ARは、現場の状況にデジタル情報を重ねて確認できるため、施工前の説明、点検、検査、教育、作業手順の共有など、幅広い業務で活用が期待されています。しかし、ARを導入しただけで社内利用が自然に広がるわけではありません。最初は注目されても、数か月後には一部の担当者だけが使う状態になり、現場では従来の紙資料や口頭説明に戻ってしまうこともあります。
AR導入後の利用率を上げるには、機能の多さを伝えるだけでなく、現場担当者が日常業務の中で無理なく使える状態を作ることが重要です。誰が、どの場面で、何を確認するためにARを使うのかを明確にし、教育、ルール、改善、推進体制まで含めて社内に定着させる必要があります。
目次
• AR導入後に利用率が伸びない理由を整理する
• 定着策1 業務の一場面に絞って使い始める
• 定着策2 現場担当者の不安を減らす教育を用意する
• 定着策3 利用ルールとデータ管理をシンプルにする
• 定着策4 効果を見える化して改善を続ける
• 定着策5 推進役と現場責任者をつなぐ体制を作る
• まとめ ARを特別な道具から日常業務の選択肢へ変える
AR導入後に利用率が伸びない理由を整理する
ARの社内利用率が伸びない原因は、単に担当者の関心が低いからではありません。多くの場合、導入時の期待と現場の日常業務との間に距離が残っています。経営層や管理部門は、ARによって説明がわかりやすくなり、確認作業の抜け漏れが減り、教育の質もそろうと期待します。一方で、現場担当者は、端末を取り出す手間、表示位置の合わせ方、データの準備、通信環境、作業中の安全確認、記録の残し方など、より具体的な負担を感じています。
この差を埋めないまま導入を進めると、ARは便利な技術であるにもかかわらず、日常業務の中では後回しになります。現場では時間が限られており、作業手順も決まっています。新しい道具を使うには、従来の流れを一部変える必要があります。その変化に対して納得感がないと、「必要なときだけ使えばよい」 「詳しい人がいるときだけ使えばよい」という位置づけになり、利用率はなかなか上がりません。
また、ARの使いどころが広すぎることも定着を妨げる要因になります。施工管理、点検、設備確認、教育、営業説明、引渡し説明など、ARが使える場面は多くあります。しかし、導入初期からすべての業務で活用しようとすると、準備すべきデータや説明すべき手順が増え、結果として誰も使い切れなくなります。ARは万能な置き換え手段ではなく、現場の判断や確認を補助する道具として位置づけることが大切です。
社内定着を考えるときは、利用率を単なるログイン数や起動回数だけで見ないことも重要です。たとえば、起動回数が多くても、実際には確認したい情報にたどり着けていない場合があります。逆に、起動回数は少なくても、施工前確認や点検前説明など重要な場面で確実に使われていれば、業務改善としては大きな意味があります。利用率を上げるとは、ARを頻繁に触らせることではなく、必要な業務場面で自然に選ばれる状態を作ることです。
そのためには、導入後の社内定着策をあらかじめ設計しておく必要があります。ARを導入する段階で、対象業務、利用者、教育方法、データ更新、問い合わせ先、効果測定を決めておけば、現場は迷わず使い始められます。逆に、導入してから各部署に任せきりにすると、部署ごとに使い方がばらつき、成功事例も共有されにくくなります。AR導入後の利用率を上げる第一歩は、技術そのものではなく、使われ続けるための運用を整えることにあります。
定着策1 業務の一場面に絞って使い始める
ARを社内に定着させるには、最初から広い業務範囲に展開しようとしないことが大切です。導入直後は、ARで何でもできることを見せたくなりがちですが、現場担当者にとって重要なのは、目の前の業務が少しでも楽になるかどうかです。最初の利用場面は、作業前の位置確認、点検箇所の説明、設備の見え方確認、施工範囲の共有など、効果を感じやすく、かつ手順が複雑になりにくい業務に絞ると定着しやすくなります。
一場面に絞ることで、利用者が覚える内容も少なくなります。ARの基本操作、表 示するデータ、確認するポイント、記録の残し方を一つの流れとして説明できるため、教育もしやすくなります。たとえば、施工前の現地確認でARを使う場合は、現場に着いたら対象地点を開き、表示位置を合わせ、図面やモデルと現況の違いを確認し、必要に応じて写真やメモを残すという流れにできます。このように業務手順の中にARを組み込むと、利用者は「アプリを使う」のではなく「いつもの確認をARで行う」と理解できます。
