目次
• 回生電力で母線電圧が上がる仕組み
• 対策前に確認する測定項目と切り分け
• 対策1 制動抵抗器と回 生制動回路で余剰電力を熱として処理する
• 対策2 電源回生方式で上位系統へ電力を戻す
• 対策3 蓄電設備や直流リンクで回生電力を一時的に受け止める
• 対策4 運転パターンと負荷バランスを見直して回生ピークを抑える
• 対策5 配電系統のインピーダンスと電圧制御を見直す
• 保護協調と安全設計で見落としやすい点
• 改修後の試運転と効果確認
• 配電設備の長期運用で再発を防ぐ管理方法
• まとめ
回生電力で母線電圧が上がる仕組み
モーターを使用する配電設備では、運転状態によってモーターが負荷を駆動する側から、発電する側へ切り替わることがあります。このときに発生する電力が回生電力です。クレーンや昇降設備の下降運転、搬送機の減速、遠心機の停止、大きな慣性を持つファンの減速、巻き取り設備の張力制御などでは、負荷が持っている位置エネルギーや運動エネルギーがモーターを回し、そのエネルギーが電気として駆動装置へ戻ります。
可変速駆動装置の多くは、交流電源をいったん直流へ変換し、直流母線を通じて再び任意の周波数と電圧の交流を作ります。通常の力行運転では、電源側から直流母線へ電力が流れ、直流母線からモーターへ電力が供給されます。ところが減速時や下降時には電力の流れが逆になり、モーターから直流母線へエネルギーが戻ります。
戻ってきた電力を別の負荷で消費する、上位の交流系統へ戻す、抵抗器で熱に変える、蓄電設備へためるといった経路がなければ、直流母線のコンデンサへ電荷が蓄積されます 。その結果、直流母線電圧が上昇し、駆動装置の過電圧保護が動作します。減速途中で駆動装置が停止する、過電圧警報が繰り返される、制動時間を短くすると異常が増えるといった現象は、回生電力を処理し切れていない可能性を示します。
一方、電源回生機能を持つ設備では、回生電力が交流側へ戻されます。この場合は直流母線電圧だけでなく、建物や工場内の交流母線電圧が上昇することがあります。特に、回生している設備の容量に対して同一母線上の消費電力が小さい場合や、上位系統までの配線インピーダンスが大きい場合、変圧器のタップ設定が高めの場合、力率改善用コンデンサが過剰に投入されている場合には、回生電流による電圧上昇が目立ちやすくなります。
したがって、「母線電圧が上がる」という現象を検討するときは、直流母線の電圧上昇なのか、配電設備の交流母線の電圧上昇なのかを最初に区別する必要があります。両者では有効な対策が異なり、直流母線の問題に対して変圧器のタップだけを変更しても根本的な改善にならない場合があります。反対に、交流母線の電圧上昇に対して制動抵抗器だけを追加しても、運用条件によっては十分な効果が得られません。
回生電力による電圧上昇は、単に駆動装置の設定値だけで決まるものではありません。負荷の慣性、速度、減速時間、高低差、運転頻度、同時稼働台数、配電系統の強さ、変圧器容量、配線長、蓄電設備の受け入れ余力などが相互に影響します。そのため、異常が発生した装置だけを見るのではなく、配電設備全体の電力の流れを把握してから対策を選ぶことが重要です。
対策前に確認する測定項目と切り分け
母線電圧上昇への対策を決める前に、いつ、どの程度、どのくらいの時間にわたって電圧が上昇しているのかを確認します。停止時に一瞬だけ発生するピークと、下降運転中に数十秒以上続く電圧上昇では、必要な設備容量も適した方式も異なります。
最初に確認したいのは、駆動装置の直流母線電圧、交流入力電圧、モーター電流、トルク指令、速度指令、実速度、運転方向、回生状態を示す内部信号、過電圧警報の発生時刻です。複数の駆動装置が同じ配電設備へ接続されている場合は、ほかの装置の運転状態も同時に記録します。回生が始まった時刻と母線電圧が上昇した時刻が一致しているかを確認することで、原因の絞り込みがしやすくなります。
交流側へ回生する設備では、母線電圧だけでなく、有効電力の流れる方向も確認します。回生運転時に受電点側へ電力が戻っているか、同一母線上の負荷が回生電力を消費しているか、上位系統への逆潮流が制限されていないかを調べます。電流値だけでは電力の方向を判断できないため、有効電力や力率を記録できる測定器を用いることが望まれます。
一般的な携帯型測定器では、短時間の電圧ピークを捉えられないことがあります。表示値が正常に見えていても、実際には数十ミリ秒から数百ミリ秒程度の電圧上昇が繰り返され、駆動装置の保護だけが動作している場合があります。そのため、最大値記録や波形記録が可能な測定方法を選び、駆動装置の内部履歴と外部測定結果を時刻で照合することが重要です。

