考える必要があります。
漏水が発生した場合の対応手順も、事前に決めておくべきです。湧水量が少ない場合は集水して排水する対応で済むことがありますが、濁りを伴う水や砂を含む水が出ている場合は注意が必要です。砂が流出している状態を放置すると、背面地盤の緩みや空洞化につながる可能性があります。水だけでなく土砂の流出があるか、湧水量が増えているか、周辺の沈下計測に変化があるかを確認しながら判断する必要があります。
山留め壁は、地下水を完全に遮断する壁と決めつけるのではなく、地下水の流入を管理可能な範囲に抑えるための重要な要素として捉えるのが現実的です。逆打ち工法では、工程が進むほど補修や追加対策の自由度が下がるため、山留め壁の止水性を施工計画の中心に置き、施工記録と現場確認をつなげることが大切です。
視点3 掘削中の湧水と排水を安全に管理する
逆打ち工法で地下を掘り下げる際、掘削中の湧水と排水管理は日々の作業効率に直結します。湧水が少量でも、地下空間では排水経路が限られるため、作業床のぬかるみ、資材の汚れ、通路の滑り、電気設備への影響が生じやすくなります。湧水量が多い場合は、掘削機械の走行性や土砂搬出、床付け精度、鉄筋・型枠作業にも影響します。
まず考えるべきは、どこに水を集め、どこから排水するかです。逆打ち工法では、床スラブや梁が上部にあるため、排水ポンプ、沈砂設備、配管、電源、点検スペースの配置が制約されます。掘削段階ごとに集水ますの位置を変える必要がある場合もあります。仮設開口や搬入口を使って排水管を立ち上げる場合は、他の作業動線と干渉しないように計画する必要があります。
湧水対策では、排水能力に余裕を持たせることが大切です。通常時の湧水量だけで計画すると、降雨後や水位上昇時に対応できないことがあります。地下工事では、一時 的な停電、ポンプ故障、配管詰まり、沈砂槽の容量不足が作業停止につながることがあります。予備ポンプ、非常電源、排水管の詰まり点検、沈砂の清掃頻度をあらかじめ決めておくことで、トラブル時の復旧が早くなります。
排水には水質管理も関係します。掘削中の水には土粒子やセメント分、油分、泥分が混じる可能性があります。そのまま外部に流すことができない場合があるため、沈砂、ろ過、中和などの処理が必要になることがあります。排水先の条件や行政・発注者の基準を事前に確認し、現場で水質を管理できる体制を整えることが重要です。排水量が多い場合は、処理設備の設置スペースも問題になります。逆打ち工法では地上部の作業ヤードが限られることが多いため、排水処理設備の位置を早めに決めておく必要があります。
掘削中の地下水で特に注意したいのは、掘削底から水と砂が湧き上がる状態です。砂質地盤で水圧が高い場合、掘削底の地盤が不安定になり、作業員や機械の安全に関わります。局所的な湧水に見えても、底盤全体の安定性に関係している場合があるため、現場判断だけで掘り進めるのは危険です。湧水の位置、量、濁り、砂の混入、掘削底の変状を記録し、必要に応じて設計者や地盤 技術者に確認する流れを用意しておくべきです。
排水計画は、掘削工程と一体で見直す必要があります。地下階が深くなるほど揚程が増え、ポンプの負荷が高くなります。床スラブが増えるほど配管ルートが複雑になり、点検しにくくなります。最初に設置した排水設備を最後まで使えるとは限りません。各掘削段階で、集水位置、排水量、予備設備、点検通路、非常時対応を確認しながら進めることが、逆打ち工法における地下水管理の基本です。
視点4 床付け後と躯体完成後の浮き上がりを考える
地下水対策は掘削中だけの問題ではありません。地下躯体が完成した後、周辺の地下水位が回復すると、地下階の床や躯体全体には浮力が作用します。地下水位が高い場所では、建物の自重や杭、底盤、地下外壁の設計と合わせて、浮き上がりに対する安全性を確認する必要があります。逆打ち工法では、施工中の段階ごとに躯体重量や拘束条件が変わるため、完成形だけでなく施工途中の状態も考えることが重要です。
掘削中は、まだ地下躯体がすべて完成していないため、底盤や中間階の床に作用する水圧への抵抗が不足する場合があります。上部躯体が進んでいれば建物重量が増えますが、工程によっては一時的に軽い状態で地下水圧を受けることもあります。このため、どの時点で水位を戻すのか、どの時点まで排水を続けるのか、底盤コンクリートや地下階の躯体がどの程度完成してから次工程に進むのかを、構造と施工の両面で整理する必要があります。
床付け後の地盤状態も重要です。湧水や過剰な排水によって床付け面が乱れると、均しコンクリートや底盤の施工精度に影響します。地盤が緩んだ状態で底盤を施工すると、沈下やひび割れ、止水不良の原因になることがあります。地下水位が高い場所では、床付け面を長期間開放しない、湧水箇所を早めに処理する、必要な場合は地盤改良や止水処理を検討するなど、床付けから底盤施工までの時間管理も重要です。
完成後の地下水対策では、防水計画との整合も欠かせません。地下外壁や底盤に水圧がかかる場合、ひび割れ、打継ぎ部、貫通部、設備配管まわりが漏水リスクになります。逆打ち工法では、地下階の施工順序や打継ぎ位置が順打ちと異なるため、防水納まりや止水材の配置を施工手順と合わせて確認する必要があります。特に外壁と床の取り合い、構真柱まわり、仮設開口の閉塞部、後施工となる部分は、漏水の弱点になりやすい箇所です。