利用場面を絞ることには、社内説明の面でもメリットがあります。導入効果を説明するときに、抽象的な効率化やDXという言葉だけでは、現場に伝わりにくい場合があります。しかし、「この確認作業で、紙図面と現地を見比べる時間を減らす」「この点検で、対象箇所の見落としを減らす」「この説明で、関係者の認識違いを減らす」といった具体的な目的があれば、ARを使う理由が明確になります。使う理由が明確なほど、現場は新しい手順を受け入れやすくなります。
導入初期の対象業務を選ぶ際は、失敗しても大きなリスクになりにくい場面から始めることも重要です。いきなり精度や安全に直結する判断をARだけに頼る運用にすると、現場の心理的負担が大きくなります。ARはあくまで確認補助として使い、最終判断は既存の図面、測量成果、現地確認、管理基準と照合する形にしておくと、利用者は安心して試せます。導入初期に必要なのは、完璧な使い方ではなく、実務の中で使える感覚を持ってもらうことです。
また、最初の一場面を選ぶときは、利用頻度にも注意が必要です。年に数回しか発生しない業務を対象にすると、担当者が操作を覚える前に忘れてしまいます。定着を目指すなら、週単位または月単位で繰り返し発生する業務のほうが向いています。繰り返し使うことで、操作への抵抗が下がり、改善点も早く見つかります。ARを社内文化として広げるには、珍しい特別業務ではなく、日常業務の中に小さな成功体験を作ることが効果的です。
一場面で効果が見えたら、次の業務へ横展開します。このときも、急に全社展開するのではなく、似た作業、似た確認、似た利用者層へ広げると無理がありません。施工前確認で使えたなら、次は変更箇所の説明や是正確認に広げる。点検箇所の確認で使えたなら、次は巡回ルートや写真記録に広げる。このように近い業務へ段階的に展開すれば、利用者は前回の経験を活かして新しい使い方を覚えられます。
AR導入後の利用率を上げるうえで、最初の対象業務は社内の印象を左右します。そこで使いにくい、時間がかかる、準備が大変という印象が残ると、その後の展開は難しくなります。反対に、限られた場面でも「これなら使える」「説明が早い」「確認しやすい」という実感が得られれば、現場から次の活用案が出てくるようになります。ARの定着は、大きな改革として始めるよりも、使いやすい一場面を確実に社内に根づかせることから始めるのが現実的です。
定着策2 現場担当者の不安を減らす教育を用意する
ARの利用率を上げるには、教育の設計が欠かせません。ただし、教育といっても、機能一覧を説明するだけでは十分ではありません。現場担当者が知りたいのは、どのボタンを押せばよいかだけでなく、どの場面で使えばよいのか、表示がずれたときはどうすればよいのか、うまく使えなかった場合に業務へ支障が出ないのかという点です。ARに対する不安を減らす教育を用意することで、利用者は自分の判断で使いやすくなります。
教育の最初に伝えるべきことは、ARの役割です。ARは現実の上に情報を重ねて見せる技術ですが、現場のすべてを自動で判断するものではありません。位置表示や重ね合わせは、端末の状態、周囲環境、データの精度、利用者の合わせ方によって見え方が変わることがあります。そのため、ARを使うときは、表示された情報をそのまま絶対視するのではなく、図面、現地の目印、測定値、過去記録と照らし合わせて確認する姿勢が必要です。この前提を共有しておくと、利用者は過度な期待や過度な不安を持たずに使えます。
教育内容は、座学よりも実演を重視すると効果的です。画面説明だけでは、AR特有の距離感や表示の合わせ方は伝わりにくいからです。実際の現場やそれに近い場所で、端末を持ち、対象物を見ながら、表示を合わせ、確認し、記録する流れを体験してもらうと、使い方が具体的に理解できます。特に導入初期は、少人数での実地練習が向いています。大人数への一斉説明では質問しにくいことも、少人数ならその場で確認できます。
現場教育では、うまくいかない場面もあえて扱うことが大切です。AR表示が安定しない、対象物が見つけにくい、屋 外で画面が見づらい、手袋をしたまま操作しにくい、通信状態が悪いなど、実務ではさまざまな小さなつまずきが起こります。これらを教育時に隠してしまうと、利用者は現場で問題が起きたときに「自分の操作が悪い」と感じ、使うのをやめてしまいます。よくあるつまずきと対処方法を事前に共有しておけば、利用者は落ち着いて対応できます。
