ICT施工を現場に定着させるうえで、機器やソフトをそろえることと同じくらい重要なのが、現場で判断できるICT担当者を育てることです。ICT施工では、3次元設計データ、測位、建設機械、点群、出来形管理、電子納品、発注者協議など、複数の実務がつながります。そのため、単に機器の操作ができる人を増やすだけでは十分ではありません。現場条件を読み取り、施工計画とデータを結びつけ、測位精度や出来形の根拠を説明できる人材が必要になります。
一方で、ICT担当者の育成は簡単ではありません。日々の現場は忙しく、担当者だけに作業が集中しやすく、属人化も起こりがちです。さらに、ICT施工の要領や発注者の求める資料、使用するデータ形式、現場で使う機器の設定は工事ごとに変わることがあります。そこで重要になるのは、最初から完璧な専門家を育てようとするのではなく、現場で直面しやすい実務課題を一つずつ経験させ、判断の引き出しを増やしていくことです。
目次
• ICT施工担当者に求められる役割を明確にする
• 3次元設計データを現場で読める力を育てる
• 測位と基準点の考え方を実務で身につける
• 建設機械とのデータ連携を任せきりにしない
• 出来形管理と点群処理の根拠を説明できるようにする
• 発注者協議と社内共有をつなぐ力を育てる
• 属人化を防ぎ、次の担当者へ引き継げる体制を作る
• まとめ
ICT施工担当者に求められる役割を明確にする
ICT施工の担当者を育てる最初の課題は、その人に何を任せるのかを明確にすることです。現場では、ICT担当者という言葉が便利に使われる一方で、実際の役割があいまいなままになっていることがあります。測量も見る、3次元設計データも見る、建設機械の設定も見る、出来形管理も見る、発注者との資料整理も見るという状態になると、担当者には過度な負荷がかかります。結果として、担当者本人しか状況を把握できず、現場全体としてはICT施工が定着しにくくなります。
ICT施工の担当者は、機器を操作するだけの人ではありません。現場の施工手順を理解し、どの段階でどのデータが必要になるのかを把握し、測量担当、施工管理担当、オペレーター、協力会社、発注者の間をつなぐ役割を持ちます。したがって、育成の入口では、まずICT施工の全体像を理解させることが大切です。3次元データを作る前に何を確認するのか、建設機械へデータを渡す前にどの範囲を確認するのか、出来形管理ではどの基準を見て判断するのかという流れを、工事の工程と結びつけて覚える必要があります。
特に大切なのは、担当者に対して「操作ができること」と「判断できること」を分けて教えることです。端末やソフトの操作は、手順書を見れば覚えやすい部分です。しかし、現場で本当に困るのは、設計データと現況が合わないとき、測位が安定しないとき、点群に不要なデータが混じるとき、出来形結果が基準値に近いときなどです。こうした場面では、単なる操作手順ではなく、なぜその確認が必要なのかを理解していなければ判断できません。
育成の初期段階では、担当者に全工程を一人で任せるのではなく、工事の中で担当範囲を 段階的に広げることが現実的です。最初は基準点や座標系の確認、次に3次元設計データのチェック、次に施工中の位置確認、次に出来形管理や協議資料の整理というように、経験を積ませる順番を決めます。これにより、担当者はICT施工を断片的な作業ではなく、現場管理の一部として理解しやすくなります。
また、ICT担当者を育てる際には、責任の線引きも欠かせません。担当者が確認する範囲、現場代理人や主任技術者などが最終判断する範囲、測量業務として専門的な確認が必要な範囲を分けておくことで、判断の押し付けを避けられます。ICT施工は便利な仕組みですが、データがあるから自動的に正しくなるわけではありません。担当者が不安な点を早めに相談できる体制を用意しておくことが、育成の土台になります。
ICT施工担当者に求められる役割を明確にすることは、本人の成長だけでなく、現場全体の混乱を減らすことにもつながります。役割が明確であれば、担当者は何を学べばよいかを理解できます。周囲の職員も、どの情報を担当者に渡すべきか、どの段階で確認を依頼すべきかを判断しやすくなります。人材育成の第一歩は、難しい技術を教えることではなく、ICT施工の中で担当者が立つ位置を現場全員で共 有することです。
3次元設計データを現場で読める力を育てる
