目次
• 遮断器のトリップコイル断線が配電設備に与える影響
• 試験前に確認する安全条件と回路構成
• 試験1 コイル抵抗・導通試験
• 試験2 絶縁抵抗試験
• 試験3 トリップ指令電圧試験
• 試験4 動作電流・動作時間試験
• 試験5 トリップ回路監視・総合連動試験
• 5つの試験結果から故障箇所を切り分ける方法
• トリップコイル断線を招く主な原因
• 誤判定を防ぐための注意点
• 点検記録と予防保全の進め方
• まとめ
遮断器のトリップコイル断線が配電設備に与える影響
配電設備に設置される遮断器は、短絡や地絡、過電流などの異常が発生したときに回路を切り離し、事故の拡大を抑える役割を担っています。保護装置が異常を検出すると、遮断器のトリップ回路へ開放指令が送られます。その指令を受けて遮断機構を動かす電磁部品がトリップコイルです。
保護装置が正常に異常を検出していても、トリップコイルやその周辺回路が断線していると遮断器は開放できません。異常電流が継続すれば、ケーブルや母線、変圧器、負荷設備などへの熱的、機械的な影響が大きくなる可能性があります。そのため、トリップコイルは通常運転中に目立たない部品でありながら、配電設備の保護機能を成立させる重要な要素です。
トリップコイルの断線という言葉は、コイル内部の巻線が完全に切れている状態だけを指すとは限りません。コイル端子の緩み、制御配線の断線、コネクタの接触不良、ヒューズの溶断、端子台の腐食、補助接点の不良などによって電流経路 が開放された場合も、現場ではトリップコイル断線と似た不動作が発生します。
また、完全な断線に至る前には、接続部の抵抗増加や断続的な接触不良が生じることがあります。点検時には正常に動作しても、振動、温度変化、盤扉の開閉などをきっかけに回路が途切れる場合があるため、一度の動作確認だけで健全と判断するのは適切ではありません。
トリップコイルは、遮断器を開放するときだけ短時間通電する構成が一般的です。通常運転中は電流が流れていないため、故障が発生しても運転状態や外観だけでは気づきにくいという特徴があります。実際に事故が発生したときや定期試験を実施したときになって、初めて不動作が判明することもあります。
このような潜在故障を見抜くには、コイル単体の抵抗測定だけでなく、絶縁状態、指令時の端子電圧、動作時の電流、保護装置から遮断器までの連動状態を段階的に確認する必要があります。それぞれの試験には異なる目的があり、複数の結果を組み合わせることで、コイル本体の断線 と周辺回路の不具合を切り分けやすくなります。
試験前に確認する安全条件と回路構成
トリップコイルの試験を行う前には、遮断器の主回路、制御回路、操作機構、関連設備の状態を確認しなければなりません。制御回路の点検であっても、誤ってトリップ指令が成立すると遮断器が開放し、設備の停電や機械の停止を引き起こす可能性があります。試験は、設備管理者が承認した作業手順に従い、必要な知識と技能を持つ担当者が実施します。
最初に確認するのは、単線結線図、制御回路図、端子台図、遮断器の取扱資料、保護装置の入出力仕様です。トリップコイルが直流で動作するのか交流で動作するのか、保護装置の出力接点から直接励磁されるのか、中間リレーを介して励磁されるのかによって、測定箇所と判定方法が変わります。
トリップ回路には、制御電源、ヒューズまたは回路保護器、操作スイッチ、保護装置の接点、中間リレー、補助接点、端子台、引出形遮断器の接続部などが直列に含まれている場合があります。盤面の表示だけを見てコイル端子を推測せず、実際の端子番号と回路図を照合することが重要です。
設備の改修や部品交換が繰り返されている場合、現場の配線と図面が一致していないこともあります。図面と現物に違いが見つかったときは、自己判断で測定を続けず、配線経路と変更履歴を確認します。誤った端子へ測定器を接続すると、短絡や誤動作、測定器の損傷につながるおそれがあります。
抵抗測定や絶縁抵抗測定を行うときは、対象回路を確実に無電圧にします。電源スイッチを切っただけで安全と判断せず、電源の供給元、予備電源、遠方回路からの回り込み、蓄電部品の残留電荷を確認します。所定の方法で検電を行い、必要に応じて放電処置を実施します。
遮断器の操作機構には、ばねや空気圧などの機械的エネルギーが蓄えられている場合があります。制御電源を遮断しても、機械的な蓄勢状 態が残っていれば、部品の操作やラッチの解放によって遮断器が動く可能性があります。取扱資料に従い、試験に必要な機械的安全措置を講じます。
活線状態で電圧や電流を測定する試験では、充電部への接近、測定端子間の短絡、測定リードの脱落に特に注意が必要です。測定器の定格、測定範囲、絶縁性能を確認し、測定端子を接続した状態で安全に指令を与えられる手順を整えます。
さらに、遠方操作、自動再閉路、非常停止、設備間インターロックがある場合は、試験中に意図しない指令が入らないよう隔離または操作禁止の措置を行います。試験による停電範囲と関連設備への影響を関係者へ周知し、開始前と終了後の連絡方法を決めておくことも必要です。
試験1 コイル抵抗・導通試験
トリップコイル断線を確認する基本的な方法が、コイル抵抗・導通試験です。コイル両端の抵抗を測定し、巻 線や接続部に電流経路が存在するかを確認します。完全に断線している場合、一般的な抵抗測定では測定範囲を超える高い値や開放状態を示します。