また、教育は一度で終わらせないほうが定着します。導入直後の説明会では理解したつもりでも、実際の業務で使うまで時間が空くと、操作を忘れてしまうことがあります。初回研修、現場同行、短時間の振り返り、よくある質問の共有というように、複数回に分けて支援すると、利用者の不安が減ります。特に最初の数回は、推進担当者が現場で一緒に使い、必要なところだけ助言する形が有効です。現場で一度うまく使えた経験は、マニュアルを読むよりも強い定着効果があります。
教育資料は、細かすぎないことが重要です。すべての機能を網羅した分厚い資料は、管理部門には安心材料になりますが、現場担当者にとっては使いにくい場合があります。最初に必要なのは、基本操作、対象業務の流れ、注意点、困ったときの連絡先がわかる資料です。画面ごとの細かな説明より も、「現場に着いたら何を開くか」「確認前に何を見るか」「記録後にどこへ保存するか」が一目でわかるほうが実務向きです。
教育の対象者も広く考える必要があります。ARを直接操作する担当者だけでなく、現場責任者、管理者、協力会社との窓口、記録を確認する内勤担当者にも基本的な理解が必要です。操作する人だけがARを理解していても、周囲が従来の資料しか見ない場合、ARの記録や確認結果が業務の中で活かされません。関係者が同じ目的を理解していれば、ARを使った確認結果を会議、報告、引継ぎに反映しやすくなります。
現場担当者の不安を減らすには、失敗を責めない雰囲気も必要です。新しい道具を使い始める時期には、操作ミスや記録漏れが起こることがあります。そのたびに利用者個人の問題として扱うと、現場はARを避けるようになります。むしろ、どこで迷ったのか、どの画面がわかりにくかったのか、どの手順が現場に合っていなかったのかを集め、運用改善につなげることが大切です。教育は一方的に教える場ではなく、現場の使いにくさを拾い上げる場でもあります。
ARの定着に必要な教育とは、操作方法を覚えさせることではなく、現場担当者が安心して使える状態を作ることです。使う目的がわかり、失敗時の対応がわかり、相談先があり、周囲も利用意義を理解している状態になれば、ARは特別な人だけが扱うものではなくなります。利用率を上げるためには、導入時の華やかな説明よりも、日々の不安を一つずつ減らす地道な教育が効いてきます。
定着策3 利用ルールとデータ管理をシンプルにする
ARが社内で使われなくなる大きな理由の一つに、運用ルールやデータ管理が複雑すぎることがあります。ARそのものの操作が難しくなくても、使う前のデータ準備、ファイル名の確認、最新版の選択、保存先の判断、記録の共有方法が複雑だと、現場では使い続けにくくなります。利用率を上げるには、現場担当者が迷わないように、利用ルールとデータ管理をできるだけシンプルに整えることが重要です。
まず決めるべきなのは、ARを使う業務と使わない業務の境界です。すべての確認にARを使う必要はあり ません。たとえば、位置や範囲の認識違いが起こりやすい場面、完成後に見えなくなる部分の確認、口頭説明だけでは伝わりにくい設備配置など、ARの効果が出やすい業務を社内ルールとして明確にします。一方で、紙資料や通常の写真記録で十分な業務までAR化しようとすると、現場の負担が増えます。使うべき場面を絞ることで、利用者は判断に迷わなくなります。
次に重要なのが、データの最新版管理です。ARで表示する図面、モデル、点検項目、説明資料が古いままだと、利用者はARの情報を信用できなくなります。一度でも古いデータで混乱が起きると、現場では「結局、確認し直す必要がある」と感じ、利用率が下がります。そこで、誰がデータを登録し、誰が更新し、どのタイミングで利用可能にするのかを決めておく必要があります。最新版がどれかわからない状態を避けるだけでも、ARの信頼性は大きく変わります。
ファイル名や管理名も定着に影響します。管理部門だけが理解できる略称や、似た名称のデータが並んでいると、現場担当者は間違ったデータを開く可能性があります。現場名、エリア、日付、用途、版数など、必要な情報が自然に読み取れる命名ルールにしておくと、検索や選択が楽になります。ただし、ルールを細かくしすぎると登録側の負担が増えるため、誰でも守れる程度に抑えることが大切です。シンプルなルールほど継続されやすくなります。