ICT施工の実務では、3次元設計データを扱う場面が多くあります。土工、舗装、法面、構造物周辺など、施工対象によってデータの作り方や使い方は変わります。ICT担当者を育てるうえでは、データを開いて表示できるだけでなく、現場で使えるデータかどうかを読める力を身につけさせる必要があります。ここが弱いと、施工前の段階で気づくべき不整合を見逃し、施工中に手戻りが発生しやすくなります。
3次元設計データを読む力とは、見た目の形状を確認するだけではありません。平面線形、縦断、横断、勾配、幅員、法肩、法尻、構造物との取り合い、施工範囲、段階施工の区分などを確認し、設計図書や施工計画と矛盾がないかを見る力です。現場では、データ上はきれいに見えていても、実際には施工範囲が不足していたり、隣接構造物との高さ関係が整理されていなかったりすることがあります。担当者には、画面上のデータを現場の地形や工程に置き換えて考える習慣が必要です。
育成では、まず設計データと従来図面を見比べる訓練が有効です。平面図、縦断図、横断図で示されている情報が、3次元データのどこに反映されているのかを確認します。例えば、横断勾配の変化点、道路端部、排水勾配、構造物の天端や底面の高さなどは、現場での施工判断に直結します。こうした点を一つずつ確認することで、担当者はデータの形だけでなく、施工上の意味を理解できるようになります。
次に重要なのは、データの適用範囲を確認する力です。ICT施工では、施工機械に渡すデータ、出来形管理に使うデータ、発注者協議に使う説明用データが必ずしも同じ使い方をされるとは限りません。施工用データでは機械が迷わず作業できることが重要になり、出来形管理用データでは管理対象範囲と基準面の整合が重要になります。担当者がこの違いを理解していないと、説明用の見やすいデータをそのまま施工に使おうとしたり、施工用に簡略化したデータを出来形管理の根拠として過信したりするおそれがあります。
また、3次元設計データには修正履歴の管理も必要です。現場で は、発注者協議、設計照査、現地条件の変更、施工範囲の見直しによって、データを修正することがあります。このとき、どの時点のデータが最新なのか、どの範囲を変更したのか、変更前のデータをどこまで使っていたのかを整理していないと、古いデータで施工してしまうリスクが生まれます。ICT担当者には、データ名や保存場所だけでなく、変更理由と適用開始日を記録する習慣を教えることが大切です。
3次元データの確認では、現場での照合も欠かせません。机上で問題がないように見えるデータでも、現地の既設構造物、仮設道路、用地境界、排水経路、支障物と重ねてみると、施工上の課題が見えてくることがあります。ICT担当者には、データ確認を事務所内だけで完結させず、現地を歩きながら重要な点を確認させることが有効です。実際の地形や構造物を見ながらデータを確認する経験は、画面上の線や面を施工対象として理解する力につながります。
3次元設計データを読める担当者が育つと、施工前の確認が大きく変わります。データの不整合を早期に見つけられるだけでなく、オペレーターや協力会社に対して、どの範囲をどのデータで施工するのかを説明しやすくなります。ICT施工の品質は、データ作成者だけで決まるものではありません。現場でそのデータを読み、使い方を判断できる担当者を育てることが、安定した施工につながります。
測位と基準点の考え方を実務で身につける
ICT施工の担当者育成で避けて通れないのが、測位と基準点の理解です。ICT施工では、衛星測位、基準点、ローカル座標、標高、補正情報、機械の位置情報などが関係します。これらを十分に理解しないまま施工を進めると、画面上では正しく見えているのに、実際の位置や高さがずれているという問題が起こることがあります。担当者には、測位を機械任せにせず、現場管理の基本として理解させる必要があります。
まず教えるべきなのは、基準点がICT施工全体の土台になるということです。3次元設計データが正しくても、そのデータを現場に合わせる基準が不安定であれば、施工位置や出来形結果も不安定になります。基準点の座標値、標高、設置位置、視通、保存状態、工事中の移動リスクを確認することは、ICT施工の初期段階で非常に重要です。担当者が基準点を単なる測量担当の管理物と考えていると、施工中に基準点が使えなくなったときの対応が遅れます。
測位の理解では、平面位置と高さを分けて考えることも大切です。ICT施工では、機械や端末に現在位置が表示されるため、位置が合っていれば全体が正しいように感じやすくなります。しかし、平面位置が合っていても高さがずれていれば、出来形や施工面に影響します。反対に、高さの確認だけに目が向くと、施工範囲や境界の取り違えに気づきにくくなります。担当者には、平面と高さを別々に確認し、最後に施工目的に合わせて総合的に判断する習慣を身につけさせる必要があります。