ただし、盤内の端子台から回路全体を測定しただけでは、トリップコイル単体の状態を正確に判定できない場合があります。トリップ回路監視装置、表示回路、サージ抑制部品、補助リレーなどが並列に接続されていると、コイルが断線していても別の経路を通じて抵抗値が表示されることがあります。
反対に、遮断器の開閉位置によって補助接点が開いている場合は、コイルが正常でも盤側端子から測定すると開放状態になります。そのため、測定前に回路図を確認し、測定対象にどの接点や部品が含まれるかを把握する必要があります。
可能であれば、コイル端子の片側を制御回路から分離し、コイル単体に近い状態で測定します。配線を外す場合は端子番号と線番号を記録し、識別表示を付けます。復旧時に配線を取り違えると、トリップ不能や誤動作の原因になるため、外す前の状態を写真 などで記録しておくと安全です。
測定値の判定には、遮断器の仕様資料に示された参考値、同一形式の健全部品、同一設備の過去測定値を利用します。トリップコイルの抵抗値は、定格制御電圧、コイルの構造、温度などによって異なるため、すべての遮断器に共通する一律の基準値で判断することはできません。
銅線を使用したコイルでは、温度が高くなると抵抗値も変化します。過去値と比較するときは、測定時の周囲温度やコイルの温度条件を確認します。温度条件が大きく異なるデータを単純に比較すると、正常な変化を異常と誤認する可能性があります。
抵抗値が過去より徐々に大きくなっている場合は、完全断線の前段階として、端子の緩み、圧着部の腐食、素線の一部切れ、接触面の酸化などが発生している可能性があります。コイル端子、遮断器の接続部、盤内端子台というように測定区間を分け、抵抗が増加している位置を絞り込みます。
測定中に配線やコネクタの位置をわずかに変えたとき、値が大きく変動する場合は、断続的な接触不良が疑われます。ただし、通電状態で配線を動かす行為は短絡や感電につながるため、必ず無電圧状態で確認します。
導通ブザーが鳴ったという結果だけで正常と判断してはいけません。劣化した接続部や細い素線がわずかに残っている場合、測定器の小さな電流では導通しても、実際のトリップ動作に必要な電流を流せないことがあります。抵抗・導通試験は断線を直接確認する第一段階として有効ですが、後述する指令電圧試験や動作電流試験と組み合わせることが重要です。
試験2 絶縁抵抗試験
絶縁抵抗試験は、コイル巻線の断線を直接判定するものではありませんが、トリップ回路の対地絶縁や回路間絶縁を確認するために重要です。配線の被覆損傷、湿気、粉じん、端子台の汚損などによって絶縁が低下すると、制御電源のヒューズが溶断したり、コイル端子の電圧が不安定に なったりする場合があります。
トリップ不能が発生したとき、原因をコイル断線だけに限定すると、絶縁低下による制御電源喪失や漏れ電流を見逃す可能性があります。抵抗・導通試験と絶縁抵抗試験の結果を合わせて確認することで、電流経路の開放と絶縁劣化を区別しやすくなります。
絶縁抵抗試験を行う前には、対象回路に接続されている電子部品を確認します。保護装置、監視装置、表示回路、整流部品、サージ抑制部品、通信回路などへ試験電圧を加えると、部品を損傷する可能性があります。試験電圧と回路の切り離し方法は、設備の試験要領や各機器の取扱資料に従って決めます。
回路構成が分からない状態で、高い試験電圧を一括して加えることは避けます。必要に応じてトリップコイル、制御ケーブル、盤内配線などを区分し、電子回路を切り離した状態で測定します。分離した端子や配線は確実に識別し、試験後の復旧漏れを防ぎます。
測定対象としては、トリップ回路と接地間、異なる制御回路間、コイル端子と遮断器の金属フレーム間などが考えられます。ただし、具体的な測定箇所は回路構成によって異なります。補助接点の状態によって測定範囲が変わる場合もあるため、遮断器の開閉位置を記録します。
絶縁抵抗値は、ケーブル長、周囲温度、湿度、表面の汚損状態によって変動します。一度の測定値だけで断定せず、過去の同条件データや同一盤内の類似回路と比較します。前回点検から大きく低下している場合や、特定の区間だけ値が低い場合は、配線や端子台を重点的に調査します。
特に注意したいのが、盤扉と盤本体をつなぐ渡り配線、可動部分のコネクタ、ケーブルの屈曲部、金属端部に接触しやすい箇所です。扉の開閉や遮断器の引出操作が繰り返されることで、被覆が損傷したり、内部の素線が切れたりすることがあります。
盤内に結露や水分の侵 入が見られる場合は、単に乾燥させて測定値が回復したことだけで完了としません。パッキン、ケーブル引込部、換気構造、盤内加熱や除湿の状態などを確認し、湿気が発生した原因を取り除く必要があります。
絶縁抵抗測定後は、回路に残った電荷を所定の方法で放電します。試験のために外した電子部品や監視回路を復旧し、端子の締付状態と配線位置を確認します。絶縁抵抗が正常でもコイルが動作するとは限らないため、この結果だけでトリップ回路全体を合格と判断せず、実際の指令電圧と動作状態を続けて確認します。
試験3 トリップ指令電圧試験
コイル抵抗が正常であっても、トリップ指令時に必要な電圧がコイル端子へ届かなければ、遮断器は開放しません。トリップ指令電圧試験では、保護装置や操作スイッチから指令を与えた際に、コイル両端へ実際に加わる電圧を測定します。