記録の残し方も統一しておく必要があります。ARを使って確認した結果を、写真で残すのか、メモで残すのか、帳票に反映するのか、関係者へ共有するのかが曖昧だと、利用者ごとに記録の品質がばらつきます。記録が残らないAR活用は、その場では便利でも、後から振り返る業務にはつながりにくくなります。確認した日時、場所、対象、判断内容、補足事項をどの程度残すのかを決め、既存の報告フローに無理なくつなげることが大切です。
シンプルな運用にするには、現場での手順を短くする視点も必要です。たとえば、ARを使うために複数の画面を開き、別の資料を探し、さらに別の保存先へ記録するような流れでは、忙しい現場では続きません。利用開始から確認完了までの手順を実際に数えてみると、想像以上に操作が多いことがあります。定着を目指すなら、現場で必要な操作を減らし、よく使うデータへすぐアクセスできる状態を作ることが効果的です。
また、データ管理では権限設定も見落とせません。誰でも何でも編集できる状態では、誤ってデータが変更されるリスクがあります。一方で、権限が厳しすぎると、現場で必要な情報にアクセスできず、結局使われなくなります。閲覧、登録、更新、承認の役割を分けつつ、現場担当者が必要な情報をすぐ確認できるバランスが必要です。特に複数部署でARを使う場合は、部署ごとの管理方法がばらばらにならないよう、共通ルールを最低限そろえておくと運用が安定します。
問い合わせやトラブル時の対応も、ルールの一部として用意しておくべきです。ARがうまく起動しない、データが見つからない、表示が合わない、記録が保存できないといった問題が起きたとき、誰に連絡すればよいかわからない状態では、利用者はその場で使用をあきらめます。現場では時間が限られているため、解決までに時間がかかる道具は避けられます。問い合わせ先、確認手順、代替手段を決めておくことで、利用者は安心してARを業務に組み込めます。
ARの利用ルールは、厳密であるほどよいわけではありません。むしろ、定着の初期段階では、守りやすく、説 明しやすく、改善しやすいことが大切です。現場に合わない細かなルールを作るより、最低限の共通ルールを決め、実際の利用状況に合わせて更新していくほうが現実的です。ARはデジタル技術ですが、社内定着を左右するのは人が迷わず使える運用設計です。シンプルなルールと信頼できるデータ管理があってこそ、ARは日常業務の中で選ばれるようになります。
定着策4 効果を見える化して改善を続ける
AR導入後の利用率を上げるには、使った結果を見える化することが重要です。導入直後は新しさによって注目されますが、時間がたつと関心は薄れていきます。そのときに、ARを使うことで何が改善されたのかが見えなければ、現場も管理者も利用を続ける理由を感じにくくなります。効果を見える化し、改善を続けることで、ARは一時的な取り組みではなく、業務改善の仕組みとして社内に残ります。
見える化する効果は、必ずしも大きな数値である必要はありません。導入初期には、説明時間が短くなった、確認漏れが減った、関係者の認識合わせがしやすくなった、若手が現場の位置関係を理解しや すくなった、といった実感も重要です。これらの変化は定量化しにくい場合がありますが、利用者の声や具体的な事例として残すことで、社内共有しやすくなります。数字だけでなく、現場でどのように役立ったのかを言葉で残すことが、次の利用者の納得につながります。
一方で、可能な範囲では定量的な指標も用意しておくと、継続判断がしやすくなります。たとえば、対象業務でARを使った回数、利用した現場数、記録された確認件数、説明に参加した人数、手戻りや再確認が減った件数などです。ただし、指標を増やしすぎると集計作業が負担になります。利用率を上げるための見える化が、逆に現場の手間を増やしてしまっては本末転倒です。最初は少数の指標に絞り、無理なく集められる情報から始めると続きやすくなります。
効果の見える化では、成功事例だけでなく、うまくいかなかった事例も扱うことが大切です。ARを使ったが表示位置が合わず確認に時間がかかった、必要なデータが登録されていなかった、現場の明るさや作業環境に合わなかった、担当者が操作を思い出せなかったといった事例は、定着を妨げる原因を示しています。これらを隠さず集めることで、教育内容、データ準備、利用ルールを改善できます。失敗事例を責める材料ではなく、運用を良くする材料として扱うことが、社内定着には欠かせません。