また、ICT施工では測位環境の変化も実務上の課題になります。周囲の建物、山、樹木、仮設物、重機、施工時間帯、衛星配置などによって、測位の安定性が変わることがあります。担当者は、測位結果の数値や表示だけでなく、現場条件を見てリスクを判断しなければなりません。測位が不安定なときに、そのまま施工を続けるのか、一時的に確認測量を増やすのか、別の基準点を使うのかを判断するには、実際の現場での経験が必要です。
育成の方法としては、施工前の基準点確認に担当者を同行させることが有効です。基準点の位置を確認し、既知点で測位結果を照合し、設計データとの関係を確認する流れを経験させます。その場で、なぜこの点を確認するのか、どの程度の差があれば再確認するのか、差が出たときに何を疑うのかを説明します。これにより、担当者は測位を単なる数字ではなく、施工品質を支える確認作業として理解できます。
さらに、ICT担当者には、日常的な座標確認の記録方法も教える必要があります。いつ、どの点で、どの機器を使い、どのような結果が出たのかを記録しておくことで、後から施工位置や出来形に疑問が出たときの説明材料になります。記録が残っていないと、実際には確認していたとしても、根拠として示しにくくなります。ICT施工ではデータが多く残る一方で、どの確認が正式な判断根拠なのかが見えにくくなることがあります。担当者には、確認結果を残す意味まで含めて教えることが大切です。
測位と基準点を理解した担当者は、現場の不安を早めに察知できます。位置が少しずれているように見える、機械の表示と現地の構造物が合わない、出来形結果に一定方向の偏りがあるといった違 和感に気づきやすくなります。ICT施工では、こうした小さな違和感を放置しないことが重要です。担当者の育成では、正しい操作を教えるだけでなく、疑うべきポイントを見つける力を育てる必要があります。
建設機械とのデータ連携を任せきりにしない
ICT施工では、3次元設計データを建設機械に取り込み、施工支援や機械制御に活用する場面があります。ここでICT担当者に求められるのは、データを渡して終わりにしないことです。建設機械側の設定、施工範囲、基準面、刃先やバケットの管理、オペレーターへの説明が不足していると、データは正しくても施工に反映されないことがあります。担当者を育てるうえでは、建設機械とのデータ連携を現場管理の一部として理解させる必要があります。
施工用データを機械に入れる際には、まずデータの範囲と目的を確認する必要があります。どの工種に使うデータなのか、どの区間まで使えるのか、段階施工のどの時点に対応しているのか、仮設や施工余裕を含むのかを整理します。担当者がこれを理解していないと、まだ使ってはいけない範囲のデ ータを使ったり、変更前のデータをそのまま機械に渡したりする可能性があります。特に、施工範囲が途中で変更された現場では、データの取り違えが大きな手戻りにつながります。
建設機械側の確認では、機械の位置情報、作業装置の寸法、センサーの状態、基準面の表示、施工面との関係を確認します。担当者は、機械にデータが表示されているかだけで判断してはいけません。実際の現地で既知点や確認点に機械を合わせ、表示される位置や高さに大きな違和感がないかを確認することが重要です。これを省くと、現場で施工が始まってからずれに気づき、原因の切り分けに時間がかかります。
オペレーターとの情報共有も重要な育成課題です。ICT施工では、画面に設計面や施工面が表示されるため、オペレーターは従来より多くの情報を見ながら作業できます。しかし、どの線が施工端部なのか、どの面が仕上がりなのか、どの範囲は別工程で施工するのかが伝わっていなければ、誤解が起こります。ICT担当者には、データの中身をオペレーターが理解できる言葉に変えて説明する力が必要です。
また、施工中の確認をどのタイミングで行うかも決めておく必要があります。データを取り込んだ直後、試験施工の後、施工範囲が変わる前、機械を入れ替えた後、基準点や補正条件を変更した後など、確認すべきタイミングはいくつもあります。担当者が施工開始時だけ確認して安心してしまうと、途中の条件変更に対応できません。育成では、現場の工程表とICT施工の確認タイミングを結びつけて考えさせることが有効です。