また、地下水を施工中に長期間くみ上げる場合、周辺への影響にも注意が必要です。水位低下による地盤沈下、近隣井戸への影響、既設地下構造物への影響が生じる可能性があります。工事中の安全のために排水を行う場合でも、周辺地盤に与える影響を確認しながら進める必要があります。周辺沈下計測や地下水位観測を行い、計画値を超える変化があれば、排水量や施工手順を見直す体制が求められます。
浮き上がり対策は、構造設計だけで完結するものではありません。施工中の水位管理、排水停止のタイミング、底盤施工の品質、防水納まり、完成後の維持管理までつながっています。逆打ち工法で地下水対策を考える時は、掘削中の水を処理するだけでなく、完成後に水圧を受ける建物として成立するかを常に意識することが大切です。
視点5 計測と記録で判断を現場に残す
地下水対策では、計画時の想定と実際の現場状況が完全に一致するとは限りません。地盤は均一ではなく、地下水位も変動します。だからこそ、逆打ち工法では計測と記録を使って、現場判断を積み重ねることが重要です。感覚的に「水が多い」「少し漏れている」と扱うのではなく、位置、時刻、量、濁り、変化を記録しておくことで、原因の推定や対策の優先順位が明確になります。
代表的な管理項目としては、地下水位、湧水量、排水量、山留め壁の変位、周辺地盤の沈下、近隣構造物の変状、掘削底の状態などがあります。これらを別々に見るのではなく、工程と合わせて確認することが大切です。例えば、特定の掘削深さに達した時点で湧水が増えたのか、降雨後に一時的に増えたのか、山留め壁の変位と同時に変化したのかによって、対応の考え方は変わります。
記録は、後から見返せる形で残す必要があります。写真だけでなく、撮影位置、撮影方向、地下階の階数、通り 芯、掘削深さ、湧水箇所の座標や区画を紐づけておくと、関係者間で状況を共有しやすくなります。逆打ち工法では地下空間が複雑になりやすく、同じような柱や壁が連続するため、写真だけでは場所が分からなくなることがあります。位置情報や図面上の区画と結びつけて記録することが、後工程の補修や確認に役立ちます。
また、地下水対策の判断は複数の関係者にまたがります。施工管理者、職長、排水設備の担当者、山留め担当者、構造設計者、発注者が同じ情報を共有できるようにしておくと、対応の遅れを防ぎやすくなります。特に漏水や湧水が増えた場合、現場だけで応急処置を重ねると、根本原因が見えにくくなることがあります。記録を共有し、必要なタイミングで設計側や地盤担当者に相談できる体制が重要です。
計測値には管理基準を設定しておくことも大切です。どの程度の湧水量で追加ポンプを設置するのか、どの程度の沈下で施工を一時確認するのか、山留め変位がどの段階で協議対象になるのかをあらかじめ決めておくと、現場判断が属人的になりにくくなります。基準値を超えてから慌てて対応するのではなく、注意値の段階で変化を確認し、早めに対策を検討することが望ましいです。
地下水対策の記録は、完成後の維持管理にも役立ちます。どの箇所で漏水が出やすかったのか、どの打継ぎ部を補修したのか、どの時期に水位が高かったのかを残しておくと、引き渡し後の点検や改修時に有用です。逆打ち工法では、完成後に見えなくなる仮設や施工途中の状態が多いため、施工中の記録が将来の説明資料になります。
まとめ 地下水対策は逆打ち全体の工程管理につながる
逆打ち工法で地下水対策を考える時は、単に湧水を排水する作業として捉えるのではなく、地盤条件、山留め、掘削、躯体、防水、周辺影響、維持管理をつなぐ計画として扱うことが大切です。地下水位と地層を早い段階で読み解き、山留め壁の止水性を施工品質と合わせて確認し、掘削中の排水を安全に管理することで、工程遅延や手戻りを減らしやすくなります。
また、床付け後や完成後には地下水圧が躯体に作用するため、 浮き上がりや漏水のリスクを施工途中から意識する必要があります。排水を続ける期間、水位を戻すタイミング、底盤施工の品質、打継ぎ部の防水納まりは、どれも地下水対策と直結します。逆打ち工法では工程が複雑になりやすいため、各段階で水の扱いを見直すことが重要です。
さらに、計測と記録を残すことで、現場の判断はより確実になります。湧水の位置、量、濁り、変化を図面や写真と結びつけて管理すれば、関係者間の共有がしやすくなり、対策の優先順位も明確になります。地下空間では見えない部分が多く、完成後には確認できない施工過程もあります。だからこそ、施工中の記録を丁寧に残すことが、品質説明や維持管理の基礎になります。
逆打ち工法の地下水対策は、計画書の中だけで完結するものではありません。現場で水の出方を確認し、記録し、必要に応じて計画を修正していくことで、より安全で説明しやすい施工管理につながります。地下階の位置確認、湧水箇所の記録、掘削段階ごとの写真管理を効率化したい場合は、現場で使いやすい計測・記録手段を取り入れることも有効です。地下工事の記録をその場で残し、関係者と共有する流れを整えることが、逆打ち工法における地下水対策の質を 高める一歩になります。
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