改善のサイクルは、短く回すほうが効果的です。導入から半年後にまとめて振り返るより、最初の数週間から小さく改善したほうが、現場の不満が大きくなる前に対処できます。たとえば、よく使うデータにたどり着きにくいという声があれば、メニュー構成や命名ルールを見直します。表示の合わせ方で迷う声が多ければ、教育資料に現場写真を加えます。記録の残し方がばらつくなら、標準的な記入例を作ります。このような小さな改善を重ねることで、現場は「意見を出せば使いやすくなる」と感じ、利用に前向きになります。
社内共有の方法も重要です。ARの効果を一部の推進担当者だけが把握していても、利用率は広がりません。月次会議、現場報告、社内掲示、教育資料など、既存の情報共有の場にAR活用事例を入れると、関係者の目に触れやすくなります。特に、現場担当者自身の言葉で語られた事例は説得力があります。管理部門が作った説明よりも、「この確認で使いやすかった」「この場面ではまだ改善が必要だった」という現場の声のほうが、次に使う人の参考になります。
利用率を見るときは、部署や現場ごとの違いにも注目します。同じARでも、ある部署ではよく使われ、別の部署では使われないことがあります。その差は、担当者の意欲だけでなく、業務内容、現場環境、教育機会、責任者の理解、データ準備の状況によって生まれます。利用率が低い部署を単に指摘するのではなく、使いにくい理由を確認することで、横展開に必要な条件が見えてきます。よく使われている部署の運用をそのまま押しつけるのではなく、他部署でも再現できる要素に分解して共有することが大切です。
ARの効果を見える化する目的は、導入の成果をアピールすることだけではありません。現場の利用実態を把握し、次に何を直せばよいかを判断するためです。利用率が低いから失敗と決めるのではなく、どの業務では使われ、どの業務では使われないのかを見れば、社内定着の打ち手が具体的になります。ARは導入して終わりの道具ではなく、現場の使い方に合わせて育てていく道具です。見える化と改善を続けることで、利用率は数字だけでなく、業務の中での存在感として高まっていきます。
定着策5 推進役と現場責任者をつなぐ体制を作る
ARを社内に定着させるには、推進役だけが頑張る体制では限界があります。導入を担当する部署や情報システム部門、DX推進担当者が熱心に説明しても、現場責任者が業務の中で使う場面を認めていなければ、利用は広がりません。反対に、現場責任者が必要性を理解し、日々の作業指示や確認手順にARを組み込めば、現場担当者は自然に使いやすくなります。利用率を上げるには、推進役と現場責任者をつなぐ体制が必要です。
推進役の役割は、ARの機能を紹介することだけではありません。現場の課題を聞き取り、ARで解決しやすい業務を選び、必要なデータや教育を整え、利用状況を確認して改善につなげることです。そのためには、現場を知らずに机上で利用方針を決めるのではなく、実際の作業の流れを理解する必要があります。現場責任者と一緒に、どの確認に時間がかかっているのか、どこで認識違いが起きやすいのか、どの資料が現場で見にくいのかを整理することで、ARの使いどころが具体化します。
現場責任者には、ARの利用を業務上の選択肢として位置づける役割があります。担当者任せにすると、忙しい日は使われず、慣れた人だけが使う状態になりがちです。責任者が「この確認ではARも使って関係者で見ておく」「この説明はARの画面を使って共有する」といった形で業務に組み込めば、利用が属人化しにくくなります。ただし、無理に使わせるだけでは反発が生まれます。なぜその場面でARを使うのか、従来の確認とどう組み合わせるのかを説明することが重要です。
推進体制を作るときは、各部署や各現場に小さな相談役を置くと効果的です。すべての問い合わせを本部の推進担当者だけで受けると、対応が遅くなり、現場の利用意欲が下がります。身近な場所に基本操作を知っている人がいれば、ちょっとした疑問をすぐ解消できます。この相談役は、必ずしも専門技術者である必要はありません。現場の業務を理解し、ARを数回使った経験があり、困りごとを推進担当者へつなげられる人であれば十分です。
社内定着には、評価や業務改善活動との接続も関係します。ARを使っても、業務上まったく評価されず、報告にも反映されないなら、担当者にとっては追加作業に見えてしまいます。たとえば、ARを活用した確認記録を品質向上の事例として共有する、教育時間の短縮につながった取り組みとして扱う、現場の改善提案として評価するなど、利用が前向きに認められる仕組みがあると継続しやすくなります。大げさな制度でなくても、よい使い方を社内で取り上げるだけで、利用者の意識は変わります。