機械とのデータ連携で起こりやすい問題の一つに、責任範囲のあいまいさがあります。データ作成は誰が行ったのか、機械への取り込みは誰が行ったのか、取り込み後の確認は誰が行ったのか、施工中の異常に誰が対応するのかが整理されていないと、問題が起きたときに対応が遅れます。ICT担当者には、自分がすべてを背負うのではなく、関係者ごとの確認範囲を整理し、記録として残す役割を持たせることが大切です。
建設機械との連携を理解した担当者は、ICT施工を単なるデータ利用ではなく、施工管理の仕組みとして扱えるようになります。現場では、データ、機械、人の判断がそろって初めて安定した施工になります。担当者の育成では、画面上の設定だけでなく、実際に土を動かし、仕上がりを確認し、オペレーターと会話する経験を重視することが必要です。
出来形管理と点群処理の根拠を説明できるようにする
ICT施工では、出来形管理に点群データや3次元計測を活用することがあります。ここでICT担当者に求められるのは、計測結果を出すことだけではなく、その結果がどのような条件で得られたものかを説明できることです。点群処理や出来形帳票の作成を外部や特定担当者に任せている現場でも、最終的に施工管理として説明するのは現場側です。そのため、ICT担当者には、出来形管理の流れと根拠を理解させる必要があります。
出来形管理でまず確認すべきなのは、管理対象範囲です。どの工種のどの範囲を3次元計測で管理するのか、従来管理と併用する部分はどこなのか、施工途中で管理範囲が変わった場合にどう扱うのかを整理します。ここがあいまいなまま点群を取得すると、必要な範囲が不足したり、不要な範囲まで処理して判断が複雑になったりします。担当者には、計測前に管理対象と必要な成果を確 認する習慣を持たせることが重要です。
点群取得では、計測位置、計測密度、死角、反射しにくい面、不要物の写り込み、施工面の状態などが結果に影響します。点群は多くの点で現場を表現できますが、点が多ければ必ず正しいというものではありません。草、仮設材、水たまり、重機の跡、人や車両などが混じれば、施工面を正しく判断しにくくなります。ICT担当者には、計測前に現場を整え、計測後には点群の見た目と現地状況を照合する力が求められます。
点群処理では、不要点の除去、範囲の切り出し、設計面との比較、差分表示、管理値の確認などを行います。このとき、処理の条件を理解していないと、結果だけを見て判断してしまいます。例えば、どの範囲を除外したのか、どの設計面と比較したのか、どの時点の点群を使ったのかが分からなければ、出来形結果の説明が難しくなります。担当者には、処理結果だけでなく、処理前後のデータと判断条件を確認する習慣を教える必要があります。
出来形結果に異常値が出 た場合の対応も、育成上の重要な課題です。異常値が施工不良を示しているのか、点群のノイズなのか、設計面との重ね合わせの問題なのか、基準点や座標系の問題なのかを切り分けなければなりません。担当者が数値だけを見て判断すると、必要以上に再施工や再測定を行うことになったり、逆に本当に確認すべき箇所を見逃したりします。異常値が出たときには、現地写真、施工記録、測位記録、点群表示を合わせて確認する流れを身につけさせることが大切です。
発注者に説明する資料を作る際には、専門用語だけでなく、現場の判断として分かる表現が必要です。どの範囲を計測したのか、どのデータを比較したのか、結果として管理基準に対してどう判断したのかを、過不足なく説明できなければなりません。ICT担当者には、点群の画像や差分図を貼るだけでなく、その図が何を示しているのかを文章で説明する力を育てる必要があります。
出来形管理と点群処理を理解した担当者は、ICT施工の成果を現場の品質管理につなげられます。計測データは、工事が終わった後の提出物のためだけにあるのではありません。施工中の偏りを早めに見つけ、手戻りを減らし、関係者に現場状況を共有するためにも活用できます。担 当者を育てる際には、点群や出来形結果を「提出するデータ」ではなく「施工判断に使う情報」として扱う意識を持たせることが重要です。
発注者協議と社内共有をつなぐ力を育てる
ICT施工では、発注者との協議や社内共有の質が、現場の進めやすさに大きく影響します。どれだけ技術的に正しいデータを用意していても、関係者に伝わらなければ判断は進みません。ICT担当者には、データを扱う力だけでなく、説明資料を整理し、協議内容を施工に反映し、社内へ共有する力が必要です。これは、若手担当者がつまずきやすい実務課題の一つです。
発注者協議で重要なのは、ICT施工の実施範囲と管理方法を早い段階で整理することです。どの工種でICT施工を行うのか、3次元設計データをどのように作成するのか、出来形管理をどの方法で行うのか、提出成果には何を含めるのかを確認します。担当者がこの流れを理解していないと、施工が進んでから資料不足や認識違いが見つかることがあります。育成では、協議資料を作る作業だけでなく、協議で確認すべき論点を教えることが重要です。
説明資料を作る際には、専門的な画面をそのまま並べるだけでは不十分です。発注者や社内の関係者が知りたいのは、どの範囲を、どの方法で、どの根拠に基づいて管理するのかです。ICT担当者には、3次元データの画像、施工範囲図、確認点、測位条件、出来形の比較結果などを、工事の流れに沿って整理する力が求められます。見た目のきれいさよりも、判断に必要な情報がそろっていることが大切です。
社内共有では、現場代理人、監理技術者、主任技術者、測量担当、協力会社、オペレーターなど、それぞれが必要とする情報が異なります。現場代理人には工程やリスクが重要であり、オペレーターには施工範囲や機械表示の意味が重要です。測量担当には基準点や座標系の情報が重要であり、出来形担当には管理範囲や提出データの条件が重要です。ICT担当者は、同じデータを相手に合わせて伝え直す役割を持ちます。
協議内容を施工へ反映する管理も欠かせません。発注者との協議で施工範囲、出来形管理方法、データ修正、追加確認な どが決まった場合、その内容が現場の作業に反映されなければ意味がありません。担当者には、協議後にデータを更新し、関係者へ周知し、古い資料が使われないようにする流れを教える必要があります。特に、メールや共有フォルダに資料が増えていく現場では、どの資料が最新か分からなくなることがあります。ファイル名、保存場所、更新履歴、周知記録を整理する習慣が重要です。
また、ICT施工では説明しすぎにも注意が必要です。専門的な情報をすべて詰め込むと、かえって要点が見えにくくなります。担当者には、協議の目的に合わせて資料の粒度を調整する力が必要です。初回協議では全体方針と確認事項を整理し、施工前確認では使用データと測位条件を明確にし、出来形説明では管理結果と判断根拠を示すというように、場面ごとに説明内容を変えることが求められます。
発注者協議と社内共有をつなげられる担当者が育つと、ICT施工は現場に定着しやすくなります。担当者がデータを持っているだけでは、ICT施工は個人作業にとどまります。しかし、協議内容を整理し、関係者に伝え、施工へ反映できるようになると、ICT施工は現場全体の管理手法になります。育成では、資料作成の技術だけでなく、誰に何を 伝えるべきかを考える力を伸ばすことが大切です。
属人化を防ぎ、次の担当者へ引き継げる体制を作る
ICT施工の現場でよく起こる課題が、担当者への属人化です。特定の人だけがデータの場所を知っている、機器設定を理解している、発注者との協議経緯を把握しているという状態になると、その人が不在のときに現場が止まりやすくなります。さらに、工事が終わるたびに経験が個人の中だけに残り、次の現場へ十分に引き継がれないことがあります。ICT担当者を育てる目的は、一人の詳しい人を作ることだけではなく、現場全体で再現できる仕組みを作ることです。
属人化を防ぐには、まず情報の置き場所を統一することが必要です。3次元設計データ、修正履歴、基準点情報、測位確認記録、施工用データ、出来形データ、協議資料、写真、帳票などがばらばらに保存されていると、担当者以外が状況を追えません。ICT担当者には、自分が分かる保存方法ではなく、第三者が見ても分かる保存方法を意識させる必要があります。これは地味な作業ですが、現場の継続性を支える重要な実務です。
次に、判断理由を残すことが大切です。ICT施工では、データを修正した、測位方法を変えた、計測範囲を調整した、出来形の異常値を除外したといった判断が発生します。このとき、結果だけが残っていて理由が残っていないと、後から確認した人が判断の妥当性を追えません。担当者には、なぜその対応をしたのかを短くてもよいので記録する習慣を持たせます。判断理由が残っていれば、同じような問題が次の現場で起きたときにも参考になります。