推進役と現場責任者が連携するうえでは、定例的な振り返りの場も有効です。ARの利用状況、現場からの声、データ更新の課題、次に試したい業務を短時間で共有する場を設けることで、取り組みが止まりにくくなります。ここで重要なのは、報告のための会議にしないことです。利用率を追うだけでなく、使いにくい理由を見つけ、次の改善を決める場にする必要があります。現場責任者が参加していれば、改善策を実際の作業手順に反映しやすくなります。
また、社内展開では、成功した現場の担当者を巻き込むことも有効です。推進担当者からの説明だけでは、現場は「理想論ではないか」と感じることがあります。しかし、同じような業務を担当する現場からの事例であれば、自分たちにも使えるかもしれないと受け止めやすくなります。どのように始めたのか、どこでつまずいたのか、何を変えたら使いやすくなったのかを 共有すると、他部署の導入ハードルが下がります。
ARの利用率を上げる体制とは、特別な専門部署を作ることだけではありません。推進役が全体を支え、現場責任者が業務に組み込み、身近な相談役が日々の疑問を拾い、利用者の声を改善に戻す流れを作ることです。この流れができると、ARは一部の担当者の努力に依存しなくなります。組織として使う場面を決め、使いやすさを改善し、よい事例を広げることで、ARの社内定着は安定して進みます。
まとめ ARを特別な道具から日常業務の選択肢へ変える
AR導入後の利用率を上げるには、単に端末やアプリを配布するだけでは不十分です。ARは見た目のインパクトが強いため、導入時には注目されやすい技術です。しかし、社内で使われ続けるかどうかは、現場の日常業務にどれだけ自然に組み込めるかで決まります。利用者が使う目的を理解し、操作への不安が少なく、必要なデータが整っており、効果が共有され、困ったときに相談できる体制があって初めて、ARは定着していきます。
まずは、業務の一場面に絞って始めることが重要です。最初から広く展開しようとすると、準備も教育も複雑になり、現場の負担が増えます。施工前確認、点検箇所の共有、設備配置の説明など、効果がわかりやすい場面に絞り、小さな成功体験を作ることが利用率向上の出発点になります。そこで得られた経験を、似た業務へ段階的に広げることで、無理のない横展開が可能になります。
次に、現場担当者の不安を減らす教育が必要です。ARは便利な反面、表示のずれや操作の迷いが起こることもあります。だからこそ、できることだけでなく、注意点や困ったときの対応を含めて教育することが大切です。実地で使いながら覚えられる機会を作り、初回利用後も継続して支援することで、担当者は安心して業務に取り入れられます。
さらに、利用ルールとデータ管理をシンプルにすることも欠かせません。どの業務で使うのか、どのデータが最新版なのか、どこへ記録を残すのかが曖昧なままでは、現場は使い続けられません。複雑なルールよりも、守りやすい共通ルールを整え、現場の声に合わせて改善していくことが定着につながります。AR活用では、技術の精度だけでなく、運用のわかりやすさが信頼性を支えます。
導入効果を見える化することも、継続利用には重要です。ARを使って説明が早くなった、確認漏れが減った、関係者の認識合わせがしやすくなったといった変化を社内で共有すれば、次に使う人の納得感が高まります。あわせて、うまくいかなかった事例も集め、教育やデータ管理の改善に活かすことで、ARは現場に合った道具へ育っていきます。
最後に、推進役と現場責任者をつなぐ体制が必要です。ARの定着は、推進担当者だけの努力では続きません。現場責任者が業務の中で使う場面を位置づけ、身近な相談役が日々の疑問を拾い、社内で事例を共有することで、利用は属人化しにくくなります。組織として使う理由を共有し、改善を続ける体制を作ることが、利用率向上の土台になります。
ARは、現場の判断を置き換えるものではなく、情報を見やすくし、認識違いを減らし、説明や確認を助ける道具です。その価値を 社内に定着させるには、特別な技術として扱い続けるのではなく、日常業務の選択肢として自然に使える状態を作る必要があります。現場で迷わず使える運用を整え、AR活用をさらに身近な業務改善へつなげたい場合は、次の選択肢としてPhoneの活用を検討してみてください。
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