手順書の整備も、担当者育成の一部として考える必要があります。手順書というと立派な資料を作るイメージがありますが、最初から完璧なものを作る必要はありません。現場で実際に確認した順番、注意した点、失敗しかけた点、発注者から確認された点を残すだけでも、次の担当者には有益です。ICT担当者に手順書を作らせることは、本人の理解を深める効果もあります。人に説明できる形に整理することで、自分が曖昧に理解していた部分にも気づけます。
属人化を防ぐには、補助担 当者を早めに巻き込むことも重要です。ICT担当者が一人で全部を処理していると、周囲はますます分からなくなります。基準点確認、データ更新、機械へのデータ受け渡し、出来形結果の確認、協議資料の整理などの作業に、若手職員や別担当者を少しずつ参加させます。最初は見るだけでも構いませんが、次第に一部の確認を任せることで、現場内にICT施工を理解する人が増えていきます。
引き継ぎでは、工事の最後だけでなく、施工中から情報を整理しておくことが大切です。竣工間際にまとめようとすると、忙しさの中で記録が抜けやすくなります。施工段階ごとに、使用したデータ、変更点、確認結果、協議事項、残課題を整理しておけば、最終的な引き継ぎも楽になります。ICT担当者には、日々の小さな整理が最後の負担を減らすことを理解させる必要があります。
属人化を防ぐ体制ができると、ICT施工の育成は継続しやすくなります。一つの現場で得た経験が、次の現場や次の担当者に引き継がれます。担当者本人も、すべてを抱え込む必要がなくなり、より高度な判断や改善に時間を使えるようになります。ICT施工の人材育成では、担当者を孤立させないことが大切です。情報を共有し、判断を記録し、経験を次へ渡 す仕組みがあってこそ、ICT施工は会社や現場の力になります。
まとめ
ICT施工のICT担当者を育てるためには、単に機器操作やソフト操作を教えるだけでは足りません。ICT施工は、3次元設計データ、測位、基準点、建設機械、出来形管理、点群処理、発注者協議、社内共有がつながって成り立つ実務です。そのため、担当者には、データを扱う技術だけでなく、現場条件を読み取り、関係者と情報を共有し、判断の根拠を説明する力が求められます。
育成の第一歩は、担当者の役割を明確にすることです。何を確認し、何を記録し、どの判断を上位者へ相談するのかが整理されていれば、担当者は安心して経験を積めます。次に、3次元設計データを現場の施工手順と結びつけて読める力を育てます。データは画面上で正しく見えるだけでは不十分であり、設計図書、現地条件、施工範囲、変更履歴と合わせて確認する必要があります。
測位と基準点の理解も欠かせません。ICT施工では、位置と高さの精度が施工品質や出来形管理に直結します。担当者には、基準点の重要性、測位環境の変化、確認記録の残し方を実務の中で学ばせることが大切です。さらに、建設機械とのデータ連携では、データを渡して終わりにせず、機械側の設定、施工範囲、オペレーターへの説明、施工中の確認までを一連の管理として理解させる必要があります。
出来形管理や点群処理では、結果を出すだけでなく、その根拠を説明できることが重要です。どの範囲を計測し、どのデータと比較し、どの条件で処理したのかを整理できれば、発注者協議や社内確認でも説得力が増します。また、協議内容を施工に反映し、社内へ分かりやすく共有する力も、ICT担当者の重要な実務能力です。ICT施工は一人で完結する仕事ではなく、関係者をつなぐ仕事でもあります。
最後に、属人化を防ぐ体制づくりが必要です。ICT担当者だけが分かる状態を放置すると、現場はその人に依存してしまいます。データの保存場所、更新履歴、判断理由、確認記録、協議内容を整理し、次の担当者へ引き継げる形にしておくことが、継続的な人材育成につながります。
ICT施工の担当者育成は、短期間で完了するものではありません。現場ごとに条件が異なり、工種や発注者の求める内容も変わります。だからこそ、日々の現場で実務課題を一つずつ経験させ、確認する理由を教え、判断を記録する習慣を育てることが大切です。ICT施工を現場に根づかせるには、特別な担当者だけに頼るのではなく、誰もが基本を理解し、必要なときに確認できる環境を作る必要があります。
現場でICT担当者を育てるときは、まず位置確認、基準点管理、施工範囲の共有といった身近な作業から始めると取り組みやすくなります。スマートフォンを活用して現場の座標確認や位置出しを手軽に行えるLRTKのような仕組みを取り入れれば、ICT施工の基本を日常業務の中で体験しやすくなり、担当者育成の入口としても自然につなげられます。
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